紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

第4話「雷神が二度吼えた」(前編)
(原作  第47話) (放映 1977.10.26)
この作品には二つポイントがある。
一つは長脇差が折れること。もう一つは、大ピンチの時、自然現象が紋次郎に味方することである。
長脇差が折れるピンチは「一里塚に風を断つ」で経験しているが、実際のところ何度も折れているはずである。「一里塚に……」で譲り受けた直光の刀より今回は数段上物である。
原作からすると「唄を数えた……」でも、折れている。

今回のゲスト女優は「鮎川いづみ」さん。鮎川さんというと「必殺シリーズ」には欠かせないキャラクターの方だ。この後、1978年12月から放映される「翔べ! 必殺うらごろし」では中村氏と共演されている。
「必殺」では結構しっかりとメーキャップされているが、今回のお里役の鮎川さんは、あっさりメーキャップ。素顔に近い初々しささえ感じ、本作品では町娘といった雰囲気である。

アバンタイトルでは、旅人に難癖をつけて強請をする街道筋のヤクザ集団。近くを通り過ぎる紋次郎だが、堅気の難儀を見ても全く無視である。

「秋葉山道」という東海道を避ける裏街道を行く、お里。遠州、森町にいる病気の伯父の元に急いでいるという設定。女の一人旅はあるまじきこと……と言われるほど当時は珍しい。
そのお里にちょっかいを出す若い渡世人、亀吉。「この裏街道は、乾の重蔵の縄張りで物騒だから、道連れをつくった方がいい。」と勧める。

峠の掛け茶屋にたどり着く直前に、急に出現した武士が「拙者も道連れになろう。」と声をかける。この武士は「堀田又兵衛と申す。」と名乗るが、テレビ版の進行は不自然である。
原作では、お里と亀吉の先を行く紋次郎と又兵衛の姿があり、街道上で亀吉は紋次郎を認め、同行を頼む。紋次郎は無言で歩き続けるが、又兵衛は亀吉の言葉を聞き取って応じるという進行である。
テレビ版のように急に又兵衛が出てきたりはしない。

案の定お里は、茶屋にたむろしていた重蔵一家の者に絡まれて襲われそうになる。亀吉一人の手には負えないので、亀吉は紋次郎に頼むが、原作でもテレビ版でもあっさりスルーされてしまうのは同じ。
テレビ版では、茶屋を通り過ぎていく紋次郎を亀吉が呼びとめ、助けを請う。
「折角ではござんすが、御免被ります。あっしには関わりのねえこって……」と亀吉に目礼をして去っていく。

「あいつが木枯し紋次郎だってよ」「木枯し紋次郎だと?薄汚ねぇ野郎だ」
重蔵一家の者は、紋次郎の背中に言葉を投げつける。「新……」では、必要以上に流れ渡世人の紋次郎を貶める台詞が出てくるように感じる。

原作の紋次郎は床几に腰をおろし、重蔵一家の男たちに背をむけて茶をすすり、亀吉の頼みを断る。そして何事もなかったように、黄な粉餅を頬張っている。
女が男たちに囲まれて悲鳴をあげている最中に黄な粉餅……。このギャップを想像すると、余計に殺伐とした感じがする。

亀吉は仕方なく堀田又兵衛に助けを求めるが、彼もなかなか動かない。しかし意を決したように立ち上がると、抱えていた刀を袋ごと手にして大音声で狼藉者を一喝する。
「試し斬りにしてやるから、そこに首を並べろ!」
その剣幕に驚いた男たちはお里から離れると、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。実は又兵衛の迫真の演技なのであるが……。

亀吉、お里、又兵衛たち一行は、野宿のため廃屋に入り、先客である紋次郎に気づく。紋次郎は板壁にもたれ眠りにつこうとしている様子である。
亀吉は四人揃ったのが嬉しそうで、干芋を取り出してみんなに配る。ただ紋次郎にだけは、「構わねえでおくんなさい」と断られる。原作では干芋のやりとりはない。

森町まで同行してほしいと亀吉は言うが、紋次郎は無言。

第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

又兵衛と亀吉の会話が始まる。又兵衛が大事に抱えている刀は主君に献上する名刀で、岡崎の研ぎ師の許から返ってきた大した業物であるとのこと。
この後の会話は、原作では又兵衛と亀吉のものではない。原作ではかの有名な国定忠治と子分浅次郎との雑談であり、紋次郎はこの後、窮地に立たされたとき、ふと思い出したのだ。

要約すると
1.刀は譲り受けるより自分で買った方がよい。
2.頼りにならない刀だから人に譲るのに、譲られた方は業物だと勘違いする。
3.いざというときに、使い物にならない刀だったら、自分が死ぬだけだ。
4.武士だろうと渡世人だろうと、頼りになる業物を持つのが当然。
5.自分の命を守りたかったら、頼りになる刀を持つこと。

忠治と浅次郎の会話だが、テレビ版ではまだ忠治と紋次郎は出会っていないので、又兵衛に語らせたのである。
毎日が修羅場の忠治と、主君に仕える又兵衛とは全く立場が違うので、同じ内容でも大分ニュアンスに差がある。だが仕方ない。

テレビ版の紋次郎は閉じていた目を開けて、又兵衛の話に聞き入る。
楊枝を咥え、遠い目をしながらその言葉を聞く紋次郎の顔のアップは、バックの暗闇の中ライティングも良く、紋次郎らしい雰囲気である。

話の合間を縫って、お里が思い詰めた顔で尋ねる。

「堀田様、死ぬということは怖いことですか?」

唐突な問いに、又兵衛はハッとし咳払いをするだけで答えない。視聴者はお里に、何か曰くがあると察する。テレビ版だけのこの台詞は、第一ヒントである。

「話は変わるが……」と、又兵衛は「なぜ重蔵から狙われるのか?」と亀吉に尋ねる。亀吉は「お里、次が懐中物、そのあと強請やたかり」と答える。
秋葉山道を縄張りにはしているが、目ぼしい賭場がないので、山賊まがいだと言う。

1年前重蔵は、自分の親分を裏切って殺し、一家を乗っ取った。5年前には、伊那の弥右衛門のところにひとりで殴り込み、親分をはじめ7人を殺した上親分の娘を手籠めにして引き揚げた強者だということだ。

回想シーンは全体的に赤紫色のトーン。弥右衛門一家をぶった斬る重蔵の姿。親分の娘が重蔵に組み伏せられるシーンは、娘の顔はあからさまではないが、誰なのかは想像できそうである。このシーンは第二ヒント。
とにかく亀吉はペラペラとよく喋るが、対照的にお里と紋次郎は無言である。紋次郎は無表情だが、お里は緊張した顔で話を聞いている。

良く喋るふたりに閉口したのか紋次郎はひとり小屋を出て小川に水を飲みに行く。
お里もその後を追って、
「できることならこれからの道中、ご一緒願えると心強いんですが……」
と頼むが紋次郎はいつもの台詞で断る。
「あっしは道連れをつくらねえようにしておりやす。」

お里がしゃがんで水を飲もうとしたとき、髪にさしていたツゲの櫛が川に落ち、紋次郎はそれを手渡す。ここは第三ヒント。
この紋次郎とお里のしっとりしたシーンは、テレビ版だけで原作にはない。
川面に月光が反射して、美しい映像である。
四人が野宿する廃屋内は、かなり朽ちた感じが出ている。よく見ると蜘蛛の巣の光る糸が見え、美術さんのこだわりを感じる。
(中編へ続く)

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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

この話までは当時観てたのですが、もう覚えてないのです。

この話、「六地蔵」の森監督なんですね。
やはり風景描写などは今までの三作とは違ったものがあったのでしょうか。

それでも原作に無い、紋次郎を蔑むセリフを入れるとは。
確か原作では亀吉が紋次郎を「大した貫禄」と評していたのに、それも無しですか。

旧紋次郎が原作をヒューマン路線にアレンジしたのとは反対に、今度の紋次郎は第一回のナレーションといい、アウトローの嫌われ者としての方向へ持っていったのは明白ですが、プロデューサーに「なぜ?」と聞きたいです。

いつもながら美しい写真ですね。
今度紋次郎を撮影する時は、お夕さんに映像美を担当してもらいたいです。

  • 20101202
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

季節が秋ということで、ススキの映像が多かったですが、「馬子唄に……」ほどではなかったです。

また、雷が鳴り響く時の不気味な雲行きなどがもっと映像化されていれば良かったかなと思います。
個人的に、黒雲が陰鬱に垂れ込むような空が好きなんで……。

川のシーンや木の橋、屋内の小道具などは良かったと思います。

亀吉が紋次郎に、畏敬の念を持つところは、テレビ版でもかろうじてありました。

又兵衛が紋次郎に対して、横柄な言葉遣いをせず、丁寧に喋るところは原作通りだったのでホッとしました。

紋次郎の映像世界の美しさは、風光明媚のそれとは違いますので、真っ赤な紅葉はなかったように思います。
ということで、今回の2枚目の写真の方が雰囲気はピッタリかと思いますが、いかがですか?

  • 20101202
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

すごく美しい写真ですね。
自然の物々も美しいですが、それらが映えるように撮られていて感動です。ちゃんとうしろに山のラインも入っていて・・・。
二枚目も紋次郎が出てきそうです。

  • 20101203
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

おっしゃるとおり、紋次郎の風景は、花鳥風月のような華やかなものより、何気ない山村の風景が、光の演出で「おや!?」と思わせ、日本の風土の美を再認識させてくれるものが似合いますね。

映画「帰って来た木枯し紋次郎」は、従来の虚無に生きる紋次郎と違い、明確な目的を持って新たに草鞋を履くというためか、逆光で、黄色く色付いた木々と針葉樹の青緑の対比が印象的でした。

また、上条恒彦の浪人を撃退した後、真っ赤な紅葉・黄色の葉から緑に苔むした水車へ切り替えてましたね。

余談ですが、私は紋次郎の風景美から亀岡や保津峡・嵯峨散策が好きになり、あるとき下六丁峠から逆光の保津峡渓谷を眺め、あまりに気に入って写真に収めました。
後年「帰って来た木枯し紋次郎」で、私が撮影したのと同じ風景がオープニングのすぐ後に出てきて驚きました。

  • 20101203
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

ぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

晩秋から冬にかけてのこの時期は、まさに紋次郎の季節です。
落葉した後の、木々の黒いシルエットもいいですね。
日本に四季があって良かったと、つくづく思います。

1枚目の写真は、囲炉裏に火が入っていて、茅葺き屋根から白い
煙が立ちのぼっていたのですが、あまりハッキリ写ってなくて
残念……。
やはり裸眼で見るのが一番ですね。

  • 20101204
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

花や新緑、紅葉が美しいのは当然ですが、朽ちたものや枯れたもの、廃れたものにもハッとする美しさがありますね。

「帰って来た……」での風景の印象は、色彩がきれいだなあということでした。
さすがに20年の間に映像技術は格段によくなり、鮮やかな画面になっていました。

でも私が見ていたのは、1972年のブラウン管テレビ……。
映りは悪かったでしょうが、それはそれで味わいがあったと思います。
懐古主義でしょうか。

>後年「帰って来た木枯し紋次郎」で、私が撮影したのと同じ風景がオープニングのすぐ後に出てきて驚きました。

一目でそれに気づかれるとは、すごいですね。私も、その風景を実際に見たいです。
TOKIさんこそ、ロケハン監督です!!

  • 20101204
  • お夕 ♦wikz35BA
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