紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

(原作 第29話) (放映 1977.12.14)
原作名は「笛が流れた雁坂峠」である。小説の連載ではこの後の「唄を数えた鳴神峠」で、一旦紋次郎は街道から姿を消す。
再開されたときは、タイトルに数が入るようになるが、この作品はその範疇に入っていない。
「新……」シリーズには、数が入るタイトルを採用しているので改題されたのであろう。改題された作品としては、前シリーズに「龍胆は夕映えに降った」(原作は「噂の木枯し紋次郎」)がある。

テーマソングの後にすぐ、逆光に光るススキと紋次郎の姿。いい感じで始まるのだが、街道で道行く旅人に声をかけている土地の渡世人たちの映像はちょっとガッカリ。どう見ても舗装された道にしか見えないのである。景色はどこかの田舎の風景なのだが、未舗装の道はロケ地では探せなかったようである。

道行く渡世人たちに声をかけているのは、貸元「佐久の庄助」の身内の者。今、信州路を抜ける関所の改めが厳しく、手形があっても容易には通れない。渡世人ともなるとあらぬ疑いをかけられ面倒なことになるので、是非とも関所には足を向けないように……と忠告している。硝薬がお上の許しもなく信州佐久から流出したらしく、その詮議が厳しいのだという。
佐久の代官陣屋の元締めはそれを苦にして自害までした。

庄助の身内たちの話やナレーションなどから、関所付近はどこでもピリピリしていることがわかる。
佐久の庄助は代官陣屋に出入りできるいわゆる「二足草鞋」で、此の辺りでは大親分である。

紋次郎はそれを知った上で先を進むのだが、なぜか佐久の庄助一家に襲われる。
テレビ版では、山を削ったような草木も生えていない荒涼とした地。このロケ地は「賽を二度振る……」で音右衛門の首ラグビー(笑)をした場所と同じように思う。もしかしたら前回の「鴉が三羽の……」もこの地かもしれない。

「命のやりとりをするような貸し借りが庄助一家にはないのに、なぜ?」という問いに「赤岩の源太郎」と名乗る代貸は意外な事を口にする。
関所破りも覚悟の上でこの道を行くというのは、信州追分宿から逃げた五人の女郎たちが目当てだろう、と言うのだ。
ちなみに原作では七人であるが、テレビ版では二人リストラされ(笑)、五人である。

逃げた女郎の中に「お笛」という女がいて、半年前に客になった木枯し紋次郎に、女郎のくせにぞっこん惚れ込んだ……
との代貸の言葉に、紋次郎は驚く。
視聴者もコレには反応するだろう。
「紋次郎が、追分宿の宿場女郎の客になっただと~?!」
あり得ない話である。
作者笹沢氏は、紋次郎だって男なんだから、女を抱くこともある。
相手としたら宿場女郎ぐらいがお似合いだろうと、著書「紋次郎の独白」にも書いている。
ファンとしては、そういう艶っぽい話は聞きたくないので、お笛の言っていることはでたらめだということで却下。

硝煙流出と女郎の逃亡……全く繋がりが見られないが、キーポイントは「佐久の庄助」。
さてこの二足草鞋の男は、一体何を企んでいるのか。

紋次郎にとっては身に覚えのない話であるが、丸太棒を持った男たちに囲まれ、袋だたき状態になる。丸太棒という凶器はなかなか効果的なようである。
長ドスならはじき返せるが、丸太棒となると難しい。二人ほどは叩っ斬ったが、結局紋次郎は殴られ倒れ込み、気を失ってしまう。
原作では、攻撃をかわしている内に山の斜面に転げ、崖から転落してしまう。

心配そうにのぞき込む女の顔が二つ、三つ。急にパッと映像が艶やかに変わる。
女たちはその着こなしから女郎たちだとわかる。
さっき襲った男が言っていた追分宿から逃げてきた宿場女郎の五人である。

今回のヒロインはお笛役の「早瀬久美」さん。前シリーズでは「海鳴りに運命を聞いた」のお袖役で共演しているので、これで
二作目となる。役柄が宿場女郎ということもあるが、前回よりずっと大人の女としての魅力が備わっている。
あれから5年も経っているので頷けるのだが……。

原作のお笛の容貌については以下の通り。
「顔立ちが整っていて、勝ち気そうに引き締まってはいるが、なかなかのいい女であった。特に切れ長の目が、印象的である。しっかりしていて頭がよく、姐御肌の女という感じだった。宿場女郎としては大した上玉で、客の人気を集めていたのに違いない。その女だけが髷を崩し、洗い髪にしていた。」
(原作より抜粋)

切れ長の目と洗い髪だけは違うが、他はほとんど原作通りの雰囲気である。原作では二十二、三に見え、笑うとあどけなくて可愛らしいとある。

同じく一緒に逃げてきた女郎お千代には、「ホーン・ユキ」さん。適役である。お笛は比較的地味な着物をまとっているが、このお千代の着こなし方は女郎としてさすがに堂に入っている。襟元はかなり広く開けられ、豊満な胸元まで見えている。

原作のお千代は二十五、六に見え、この集団の中では最年長らしいとある。唇のすぐ下にホクロがあり、目つきが気味の悪いほど色っぽいともある。
ホクロは見当たらないが色っぽさはなかなかである。女郎たちの中でも、お千代の着物だけが黒襟ではないあたりもよく考えられている。

ただこの二人の年齢順は逆で、テレビ版では、お笛の方がお千代より年上のようである。
原作ではお笛がお千代を呼ぶときは「お千代さん」であるが、テレビ版では「お千代」と呼び捨てであるのでわかる。

気を失っていた紋次郎は、ぼんやりと目を覚ます。
原作での紋次郎は反射的に長ドスを手にしようと周囲の地面を探るのであるが、テレビ版の紋次郎は長ドスがないことにしばらく気づかない。
体を起こすと、女郎たちに間道を抜けてまでどこに行くのかと尋ねられる。

「あっしには進む道しかねえんでござんすよ。」
行くあてなど端からない紋次郎だが、こんな状況でも先に進もうとする。本当にじっとすることがない、まるで回遊魚のような人間である。

「じゃあ山越えするほかないじゃないか。」とのお笛の言葉に、「そう致しやす。」と背中で答える紋次郎。

原作は野天であるが、テレビ版は山中の廃屋の中。板塀の隙間や破れ障子から外光が差し込み、なかなかいい感じの映像だなあ、と思ったら照明は中岡源権さん。
超一流の職人さんである。
前シリーズでは「大江戸の夜を走れ」、新シリーズでは「霧雨に二度哭いた」「鴉が三羽の身代金」などに参加されている。惜しくも2年前に他界された。
監督は「大洲斉」さん。大洲さんといえば「一里塚の……」で、紋次郎シリーズ初監督。しかしこのロケ中、中村氏はアキレス腱断裂というアクシデントに見舞われる。
かなり責任を感じておられたが、その後も数多く本シリーズに参加している。「新……」では今作品だけである。

第11話「笛の流れは三度まで」(前編)


お笛は楊枝を手にして、「お前さん、木枯し紋次郎だろ?これを見てすぐにわかったよ。」と素性を言い当てる。紋次郎の名前は、女郎界でも響き渡っているようで相当な有名人である。
続けて「どうだろう、みんなも一緒に、連れてっておくれでないかい?」と頼まれるが
すげなく断る紋次郎。
「女に借りをつくって平気なのかね。」とたたみかけるお笛。そこで初めて紋次郎は腰にあるはずの長ドスがないことに気づく。
紋次郎、女ということで油断したのか、気づくのが遅すぎる。

長ドスは鞘ごと無くなっている。原作では抜き身だけが見当たらない。テレビ版の紋次郎の狼狽ぶりに、こちらの方が狼狽してしまう(笑)。
いつもは無表情で、動揺することなどほとんどないのだが、目が明らかに泳いでいる。
長ドスは命の次に大事なものというのはわかるが、こんなに不安げな紋次郎の表情には正直驚いた。中村氏の演技力だとは
わかるのだが、もう少し渋く(笑)動揺して欲しかった。
「何かお探しかい?」お千代がねっとりとからかうように紋次郎に言う。

「女の足では無理だよ。」
「やっかいな病人を抱えてるしね。」
なるほど少し離れたところにグッタリした女と、それを抱きかかえる女がひとり。

ここでお笛の身の上話が始まる。紋次郎はいつものように「聞かねえことにしやしょう。」と断るのだが、「女ってなものは、同じような境遇の者に、身の上話を聞いてもらえば気が晴れるものなんだよ!」と、構わず話し続ける。
「あんたは気が晴れるかも知れねえが、こちらは気が重くなるだけじゃねえですかい。」(これは私の独白です)

追分宿の巴屋から足抜けした五人。風邪をこじらせた「お駒」へのひどい折檻に見かねて、お駒を連れて昨夜逃げ出したという。
何度も水に顔を浸けられるリンチシーンは、やっぱり好まない。

夜陰に紛れて女たちは飯盛旅籠を抜けだし、宿場の帳の中を小走りに行く。
暗いバックに着物の色彩が妖しく、乱れた髪や裾から見える脛の白さは扇情的である。
宿場の闇と光が交錯する映像の美しさは、「大江戸を走れ」とよく似ている。中岡さんのライティングの妙である。

お笛の話の中で自分たちの請け人は「赤岩の源太郎」だと言う。さっき自分を襲ったのはその源太郎だと紋次郎が教えると、女郎たちは危険が迫っていることに怖れる。
と同時に外で男たちの声が……。女郎たちを捜しに来たのは、さっきの赤岩の源太郎たちである。廃屋で息を殺す女たち。

それにしても追っ手の男たちは、なぜこの廃屋に気づかない?室内で焚き火をしているのを消しもしていないのだから、臭いでわかりそうなものなのだが……。
みんなが息を殺す中、なぜか紋次郎はお笛の表情を見守っている。原作にはこの展開はなく、赤岩の源太郎たちの姿はずっと現れない。

連中が去った後、紋次郎はドスを返してくれとお笛に頼む。
「連れて行く訳にはめいりやせんが、おめえさんたちがあっしの後をついてくるのは勝手ですぜ」

ここでやっと、紋次郎の長ドスが出現する。
なんとお玉と呼ばれる大女が着物の裾をまくり上げると、そこから錆朱色の鞘が出てくる。
「あたしゃさっきから、一歩も動けないで弱ってたところだよ。きっとよく斬れるよ。」

原作にはこのお玉の台詞はないが、なんとお玉は股間に抜き身の長ドスをはさんでいた。
紋次郎の長ドスをこんな扱い方をしたのは、このお玉が最初で最後だろう。
宿場女郎のお色気というより、生々しさを感じてしまう。

このお玉という女郎のキャラクターが私は好きである。
原作でも「まるで女相撲みたいに大柄な身体」と書かれているが、まさにその通りである。「気は優しくて力持ち」を絵に描いたような女でユーモラスである。

(中編に続く)

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Re: 第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

タイトル、「三度まで」と改題したら、三度目になった時にネタバレしそうな気も。(笑)

「ニセ紋次郎」と「崖から転落」、ここにもあったんですね。
崖転落は何度も出てきたので、殴り倒されることに変更したんでしょうか。
それにしても、丸太棒の袋叩きで昏倒する紋次郎ってのはあまり見たくないですなあ。

紋次郎が生き永らえた理由の一つに、「敵がマヌケだった」というのがあります。
数は多いのに、走り出した途端に目的を全て忘れてしまう「獣道」の鴉軍団。
紋次郎の袋詰めを作ったのはいいが、突き刺しもせず、うれしそうに引きずってまわるだけの「海鳴り」の不動堂の太兵衛一家。
壁一つ隔てたトイレの窓から紋次郎が様子を窺っているのに、毒殺計画を得意げに子分に話す、「悪党のいない道」の三本木の音八。
そして今回も、目の前の廃屋で火をともしているのに全くスルーですか。
いずれも特撮の悪の組織並みの良い味を出しております。(笑)

原作を読んで、「相撲取りみたいなお玉さんを演じられる女優っているのかなあ」と思ってました。
本当に相撲取りみたいな大女なんですか?

それにしても、前回で紋次郎に島帰りの刺青なんてやったので、もう舗装路が出てきたくらいでは少しも驚かなくなっている自分が居る…。

  • 20110701
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

数詞にからんだタイトルは、この後もずっと続くかと思いきや、そうでもないんですね。
次回は「朝霧に消えた女」で、改題はありません。

紋次郎は、殴られて殺されても当然なのになぜ放置?
と、視聴者は疑問に思うでしょうが、そこがミソ。
生かしておかなければならなかった、という訳があるからですが、あまり格好良くはありませんね。

崖から転落なら死んじゃうかも……と思いますが、あの場所は、『谷へ落ちても必ず枝に引っかかる』
と女郎たちが言っていますから、原作でも命を落とすことはなさそうです。

「崖落ち」以外に考えてみろ!と言われても、思い浮かびませんねえ。
落雷、猪は既出ですし……。

敵がおマヌケ。
これは同感。
「今がチャンス!」というところでも、向かっていかない。
「何やってんの!」と檄を飛ばしたくなります。
(どっちの味方なの?と言われそうですが)

「相撲取みたいなお玉さん」ですが、お相撲さんにもいろいろタイプがありまして、このお玉さんは小柄なお相撲さん。
決して『高見山』(たとえが古すぎ)のような、タイプではありません。
今ならさしずめ「森 公美子さん風」でしょうか。
(ファンの方ごめんなさい)

  • 20110702
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

一寸入院していましてご無沙汰していました。
7分上がりの、身ですが又,再開しました。
宜しくお願いいたします。
ひかりtvで紋次郎シリーズをやっていますので、たまに見ています。懐かしい物語を、楽しんでいます。お夕さんの紋次郎さんも長編で粘りに感心させられています。!苦労を癒ししたい気持がします。!ご挨拶まで!

  • 20110707
  • 荒野鷹虎 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第11話「笛の流れは三度まで」(前編)

鷹虎さま
コメントをいただきありがとうございます。

お戻りいただいたようで、とても嬉しいです。
また、鷹虎節を楽しみにしております。

まだお身体が十分でいらっしゃらないなら、どうぞご無理をなさらないでくださいね。
律儀においでいただき、本当にありがとうございます。

ご自愛ください。

  • 20110707
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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