紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第7話 「六地蔵の影を斬る」

第7話 「六地蔵の影を斬る」

第7話 「六地蔵の影を斬る」
(原作 1972.1月?)(放映 1972.2.12)
原作では第11話になる。
会ったこともない紋次郎に憧れ、紋次郎の真似をしたがる渡世人が出てくる話だ。今で言えばさしずめ、紋次郎オタクがストーカーするといったところか。

前半の話の展開は原作とほぼ同じであるが、後半のテレビ版は話がややこしくなる。
板鼻の吾兵衛を斬ったという濡れ衣を着せられた紋次郎は、一家の代貸の鶴吉をはじめ子分6人に意趣返しという名目で命を狙われる。

その鶴吉に金で雇われた小判鮫の金蔵という渡世人に付きまとわれる。本当は吾兵衛を斬ったのは、金蔵の幼なじみである八幡の常平だと明かし、紋次郎を守ると言いながらも怪しい動きをする。
常平から聞いたという紋次郎の癖、気質、長ドスなど全てに興味を持ち知りたがる。
特に楊枝はしつこく欲しいと食い下がる。原作にはない金蔵と紋次郎のセリフ。

「おめえさんがそいつをフッと吹くと、まるで手裏剣みたいに相手を倒すってこともあるんだってな」
「そいつは間違えだ。この楊枝で人を殺めたことはねえ」

と紋次郎はいつになく厳しい表情で金蔵に答える。
原作では、人を殺傷できるまでの道具ではないにしろ、時には武器になる楊枝である。
市川監督はこの楊枝には特別な思いがある。
原作では15センチの長さで、当時は特別に長いというものではなく、実際使われていたようだ。テレビ版は27~28センチ、長くしないと三度笠に隠れて見えないからだ。
市川監督は、人に向かって楊枝を吹くという設定はしていない。いつも紋次郎の心情を表すときにしか使わず、その根底には優しさがある。
このことは、他の監督や脚本家とも入念に打ち合わせをしているはずだ。
視聴率が上がり、トレードマークの楊枝が一人歩きしているような噂を、視聴者の前で一刀両断したとも考えられる。

金蔵の思惑が分からないままに二人の道中は続く。道連れを嫌う紋次郎だが、得体は知れないが憎めない金蔵のよもやま話を聞く。
話は全て常平の身の上話である。吾兵衛一家のために常平の女房は首をくくり、倅は殺されたのだと言う。(テレビ版だと倅の話は出てこない)

テレビ版では道中、野原に腰を下ろし紋次郎は問われるままに自分の生き様を語り、長ドスから手を離し仰向けになって仮眠する。油断できない金蔵を前にして、無防備にも程がある。原作ではさすがに長ドスを左腕に抱え込んでいるが、三度笠を顔の上に置く。
金蔵がそっと紋次郎の長ドスに手を伸ばし鯉口を切るが、紋次郎はそれに気づきたしなめる。ますますもって怪しい。

テレビ版では二人して煮売屋にいる所へ、呉服屋の女房お久美とその手代が駆け込み、ならず者にまとわれ困っている、助けてくれと頼む。
やっとここで女が登場する。テレビ版では必ず女優が出演する。そして騙すというパターンである。
いったんは断るのだが、お久美が掠われた後、金蔵に「もしあのおかみさんが首でもくくったら、おめえさんのせいなんだ」と言われ、躊躇する。紋次郎は聞くともなく常平の身の上話を聞いていて、手籠め、首をくくるという言葉に反応したのだ。
この時紋次郎は、金蔵は常平のことなのだと気づいていたのかも知れない。少なからず常平に同情し、助けるために走り出した常平の気持ちも察したのかも知れない。

第7話 「六地蔵の影を斬る」

筑波の六地蔵の前でお久美を見つけヤクザ者と対峙する。お久美を人質にして「刀を捨てろ」と喚くヤクザ。常平は刀を捨て、紋次郎の刀も預かる。
案の定お久美は正体をばらし、鶴吉や子分たちがバラバラと六地蔵の陰から現れる。お久美は鶴吉の女で、一芝居打って紋次郎から長ドスを奪うのが目的だったのだ。
実は吾兵衛のトドメを刺したのは鶴吉で、跡目を狙ってのことだったのだ。そして常平の女房を手籠めにしたのもこの鶴吉だったのだ。
そしておきまりのように、お久美は鶴吉に殺される。
テレビ版の常平は、紋次郎に長ドスを投げて返す。そして斬り合いの様子を眺めている。ここで疑問が生じる。

恋女房を手籠めにしたのが鶴吉だと分かったのに、なぜ常平は鶴吉を殺すために長ドスをふるわなかったのか。自分の手で殺したいはずではないのか。
原作での常平は、まず手籠めにした子分を見つけ殺している。そのため草鞋を履いて旅に出て、久しぶりに故郷に帰り倅に会えると思っていたのに、吾兵衛に突き飛ばされ一人息子はもうこの世にはいなかったのだ。だから吾兵衛を殺したのは女房のためではなく、倅の仇を討ったのだ。

原作にはないお久美の出現によって、ただの親分の意趣返しをしようとする鶴吉は、殺されるべき悪人となった。原作より悪役に仕立てることで、勧善懲悪のニュアンスを入れている。
そして鶴吉を目の前にしての紋次郎のセリフ「鶴吉、おめえは許さねえ、だが他の奴らには無駄死にさせたくねえ、逃げてえ奴はさっさと逃げろい」になるのだ。

最後に金蔵は紋次郎と斬り合い、自分から紋次郎に刺される。瀕死の金蔵は自分が常平だったことを紋次郎に明かす。
原作では「八幡の常平ってのは、おまえさん自身のことだったのかい」とここで気づく紋次郎だが、テレビ版では「察しはついていた」と答える。どこで察しをつけたか、やはりお久美を助けようとしたあの時点だろう。

テレビ版では、常平はほおかぶりを取ると左頬に刀傷が見える。板橋の吾兵衛を斬ったときに、傷を負ったのだろう。また、その手拭いの先の結び目をほどくと、中から死んだ女房の遺髪が出てきて、常平は「お里……」と呟いて息絶える。

最後に、死んだ常平の口許に楊枝を吹いて刺してやる紋次郎の優しさは原作と同じで、楊枝の使い方としても絶品である。

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Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

お夕さん、こんばんわ。

今日UPされたお夕さんのブログの画像と花風鈴さんの画像が奇しくも「六地蔵」でしたね。

平成の紋次郎放映に先駆けて、前々回の「童唄・・・」とこの「六地蔵・・・」を多くの人にナビとして読んで頂きたいと思いました。

さあ、平成の紋次郎の脚本や演出がどんな物か。後はここが気になりますね。

昨日昼の「笑っていいとも」・・・いつも見ない番組ですが偶然チャンネルを回したら江口さんが紋次郎のポスターをタモリさんに手渡す場面で、そのまま見ました。

映画「GOEMON」の話が大半で、紋次郎の話はほんの僅か。その中で「前作の紋次郎を踏襲している」と話していましたので、往年のファンの紋次郎像からは大きく逸脱しておらず安心して見れそうです。

私もリメイクフィーバーから原作を読んでいます。どれも面白いんですが、笹沢先生もシリーズ再開で力が入っていたと思われる三度のどんでん返しの「木枯しは三度ふく」。これは傑作と思いました。平成の紋次郎がシリーズ化されればこの作品も映像化してもらいたいとも思いました。














  • 20090429
  • おみつ ♦aiP0wTO2
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Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

おみつさん、コメントありがとうございます。
私も花風鈴さんのUP画像を観て、ビックリしていました。この六地蔵は私の職場の近くにあり、何のいわれもない村のお地蔵様ですが、私はそういう方が好きですね。

若い俳優さんが紋次郎を演じることにより、ステップアップしてくれるとうれしいですよね。

  • 20090430
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

お夕様

きょう、リメイク版の放映ですね。朝からなんとなく落ち着きません。
六地蔵は、森監督で、面白い映像がたくさんあったように思います。
お夕さんのまわりには、六地蔵はそれほど沢山はないのでしょうか。たまたまアップが一緒で、私もご縁を感じます。
きょうの讀賣新聞のテレビ評では、「物語に深みがある」といった言葉と、「シリーズ化を願う」みたいな文言がありましたが、テレビ関係者は、まずは「必殺シリーズ」との視聴率競争が気になるのではないでしょうか。
お夕さんの言うとおり、今回は、往年とは反対に、紋次郎が「必殺」に挑戦状を叩き付ける形です。やはり、江口紋次郎の検討を祈ります。
江口さんは、きょう封切りのGOEMONの宣伝に力を入れているようです。そちらの映像もかっこいいですが、目が悪いファンとしては、GOEMONの、CGがフルに出てくる予告映像は、きつかったです。
それにしても、きょうびの時代劇ファンは、紋次郎と必殺のどちらを見るのでしょうか。

  • 20090501
  • 花風鈴 ♦WlOLuako
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  • 編集 ]
Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

花風鈴様

コメントありがとうございます。
再び紋次郎にはまってから1年程で、こんな日が来るなんて夢のようです。何かの引き合わせなのかと思える程です。
「必殺……」はオリジナルで、今の世相をタイムリーに取り込んでいますが、やはり紋次郎は笹沢先生が長年大事にされてきたキャラクターと作品世界ですから、やはり原作を大切にしていただきたいと思っています。
天保の世の中と平成の世の中、時代の違いはあれども、描く人間像にはさほど大きなギャップはないように思います。もし、レギュラーで放映されるにしても、原作を重視して作っていただきたいです。

  • 20090501
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

# 紋次郎気質・コメント

「六地蔵の影を斬る」という作品は印象に残っています。ひとつには小判鮫の金蔵の三度笠ではない長いマフラーのような手拭いであったということ。時代劇の旅烏というと、たいていは三度笠に道中合羽といういでたちですが、これは新鮮でした。

それともうひとつはカメラです。あのときのカメラは大変印象に残っています。数ある紋次郎のなかでも、とくに印象に残っています。

Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

Gitanさま、コメントをいただきありがとうございます。

金蔵役の佐藤さん、いい味を出していましたね。
「水滸伝」でも敦夫さんと共演されていましたが、名脇役の方ですね。
カメラワークもすばらしく、「平成版紋次郎」とはやはり違いがあるように思います。
等身大の六地蔵もよく作られていて、美術さんのがんばりが見られます。
ラストの楊枝が口許に飛ぶシーンは、CGが使えない当時ですから、撮影にかなりの工夫と苦労があったと思います。ああでもない、こうでもないと試行錯誤されたんでしょうが、上手く撮れた時の喜びは今以上だっただろうなと想像します。

  • 20090515
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

話がずれてしまいますがm(_ _)m
この回で見られる紋次郎のほっとした笑顔・・『おめえさんも笑う事もあるんだなぁ・・。』
このシーンが好きです(笑)

Re: 第7話 「六地蔵の影を斬る」

ケンシロウさま、コメントをいただきありがとうございます。

「紋次郎は笑わない」
これは鉄則でしたが、このシーンは少しフッと笑いますね。原作にはもちろんありませんから脚色されたか、監督が注文したか……。
貴重な映像だと言われています。

しかしながら、当のご本人敦夫さんは、「そうでしたっけ?」とすっかり忘れておられるようで……。そんなもんなんでしょうね。

私は「湯煙に……」でお市と肩を並べて歩いているとき、「さあ、歩いてごらんなさい。」と言われた後、フッと口許が緩む紋次郎が好きです。

  • 20110618
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
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