紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

第4話「雷神が二度吼えた」(中編)
(原作  第47話) (放映 1977.10.26)
夜が明け、紋次郎はひとり静かに廃屋を後にする。お里だけが気がつき「紋次郎さん……」と後ろ姿に声をかける。紋次郎は一瞬立ち止まり振り返るが、無言で霧の中を去っていく。
亀吉、お里、又兵衛たち三人はススキが揺れる秋葉山道を行く。途中、亀吉はお里に迫ろうとするが拒まれての台詞。
「おいら、決して悪い野郎じゃねえぜ!」女に勝手に懸想して、嫌がっているのに引っ張り込もうとした癖に、その台詞はないだろうと思うのだが……。
自分はこう見えてもまだ無宿人じゃなく、故郷の遠州掛川に帰るところだと、早足で先を行くお里の背中に叫ぶ。何となく原作よりテレビ版の亀吉は、情けない存在のように見える。
原作では亀吉はお里に迫ったりしない。

何もかもが、紋次郎の境遇と正反対だった。男を磨きたいと憧れて入った渡世の世界だが、甘いこと、この上ないのは確かである。

紋次郎はひとり杉木立の中で野宿をする。焚火をして腰を下ろす紋次郎は、又兵衛の言葉を思い出す。
「自分の命を守りたかったら、頼りになる刀を持つことだな」

その夜重蔵とひとりの子分が闇討ちされる。襲った者は誰かはわからないが一刀両断、鮮やかな刀さばきである。
村人たちがその死骸に群がっている中を、紋次郎は通りがかる。
村人たちは一様に重蔵が殺されたことには情けもかけていないようであるが、一体誰が殺したのかと噂をしている。
「よほど腕が立たねえとな……」
「斬ったのはお侍かもしれねえな」
紋次郎はそのまま立ち去ろうとするが、足元に割れたツゲの櫛を見つける。

ああ、なぜそんなヒントをテレビ版は与えるのだろう!もちろんそんな安易な展開は、原作にはない。
いつも思うのだが、原作通りに脚本が作られている場合は良しとして、そうでない場合、原作者笹沢氏には許しを得ているのだろうか?笹沢氏はドラマをどうご覧になっていたのだろうか?

それを言いかけると今更だが、一旦五年前に終わったのに新シリーズとして始まったことについては、どのように感じておられたのだろう。この後、笹沢氏本人がドラマに出演
されるところを見ると、結構寛大な姿勢で構えておられたようにも思えるが……。

街道を行く紋次郎の後を、六人のヤクザ者がつけ狙う。紋次郎は気づいてはいるが、関わらない。
空は雲行きが怪しくなり雷鳴が聞こえる。降り出した雨を避けるため三人は朽ちた祠に身を寄せるが、またまた紋次郎が先客。
三人は昨夜別々の宿をとった、と亀吉は紋次郎に話す。昨夜の行動はそれぞれの者は知り得ないということである。

亀吉の故郷の掛川までは後十二里。自分は掛川の紺屋の次男で、兄は病人であとを継げない。父親は隠居するというので、故郷に帰ることになった。
稼業を継ぐために足を洗うのはみっともない……と言いながらも、嬉しそうな様子を紋次郎も目にしている。

「おいらみてえな半端野郎に、何ができるかって心配でたまらねえんだ」と不安げな亀吉にお里は
「何とかなりますよ」と励ます。

「『これが最後の旅だと思うと、何となく嬉しくなっちまうのよ』
と、晴れ晴れとした声で、亀吉が言った。それもまた紋次郎にとっては、無縁の言葉であった。」
(原作より抜粋)

文字通り亀吉の旅は、このあと最後の旅になると思うと切ない。

雨がやみ四人は外に出たが、紋次郎は危険を察知する。
「おめえさんたちには気の毒だが、そうたやすくはゆきやせんぜ」
紋次郎の引き締まった横顔がかっこいい。

第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

四人はどうも重蔵一家の追っ手に囲まれたらしい。
重蔵とその子分芳松を殺ったのは誰か。秋葉山道に入った者で重蔵に刃向かえる者は、又兵衛か紋次郎ぐらいだと子分の佐十郎が言う。
佐十郎は槍の使い手なのか、背丈より長い槍を持っている。名乗り出ないと、四人とも仲間と見て残らずなぶり殺しにする、と脅す。

紋次郎は「この四人は仲間なんかじゃねえ、ただのゆきずりでござんすよ」と答える。
他の三人は仲間意識を持っていただろうが、紋次郎は初めから仲間だとは思っていない。考えようによっては、ゴタゴタで三人を危険な目に遭わせたくなかったからそう言ったのかもしれない。

亀吉が「仲間なんかじゃねえんだよ」と前に進み出たところを、佐十郎の槍にいきなり腹を刺される。苦悶する亀吉は
「紋次郎さん、たとえいきずりでも仲間になれておいら、嬉しかった
お里さん、おいらやっぱり紺屋の跡取りっていうがらじゃあねえや……」と苦しい息の中、最期の旅を終える。

「なんでこの若えモンを殺した!」紋次郎は亀吉が理不尽に殺されたことに怒りの言葉を吐く。
仲間じゃねぇ、と紋次郎は言ったが、堅気になろうとしていた亀吉の将来を踏みにじったことが許せなかったのだ。

お里は突然のことに泣き崩れその場にしゃがみ込む。又兵衛は献上刀を胸に抱いて後ずさりして物陰に隠れる。
三者三様の態の中、紋次郎だけが重蔵一家に近づき抜刀する。小川に架けられた古びた木の橋から飛び降りると、水しぶきをあげての殺陣。

泣き崩れていたお里だが一変、覚悟を決めたかの表情になり、倒れている男の手から長脇差を奪い取り敵に向かって走っていく。そして見事な刀さばきで、二人の男を一瞬に倒す。
ああ、やっぱりそうだったのだ。お里は剣の使い手だったのだ、ということは……。

小川を走り、振り向きざまに男を斬ったとき、紋次郎の長脇差の白刃が柄から抜けかかる。目釘が飛んでしまったらしい。雷鳴が轟く中、紋次郎は咄嗟に楊枝を折り、目釘代わり差し込む。
目釘は木製で、斬り合いに臨むときは抜けないように湿らせるとのことである。目釘が抜けてはいくら腕が立つ者でも使い物にはならない。

「目釘が抜ける」と言えば、テレビ版紋次郎フリークならご存知の第一シーズン第二話、「地蔵峠の雨に消える」であろう。
お千代に長脇差の目釘を抜かれたことに気づいた紋次郎は、庭にある梅の小枝を目釘代わりにする。
「おかみさん、目釘代わりに庭の梅の小枝をもらいやしたぜ」
実にかっこいい台詞である。

今回は梅の小枝よりもずっと頼りない楊枝である。いつ何どき抜けるかわからない。

原作では紋次郎と共にお里も雨の中を走り続ける。その途中でお里は、紋次郎が斬り殺した男の長脇差を拾う。
そして真相を明かす。
自分は五年前、重蔵に父親をはじめ身内を殺された挙句、手籠めにされた弥右衛門の娘であり、昨夜その意趣返しをした。居合抜きの稽古をつけてもらい本懐を遂げたが、自分が重蔵を手にかけたとは言えなかった。そのために亀吉が死んでしまったことは悔やまれてならない。

「『こうなったらもう、亀吉さんだけを冥土へ旅立たせたりはしないよ』
苦しそうに喘ぎながら、お里はそう言った。
『へい』
お里が死ぬのは当然と思ったわけではないが、紋次郎はそのように声で応じていた。お里は、死ぬ気でいる。だが、紋次郎はあえて、それを黙視するつもりだった、いまは生きようとしても、それが許されないかもしれないのである。」
(原作より抜粋)

原作を読んだとき、「お里、かっこいい!」と思ったが、テレビ版では展開が違うので残念である。
原作ではこのあと、紋次郎が三人ほどを手にかけている間に、お里は四、五人の男たちに滅多斬りにされ泥まみれで事切れる。今際の言葉も残さない。
紋次郎は近づくこともできず、傍観者のように眺めるしかなかったのだ。
さすがに原作通りに展開するには、あまりにも残酷なのか、テレビ版でのお里はもう少し長生きする。
(後編へ続く)

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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

旧作紋次郎の特徴の一つに、「感情が高ぶると『ござんす言葉』が消える」というのが有りますね。
これは原作では初期のみに見られた特徴なのですが、旧テレビ版では最終話まで使い、「冥土の花嫁」では、ひとつの文章の途中から言葉遣いが切り替わる、というワザも見せてくれてました。

原作では呟くだけなのに、さすがは森監督。
この特徴を使ってくれてましたか。
これ、他の「新」の作品でも使われてたんでしょうか。

それと、雷神の一回目の咆哮、有ったんでしょうか。(聞いてばかりですみません)

後期紋次郎の楊枝は、豆餅や川魚を焼く串にしたり、蜂の群れを追い払うのに使ったりと、汎用性を持たせてますが、そのきっかけはこの作品ですかね。

いつもながらの美しい写真です。
今まで使われた写真からセレクトして、お夕さん特製2011年カレンダーを作って欲しいです。

  • 20101204
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

語尾の違いが、感情の起伏を表す……いつも冷静な紋次郎でも、あるんですね、こういうシーン。

「新……」でもあると思いますよ。

雷神の咆吼の件ですが、あまり印象にないんですね、実は。タイトルに関係する重大なことなんですが、こだわりがなかったようです。
前シリーズでも感じたことがあるんですが、タイトルにあるのにスルーしていることありますよね。
原作を知らないと、なぜこのタイトル?となりそうです。

1枚目の写真は地元の水郷、2枚目は京都の久多です。
最近、どこへ行くにもデジカメを持ち歩いています。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」でござんすよ。

  • 20101205
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

お夕さん、お久しぶりでございます!
前編の緋色の紅葉と青い空、そして今度の灰色がかった木立情景の扉写真はとてもうっとりです。

そうですかこの編ではあの長脇差が折れるんですねぇ~、
楊枝と同じで紋次郎のトレードマークですものねぇ~・・・

  • 20101210
  • 淡青 ♦pDmV/urE
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

お久しぶりです。
このページを読むのは何か覚悟みたいなものが要りますね(笑)

相変わらず、強烈な展開です。
紋次郎とお里の間に流れる空気みたいなものが
張り詰めたかと思えば、プチンと切れてしまいました。
また淡々とした旅が続くのでしょうか!

しばし火がつく紋次郎がいいですね。

Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。
ようこそおいでくださいました。

今年の紅葉は、例年になく色鮮やかだったと思います。
さすがに、酷暑を乗り越えただけはあります。

冬枯れの寂寥感ある風景も私は好きです。
こちらの方が紋次郎にはピッタリですね。

鉛色の冬空の侘びしさ……これからの楽しみです。



  • 20101210
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

この後も、紋次郎には更なるピンチが訪れますし、意外などんでん返しが待っています。
なかなか中身の濃い作品で、見応えも読み応えもありました。

またよければおいでくださいね。

  • 20101211
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

またまたすばらしいお写真ばっかり。
庄内にも映画村があるんですね。
みたことのない景色を見せていただき、とてもおもしろいです。

そして、あまり知らない世界ながらも原作とTVの違いなど、いつもすごーい!と思いつつ聞かせていただいています。
文も迫力あって、想像しながら読んでますv-221

  • 20101219
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
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Re: 第4話「雷神が二度吼えた」(中編)

ぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

許されるなら、本当にこの村に住みたい気分でした(笑)。
大自然の美しさが、ロケ地としては一番だと思いました。
遠くてなかなか行けない地ですが、また機会があれば訪れたいです。

  • 20101219
  • お夕 ♦wikz35BA
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