紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」
海野宿が出てくる作品名は「唄を数えた鳴神峠」。この作品は映像化はされていませんが、私にとっては思い出に残る作品です。
中学生の頃、単行本を買い続けていたのですが、ある日新聞の「小説現代」の見出しに「紋次郎 完結!」の文字を見ました。
私は頭が真っ白になりました。
かなり悩んだのですが、とうとう本屋に行き「小説現代」を恐る恐る購入しました。子どもが「小説現代」を買うなんて、当時は変だったんでしょうねぇ。
店番のお婆さんが、「お父さんに頼まれたんやね?」といぶかしげに訊いたのを覚えています。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」


「海野の武右衛門」のもとから逃げてきた女が、その子分たちに殺され、紋次郎はその現場を通り過ぎます。
端から関わるはずもない紋次郎ですが、武右衛門は一家を挙げて追っ手を差し向けます。
いつもは他人を信じない紋次郎ですが、初めて狂女の言葉を信じ鳴神峠に向かいます。
しかしその言葉はやはり虚言であり、待ち伏せていた武右衛門一家と死闘を繰り広げます。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

紋次郎の長脇差は折れ、左の太腿と腕など8カ所の手傷を負い、最後に左の肩口を割られ紋次郎は倒れます。
この回で紋次郎が倒した武右衛門一家の数はなんと24人。
肩口を斬られた茂吉は、武右衛門に草鞋を脱いでいた客分で渡世の義理で加勢をしましたが、その茂吉も紋次郎に殺されます。
紋次郎シリーズ上、一番たくさんの敵を倒し、自身も瀕死の重傷を負います。

滝壺に落ち、折れた長脇差の代わりに竹槍を振り回し、たった一人で戦うくだりは何度読んでも涙が出てきます。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

「紋次郎は、死を直視していた。妙な気持だった。死そのものに、特に感ずることはなかった。いつ捨てても惜しくない命だと思っていたし、みずからの存在価値など最初から認めてもいなかったのである。死んでもともとであり、明日のない者には今日に感ずる未練もないのであった。」

「ただ、こうなったことの原因が、何とも不思議だったのである。何も聞いてはいないのに、それを聞いたはずだと勝手に決められて命を狙われる羽目になったのだった。
これほど、馬鹿らしいことはないのであった。もっとも、愚につかないことから、まったく無意味な死に方をするのが渡世人というものなのかもしれなかった。」
(原作より抜粋)

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

三度笠は真二つに割れて、道中合羽はズタズタに破れて全身は血まみれ……。
鳴神峠の頂上で倒れた紋次郎は、朦朧とした意識の中、狂女が唄う数え唄に合わせて四年、五年、六年……と数えます。
死を予感し紋次郎が数えたのは、故郷を捨て放浪した年月だったと私は思います。

「天保十二年三月下旬に海野の武右衛門一家が壊滅したと記録があるが、その中に上州無宿木枯し紋次郎に関することは何一つとして記されていないという。」
(原作より抜粋)
締めの言葉です。どこにも紋次郎が死んだとは書かれていないのが、唯一の救いでした。
しかし私は、紋次郎はもう街道から消えた……と虚しい思いで、当時読み終えました。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

そんな思い出のある作品に出てくる海野宿は、現在の長野県東御市にあります。
町並みは103軒、約650メートル続き、宿場中央に流れる用水路をはさんで問屋、旅籠屋、煮売屋、茶屋、居酒屋が並び本陣1軒と脇本陣2軒が設けられていました。
北国街道と中山道の分岐点「追分宿」から数えて3番目の宿場で、人足25人、馬25頭が常時輸送にあたっていました。北国街道は日本海の直江津までつながっており、佐渡の金の輸送、北陸の大名の参勤交代、善光寺への参拝などで往来する者も多く、賑わっていたということです。
紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

この宿場の特徴は、宿内に用水路が流れているということです。この水を使って馬の脚を洗ったということで、用水路沿いの柳の木が涼しげに揺れ、風情があります。
また町屋には立派な「卯建」(うだつ)が見られます。防火壁の役割と言われていますが、意匠を凝らしたものもあり、財力の象徴とも言われます。
「卯建が上がらない」は、「財力がない」ということを意味し、長じて「生活や地位がよくならない、ぱっとしない」ことを表すようになったとか……。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

宿場の東端には白鳥神社があります。ご神木のケヤキが立派で樹齢700年ということです。中世に海野郷を支配していた豪族、海野氏の氏神で、この南には木曾義仲が挙兵した千曲川の河原があります。

「唄を数えた……」では、紋次郎は千曲川の河原で早朝に、口をゆすぎ顔を洗います。その後朝いちばんの渡し舟で対岸に着き、海野宿をに入ります。
武右衛門一家の者たちが様子を窺う中、宿内の煮売屋で飯を注文します。

「麦飯に煮詰まった味噌汁、それに干し魚の焼いたのが二尾と決まっている。紋次郎はまず、焼いた干し魚を頭から囓った。そのあとで味噌汁を麦飯にかけると、まるで湯でも飲むように流し込んだ。最後にタクアンを、口の中へいれる。
『せっかちだねえ、旅人さん。笠ぐらい、とったらどうだね』
小女が笑いながら、そう言った。」(原作より抜粋)

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

いつもの「紋次郎喰い」ですね。その後、店にいた二人の渡世人を振り切って裏口から飛び出すと、田んぼのあぜ道や畑の中を30分ほど突っ走ります。

この海野宿は昭和61年3月に町保存条例が施行され、8月に「日本の道百選」に、翌昭和62年4月には重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。町並みの保全、道路の整備、家屋の修理などが行われ、現在に至っています。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

観光客もまばらで、静かな佇まいと柳の緑の美しさ、空の広さが印象的でした。白壁や卯建、瓦、格子、用水路なども手が入れられているようで、清潔感のある町並みです。
この地も昔は舗装もされず、用水路にかかる石橋も古いままだったでしょうが、今は雨が降っても観光客の足元を汚すこともなく、安全に渡れる石橋となっています。
往時を保存しながら、観光客の快適さと安全も保障して、ここに住まいする人々の生活も守るという、相反することを平行してやっていく難しさを感じます。
映画村や時代村ではなく、ここには日々の生活を営む人々がいる訳ですから、これはいわゆる命題なのかもしれません。

紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

それにしても、初めて訪れる場所なのにホッとするのは、やはりDNAのなせる業なんでしょうね。





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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

私も、リアルタイムで紋次郎の完結を知り、本屋へ走った一人です。
もっとも私は立ち読みで済ませ、本の購入までしなかったのです。
愛の深さでお夕さんに完敗です。(笑)

薄れゆく意識の中で唄を数える紋次郎の姿が脳裏に焼きつき、その晩は「一年待ってもまだ来ない 二年待ってもまだ来ない」の文章がリフレインしました。

これが紋次郎自身のことだろうというのは私も思いました。
もっとも、それに気付いたのは読んだ当時ではなく、後に単行本を購入してからだったのですが。

私は、撮影に出てきた場所を訪問することはありますが、原作小説に出てきて、まだ映像化されていない土地へは行こうと思いませんでした。
またしても愛の深さで完敗です。(笑)

それにしても、構図もバッチリの、美しい写真だなあ。

  • 20101002
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

本当は鳴神峠に行きたかったのですが、所在がはっきりわかりませんでした。
鳴神峠という名前、ステキですよね。

笹沢氏は、地名におけるイメージも、大事にされたんだなあと思います。
ドラマになる地名と、そうでない地名は、やはりありますね。

焼け木杭に火が付いただけで、愛の深さなどと言われますと、恐縮します。

プロのTOKIさまから構図がバッチリと言われると、お世辞とは思いつつも嬉しいです。ありがとうございます。

  • 20101002
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

お夕さんの紋次郎歴って息が長いんですね。
右に出る人はいないのじゃーないですか!
紋次郎を演じた中村敦夫氏でももう想いでのひとつになっているんじゃーないかと思います。

>紋次郎の長脇差は折れ、左の太腿と腕など8カ所の手傷を負い、最後に左の肩口を割られ紋次郎は倒れます。

こんなシーンがあるんですか!

>滝壺に落ち、折れた長脇差の代わりに竹槍を振り回し

ここは見せ場ですね。

>・・・その中に上州無宿木枯し紋次郎に関することは何一つとして記されていないという。」

ここはナレーターの名調子が聞こえてくるようです。

わび、さびとはちょっと違うけど、渋いです。
普段なら話題にもならない日の当らない渡世人を通しての書き下ろしが視聴者の意表を突いたアングルだったんでしょうか。

Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎歴は長いんですけど、中抜けというか、しばらく足を洗っておりましたので、私よりもっと造詣が深い方はたくさんおられます。
私なんかまだまだ三下者です。

この作品で一度紋次郎は街道から姿を消しますが、ファンの熱い要望で再び戻ってきます。
今も根強いファンがおられ、紋次郎への熱い想いは、シリーズが終わっても永遠に引き継がれていくと思っています。

映像であれ原作であれ、一人ひとりの心の中に、各々の紋次郎が街道を急ぐ……。
ステキですよね。

今日は、どこの空の下を歩いているんでしょう。

  • 20101003
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

お夕さん、こんにちわ。

ヤフオク(5日22時終了)で紋次郎のお宝画像を見つけました。
http://page5.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/e104032182

撮影開始前のスチールだと思いますが、長脇差が錆朱色ではなくて、黒です。三度笠もいつものより小ぶりなような気がします。

三度笠は撮影に入ってから、少しづつ大きくなっていったと聞いたことがあります。

  • 20101004
  • おみつ ♦5lmYAKUI
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

お夕さんへ!!
久し振りに、熟読して見ました。!紋次郎さんってこんな寂しい思いで姿を、消したとは思っていませんでしたので、つい海野宿での飯の流し込みの姿が浮び、涙が出ました。多勢に、一人では、いかに、剣の名手でも、切られたのですねー・よく紋次郎さんの心を捉えブログに記載されたことは、お夕さんの貴重な財産でもあり、紋次郎フアンも長く心に残る傑作といえます。!!☆!

  • 20101004
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

おみつさま、情報をありがとうございます。

貴重な画像ですね。
とても紋次郎には見えない(笑)、まだかけ出しの若い頃のような感じです。
三度笠、長脇差も違いますが、楊枝もなんだか短いように見えます。

これからも貴重な情報、お願いしますね。

  • 20101004
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。

タイガースの件、心に木枯しが吹きましたが、気を取り直して応援します。

「唄を数えた……」は本当に切なくて、思春期の私は打ちひしがれておりました。
思春期に何に感化されるかで、人生の方向も変わるような感じです。

しかし今でも、紋次郎にあの時出会えていたことに感謝しています!

生きることに自信を失いつつある人には、絶対にお薦めです。
若い人にも是非、触れていただきたいですね。

  • 20101004
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

こんにちは。
先日は、ご来訪くださり有り難うございました。

その例の祭りのせいでDVDはおろか、まだ原作も3巻までしか
読み進めてないのですが、お夕さんの文章を読んでいるだけで
落涙しそうです・・。
映像になって欲しかったような、ならなくて良かったような。
そして、このまま紋次郎さんは消えてしまった方が良かったような。
いやそれは信じたくないような。



でも、もしも。
当時私が原作を読めるほど歳を重ねており、成熟していたなら。
この作品で読むのを終わりにしていたような気もします。



そんな事言いつつも全巻読み進めちゃうんでしょうが。(苦笑


  • 20101014
  • SPUTNIKOY ♦jY7wyBdw
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Re: 紋次郎の影を追う「北国街道 海野宿」

SPUTNIKOYさま、コメントをいただきありがとうございます。

仰るとおり映像化されると、胸が締め付けられる思いになることは確かです。

原作を読むだけで、あらゆるシーンが目に浮かびますので、実のところあまり読みたくはないんですね。
当時読んだときの、ショックと喪失感が思い起こされるんで……。

SPUTNIKOYさんと同じく、私もこの「唄を数えた……」でしばらく読むのをやめました。

読むには辛い作品ですが、記憶に残る逸品です。

  • 20101014
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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