紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)
(原作 第39話)(放映 1977.10.19)
紋次郎と同名の男が殺されドラマが始まったのは、第29話「駈入寺に道は果てた」だったが、今回も同名のモノが出てくる。しかし人物ではなく犬……赤犬で、名前は「紋次郎」。
お民が飼っている犬である。

アバンタイトルは火事のシーンから始まる。村に火災が起こり、お民と舅は焼け出される。足元には子犬がまとわりつく。これが「紋次郎」のようである。
飛騨の匠の説明が、ナレーションされる。江戸に賦役で奉仕に行っていた匠の一行が村に帰ってくるが、お民の亭主の小太郎はいない。必死で小太郎の消息を訊きに回る、お民。
回顧シーンである。

主題歌の後、山中に響き渡る犬の声と女の泣き声がする。紋次郎はその近くを通るが、「紋次郎!」と犬を呼ぶ声にハッとなり足を留める。しかし犬と泣き伏せる女の姿を認めただけで、また足早に通り過ぎていく。
この女は一体何者で、なぜこんなに嘆き哀しんでいるのか。
この何気ないワンシーンが、テレビ版だけの意外なラストにつながる。

その先で土地の渡世人たちに追いかけられ、「柏屋の清八と申します。これを、お民に……」と小判を手にした男に、紋次郎は遭遇する。
追ってきた渡世人たちに「男から何か聞いたか?」と問われるが「関わりねえこって……」とこれも通り過ぎる。その背後で男は渡世人たちに殺される。
この渡世人たちも紋次郎がまだ近くにいるのに、なぜこの男を殺すのか。「現場を見られた」と後で慌てたりしていたが、殺しを見せてはいけないだろう。

原作では、木曽川の岸辺にある「岩屋観音」の前で柏屋の若旦那、清八が殺され、賭場で手にした六十両を奪われる。どうも賭場で勝ち逃げした金を、取り返されたようである。
その騒ぎは、近くの舟小屋で野宿していた紋次郎の耳に入る。
楊枝をくわえた紋次郎の姿に驚いた渡世人たちは、脱兎の如く逃げ出す。こちらのほうが自然である。

岩屋観音から半里で太田宿である。紋次郎はこの太田宿の煮売屋で朝飯をとる。お民が店にやって来て、亭主の小太郎が下呂にいるようだと店の客から聞かされる。
お民役に「池波志乃さん」。ご存知、中尾彬さんの奥様である。失礼だが、すごい美人ではないが艶っぽい女優さんで、目元と口許に特徴がある。

店の女から「お民さん……」と呼ばれているのに、テレビ版の紋次郎は全く反応しない。あの若旦那が殺される間際に「これを、お民に……」と口走ったことなど、関係ないというのか。
気づいていないのか、全く無視しているのか。太田宿に入ってすぐ、「柏屋」の看板には目を留めた紋次郎なのだが……。

亭主の小太郎は腕を負傷し、江戸から帰らず行方不明……お民は病の舅を抱え「太田の源蔵」から借金をし、利子がふくらみ六十両。返す期限は三日後に迫っているという。
下呂の湯治場にいる小太郎は、名前を「彦市」と変えていると店の客は言う。
ああ、なぜここで「彦市」という名を明かすのか。お民の亭主小太郎と彦市を、どうして同一人物だとここでばらしてしまうのか?脚本としては残念である。

小太郎に会いに行け、と店の女「お杉」と客に勧められるが迷うお民。

紋次郎はとろろ飯を食べ終わったところで、源蔵一家の者が店にやって来て、「親分の使いでやって来た。是非とも賭場に寄って欲しい。」と紋次郎を誘う。紋次郎としては素通りして金山宿に急ぎたいと断るのだが、源蔵の子分半兵衛の強引な案内で、仕方なく源蔵に会いに行く。

第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)
*飛騨の匠の技

テレビ版の紋次郎の三度笠は、今回もかなり隙間があいてひどい傷み具合である。
前シリーズの三度笠とは初めの作りからして違うように思う。前シリーズの三度笠はもっと重厚なつくりで、色も日に焼け飴色だったように思うが、本シリーズの三度笠には古さが感じられない。笠の編み方も何となく粗くて薄っぺらく感じてしまうのは気のせいだろうか。

そう言えば、源蔵の子分とのやりとり中、紋次郎からは貫禄や凄みが感じられないのも気のせいか。まるで子分たちに取り囲まれて、連れて行かれるような雰囲気であるが、原作では、半兵衛は哀願し何度も頭を下げる。
テレビ版では半兵衛が、足元の犬の紋次郎に「どけ!紋次郎!」と怒鳴るシーンがある。このときの紋次郎の表情が、何とも「紋次郎らしからぬ感」で、面白い。

源蔵の住まいに案内され、一応は挨拶をするが、すぐにでもこの場を後にしたい紋次郎。殺しの現場を見られたことを源蔵は知っているのだから、紋次郎にとっては油断ができない相手である。
紋次郎が賭場に誘われ住まいを出て行った後、飛脚が源蔵の元に来る。下呂の宿にいる女衒の彦市からで、お民に百両の値がついたという知らせであった。

待てよ、彦市はお民の亭主の小太郎ではなかったか。もしそうだとしたら小太郎(彦市)は、実の女房を女郎に売り飛ばすという算段ということになる。
テレビ版なのだから、ここまで手の内を見せても良いという感じなのか。
おそらく監督も脚本家もテレビ版オリジナルのクライマックスに自信を持っているのだろう。

三度笠の隙間から紋次郎の目がチラリと見え、その目は奥にいる浪人に向けられている。隙間からの視線……前シリーズでも何度か使われた撮り方である。

紋次郎が野天で博奕を打っている間、お民の家には源蔵の姿。
舅が病に伏せっている中、源蔵はお民を陵辱する。原作にはない濡れ場ではあるが、池波志乃さんを起用となると、こういう展開になるようだ。あからさまな描写はないが、お民のあきらめきったような憂い顔と山中を泣きながら彷徨っていた姿がオーバーラップする。
「新……」にはどうもお色気シーンがお約束のようだ。女性ファンとしては、どうもなあ……と憂慮する。

原作では源蔵の住まいで、口止め料として小判が入った包みを差し出される。草鞋銭と言われるが、「敷居を跨いだだけで草鞋銭とは、妙な話でござんすねえ」と、背を向ける。
金ではなびかない紋次郎に、次は脅しをかける。浪人が美濃紙を空中に投げ、刀を二度振るってきれいに四角に切り取るという凄腕を見せる。そしてその紙に、蛤の貝殻に入った「万能膏」を塗れ、と妙なことを命令する。

テレビ版での紋次郎は、野天の賭場で四両近く勝ったが、半分ほど胴元に返し賭場を後にしようとする。このあたりの作法はしっかりしている。
立ち去ろうとする紋次郎は、貸元の源蔵に呼び止められる。
原作とは場所が違うが上記と同じことが野天で行われる。原作との相違点は二つ。

一つ目は、テレビ版では源蔵が大前田英五郎の名前を出すところである。
第一話で大前田の子分、駒形新田の虎八を叩っ斬ったという経緯があり、回状が回っているという設定。

「宿場を無事通り抜けられるのも、この太田の源蔵の志だってことを忘れねえでもらいてえな」
草鞋銭に目もくれない紋次郎に源蔵は横柄な態度で言う。

そうだった。第一話のことを忘れていた。大前田英五郎を敵に回しているのだった。
ここでテレビ版の紋次郎は源蔵に軽く頭を下げる。
「回状が回っているのに、見逃してもらってありがたい」とでも言うのだろうか。
そうなると、柏屋の若旦那殺しについて目をつぶることとの取引が成立してしまうのではないか。
回状が回るという渡世の掟は、やはり厳しいと見える。

二つ目は、軟膏を塗った紙を空中に投げ、楊枝を飛ばして浪人の足元に縫いつけるところである。今回はここで一回、楊枝を飛ばした。
万能膏を調べてみると、下呂に「奥田屋下呂膏」という貼り薬が現在も製造されている。この作品と関係するかどうかはわからないが、もしかしたら秘薬として昔から伝わっているのかもしれない。
(中編に続く)

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Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

「峠の日暮れ」
これは紋次郎の映像や笹沢左保の股旅小説に教えてもらった、日本の風土の美の一つです。

前作が終了して4年間、紋次郎といえば「美しい日本の原風景の中を歩く、何のしがらみも持たない旅人」として私の中に生き続けました。

「新」で、まだ美しい風景を見せてもらっていない私は、今回のこのタイトルで大いに胸を膨らませました。
「きっとラストシーンでは、美しい峠の夕日が四つメドレーで出てくるんだな!?」と。

が、「駒形新田の虎吉を斬ったのは誰だい」みたいなセリフが出てきて、「今度の紋次郎は、しがらみの糸が見えないどころか、がんじがらめなんだなあ…」と落ち込みました。

原作を読んでいて面白い「桜が隠す嘘二つ」を映像化しなかったのは、ここでこんなセリフを入れてしまったためでしょうか。

なお「新」のお色気シーン、私は男性ファンですが、「ヌードが見たけりゃ日活ロマンポルノがあるわい!紋次郎でこんなことするな~~!」と叫んでおりました。
旧作「六地蔵」では、原作にあった、ストーリーとは無縁のお色気シーンはカットしてまで、紋次郎世界を構築していたというのに。

話は変わりますが、今回の写真も美しいですね。
この風景写真を見ながらお夕さんの文章を読んでいくと、とても美しい自然の中で登場人物が動き回っているように頭の中で構築されていきます。

  • 20101102
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

お夕さん、お久ー、

ゆっくり読んでからコメントを思うとまたしそびれるので感動をすぐに・・・、
この冒頭の写真、なんと素敵なんでしょう、色合いといい構図といい
名画をみるようです!!!

  • 20101102
  • 淡青 ♦pDmV/urE
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Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。
お返事が遅くなりまして、申し訳ございません。

残念ながら「四つの峠……」と題していながら、そのシーンや説明もテレビ版ではありません。
肩すかしですね、全く。

峠という言葉には、紋次郎ファンは独特の感慨を持っていて、いろんな思い出のシーンを胸に秘めていると思います。
今でこそ車であっという間に越えてしまいますが、昔の旅人の思いを想像すると、峠にはドラマがあっただろうと思います。

他の土地を知らない者にとって峠を越えるということは、別の世界、新天地が開くという思いだったでしょうね。
(紋次郎にとってはただの通過点ですが)

紋次郎の「しがらみ関係」ですが、原作でも後半になると「しがらみ関係」が増えてきますね。
「しがらみ」は重荷だし、漂泊の旅人に憧れを持つファンにとってはどうなのかなあと、思います。

男性ファンから「お色気シーン」のご意見をいただけ、良かったです。
進行上必要なら致し方ないですが、そうであっても、私としてはあっさり流して欲しいです。(今でもこういうシーンは苦手です)

デジカメを持ち歩くようになってから、散策に時間がかかるようになりました。
散策場所も、紋次郎に会えそうな所ばかりに足が向きますね。

  • 20101103
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。
お返事が遅くなり、申し訳ございません。

お褒めの言葉、ありがとうございます。
私の腕ではなく、とにかく自然が織りなす風景美に拍手です。
いかにレンズが良くても、自分の目で見るのが一番です。
人間の目はいかに精巧にできているか、といつも感心してしまいますね。

  • 20101103
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

お夕さん、こんばんわ。( ^-^)

今日は薬局が暇だったので(いつもの事か(^^;;)、久しぶりにお夕さんのブログをしっかり見てました。はい。「お夕さん、こんにちわ・・」の頃から。

いやあ、読み応えありますネエ。
すごくしっかり書かれているので、毎回毎回の様子が手に取るようにわかります。

その上、お夕さん、もしかしたら信州の紋次郎ゆかりの地に、何度も足を運ばれてるの?
海野宿までおいでなら、もうちょっとで善光寺道。
この次は是非とも善光寺へ!( ^-^)

善光寺と言えば雲切目薬!・・ちょっと強引か。(^^;;
ここに万能膏って出てるでしょう。貝に入った・・。

手前味噌ですが、というか我田引水か(^^;;、私はこれ、元祖雲切目薬の可能性あると思ってます。

雲切目薬はもともと軟膏で、1543年製造以来ずっと貝に入ってたと思われます。だって戦後しばらくまで貝に入ってたのよ。ハマグリかどうかはわかんないけど・・。

1543年は戦国時代で、目薬というよりもっぱら刀傷を治すのに使われていたそうです。

昔は薬が少なかった時代だから、貝に入ったわずかばかりの雲切目薬をみんな大事に使っていて。

たとえば胸に塗って咳止めにとか、お尻に塗って痔の薬とか(^^;;、いろんな風に使われていたそうです。

ねっ、可能性あるでしょ?
下呂膏も万能薬だけど、今は貼り薬でしょ?いつ頃から貼り薬だったのかしらね。

ってな訳で、紋次郎さんが雲切目薬持ってたら凄いなあという妄想で、頭の中はいっぱいの九子です。
( ^-^)

Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

九子さま、コメントをいただきありがとうございます。
お返事が遅くなり、申し訳ありません。

お察しのとおり、信州にはよく行きます。紋次郎ツアーに秘湯めぐりを兼ねてなんですが、善光寺も以前訪問しました。

その頃はまだ、九子さんを存じ上げなかったので、今思うと残念です。
また足を伸ばしたときには、よろしくお願いします。

目薬が軟膏だった?!
目から軟膏……じゃない、鱗です。
万能膏ですもんね、何でも効くわけです。
恐るべし万能膏……。

そう言えば「水車は夕映えに軋んだ」で、紋次郎は振り分け荷物から、蛤入りの軟膏を出して、けが人に分け与えてました。

もしかして、それが「雲切目薬」だったりして!?

楽しいお話ありがとうございました。

  • 20101106
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

こういうのを「雲海」というのでしょうか・・・。
いつもこちらにこさせていただいたら、日本人でよかった~と思います。
こんな景色は私達しかみることができませんね。

お話しも、わからないなりに楽しませていただいています。

  • 20101125
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第3話「四つの峠に日が沈む」(前編)

てのりぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

下手な写真ですが、楽しんでいただいてうれしいです。
海外旅行もいいですが、(というほど、経験してませんが)日本の原風景の美しさは筆舌に尽くし難いものがあります。
静かにずっと佇みたくなります。

この風景のどこかに、紋次郎サンが歩いていないだろうか……といつも思ってしまいます。
馬鹿だなあ……と苦笑しながらも、やはり探していますね。
この感覚はやはり、市川監督が撮った映像美に感化されたからだと思います。

  • 20101125
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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