紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」
最近ネットで購入した書籍に、名和弓雄さんの「間違いだらけの時代劇」があります。名和さんは時代考証家であり武道家、惜しくも2006年にお亡くなりになっています。
数多くの時代劇での時代考証をされた方ということで、興味深い内容でした。

その中で「木枯し紋次郎」についての記述もありましたので、ご紹介したいと思います。
「木枯し紋次郎、憎い演出」という目次です。
名和さんはこの作品が好きだったということです。
その理由として、まずその股旅姿のリアリティーです。

「昔の股旅の渡世人は、乞食同然の姿であったのに比べれば、紋次郎は、長脇差にしても、着ているものにしても、まだきれい過ぎるが、帯を結んだうえに、さらに細い紐をうわじめに締めているところなど、旅慣れた渡世人の心得がにじみ出ていて憎い演出だ。一膳飯屋での飯の食い方、支払う銭の金額も、その時代に合っている。」と記述されています。
当時、紋次郎の姿はあまりにも汚すぎると、異を唱えた作家さんもいるようでしたが、あれでもまだきれい過ぎるということです。

また、「回を重ねるごとに殺陣がリアルになったのは、このテレビを見る楽しさの一つでもあった。
特にもつれる場面がいい。もつれに、もつれたあげく、一瞬の差でやっと相手を斃す。
引きまわし合羽をひるがえして、敵の刃を防ぐテクニックを自然に身に着けた“旅ガラス剣法”は文句なくいい。」と絶賛しておられます。

妥協する点として、長楊枝と飛ばすところですが、ドラマの面白さからいえば許されるということです。
実際あの長さの楊枝はあり得ないものではなくて、平安時代などはもっと長く、なんと36~37センチのものもあったそうです。江戸時代になって、12~18センチぐらいまでに定まったということですから、笹沢氏が勝手に作り上げたものではないのです。原作での紋次郎は15センチの楊枝を咥えていますが、テレビ版では20センチ以上のものを咥えています。(「紋次郎の独白」参考)

日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

さてその楊枝について少しがっかりする真実があります。
市川監督の傑作、オープニングでの映像で紋次郎が楊枝を削っているシーンがあります。
あのシーンは結構お気に入りで、かっこいいなあと思っていたのですが、あれがおかしいというのです。意外にも本当の刀では、削れないようです。
楊枝が削れるような鋭利な刃では、チャンバラのとき刃がこぼれて、人は斬れないはずとのこと。盲点でした。
笹沢氏は紋次郎に原作でも楊枝を削らせていますので、その時点で不可能だったということです。

もう一つ目をつぶるところは「朱鞘の長脇差」。
裏街道に生きる渡世人なら、目立たぬ黒っぽいものを差しているはずというのです。これについては、ただ一つのおしゃれといった設定か、と黒っぽい身なりとの対比を指摘されています。これは笹沢氏の粋な計らいでしょうし、市川監督もその点を、十分効果的に魅せてくれています。
朱鞘というと同じく笹沢氏が生み出した渡世人、「乙姫」こと「乙井の姫四郎」がいます。こちらは鮮やかな朱塗りですが、紋次郎は錆朱色です。

絶賛された殺陣のリアリティーですが、どうかな?と思うところもあるようです。

「三度笠をかぶったままのチャンバラは、笠が邪魔になって大損であるはず。
同じ江戸時代、神田小川町で、侍同士が斬り合い、笠をかぶっていたほうが斬り殺された事実がある。
この二人の腕前は互角であったという。」とあります。

かなり不利なはずというのですが、私としては不利であろうがなかろうが紋次郎にはかぶっていてほしいです。
笠をかぶっているということで、敵に目の動きが読まれないとか、頭部や顔への攻撃が避けられるとか……有利なこともあったはず。
あの三度笠から見え隠れする表情がいいのですから、その辺は理詰めでなく許していただきたいところです。

それに笠をかぶったままでの殺陣だったので、敦夫さんが怪我をしたときの代役が可能だったということが、一番の収穫なのかもしれません。(予測不可能なことだったのですが)

あと、初めて知ったことですが、引きまわし合羽の表と裏の間には油紙が入れてあるということです。展示されているのを目にすることはありますが、実際に触ったことはありませんのでその手触り、厚み、重さはわかりませんが、ずっしりした感じはします。
撮影に身につけていた合羽はどうだったのでしょうか。

時代考証のプロが楽しみにする作品だったという「木枯し紋次郎」は、まさに心憎い画期的な作品だったのです。


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Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

「間違いだらけの時代劇」これはぼくも読みました。名著ですね。たしか捕り物提灯に関する記述もなかったでしょうか。自宅に帰って確認すればいいようなものですが、つい無精をしてしまいます。

 鋭利すぎる刃では人は斬れないという記述はぼくも印象に残っています。だから紋次郎の場合、三度笠を落とし、長脇差を地面か砂利に突っ込んで刃引きをすればもっとリアリティが増す、そんな記述もあったような気がします。

 この著作だったかどうかわかりませんが、曲がる刀は怖くないとかいう話も読んだことがあります。たとえば戦国時代、ひと合戦終わった後、足軽さんたちが村の鍛冶屋で曲がった刀を叩いて伸ばしてもらい鞘に収まるようにしてもらっている風景があったのではないか。そんな記述を読んだ記憶があります。

 紋次郎の格好が汚すぎると異を唱えた作家さんは、たぶんぼくも知っていると思います(笑)。同じ本を読んだのだと思います。この作家さんは黒澤映画『乱』を見て、城なのに堀がないのはおかしいといった人だったと思います。

 山城には堀がなくて当たり前です。ただ、これはぼくは知らなかったことですが、天正年間の山城には天守閣はなかったそうで、このあたりは黒澤明が意識的についた嘘でした。お城には天守閣がないと燃やしたときにさまにならないということでわざと史実とは異なった表現を行ったようです。

 時代劇は面白いですね。見る目があればどこが嘘でどこが本当か考えながら見ていると楽しくなります。知識があればきっともっと楽しいだろうと思います。知らずについた嘘や、意識的についた嘘を選別できる目があれば、全く別の角度から時代劇を楽しめるような気がします。

Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

le_gitanさま、コメントをいただきありがとうございます。

さすが、もうお読みだったんですね。
そして驚異の記憶力でいらっしゃる。
御用提灯と刃引きの件は、確かに記述されています。
御用提灯については、私たちがドラマでよく目にしたほうが、誤用提灯だったようですね(笑)。

実際、私たちは当時の物を知らない訳ですから(プロじゃありませんから)、ドラマや映画で見た物が本物だと思ってしまいますものね。

作品作りの座標をどこに置くかで、時代考証の扱い方も変わることでしょう。
虚実の割合で、作品の意図するものが何なのかがわかると、作品の見方も変わってくると思いますね。

  • 20110120
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

「間違いだらけの時代劇」ですか!
いろんな研究家がいるんですね。
そう言われると赤穂浪士の討ち入りの衣装なんて
どんどん見世物に変化したんでしょう。
火事装束が赤穂のユニフォームに変化していますね(笑)
テレビどの脚色は面白味をますと思います。

史実に基づくと、どれもこれも演出が入っているんでしょうね。

>楊枝が削れるような鋭利な刃では、チャンバラのとき刃がこぼれて、人は斬れないはずとのこと。

これは、興味深いです。

Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

時代劇には必ず時代考証の方がおられるんですが、そういうプロの人でもいろんな説が出るようです。
奥が深いですね。

いちゃもんばかりつけて観ていたら、面白さも半減するかもしれませんが、少しは知ってると楽しみが増えるような気がします。

時代劇をつくったり執筆するのって、ホント大変だなあと痛感しました。
その点、鑑賞する側は気楽なモンです。

  • 20110123
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

わ、気になる本がまた増えてしまいました。(笑
早速図書館で予約しないと・・・。


ほんとに。
観る側は楽しむだけで楽ちんですが
作り出す側は、本当に大変ですね。

  • 20110124
  • SPUTNIK ♦jY7wyBdw
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Re: 日々紋次郎「憎い木枯し紋次郎」

SPUTNIKさま、コメントをいただきありがとうございます。

同じ類の書籍は、他にもたくさん出ているようです。読み比べるのも面白いかもしれませんね。

江戸時代の庶民のくらしや制度には、興味が湧きます。
特に、現代の職業のほとんどが、既に江戸時代に存在していたところはビックリです。
無かったのは「生命保険」ぐらいだったとか……。
納得です。

  • 20110124
  • お夕 ♦wikz35BA
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