紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第2話「年に一度の手向草」(前編)

第2話「年に一度の手向草」(前編)

第2話「年に一度の手向草」(前編)
(原作 第49話)(放映 1977.10.12)
「新……」の2作目にこの原作を選んだのは、やはり亡き姉お光を絡めないと始まらないということだろう。1話の「霧雨に……」から数えると、原作は大分後に書かれている。
紋次郎にとってお光はどういう存在であるかということは、前シリーズを知らない視聴者にも明らかにしておかなければならない。そのためナレーションや回想シーンを入れて、紋次郎の出自について時間をかけている。

紋次郎の生まれ落ちた経緯は重いテーマであって、ずっと彼のトラウマとして影を引きずる。変な言い方かもしれないが、生まれたときから死んでいるのである。
そして彼は10歳のとき、姉お光の死とともに故郷を捨て無宿人となった。これは二度目の死。
渡世人となり、幼な友達のため無実の罪で三宅島に流されるも島抜けをする。しかしその途中、仲間割れが起こり紋次郎以外は全員命を落とし、紋次郎も記録上死んだことになっている。「赦免花は散った」のときには、既に三度目の死を迎えたことになる。

映像化されていないが原作としては、一旦「唄を数えた……」で紋次郎は死んでいる。これで四度目の死。
紋次郎の死生観は徹底している。生きていて良かったと感じたことは、多分一度もない人生である。
しかし紋次郎は生き続けた。姉お光によって、生かされた命を一日一日つないできた。

「へえ。紋次郎さんには、人として生まれて来てこの世でただひとり、人と思えるのがその姉さんだということらしゅうごぜえますよ」
墓参のときにいつも立ち寄る、茶店の亭主の言葉である。
紋次郎が人と思えるのはお光だけ……言い替えれば、お光だけが紋次郎を人として認めてくれたのである。
間引かれる運命だった紋次郎を救ったお光の心だけが、紋次郎の生きる支えである。

竜胆の花を手にした紋次郎の姿に、野良仕事の老婆が呟く。
「無宿もんが花なんか持って……」アバンタイトルの始まりである。
出だしから無宿者に対する村人の蔑みが見て取れる。

紋次郎は毎年お光の墓参りのため、上州伊勢崎の南一里にある「美呂村」にやって来る。紋次郎が19歳のときから数えて、今年で15回目になるというから紋次郎は33歳という設定である。
茶店には土地の若い渡世人が三人、店の亭主と紋次郎のうわさ話をしている。
その中の一人、梅吉役に「東野英心さん」。丸い顔と丸い鼻、ちっちゃい目は人なつっこい感じがする。

第2話「年に一度の手向草」(前編)

紋次郎の三度笠はかなりの傷み具合である。さすがに前回のつなぎ合わせた三度笠ではないが、隙間のあき方が半端ではない。
茶屋の亭主から線香を買って墓に向かう紋次郎。お光の墓は粗末な石が置かれているだけ……よく見ると素人が彫った「みつ」という文字がうっすら見える。

花と線香を供え手を合わせる紋次郎だが、ふと何かを見つけ墓石の周囲の土を掘り返す。だれかが墓を暴いた形跡があることに気づいた紋次郎の表情には、驚きと怒りの感情が見てとれる。
ほとんど感情を表に出さない紋次郎が、茶店に駆け戻り「鍬を貸しておくんなせえ」と声を荒げ、慌てている様はかつてない光景である。こんなに焦っている紋次郎を見たのは初めてである。
それだけ紋次郎にとっては、信じられない出来事だった。すぐにでも現場に戻りたい紋次郎の前に、梅吉が「伊勢崎の太兵衛一家の者でござんす」と仁義を切る。
紋次郎にとってはそれどころではないので、軽くかわしてお光の墓に駆け戻り墓を掘り返す。額に汗して掘り返す紋次郎を、少し離れた所から眺める梅吉の表情には、紋次郎に対する親近感のようなものが感じられる。

果たしてお光の墓から、女の死体が出てくる。茶店の亭主と梅吉が死体の悪臭に閉口しているのに対して、紋次郎は一向に構わず、女の死体の確認のために必死に掘り返す。
女の胸には刺し傷が見え、誰かに殺されたことがわかる。隠し場所としては一番適していると言った茶店の亭主の言葉に思い出したことがある。
死体を隠すのに一番ばれないのは、戦場であるということ。誰だったか、海外の推理小説家の言葉だったように思う。
話を戻す。

かすかに死臭を感知してやって来た蝿の羽音が聞こえる。芸の細かいところである。
泥にまみれた女の顔をのぞき込んで、梅吉が死体の主を言い当てる。梅吉の生まれた村……亀井村の名主の娘、お千だというのだ。お千は二十二、十六で江戸の領主屋敷に奉公に出て十九のときに亀井村に戻ってきたが、詳しいことはわからないと梅吉は言う。

「紋次郎さんと、同じってことになります。あっしが亀井村を飛び出したのはとっくの昔で、その後親兄弟が死に絶えやしてね。いまでも亀井村へ足を向けちゃあおりやすが、村人からは他所者(よそもの)の扱いを受けやす。村の連中ってのは他所者に、余計なことを喋りたがらねえもんなんですよ」
穴の中の死骸に目を落として、梅吉は自嘲的に笑った。
(原作より抜粋)

台詞は原作と同じだが、テレビ版の梅吉は自嘲的には笑わない。むしろ紋次郎に村人の薄情さを訴え、同調してほしい様子。
しかし紋次郎は、そんな梅吉のことを全く意に介さず、ふたりに言う。
「このことはふたりの胸の内だけに納めておいておくんなせえ。どこのどいつが何のつもりでこんなことをしたのか、その償いをさせるつもりでござんす。」
紋次郎が、自分の決意を他人に聞かせるなど滅多にないことである。

原作にも「珍しく熱い気持ちになっていた、これだけは絶対に許せないことだ」と、自分に言い聞かせてはいるが無言である。(中編へ続く)

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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

いつも、文と写真がすばらしくマッチしていて
「紋次郎」をよく知らない私でも、雰囲気がつたわってきます。
あまりコメントもいれることができませんが、皆様の輪の外から覗かせて頂いてたのしんでおります。
紫色は気持ちがほんわかしつつも、シャンとします。

※昨日はヤクルトさん、がんばってくれましたね~!

  • 20101009
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

ぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

お出でいただく方は、紋次郎の作品をご存じない方もたくさんおられますので、ストーリーもご紹介するようにしています。
それと共に、駄文が必要以上に長くなっているようで、気にしております。

紫色の花は、凛としていて私は好きです。
お光さんの供花としては、最適だと思いますね。

他力本願で2位ですが、運も実力の内。
悔いのない試合展開を期待します。

  • 20101009
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

 紋次郎の数奇な人生に、これでもか、これでもかと試練が乗りかかってきますね~。

 人間誰しも大切にしているよりどころを、あるいは言葉でまた物理的に、ないがしろに扱われたら黙ってはおれません。

 姉の墓を踏みにじられることは、クールな紋次郎でも常軌を逸する気がします。

 なかなか、人間の心をえぐった作品ですね。 

Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

「紋次郎のたった一つの心の花園を、踏み荒らしたという行為に相当する。」
原作にはこう書かれています。

紋次郎と花園……全く縁の無いような言葉ですが、それだけに心の拠り所として唯一大切にしていた聖地なんですね。

紋次郎の動揺ぶりも頷けます。

シリーズの中、慌てる紋次郎はこの箇所だけではないでしょうか。

  • 20101009
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

冒頭の老婆のセリフ、覚えております。
「霧雨」でかなり傷ついた私の中の紋次郎像が、ここでまたダメを押されたと記憶してます。

「紋次郎が何度死んだか」は、私には思いもよらなかった発想です。
するとこの後、紋次郎は木曽谷に転落した時と、板鼻の花菱屋に逗留した時に死んだわけですね。

紋次郎にはおみつのほかにもう一人、大恩人が居ますね。
板鼻の一件で、自分の命と引き換えに紋次郎の命を救った上州長脇差・越堀の浜蔵の墓にも、紋次郎はその後にも参りに行っている気がします。

  • 20101011
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

お返事が遅くなりましてすみません。
奥州のほうへ、草鞋を履いておりやした。

越堀の浜蔵の最期は、壮絶でしたが格好良かったですね。一世一代の大芝居でした。

匿ってくれていた寺の和尚もいい男でした。飄々としていながら気骨ある性格……愛すべき脇役です。

紋次郎は自分からは関わりを持ちたがりませんが、一度恩義を受けた者には律儀なほど礼を尽くします。
仰るとおり、浜蔵の墓には人知れず手を合わせに行っているでしょうね。

老婆が「無宿もんが……」と口にしますが、当時は無宿人や渡世人に対しての偏見や蔑視は強かったと思います。
「無宿・よそ者・渡世人」三拍子揃っているのですから、当然でしょうね。
それは梅吉に対しても、同様の目を向けていたのではないでしょうか。

「新……」での紋次郎の生きる世界は、前シリーズよりかなり過酷になっているように感じます。

メールのお返事は、今しばらくお待ちください。

  • 20101011
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

そうですね。
確かに「新」での世界は、紋次郎にとって過酷なようですね。

私は最初の4話しか見てないのですが、そのことを示すセリフが、この話かその次か、またその次で出てきて、またしても絶句したのです。
おそらくこれから書かれるでしょうから、伏せておきます。(ヒント「虎」)

話は変わりますが、OPの山並みの場所が判明し、そこへ行かれた人が登場したことは、おみつさんよりお聞きだと思います。

で、その後の振り分け荷物を忘れる場所。
この映像を、嵯峨野で50数年生まれ育った友人に見てもらいました。
すると
「実は今まで何も触れなかったのですが、『北嵯峨の風景そっくりやなあ』と思って見ていました。
TOKIさんもご存知の広沢ノ池から、100mほど北西に上った場所です。

それと、竹薮でのシーンがありますが、その竹薮も、北嵯峨だと思います。
荷物を掛けた木の場所の真ん前が、その竹薮だろうと思います。 」との回答をいただきました。
詳しい場所を教えてもらい、自分の足で行ってみます。

  • 20101015
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第2話「年に一度の手向草」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

「虎」と言えば、やはり「駒形新田の虎八」がらみでしょうね。
私としては、誰とも関わりを持たせたくない紋次郎ですが、「新」では実在した侠客とのからみがあり、少し複雑な気持ちです。

タイトルロールの振り分け荷物のシーンですが、「北嵯峨の農道」と、どこかで読んだ記憶があります。
またあの竹藪の風情は、同じく嵯峨だと思いますね。

どちらも大好きなシーンで、私の心象風景の一つです。
あの振り分け荷物を引っかけた木は、今も健在であれば、随分大きくなっているでしょうね。

足を運ばれるんですね。
またレポートをお聞かせくださると、嬉しいです。
お気をつけて……。

  • 20101016
  • お夕 ♦wikz35BA
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