紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)

第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)

第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)
(原作 第38話)(放映 1977.12.7)
紋次郎の行動範囲にはある程度の制約があり、拙ブログ「日々紋次郎『紋次郎兄貴の道中範囲』」を参照いただきたい。
その限られた中でも、今回は中山道から見える琵琶湖の風景描写から原作は始まっている。
その記述に、私はドキドキするのである。それは私が住まいするのが近江の国だからだ。

琵琶湖、比良山地、伊吹山地、高宮、彦根、鳥居本、すりはり峠。そして番場宿、醒ヶ井宿は中山道の61番目、62番目の宿場で、現在は米原市である。
この近江の国に、紋次郎が足を踏み入れたということだけで胸が高まる。呆れられそうだが、ファンとしては、少しでも紋次郎を身近に感じられるだけで幸せなのだ。
しかし残念ながらテレビ版は全く風景描写を無視している。せめて原作の一行分だけでも、美しい琵琶湖を映像にして欲しかった。笹沢氏の筆による表現は絶品なのに……。

テレビ版での脚本は「中村勝行」さん。中村敦夫さんの実弟で、「三途の川は……」でも脚本を書かれた。監督は「中村敦夫」さん、ご本人。
普通なら才能あるご兄弟の共作ということで、微笑ましさすら感じるところだろうが、制作の苦労話を知っているだけに、なんとなく切羽詰まり感が(笑)漂ってくる。

市川監督監修の前シリーズから、ずっと踏襲されてきたテーマソング前のアバンタイトルが、今回からなくなる。前ふりがなく突然話が始まり、面食らう。
近江と美濃の国境の峠を越えようとしている三人の渡世人は、何人かの旅人が血相を変えて戻ってくるのに出会う。この先の街道に異変が起こったらしい。

大垣の御城下で牢破りをした連中が、この先の峠をふさいでいる。今も二人の旅人が連中につかまったらしい、引き返した方がいいと怖ろしげな様子で若い渡世人に告げる男。
三人の渡世人は構わず先を進む。辺りは無数の鴉の鳴き声。採石場かと思われるような岩がゴロゴロした風景。いかにも不穏な雰囲気である。

進む先で三人が目にしたのは浪人崩れの凶暴な輩7~8人と、帯で首をつながれた褌姿の男二人。この時点で私は、まず引いてしまった。
帯を首にしたまま男二人は逃げだすが、浪人二人に背中からバッサリ斬られる。まさしくリンチである。身ぐるみはがされ……というのはわかるが、なぜ帯を首に巻きつける必要があるのかわからない。私としては不快なシーンである。

三人の渡世人の内、一番の若造が「おいらは舞木の佐七だ。今からそこを突き抜けるから覚悟しやがれ!」と大声で虚勢を張る。
ちなみにDVDのブックレットは「佐吉」となっているが、正しくは「佐七」である。
意気がる若造を二人の渡世人が止め、ひとまず戻ることになる。
出だしから妙な印象を受ける。唐突すぎる。

原作では、茶屋で三人の渡世人が出会う。
五十五、六の老渡世人「溜池の勘吉」、関ヶ原の嘉兵衛の代貸「野上の重蔵」、まだ年若い三州無宿「舞木の佐七」。三人はそれぞれ名乗り合い世間話をする。
重蔵はもうすぐ親分の娘と祝言を挙げると言う。要するに跡目を継ぐ身である。その話を聞いて勘吉は自分のことのように喜ぶ。

勘吉は三十年前に今須で藤三郎というヤクザを殺した。この藤三郎は庄屋の若嫁、菊乃を手籠めにした上強請をはかったのだ。
庄屋の西川家に勘吉は少なからず恩義があった。庄屋に何とかして欲しいと頼まれ、意気がった若かりし勘吉は藤三郎を叩っ斬った。
無宿人になった勘吉は、その後江戸で捕らえられ八丈島に島流し。三十年近く後、御赦免となり戻ってきたという。
辛酸をなめ尽くした者だからこそ、重蔵の将来を心から祝えると言うのだ。勘吉は、人生の半分以上を八丈島で過ごしたことになる。

さてテレビ版は番場の宿。
ならず者が峠をふさいでいるので、足止めになった旅人たちで旅籠はごった返している。
その中に佐七、勘吉、重蔵も他の旅人たちと同じ部屋に詰め込まれている。佐七はよっぽど頭に来ているのか、峠越えを止めた勘吉、重蔵に食ってかかっている。
渡世人のくせに臆病だと、罵る佐七をたしなめる勘吉。
この老渡世人の勘吉役に「市村昌治」さん。脇役ではあるが、いつも印象に残る存在感あるベテラン俳優さん。原作のイメージにはピッタリのキャスティングである。

「明日になればあいつらを叩っ斬ってやる!」と意気巻く佐七に、「何を目当ての急ぎ旅だ?」と勘吉は尋ねる。
佐七は「目当てなんかあるもんか!死に場所探しての武者修行だ!」とふてくされて答える。
ここで重蔵が自分の身元を明かし、明後日には親分の娘との祝言……何としても明日は峠を越えたいと打ち明ける。
佐七は峠越えの連れができたことに喜んでいる。勘吉は自分の名前を明かし、遠い昔に今須の地に関わりがあったことをほのめかす。

とそこに、紋次郎が部屋に入ってくる。紋次郎が旅籠に泊まるというシチュエーションはあまりないのだが、テレビ版はここで三人との関わりが生じる。
紋次郎を「木枯し紋次郎」と気づいた佐七は、明日紋次郎が峠を越えることを知り、俄然張り切る。

「おい、おいぼれ。渡世人でここに残るには、おめえ一人だけになったぜ。」

「若えの、今気づいたんだが、おめえの顔どっかで見覚えがある。」

この勘吉の台詞は、その後の展開で明らかになる。
この旅籠のすし詰め状態はひどくて、一人一畳もないくらいの混みようである。原作では、紋次郎が三人と旅籠に泊まるという設定はない。紋次郎なら野宿のほうが相応しいだろう。

第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)

テレビ版の話の展開は、大筋原作と同じだが、いくつか気にいらない点がある。

原作での紋次郎は、牢破りをしたならず者には出遭わず峠を越えている。
紋次郎と三人の渡世人は同じ道を行くのだが、勘吉が紋次郎に声をかけている。
「紋次郎さんとやら、おめえさん死に急いでいなさるのかい」
「そうでなけりゃあ、たったひとりで先を急ぐはずはねえ」
無言で無表情な紋次郎に
「無茶は、いけねえよ」
と諭す。
「おれは三十年も地獄で生きて来た島帰りの年寄りだが、その繰り言だと思って耳を貸してやってくんねえ。紋次郎さんとやら、命は粗末にするものじゃあねえぜ」
勘吉が島帰りと聞いて、紋次郎の表情が一瞬変わる。

命を粗末に扱っているわけではなく、これが自分の日常であると答える紋次郎に、勘吉はすべてを悟ったかのように絶句する。
「それに、他人(ひと)さまの世話を焼くより、まずはわが身を守ることでござんしょうよ」
と足を早め紋次郎は先を行く。
紋次郎の姿が小さくなった後、三人の頭上に崖から岩が落ちてきて、峠に陣取っていたならず者に拉致されるのである。

テレビ版では佐七を先頭に、三人が歩く。道すがら勘吉は重蔵に、今須に昔の連れ合いがいることを話すが名前だけは伏せる。
「あの女の無事を陰から一目拝んで、そっとずらかる魂胆さね。老いぼれ鴉の最後の思い出にな、ハハハ……」
(テレビの台詞から)

そしてその後、原作とは違い、落ちてくるのは網である。網に絡まりもがく三人に、襲いかかるならず者たち。
岩より網のほうが容易に撮影はできるし、美術の人は発泡スチロールを削って着色することもない。しかし急きょ峠に立てこもった輩がよく網を入手できたものである。

テレビ版での紋次郎は、網で捕らえられる三人より早く、長筒を持った輩たちに捕まっている。
多勢に無勢……わからないではないが、飛び道具を突きつけられ、長ドスを鞘ごと敵に渡してしまう紋次郎。
飛び道具が出てくるのは、私の中では「反則」の範疇であるし、呆気なく悪漢の手に落ちる紋次郎にも不満がある。

テレビ版の気に入らない部分は、こちらの方が大きい。
網で捕らえられた三人が、逆さ吊りにされて拷問にかけられるシーン。
紋次郎は岩に縛られ、黙ってそれを見ている。
峠をどうしても越えようとする理由を聞き出そうとするならず者の頭。

浪人崩れのこの頭役に「内田勝正」さん。紋次郎シリーズでは常連さんである。
三人が縄で縛られ谷間に吊されているのは、見るに忍びない。リンチである。
一番に音を上げて自分の素性を明かすのは重蔵。

勘吉は「殺せ!殺してくれ!」と叫ぶ。この市村さんの声が真に迫っているだけに、見るに忍びない。
苦痛に身をよじる勘吉を見かねて、重蔵は勘吉の女房が今須にいることをしゃべってしまう。
謝る重蔵に「お前さんがやさしいってことだからな……」と許し、勘吉は観念して女房の名前は「お杉」だと言ってしまう。
その名前を聞いて重蔵は驚く。お杉は金貸しになっているというのだ。勘吉は、お杉と別れてからは音信不通なので知らなかったのだ。
(中編に続く)

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この記事へのコメント

Re: 第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)

私も、琵琶湖が出てきて「おお~~!私の行動エリア内を紋次郎が!」と色めき立ちました。
お夕さんなら、なお更ですよね。

この時期の原作では、紋次郎以外の人の描写が大半なものが有ります。
この話ではとりわけそれが顕著で、かなり後半になるまで紋次郎は殆ど描写されません。
章が変わって「え!?ここに居てる渡世人って紋次郎?けどまたどういう経緯で…」と疑問です。

なぜ紋次郎がそういう行動に出るハメになったのかは原作では最後まで描写されませんね。
テレビではそうは行かないので、捕われるシーンを作らざるをえなかったのでしょう。
紋次郎が観念するようになるには、飛び道具を使わざるを得なかったのかもしれません。
(それにしても、この時期の紋次郎は、やけに死ぬのを怖れるなあ…)

それにしても、原作にもない残虐シーンとは。
「新」のスタッフは、紋次郎にマカロニウエスタンのテイストを加えようとした感がありますが、従来のファンである私には、どうもそれが裏目に出ているように思えます。

市村昌治さんって言ったら、「信州路」の四番役の人ですね。
あの時はそんな年配に見えなかったのですが、もうそんなに老けておられたんですか。

  • 20110601
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 第10話「鴉が三羽の身代金」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

我が郷里「近江の国」が紋次郎作品に!
テンション上がってキタ~!と思ったのですが、ショボ~ン(涙)でした。

仰るとおり、マカロニウエスタン調となれば、乾いた映像が要求される訳ですから、却下されたんでしょうねえ。

1枚目の写真は琵琶湖に浮かぶ沖島から見下ろした写真。
作品に出てくる場所ではありませんが、何となく雰囲気が近いかと思います。
2枚目は北湖の夕景。
暗くて小さいのでわかりづらいのですが、水辺に鴉がいるのです……しかし1羽足らずに2羽。残念。

前シリーズのリンチシーンといえば、「木枯しの音に……」での荒木一郎が馬で男を引きずるシーン、「湯煙に……」や「和田峠に……」での紋次郎へのリンチが思い出されます。
あの時は、さほど不快感は無かったのですが、この回は何となく過剰で作為的な感じがしました。

原作のシリーズも回を重ねてきたせいか、マンネリを打破しようという試みが成されているように思います。
笹沢氏のご苦労も、うかがえますね。
作風と共に、紋次郎像も変わってくる……そんな一端を垣間見る思いです。

市村さんって、丈八と共演されていたんでしたね。すっかり失念しておりました。
ああいう役がピッタリの役者さんでしたね。

  • 20110602
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
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