紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)
(原作 第40話)(放映 1977.11.9)
若い二人の渡世人が、五郎兵衛一家に追われている。賭場荒らしの疑いをかけられたということで助けを求めるが、紋次郎は関わらない。紋次郎の背後で二人の断末魔の叫び声が聞こえるが、紋次郎は歩を緩めない。
とにかく先を急ぎ、間引きを止めねばならない。

テレビ版では関所抜けをする姿があるが、原作は関所が閉まる前に無事に通り抜けている。
小田原提灯に火を点し、夜の雪道を行く紋次郎の過酷な旅は、原作でないとわからない。

原作とテレビ版との違いでいつも感じることなのだが、道中の行程がテレビ版では伝わらないということである。原作では、雪の中の北国街道を急ぐ紋次郎である。

一日に十里は歩かないと間に合わない。雪の北国街道なので、晴天の東海道に換算すると一日十五里の強行軍に匹敵するという。旅慣れた紋次郎でも滅多にやらない強行軍だが、いまは敢えて挑まなければならないと書かれている。
テレビ版では稲刈りが終わった秋。道のりは同じでも、その道中の過酷な様子は表しきれていない。

テレビ版では、お国が居酒屋でひとり酒を飲んでいるところに五郎兵衛一家の者たちがやって来る。お国は一家の者と取引をする。
紋次郎を殺してくれたら、壷振りで損はさせない……何なら私の身体でも……と艶っぽい仕草。かくしてテレビ版のお国は、五郎兵衛一家の者と一緒に紋次郎を追うことになる。

廃屋を見つけた紋次郎は野宿をする。火打ち石で火をおこし、振り分け荷物の中から紙に包んだ煮干しを取り出す。前シリーズと同じく、荷物の中身にはリアル性を持たせてあるのはうれしい。蛤の貝殻が見えるが中身は傷薬の軟膏だろう。
煮干しをあぶって囓る紋次郎。原作では豆餅を囓っている。
火を消して眠りにつこうとしたとき、旅商人風の男四人がやって来るが、紋次郎には気づかない様子である。この男たちは、お国を追っていた男たちのようである。

紋次郎は男たちの会話から、「定六」という男を捜していることを知る。この男たちは高砂屋に押し入って金を奪った連中のようである。定六とやらを数に入れると丁度五人で数も符合する。
しかし気になるのは会話に出てきた「小県郡」という地名である。紋次郎は考え込むような横顔になる。
テレビ版は、ヒントを与えすぎであるが、原作ではそこまでは明かしていない。

夜が明け紋次郎は廃屋を後にするが、ほどなく五郎兵衛一家の者に遭遇するも健脚で逃げ切る。相変わらず中村氏の脚力は衰えていない。
テレビ版の紋次郎は、もめ事を起こすより逃げるという選択をした。

取り逃がしたということで、お国は怒り「お前たちには頼まないよ。」と立ち去ろうとする。兄貴格の男が「約束は約束だ!」と、お国を荒々しく羽交い締めにするが、そのとたん
「わかってるよ。お返しは私の身体でするよ。」と高笑いすると身体を任せる。
強かな女であるが、これは全く原作とは違う設定である。
しかし私はこの設定には落胆する。女の誘いには絶対乗らない紋次郎とは真逆である、ということを強調したかったのか。

さて、こうまでして紋次郎を執拗に追うのはなぜか。
茶店で道連れを断られただけで、ここまでの執念を見せるはずはないので、他に目的があるのは明確である。

原作のお国は切ない扱われ方である。
いい気になって弥九郎に背負われていたお国だったが、結局貸元の弥九郎ではなく、ただの凶状旅のヤクザだったのだ。この男たち二人の狙いはお国の持ち金十両とお国の身体だったのである。
化けの皮を脱ぎ捨て、街道の狼になった男二人に襲われるお国の叫び声を耳にしながらも、紋次郎は通り過ぎる。
紋次郎が近くを通り過ぎたことに、お国は気づかない。

第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

「『紋次郎……!』
 不意に、お国の叫び声が聞こえた、お国は近くに紋次郎がいることを知らずに、名を呼んでいるのだった。それは現実に救いを求めているのではなく、お国の胸のうちにいる紋次郎に
 呼びかけているのに違いなかった。
『紋次郎さあん、来ておくれよう!木枯し紋次郎許しておくれよう!』
 と、お国の叫び声が、遠くまで響き渡った。」
(原作より抜粋)

「紋次郎よ、なぜ助けてやらないのだ!明らかに、ただのチンピラ二人なのだから、一瞬にして斬り捨てられるだろうに……。」と思うのだが、原作の紋次郎は一瞥しただけで街道を通り過ぎる。

お国の設定の違いは大きい。
テレビ版のお国は強かで、男を色仕掛けで手玉にとっている。
原作のお国は今で言うとツンデレであるが、あまりにも無防備であり無知だった。
中村勝行氏は前者を選び、笹沢左保氏は後者を選んだのである。同性からすると、どちらの展開も後味の悪いのは確かである。

原作のお国は紋次郎を追って急ぐ。どうもお国と、盗賊が捜している定六とは深い関係があるようだ。

紋次郎が善光寺を午前5時に通過とナレーションが入ったときのシーンは、京都の今宮神社の東参道である。見える茶店は「かざりや」さんというお店。
スモークを流した斜光の中を歩いていると、まさに早朝といった感じがするが、影の向きから実際は夕方の撮影だと想像する。この場所は今でもよく時代劇のロケに使われる所である。
残念ながら、私はまだ訪れたことがないのだが、このお店の「あぶり餅」は一度味わってみたい。

紋次郎は芝生田村にようやくたどり着き、卯吉の住まいを訪ねる。卯吉の女房のお梅はまだ赤子を産み落としてはいなかった。

「まだ生まれていない、間に合った―― と、紋次郎は音を立てて長い溜め息をついていた。肩の荷がおりたとはこの気分を言うのだと、紋次郎は全身の力が抜けるのを覚えたのだった。」
(原作より抜粋)

テレビ版は至極あっさりしたものである。紋次郎の安堵感もなく、淡々と進められているのは残念である。
頼まれた物を届けに来ただけの雰囲気で、間引きのことを視聴者もうっかり忘れてしまいそうになるぐらいだ。
道中、難儀をし犠牲を払いながらも間引かさないために急いで来たのに……せめて溜め息ぐらいはついてほしかった。
(後編へ続く)


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Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

「紋次郎喰い」
これ、星一徹のちゃぶ台ひっくり返しと同じく、しょっちゅうやってるような印象がある割には、原作では意外に見つからないものなんですね。
で、この回の原作には貴重な「紋次郎喰い」があるのですが、これ、やってましたでしょうか。

それにしても、撮影を雪が降るまで待つ、という事は考えなかったんでしょうかねえ。
あの豪雪の中で、舌の焼けるような煮込み汁を「紋次郎喰い」する場面は、読んでいて美味しそうなのに。

お国、原作では「このためだけに出てきたんか、この人」と思い、テレビ版では変更があるというので、どんなのかなと思ったら、また「おらを差しあげますだ」ですか。
(私は第一回のお六で「お前は こまわり君か!」と突っ込んでしまいました)

まあ、これだけではないと思いますので、ラストのどんでん返しに期待します。

今回の写真、A・ワイエスのカーナー牧場のようですね。

  • 20110205
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

「紋次郎喰い」の件ですが、めし屋で汁をぶっかけて食べるシーンは5秒程度(笑)あります。雪のシーンではありませんので、あっさりしたものです。
それよりその後、橋状態の木馬道を渡る紋次郎の姿の方が印象的でした。

「おらを差し上げますだシリーズ」(笑)は、この後の作品でも出てきますよ。
この「差し上げますだシリーズ」中では「暁の追分に立つ」で、お梶姐さんの色仕掛けに返す紋次郎の台詞が、一番痺れます。

「世間にありすぎるようなことは、お互えにやめておこうじゃあござんせんか」

お国のこの後の展開は……「世間にありすぎるようなこと」で終わりますので、どんでん返しにはならないような感じです。

  • 20110205
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

お久ーでございます。
お夕さんと紋次郎さんさんにはお変わりもなく、
という風で嬉しく想っております。

まず今日の題「三途の川は独りで渡れ」のインパクトの強さ、
そしていつもの紋次郎さんのご様子、
お国さんのことをツンデレと表現するお夕さん、
ところでツンデレとはどんな言葉の省略語なんでしたか?
お教えくださいませ。

そしてあぶり餅とはどんな味なんでしょうねぇ~・・・

お話のこととはな~んも関係ないことばかりで、すんまそー・・・汗

  • 20110206
  • 淡青 ♦pDmV/urE
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  • 編集 ]
Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

作品をご存知ない方にとっては、本当に??が飛び回っていることだと思いますが、おつき合いくださってありがとうございます。

さて、ツンデレの語源ですが「ツンツン」(はじめは敵対的で、あんたなんか嫌いなんだからね!といった感じで歯牙にもかけない様子)が「デレデレ」(急にコロッと変わり、自分の本音が出てデレデレになる)になることを略して「ツンデレ」。
説明が長くて略になってませんが(笑)、おわかりいただけたでしょうか?

「あぶり餅」は、きな粉をまぶしたお餅を竹串にさして焦げ目をつけ、あまい白味噌タレで食するようです。
書いている内に、食べたくなってきました。
やはり京都は、白味噌にこだわりがあるようですね。

  • 20110206
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

こんばんは♪

ご無沙汰をしておりますが、お変わりございませんか。
今回も綺麗な写真にため息をついています。
各シーンに合った画をはめ込んで、本当に見事です。
お夕さんのフォト・ライブラリーにはどれだけのストックがあるのでしょうか。

ツンデレ・・・
最初は周りの人にはツンツンしていて、好きな人の前ではデレデレとする人物と誤解していたのですが、時間的変化でツンツンがデレデレに変わる性格の人のことと最近知りました。
元々はアニメおたくが使っていたとか・・・

いつもするどい切り口の解釈が素敵です。
後編が楽しみです。

では、又♪

  • 20110206
  • ぶんぶん ♦KWOxclv.
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第6話「三途の川は独りで渡れ」(中編)

ぶんぶんさま、コメントをいただきありがとうございます。

不肖お夕の掲載写真に、お褒めの言葉をいただきありがとうございます。
誰でも撮れるデジカメですので、腕が無くてもそれなりのものが撮れるようです。
性能のよいデジカメの方をお褒めください。

「ツンデレ」な女子は、アニメにはたくさん生息しているようですが、私の周辺にはいませんねえ。
現実にそんな女子は、明らかに嫌われるんじゃないでしょうか。
やはり素直が一番だと思いますね。

  • 20110207
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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