紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

第12話「朝霧に消えた女」(後編)

第12話「朝霧に消えた女」(後編)

第12話「朝霧に消えた女」(後編)
(放映 1977.12.21)
一方十蔵は、足抜けの手引きが紋次郎と知り(なぜ知ったのかは不明)、虎八の子分たちと紋次郎を追うことになる。
山道を行くお加代は「松尾の社を通るんだろ?」と紋次郎に尋ねる。「松尾の社」にこだわりがあるようである。
「松尾?」この女優さんの名前の神社?どこまでも松尾嘉代さんに脚本家はこだわっているようだ(笑)。
急な山道で音を上げるお加代を励まし、手まで貸してやるぐらい今回の紋次郎はヒューマニストである。

一歩も歩けないというお加代に、紋次郎から有り難い叱責。
「もうちっと、辛抱しなせぇ。」
しかしお加代の体力はもう限界のようで、
「松尾の社まで引っ張っておくれ。そこから先は迷惑かけないから。」
と喘ぐように頼む。
やはり松尾の社に誰かが待っているようだ。(誰なのかはバレバレなのだが)
紋次郎は無言で腰を落とし、広い背中をお加代に向ける。背負って行くというのだ。紋次郎に背負われる女は、これで何人目になるだろう。紋次郎が女を背負うというシーンは、ある程度定番になってきているようだ。

背負われて、お加代は礼を言う。
「ありがとう。こんなとこで今更聞くのもおかしいけど、あんたの名前聞いてなかったよね。」
「上州無宿の紋次郎と申しやす。」
「ふーん、私の名前はお加代って言うんだよ。」
ここでお互い、名前を名乗るのである。お互い名前などはどうでもよかったようだ。

「あんたの恩は一生忘れないよ。」
「渡世人には、貸し借りなんぞござんせんよ。」
「いい覚悟してるねぇ。ホントに惚れちまうじゃないか。」
(ドラマの台詞より)

渡世人には貸し借りはない……言葉足らずである。
堅気は渡世人に対して借りを返そうなどと思わなくていいし、渡世人は堅気に貸しをつくってやったなどとは思わない。
「渡世人には」と言っているが、渡世人すべてがそんな覚悟を持っている訳ではない。いやそんな渡世人どころか、そんな人間はいないと言ってもいいだろう。これは紋次郎だけの覚悟なのであろう。

追っ手は合流してどんどん増えてくる。
今回もBGMにはガッカリした。捕り方や追っ手が動き回るシーンになる度に、同じBGMが何度も流れる。
大変耳障りである。いっそのことBGMはない方がいい。

第12話「朝霧に消えた女」(後編)

紋次郎はお加代を背負ったまま、松尾の社を目指す。黄色い銀杏の葉で敷き詰められた参道を歩く姿は、なかなかいい。
頭上には紅葉が見える。
紋次郎は境内に入り、お加代を背中から下ろす。

「じゃあ、今度こそあっしはこれで……」
ホント、今度こそである。なんやかんや言って結局最終目的地の松尾神社まで来てしまったわけである。

「ありがとう。」
「お達者で……」

別れの言葉が終わるか終わらない内、紋次郎は誰かに背後から襲われる。灰色の獄衣をまとっているので、あの囚人である。お加代は驚いて目を見張るのだが、それが誰かがわかり大声で叫ぶ。

「あんた!」
やっぱり……である。

紋次郎は耳に入ったその言葉に、驚いた表情でお加代を見る。
「お加代、早くドスを取れ!」

長吉はお加代に叫ぶが、そんなことができるはずがないだろう。
「なるほど、そういうことだったんでござんすかい。」
紋次郎の言葉に、お加代は必死に否定する。

「ちがうよ……、こんなつもりじゃなかったんだよ。」
お加代は、男に会いたかっただけなのだ。
紋次郎が言うそういうこと……紋次郎を連れてきて、長ドスを奪え。紋次郎の命を奪う手助けをしろ、というつもりはお加代にはなかったのである。

「てめえの着物が欲しいんだよ、寄こせ!」
よっぽど紋次郎の着物が気に入ったと見える、これで2回目(笑)。紙と筆で手紙を書き、凶器の鎌も手に入れたというのに、まだ着物が手に入らなかったとみえる。
せっかくお加代に出会えたというのに、パニック状態。冷静に考えれば、紋次郎の着物を狙うよりお加代に頼んで着物を調達できるものを……と思ってしまうが、それでは話が進まない。
「お加代!」
「あんた!」とひしと抱き合い再会を喜んでいれば、紋次郎と争うこともなかったのに……である。

お加代は長吉を必死になって止めるが長吉は聞こうとしない。

結局長吉は鎌を振りかざし紋次郎を狙うが、腕が違いすぎるし鎌では絶対無理……。
「やめなせえ、せっかく会ったんじゃねえですかい。おめえさんを斬るわけにはいかねえんだ」
「うるせえ。」
鎌は紋次郎をかすめ木の幹に突き刺さる。なおも素手で組みつこうとする長吉を、紋次郎はかわす。ところが長吉は勢い余って木の幹に激突し、運悪く刺さった鎌の刃で喉を切ってしまう。なんという結末だろう。
スローモーションで倒れる長吉のもとに、叫び声を上げて走り寄るお加代。抱き起こされた長吉の顔には、もう死相が現れている。
大出俊さんの一番の見せ場が、今際の場面というのも、もったいない話である。

お加代と初めて出会ったのがこの松尾の社だったようだ。お加代に一目出会えて死ねるなんてようやくツキが回ってきたようだ、と長吉は強がりを言っている。
どうせ、佐渡に送られれば一生帰っては来られない……今度生まれてくるときには大きな星の下に生まれてくる……と言い残し、長吉はお加代に看取られ息を引き取る。

大出さんは「女人講……」のときも、自分の生まれを嘆いたが今回も同じである。このあたりも定番となりつつある。

お加代は世を儚んで、「好きな男と死ねるんなら本望だ!斬っとくれ!」と紋次郎に叫ぶ。
「ものにはついでってもんがあるだろう!」と先ほどと同じ台詞を口にするが、ついでに人斬りまでさせるとは、人使いが荒いにも程がある(笑)。

まもなく十蔵たちがやってきて紋次郎は追われるのだが、今回のフォーメーションは面白かった。紋次郎が石段を何回も駆け上がり敵はそれについていけず、フラフラになるといった設定である。明らかに中村氏の脚力が見せ場である。
ただ後の殺陣は、紋次郎らしかぬ華麗さが目立つ。紋次郎の殺陣は突きが中心で泥臭く、もっと獣じみた必死さがあったのだが、今回は流麗である。洗練されたといえばいいのかもしれないが、私は昔の殺陣の方が好きである。
石段を下から一気に駆け上がりながら敵を斬っていく。戦意喪失で逃げようとする敵まで追って行って斬るのは、あまり好まないのだが……。
石段の殺陣といえば、「背を陽に向けた……」を思い出す。もっと泥臭く臨場感があったように記憶しているが……。

「なぜわたしを斬ってくれなかったんだい。」
お加代が紋次郎を詰る。
「あっしには言い訳なんぞござんせんよ。」
と決め台詞……しかしどちらかといえば
「女、子どもを斬るドスは持っていねえんで……」の方が当てはまると思う。

紋次郎が視線を落とした先には、風で散りそうなお加代に宛てた手紙が……。紋次郎は楊枝を飛ばしてその手紙を地面に縫いつける。
そして「御免なすって。」とお加代に背を向けて去っていく。

今回は原作がどこにもないという、全くのオリジナルだったせいか、盛り上がりに欠ける感じがしてあまり印象に残っていない。笹沢氏の鉄則である「ドンデン返し」がなかったのも、あっけない感じがした。
「朝霧に……」というタイトルだったが、それも印象に残る映像はない。霧と言えば「明鴉……」だろう。
タイトルに数詞が入らなかったが、なるほどこのストーリーだと難しい。

で、考えてみた。
「一抜け二抜け三抜けた」なんていうのはどうだろう。
目籠を抜けた長吉、足抜けをしたお加代、そして間抜けた親分十蔵……(笑)。

冗談はさておき、この後お加代はどうしたのだろう。やはり「朝霧に消えた」というからには、霧と共にこの世から、儚く消え去ったのだろうか。
「投げやりはいけやせんぜ。」と、紋次郎はお加代の生き甲斐ともいえる足抜けを助けたのだが、哀しくあっけなくそれも消えた。

去っていく紋次郎の黒いシルエットは、朝日をぼんやりと受けて広がる雲をバックにだんだん小さくなっていく。
エンディングの美しさで、一抹の安堵感は持つことができたのはよかったが、なんとなく宙ぶらりんで終わってしまったという感覚は埋められなかった。
お加代は裏切らなかったところが、ファンから言わせると「裏切り」だったのかもしれない。


トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/161-2a417629

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

お久しぶりです。
全体に紋次郎ストリー美学(?)が流れているところが、
反対に創作的なんですね。

しかし紋次郎もお夕さんもタフですね。
私なんぞは“好きやすの飽きやす”の摘み食い小父さんで
絶好調で緊迫している時だけの対巨人戦タイガースファンがそのいい例です。

紋次郎が長い間書かれて、テレビでもずっと放映されたということはとてもタフだと思います。
読む人、観る人をそれだけ掴んだですね。

そして、こうして語り継ぐお夕さんまでおられて・・・。
今日も有難うございました。

  • 20110812
  • 小父さん ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

今日、放映されたばかりのこの話を観ました。
ほんとにどんでん返しが無いんですね。

原作でも「死出の山越え」がどんでん返しが無く、「さあ、最後にどんな種明かしがあるのかな」と思っても、ただの普通の悪党で、「エ!?これだけ!?」って感じです。
ちょうど、嘉門達夫のアルバムに、ごくまれに1曲だけ入ってる、ギャグの無い普通のラブソングを聴いた時のような。

ラストの鎌の一件も、紋次郎が手を下さずに相手が死に、ヒロインから恨まれない、というためのようですが、無理ありますなあ。
第一、最初に木に鎌が刺さった時は、刃が縦向きだったのに、次には横向きに変わってるし。(笑)

昔、「新」が始まった時には、「こんなの紋次郎じゃねえ~~!」と、数回で決別宣言を発し、以降、再放送されても録画しませんでした。
が、お夕さんのブログを読んでから、「新」を見始めました。
「笛の流れ」は、自然描写なども素晴らしく、これでOPと音楽を旧作のものと差し替えてくれれば、私の中でも殿堂入りしたと思います。
「新」にこんな良作が有ったのを知らずに終わるところでした。
(さっそく、高圧鉄塔の位置から登山地図でラストの撮影地を割り出しに掛かっております)

紋次郎の入墨などのシーンは飛ばして観ており、また、お夕さんがズッコケたという「緊張した場面でのオチャラケ音楽」も、「こりゃ傑作だ。うっかり八兵衛でも出てきそうだ。」とナナメから観て楽しんでます。

すべてお夕さんが水先案内してくれたおかげです。
私はお夕さんのブログで、どこは真剣に見るか、どこは飛ばすか、どこはトンデモぶりを楽しむか決めてから観てるのですが、毎回真正面から「紋次郎ワールド堪能モード」で見ておられるお夕さんには頭が下がります。
今日で放映がブログに追いつきましたが、これからも一応録画して、お夕さんがブログに書かれてから観ることにします。

それにしても、虎八っつぁんの一件をこれだけ何度もやってるんだったら、この先、大前田と繋がりの深い次郎長や国定忠治、神戸の長吉と会う話はどうなるんでしょう。

  • 20110812
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

本当は、すごく飽きっぽい性格なんですよ。
今でもそうなんです。
ブログ記事もちょっと書いては長い間休み、チビッと書いては何を書いていたか忘れるぐらい放置していたり……。
というか、集中力がないんですね、情けないことに。

小父貴さんのブログはいつも話題が豊富で、楽しませていただいております。

残暑厳しい日々です。
ご自愛ください。

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

お夕さん、こんにちわ。

拙ブログに、rabibitodogさんから「笹沢左保公式ホームページ」の公開のお知らせを頂きました。

「笹沢左保の世界」
http://www.sakka-onsite.jp/sasazawasaho/

笹沢氏の若い頃の写真など、雑誌のスクラップ記事などあってお宝満載でした。

  • 20110812
  • おみつ ♦suWcSb.M
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

とうとう追いつかれてしまいやした(笑)。
1ヶ月に1本のペースですから、話になりません。

ドンデン返しがあるぞ、あるぞ……と身構えていた者にとっては、拍子抜けだったと思います。
笹沢氏はこの作品について、監修もされなかったんでしょうかね。

鎌の向きには気づきませんでした。さすがTOKIさんですね。チェックしている暇もなかったんでしょうか。

「笛の流れ……」お気に入りのご様子で、良かったです。お玉ちゃんのキャラ、良かったでしょ?

不出来な水先案内人で申し訳ないです。
水先どころか、後追いになってしまっています。沈没しないように頑張ります。
心を広くして、更新をお待ちください。

次郎長、忠治、長吉の件……この落とし前は、どうなさるおつもりで?
と言いたいところですが、やはりここは一話完結ですんで関わりござんせん。

御免なすって。

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

おみつさま、コメントをいただきありがとうございます。

すごいですね、HPあるんですね。
情報ありがとうございます。
さすがおみつさん、豊富なご人脈でいらっしゃる。

この後ゆっくり見させていただきます。
笹沢さんも、いい男ぶりでしたね。

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

この話で、紋次郎が合羽を置き引きされる谷川。
これ、「泪橋」で伊兵衛と出会う場所とそっくりだと思って、両者の画像を見比べました。

「泪橋」は、やや広角で撮ってるので背景が小さくなってますが、岩の形を検証したら、同じ場所だと言えるでしょう。

お玉さん、良かったです。
演じてたのは、若き日の細○数子さんじゃないですよね?(笑)

  • 20110812
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

お夕さん、こんばんわ。

笹沢氏のHP公開されたばかりだと思います。

rabibitodogさんからは初めてコメントを「笹沢左保公式ホームページが出来ました。行ってみて下さい。 」と頂いたので、多分HPの関係者だと思います。

笹沢氏のご家族に近い関係者、または出版関係で懇意にされていた方ではないかなと思います。公式と銘打っているのですから、ご家族の許可も得ているでしょうし、関係者でなければ知りえない記事やプライベートな写真も多かったですね。

  • 20110812
  • おみつ ♦suWcSb.M
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

TOKIさま

「新……」は前シリーズに比べると、同じロケ地を使っている確率が高いように思います。

「新……」でのロケ地も、気になるところはたくさんあります。
なかなかピンポイントで訪問できませんが、
また教えてくださいね。

次回は、京都ロケ地の記事になると思います。

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

おみつさま

笹沢さんの若い頃の写真は、初めて見ました。昭和の良き時代が彷彿とされます。
笹沢さんの骨太な生きざまは魅力的ですね。

来年の1月1日で、紋次郎放映40周年ですね。
フジテレビで、なにかイベントでもないのでしょうか。
江口紋次郎は、あれ以来音沙汰なしで残念です。

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

本文と無関係で恐縮ですが、今夜、阪神が、3試合ぶりで、得点して、勝利しました。!しかも、不振の、新井が3ランホームランでした。
後は、紋次郎さんのクールさで勝ち続けたいものです。!頑張ってください!

  • 20110812
  • 荒野鷹虎 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第12話「朝霧に消えた女」(後編)

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。

新井さん、やりましたね。
やればできる子です。

4番を任されるということは、プレッシャーもあるでしょうが、紋次郎サンと同じく覚悟を決めて頑張って欲しいものです。

4ゲーム差、テンション上がってきました~!

  • 20110812
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/