紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)
(原作 第32話)(放映 1977.10.5)
「新木枯し紋次郎」の記念すべき第1作目である。
監督は藤田敏八氏。東大文学部を卒業後、日活撮影所に助監督として入社。「赤い鳥逃げた?」「赤ちょうちん」「妹」などの現代の若者を描いた作品や、ロマンポルノなども数多く撮っている。
しかし時代劇は初めてということで、この起用に新しい感覚でスタートしたいという意気込みが感じられる。

アバンタイトルから始まることは踏襲されているが、画質が随分違うことに違和感を覚える。それと、三度笠の傷み具合と色が一目で違うとわかる。衣装は前作と同じだそうだ。
撮影は森田富士郎氏、照明は中岡源権氏、美術は西岡善信氏、殺陣は美山晋八氏と、元大映の重厚なスタッフがそろい踏みで、クォリティーの高さは保たれている。
照明の中岡源権さんは、2009年の3月8日にお亡くなりになった。記事を見たときは、寂しかった。

ストーリーは原作とほとんど同じ。
ゲストは小天狗の勇吉役に、目黒祐樹さん、お六役に萩尾みどりさん。
敦夫さんは、目黒さんと1971年、紋次郎が始まる前に「弥次喜多隠密道中」というドラマで共演している。

アバンタイトルで勇吉が「由井の清蔵」を殺害するところを、紋次郎はたまたま目にしてしまう。闇の中うっそりと佇む紋次郎のシルエットは、4年半前とほとんど同じ雰囲気でホッとする。
紋次郎には全く関わりのないことなので、咎めることも他言することもありえない。
しかし勇吉は紋次郎に斬りかかる。刀の切っ先で斬られた楊枝が、勇吉の手の甲に飛ぶ。前作の紋次郎は、武器として人には楊枝を飛ばさなかったが、「新……」では違う。
その点では原作に近い。「やはり、市川紋次郎とは違うんだ」ということである。
勇吉は手の甲を押さえ楊枝に気づき呟く。
「木枯し紋次郎……」
こうして、「新木枯し紋次郎」シリーズが始まる。

タイトルロールの後、道ばたで苦しむ壷振りのお政を勇吉が助ける。ちょい役のお政だが、艶っぽく美しい女優さんである。勇吉が子細を訊いているところは、かなり色っぽくて、藤田監督好みである。
勇吉はお政を背負い、三里半を歩き「沓掛の多兵衛」のところまで送り届ける。このあたりは、勇吉が悪者とは思えずむしろ親切な渡世人というところか。
目黒さんの今までの役どころだと、悪役はあまりなかったように思う。

第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

ナレーターは前シリーズと同じく芥川さん。名調子で紋次郎の紹介が始まる。
多くの者に名を知られた渡世人であることと、出自の説明がなされる。
そこで二つ気になるところ。
①渡世人の中では良い評判ではない  ②一家の離散とともに村を追われ……である。

一つ目の「良い評判ではない」というのはどういうことか。人と関わりを持たないことか、それとも薄情なところ?
しかし少なくとも原作中では、紋次郎のことを悪い評判でもって語る渡世人はいなかったと思う。
「上州長脇差」(じょうしゅうながどす)と畏敬の念を持って語られる紋次郎のはずだが……。
原作にもそのような書きぶりはなかったように思う。

二つ目、「一家の離散とともに村を追われ」は正しくない。紋次郎は10歳のときに村を出奔し、その後家族はちりぢりになったのであるから、後先逆である。
細かいところだが、気になった。

紋次郎の過去が回想シーンとして出てくるが、浮浪者そのものの姿でショッキングである。ヤクザに痛めつけられたり、へっぴり腰で刀を振り回したり、村人たちに石持て追われたり、無宿人の中でも最下層の生き様である。
多分、実際はそうだろうと思う。しかし回想シーンとはいえ、紋次郎のそういう姿を見るのは忍びない。
それに、どう見ても紋次郎は実年齢相当である。
できれば紋次郎の少年期あたりの回想シーンであってほしかった。

杉木立のシルエット越しに紋次郎が足早に歩くシーンが、美しい。
突然目の前に百姓女が飛び出し、紋次郎のことを清蔵ではないかと尋ねる。お六という女を演じるのは萩尾みどりさん。私としては、「ポーラテレビ小説」にヒロインとして出演されていた頃の清純な印象が強い。

許婚の清蔵の帰りを待っているが、もう間に合わない。このままだと自分の両親は殺されてしまうから、助けてほしいと、一気にまくし立てて紋次郎にすがりつく。
何のことだかさっぱりわからないが、どちらにしても紋次郎は一切関わらずに振り切ろうとする。

お六は最終手段として、「おらを差し上げますだ。とってやってくだせえ。」と真剣な顔で着物の襟元を開き、白い胸元を露わにする。
なかなか扇情的な撮り方で、蝉の鳴き声とお六の額の汗、足許の大きな水たまり、白日夢のような雰囲気である。

この台詞と展開は原作にはない。原作のお六は
「お礼なら、できるだけのことをさせてもれえます。……何でも欲しいものを、差し上げますだ。お願いします。お頼み申します」
と必死に頼む。この「何でも欲しいものを……」という台詞がテレビ版では「おらを差し上げますだ」になったようである。いかにも男目線であるし、急にこの台詞が入るので視聴者は少し混乱するだろう。もう少し丁寧なつなぎの脚本作りをして欲しかった。

色仕掛けに紋次郎はフラフラしない。このあたりは「新……」も貫いている。
「お気の毒とは存じやすが、お役に立つことはねえようで……」
と低い声で答えると、足早に去っていく。お六は恨みのこもった目で紋次郎を見送る。
(中編に続く)

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Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

「新木枯し紋次郎」に挑戦されるお夕さんの心意気と紋次郎にほれ込んでいる熱意が偉いですねー・!爪楊枝を吐き捨てる場面があるとか、面白い「新」の演出ですかねー・
藤田監督の映画名前が思い出されませんが、見たことがありますねー・


「お気の毒とは存じやすが、お役に立つことはねえようで……」此処は、最高の、セリフですね~^^☆頑張ってくださいね~^^

  • 20100919
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

鷹虎さま、いつも熱いコメントをいただきありがとうございます。

原作は第2期ということで、タイトルに数が入ってきます。
このあたりも、笹沢さんのこだわりですね。

「お気の毒とは存じやすが……」
と、むげに断っていないのが紋次郎らしいところです。

気の毒とは思うけれど助けてあげられないことって、正直数え切れないほどありますね。(ちょっと、反省)
もっとも、紋次郎にとっては関わりの有無で、生死が左右されるんですから事情が違います。
それにしても今回のお六さんは、紋次郎にモノを頼みすぎです。

  • 20100919
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

お夕姐さん、お久しぶりです。最初に私が紋次郎に
あった記念すべき第1回でございます。
この回で、最初、元締めのところで食事しますでしょ。魚を食べた後懐紙で包んで懐にしまいますよね。どうも子供の頃の私にはそんなところでさえも
紋次郎に近付きたくて、
家で魚を食べた後で懐紙にくるんでポッケに
入れてしまい、すっかり忘れていたんです。
で、翌日、母が洗濯をしたときに・・・
きゃぁぁぁ~ここからは想像するにも恐ろしい。
ものすっごい勢いで怒られたことだけ
今でも母ともにしっかり覚えております・・・

  • 20110809
  • おくにゃん ♦ZBwv4ZW2
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Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

おくにゃんさま、コメントをいただきありがとうございやす。

一宿一飯の作法はかなり厳しくて、特に上州長脇差(ながドス)は、格別の厳しさでござんす。

紋次郎兄貴の作法の様は、惚れ惚れと致しやしたねえ。あれを真似されたんで?
年端もいかねえのに、見上げたモンだと存知やす。

洗濯機で回さなけりゃ、完璧だったんでござんすが……。無理もねえ、6歳なんでござんすから。

あっしは先日、洗濯機でケータイを回し、おまけに脱水までかけちまい、おシャカにしちまいました(涙)。

  • 20110810
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

〉目黒さんは1971年、紋次郎が始まる前に「弥次喜多隠密道中」というドラマで共演している。

失礼かとは思いますが、お夕さんって役者さんだったんですか?

今日(7月31日)の放送を観ました。上條さんの主題歌が耳についていたのでやしきたかじんさんの主題歌はまだ馴染めません。

Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

Nicoさま、コメントをいただきありがとうございます。

〉目黒さんは1971年、紋次郎が始まる前に「弥次喜多隠密道中」というドラマで共演している。

の件ですが、私の言葉足らずの表現ですみません。
冒頭の部分は、「敦夫さんは、目黒さんと1971年……」と変更させていただきます。
従って、当然私は役者ではございません(笑)。

「新……」が始まりましたね。正直、新まで再放送されるとは思ってもみませんでした。この企画を打ち出した方は、きっと紋次郎ファンだと思います。

私も、主題歌だけでなくオープニングの映像も、馴染むまでには時間がかかりました。と言うか、別物と捉えた方がいいのかもしれませんが……。

  • 20140731
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

そうでしたか。自分も誤解釈をしてしまい申し訳ありませんでした。

それにしても紋次郎ファンが多いのに、改めて驚いています。

Re: 第1話「霧雨に二度哭いた」(前編)

Nicoさま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎の再放送が始まってから、こちらのアクセスも増えました。
ありがたいことです。

  • 20140801
  • お夕 ♦wikz35BA
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