紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第8話  「一里塚に風を断つ」

第8話 「一里塚に風を断つ」

第8話  「一里塚に風を断つ」
(原作 1971.9月)(放映 1972.2.19)
原作は第7話である。人間関係が複雑でドロドロした展開である。
アバンタイトルでは、泊まった宿で毒を盛られ道中苦しむ紋次郎に襲いかかる若者。街道筋で有名になっている紋次郎を殺して、男を上げようという魂胆だが、あっさりかわされる。
原作では朝、宿で食べた川魚の酢漬けにあたったことになっている。酢漬けにあたるよりはかっこいいかも知れないが、このあたりになると、紋次郎の噂もかなり広がっているという設定になっている。この回の後も、紋次郎を殺して名を上げたがる半端者がまたぞろ出てくることになる。

腹痛に苦しむ紋次郎に薬を恵んで優しい声をかける町医者、石川良庵役に「河合伸旺」。申し訳ないがこの時点で「この医者、今は誠実そうだがきっと本当は腹黒いに違いない」と思ってしまう。いわゆる悪役専門の俳優でいらっしゃる。
原作ではもっと優男で、役者よりもはるかに美男となっている。(河合さんには悪いが)また薬を恵むだけでなく紋次郎を洗馬宿まで運ばせ、旅籠でつきっきりの看病をする。薬代さえ受け取らない。
テレビ版では紋次郎は良庵に「あっしは助かりやすんで?」と聞く。「誰でも命は惜しいもんだ」と言う良庵に「別に悲しむ者もありやしやせん」と答える。紋次郎が命を惜しいと思うはずはないので、なぜ「助かるか?」と尋ねさせたのかと思う。

因縁をつけて絡むヤクザに体をかわしたため、そのヤクザは谷底に落ちる。紋次郎のせいで清五郎一家に間違われて、襲われそうになる加代を助ける中、紋次郎の長ドスが折れる。
顔に付いた返り血を拭くために、加代は紋次郎に自分の手拭いを手渡す。このとき二人は手を触れ合い、紋次郎の心に何かしらの動きが感じられる。実際原作では刀鍛冶を求め急ぐ道中、加代のことをふと思い出したりしている。

「もしも自分が堅気であって加代のような妹がいたら、と紋次郎は漠然とした想像に捉われていた。恐らく得意がって、加代を連れ歩くに違いなかった。人形のような妹として可愛がり、毀れ物の扱いををするだろう。そんなふうに考えながら、紋次郎は自嘲的に苦笑した。柄にもねえことを、と紋次郎は胸の奥で呟いていた。」(原作より抜粋)

そこまで思わせるほど、加代は可憐な娘なのだ。その加代を「二木てるみ」が演じている。いわゆる昔風な美人、切れ長の目で色白、適役である。しかし、紋次郎との道連れを拒まれたときのムッとした表情には、気の強さも窺われる。
刀鍛冶師の妻、千登勢役には「扇千景」。気品があり美しく、身のこなしも堂に入っている。

テレビ版の紋次郎はめずらしく仰向けで蒲団の中で休み、独り言。
「うっかり信じたりしたら必ず裏切られた。毒まで盛るヤツがいて、それが命取りになりかけたことも度々だった。こんな夫婦がいるとはねえ……」

その後夜中に床をぬけ、手拭いを懐から出し「甘い匂いだ」と加代を思い出し呟く紋次郎。直光と千登勢の夫婦愛に触発されたのか、信じ合える人間関係がこの世にあるのかも……と思いかける。

翌朝、加代が兄である直光の家に駆け込み、清五郎一家が仕返しに来ることを知らせに来る。
よく考えると通常、子分の仇を親分がとるということは考えられない。その逆、子分が親分の仇をとると言うのなら分かるが、(実際、「地蔵峠の……」はそうである)その時点で聡明な紋次郎は、妙だなと気づかなかったのか?

テレビ版では、加代に千登勢の不義と利助殺しの件を明かされ、直光は怒り狂い「不義の相手を言え」と自分が鍛えた刀で千登勢を打つ。
千登勢はその刀を手にし「死んでお詫びをする」と言うのを、直光は止めもしない。唯一止めるのは紋次郎だけ……。
紋次郎が妹にしたいとまで思った加代は「死んでしまえばいいんだわ」と冷たく言い放ち、直光は「信じていたのに……」とがっくり肩を落とす。
「そればっかり念仏みてえに唱えているおめえさんが打った刀なんて、どうせなまくらだぜ」と言い放ち、紋次郎は清五郎たちが来るのを一里塚で迎える。映像としては殺伐としていて、一里塚には見えないのが残念。普通一里塚は榎が街道の両端に植えられていて、枝を広げているはずである。
この滋賀県の湖南アルプスでの立ち回り中、中村氏がアキレス腱を断裂してしまうのは有名な話である。

第8話 「一里塚に風を断つ」

「おれは無性に腹が立っているんだ」と怒りを込めて清五郎一家を全滅させる紋次郎。
甘いことを夢想した自分への情けなさ、美しい夫婦の剥がれた化けの皮、一瞬でも信じかけた自分への怒りなのだ。
しかし、本当の修羅場はこの後なのである。

テレビ版と原作との決定的な違いはこの後なのだ。
原作では良庵が現れ、良庵の企みが何もかもが分かったとき、千登勢は良庵に向かって短刀をかざして体当たりをするが、良庵は加代を楯にして千登勢を殺す。
しかし、テレビ版では千登勢は生き残る。生き残った直光と千登勢の関係はこの後どうなるのか、と思っただけでも気が滅入ってくる。死ぬも地獄、生きるも地獄である。
清純に見えた加代と貞淑に見えた千登勢だが、悲しい女の性というか結末はどちらも辛いものがある。
女の性をおもちゃにし、自分の立身出世のため斬り捨てる良庵の狡猾さ。紋次郎に恩を着せ、金で動かそうとする浅はかさ。
「医は仁術」などやはり存在しなかった。

そしてもう一つの大きな違いは、直光の刀がテレビ版では折れてしまうことだ。紋次郎は折れた刀を手にして直光に言い放つ。
「おめえさん、本当は奥様の過ちを知ってたんだろう?知っていながら本当のことを言うのが怖くって、信じてるとか何とか、お題目唱えてたんだ」
とことん直光の意気地の無いところを突いてくる。
人を本当に愛するというのは、過ちや欠点も全てを丸ごと愛することではないのか、信じ合うというのは、お互いが本当の自分をさらけ出し、許し合うことなのではないのか、言葉だけうわべだけの愛は所詮もろいものであったのだ。そのもろさのためか、刀はまたしても折れた。

最後に加代の手拭いを川に流し、楊枝を飛ばす。この瞬間、全ては過去になり流れ去っていくのである。

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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

はじめまして、お邪魔します。

待ってました! 一里塚!!
この回は、いちばん好きな話です。
わたくしごとですが、ボク自身も職人を生業としながらの妻と2人暮らしでして、直光や葛藤や、千登勢の苦しみや、他人事でなかったりする部分が、あったり、なかったり…
「おめえさんが打った刀なんて、どうせなまくらだぜ」
ドスの効いた一喝に、頭をガツンと殴られた思いでした。

確かに、この回は、紋次郎が、やけに人間ぽい甘さを見せる場面が多いですよね。
「おれは無性に腹が立っているんだ」
のセリフは、そんな自分への怒りだったんですね。
お有さんの解説で、はじめて理解しました。

だらだら長話してしまいました。
今後も更新を楽しみにしています。
でわ、ごめんなすって。。。

Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

猫わん様、コメントをいただきましてありがとうございます。
職人さんって、かっこいいですね。昔から憧れています。仕事に対する譲れないこだわりが、それぞれの方々にありますよね。
映像づくりに関わっておられた方々も、職人さんと同じ心意気で仕事に専念されていたと思います。
職人気質を全うした仕事ぶりは、人に感動を与えますね。
私も仕事が苦しくなったり悩んだりしたときは、紋次郎を観ます。そうすると必ず、力と勇気が湧いてくるんです。バイブルのような存在で、学ぶことがたくさんあります。
猫わんさん、お身体に留意されてお仕事がんばってくださいね!

  • 20090505
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

お夕さん、こんにちわ。

拙ブログを始めた頃、「紋次郎劇場」http://blogs.yahoo.co.jp/monnjirounoaneomitu/folder/1045582.html

の逗子王様さんに、紋次郎は原作では「直光」を暫く使っていて「兼氏」を愛刀とするのはどうかと指摘され、紋次郎ファンの多くがTV版のファンであり、刀剣サイトhttp://www.kyokusho.com/mikawaya/touken/F-044.htm

で紋次郎の愛刀として「兼氏」が販売されているのでそのようにした旨の回答をしたのを懐かしく思い出しました。

逗子王様さんもとても良い方で、例の謎のポスタープレゼントの「初放送以来の筋金入りの紋次郎ファン」のお三方のうちのお一人です。あとお夕さんとTOKIさん。凄いメンバーです。

PS.できれば、「ひとり狼」のご感想も新コーナーでお願いしたいですね。



  • 20090506
  • おみつ ♦aiP0wTO2
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

ドラマをみて、何故紋次郎が怒ってるのかがよくわかりませんでした。それで本を読んでみましたところやっとわかりました。私の理解力ではこれくらい説明してくれないと。やっぱり原作は読むべきですね。ただ、ドラマと原作とでは怒りの内容が少し違うようです。お夕さんの記事でより詳しく理解できました。

  • 20090506
  • 桐風庵 ♦-
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

おみつ様、コメントありがとうございます。

「逗子王さん」のブログは私もファンで、全部拝読いたしました。すごい方で、尊敬しております。

紋次郎にとって長ドスは、命そのものですからね。
一大事です。
テレビ版ではこの後どこで刀を手に入れるのでしょうか。

「ひとり狼」実は忙しくて未見状態です。ぼちぼちやります。

  • 20090506
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

桐風庵様、コメントありがとうございます。

原作とドラマでは、やはり少しずつ意図するところが違うようです。
お茶の間で大衆が観るテレビと、紋次郎ファンが一人でページを繰る小説では、対象が違うので仕方ないことかとも思います。

今は両方何度でも楽しめる、良い時代になりましたね。

  • 20090506
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

お夕さん お邪魔いたします。

「登場人物が、皆、関係者である」パターンが多くなってしまいますね…

どんでん返しの法則でいきますと、黒幕は最後に残った一人ということですので、親切といえば親切なのだと思いますが…

ドロドロとした人間関係が繰り広げられるさまを、紋次郎さんだけが俯瞰している感じが、対極的であります。

罪を犯した人に対して、紋次郎さんがとる態度は様々のようですが、
全体的には、女性に対しては、とても寛大な気がいたします。
理不尽に他人の命を弄ぶ場合は別ですが、それでも、咎めないことが度々あるように感じます。

逆に、直光さんが千登勢さんの命を軽く扱ったことに対しては、かなり怒りを向けているようでした。

紋次郎さんの「命」あるいは「殺」に対する感覚には独特のものがあり、私には、なかなか掴めないのですが、お夕さんはどの様に捉えていらっしゃいますか?

旧作を第1話から学んでおりますが、この頃の紋次郎さんは、まだ、若々しく饒舌でいらっしゃいますネ^^






Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

白さま、コメントをいただきありがとうございます。

今回のドロドロは、かなりのものでした。

直光が引きこもっている場所が、田舎のひっそりした静かなところ。
夫婦は静謐感漂う風情で、お互いをいたわり合って暮らしている……。

紋次郎が街道を往く世界とはあまりにかけ離れているので、ある意味異界とも言えると思います。

しかしその実は違っていた……というドンデン返しは、それだけにインパクトがありましたね。

紋次郎は女に優しい。
私もそう思います。女の過ちや、浅はかな行動には寛大で、あまり責めることもしません。

女の罪の裏には、「女の性」があり「貧しさ」があり「閉塞感」があります。
それらを紋次郎は、責めるべきものとは思っていないのかもしれませんね。
女の哀しさを、「お光」を通して感じているのかもしれません。

紋次郎の「命」に対する考えは如何に……?
難しいですね。
原則として、紋次郎が殺意を抱き人を殺めるということはありません。正当防衛(過剰な場合もありますが)の範疇かと思われます。

私が印象に残っているのは、「雪燈籠に……」で
「おめえは死ななくちゃならねえ人間だぜ。」
と言って、政吉を斬り捨てるところです。

これは相当怒っています。
怒りの対象は、こうなってしまった皮肉な因縁(自分も含めて)にも向けられていますので、それを断ち切る相手が政吉だったと思います。
この台詞は結構、印象的でした。

饒舌な紋次郎。
第2話「地蔵峠……」では、特に饒舌でしたね。こんなによく喋る紋次郎サンを見ていると、こちらが赤面する(笑)思いでした。

でも何だか初々しくて、ステキでした。

  • 20110815
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

京都の土産物屋で「おたべちゃん人形」を見ると、お加代に見えてしまいます。
着物の柄が梅の花ってのも同じ。
「甘ぇ匂いだ…」(笑)
http://www.hi-ho.ne.jp/kyoto/img05/yatuhasi06.jpg

  • 20110815
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

「おたべちゃん」
ホント、かわいいですね。
こんなかわいい「おたべちゃん」が、あんな台詞を口にするなんて……ぐらいの意外性ですよね。

「黒いおたべ」があるらしいですね。
黒ごまだれを包んだおたべ……まさに腹黒いおたべちゃん?!(笑)
でもおいしそうです。

  • 20110815
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

こんばんは、本日CD ”名調子 芥川隆行が語る「木枯し紋次郎~一里塚に風を断つ」”を入手いたしました。
http://www.amazon.co.jp/名調子-芥川隆行が語る-名作シリーズ-木枯し紋次郎%7E一里塚に風を断つ%7E-芥川隆行/dp/B0011ZOJ78/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1319372850&sr=8-1

芥川さんの朗読する『一里塚・・』は、やっぱり格別ですね。
サントラとともに、これからも永く楽しめそうです。
ただ惜しむらくは・・・のっけから始まってしまった”一昔前の通信カラオケのようなペラッペラに軽い『誰かが風の中で』”と、紋次郎の吐き出した木枯しの音・・・思わずズッこけそうになってしめぇやした。。。(苦笑)

ところで現在、スカパー時専Chでは『徳川三国志('75)』が放映中で、中村敦夫さんが、倒幕を企てた由井正雪役で出演されています。私の地元、静岡が舞台の中心ですので、歴史の勉強がてら楽しんでおります。
また、静岡市の由比という、旧東海道の宿場のあった静かな漁村に『正雪紺屋』という老舗の染物屋さんがあり、こちらは由井正雪の生家になります。わたしはこの染物屋さんが大好きで、よく手ぬぐいをこちらで購入しております。
この由比宿を抜けると、東海道の難所の一つ、薩埵峠が控えております(現在では歩道も整備されており、さほど難所ではありませんが、往事の旧街道の雰囲気も十分残されていますので、ウォーキングもおすすめです)
これからの季節、峠の展望台からは富士山がよく見え(歌川広重の描いた浮世絵と同じ風景が臨めます)ます。紋次郎と言えば中山道ですが、東海道もなかなかですよ(^-^)

Re: 第8話  「一里塚に風を断つ」

ケンシロウさま、コメントをいただきありがとうございます。

芥川さんの名調子を、楽しんでいらっしゃるんですね。
私としては、それを聞きながら眠りにつきたいものです。至福の時ですね。

「徳川三国志」
ありました、ありました、当時見てましたよ。
あの髪型はインパクトがありました。
あの髪型は、丸顔では絶対に似合いません。
敵役でしたね、珍しく。
でも、あの理知的な雰囲気はピッタリだったと思います。

静岡にお住まいなんですね。
薩埵峠といえば「去った峠」を連想するということで、和宮さまはお通りにならなかったとか……。

東海道と言えばやはり富士山。
往時の旅人は、山を振り仰いで街道を歩いたんでしょうね。

  • 20111023
  • お夕 ♦wikz35BA
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