紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)
(原作 第46話)(放映 1978.1.4)
*上記の写真は今回のロケ地「丹波国分寺」。秋であれば、この木は黄金色に輝いていたはず。
この木の近くで住職と与右衛門が会話する。

この回の一番の目玉は「林与一」さんの出演であろう。よくぞこの番組に出てくださった、という思いである。金がらみの話で申し訳ないが、ギャラはどうだったのだろう、と思ったりもするぐらい高名な役者さん。
「必殺仕掛人」は紋次郎のライバル番組だったが、そのときの出演者と共演……強力タッグである。

展開は原作とほとんど同じである。原作もテレビ版も賭場のシーンから始まる。
この賭場は「板場の与右衛門」がしきっている。別名「仏の与右衛門」と言われるくらい、温厚な性格で喧嘩嫌い、長脇差を抜いたことがない。したがって土地の人々からも、慕われ好意を持たれていると原作では説明されている。

この賭場で紋次郎は、大勝ちをしていた。紋次郎の前に大量の駒札が積まれている。その額なんと約三十両。当時一両もあれば庶民が1ヶ月は暮らせると言われていたので、その30倍……
かなりの高額である。
しかし、紋次郎らしからぬと言えば、らしからぬ……。ツキが回っていたと言っても、そこそこ稼いだらサッと引くのが本来の姿だろう。しかし、今回の紋次郎は違った……それがこの後、やっかいなことになるのである。

その紋次郎の前に穏やかな雰囲気で坐ったのが与右衛門である。与右衛門役は「岩田直二」さん。その風貌は、とてもヤクザの貸元には見えない。(そういう設定だから適役だが)
今までの貸元役でこの部類に入る人と言えば、「龍胆は夕映えに……」の文五郎役「下元勉」さん、「雪に花散る……」の仁五郎役「松村達雄」さんだろう。どこか商家の大旦那風。

この与右衛門が紋次郎に「サシの勝負」を申し出る。「サシの勝負」……いわゆる1対1の勝負であるが、思い出すのは記念すべき第1作目「川留め……」。この時は、女壷振りのお勝が「いかさま博奕」で実弟を勝たせた。

与右衛門は紋次郎に、風変わりな勝負を口にする。「自分が勝ったら、五日間、紋次郎は長脇差を抜かない、と誓約せよ」と言うのだ。奇妙な申し出である。
テレビ版と原作では、紋次郎が負けたら長脇差封印……という趣向は同じだが、「エーッ!それじゃあ紋次郎サン、かわいそうじゃないですか!」と同情するのはテレビ版の方。

原作での与右衛門の提案
折角の勝ちを無しにすることはしない。手許の駒札には手をつけずに、勝負をする。自分は、二十両を賭ける。紋次郎が勝ったら当然、二十両は紋次郎のもの。
しかし自分が勝ったら、向こう五日の間、どんなことがあろうと長脇差は抜かない。

テレビ版の与右衛門の提案
自分は四十両を賭ける。紋次郎が買ったら四十両は紋次郎のもの。(ということは締めて七十両の勝ち?!)しかし自分が勝ったら四十両、紋次郎からいただく。(しかし紋次郎は不足分の十両を持ち合わせていない)足りない十両の代わりに五日間、長脇差は抜かない。

テレビ版の案だが、持っている駒札以上の金額を賭けさせて勝負することは、この渡世で許されるのだろうか?という疑問が残る。原作はちょっとした気紛れからの提案といった感じだが、テレビ版は十両払えないなら、命を賭けろと言わんばかりである。
どうして原作と変えたのだろうと思う。

「サシの勝負」が始まる。テレビ版では大勝負なので、壷振りは紋次郎に壷と賽子を検めさせる。このへんは納得。
壷が振られた。息詰まる瞬間である。「半……」先に紋次郎、「丁……」続いて与右衛門の声。

未だにわからないのだが、サシの勝負の場合、どちらが先に言ってもいいものなのか、ということ。
それともやはり、申し込まれた方が先に目が読めるのか。もし同時に、同じ目を読んだらどうなるのか。

結局、賽の目は「丁」で、紋次郎は勝負に負ける。

「年寄りに花を持たせてもらったな」と与右衛門は言葉を紋次郎にかける。
「恐れ入りやした」と紋次郎。

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

原作では駒札はそのままということで、三十一両と二分を換金、その内六両二分を若い者への祝儀ということで紋次郎は返金している。

テレビ版では長脇差に封印をする様子が映像化されている。与右衛門の子分が「五日間長脇差を抜かない」という誓紙を細かく畳み、鍔と下げ緒に結びつける。その結び目に紋次郎は血判を押す。
与右衛門は紋次郎の行き先が美濃と聞き、検分役として草鞋を脱いでいた客分をつけるので一緒に道中をしてくれと頼む。明け六つに刈谷原宿の高札場でその渡世人は待っているから……と付け加える。

「今夜はゆっくり休んでくれ」と声をかけられ、「今何どきで?」と紋次郎は尋ねる。「四つ半を過ぎた頃かと……」とそばの子分が答える。この辺は重要。

その後ナレーションが入る。
「ゆきがかりとは言え、つまらぬ賭をしたと思った。だが負けたことには、別にこだわりはなかった。ただ一つだけ紋次郎の気分をを重くしたのは、吉五郎という検分役と道中をしなければならないということであった。」

三十両を手にできなかったことに、こだわりはなかったというテレビ版の紋次郎……さすが物欲のない姿である。むしろ長脇差を五日間抜けないということより、道連れをつくる方が気が重いという紋次郎に、紋次郎らしさが出ているようにも感じる。
原作でも「五日間に限られているのだから、長脇差を抜けなくても不自由は感じないはずであった。」と記述してある。

しかしあれほど肌身離さず身につけ、自分の身体の一部のような長脇差が抜けないのに、危機感を覚えないのは不思議である。よほど自信があるのか、楽観的なのか……。
前々回の紋次郎は、長脇差が見当たらないことに焦りの表情まで見せていたのだが、どうも抜けない長脇差であっても腰に落としていれば落ち着くようである。

場面は切り替わって寺の境内。映像を目にしただけで、懐かしさを覚えた。これは「駈入寺に……」のロケ地「丹波国分寺」である。
「駈入寺に……」とはアングルが違うが、手前に銀杏の太い樹の幹が見え地面は黄色の絨毯である。
この銀杏の樹は「オハツキイチョウ」(お葉つき銀杏)で、天然記念物に指定されている珍しい巨木である。別名「乳イチョウ」とも呼ばれ、枝から乳のように垂れ下がった形状のものが映像でも見てとれる。この後、墓石も見えるがこれもこの地での撮影だろう。
白い霧が流れ、辺りは霞んでいるが、銀杏の落葉の様が美しく見え風情のある映像である。

寺の住職と与右衛門が、何やら親しく喋っている。傍らには、みすぼらしい恰好の小娘がいる。与右衛門は住職に、この娘のために往来切手をしたためてやってくれと頼む。
住職は「まさかその娘を使いに立てるのでは?」と訊くが、与右衛門は否定する。

与右衛門と住職の話は続く。与右衛門のところに草鞋を脱いだ女壷振りが鳥居峠で斬殺され、遺体が薮原の極楽寺から送られてきたと言う。棺桶には女の亡骸。
「女なら見逃すこともあると思ったが……可哀相なことをしました。」
与右衛門が深刻な顔で呟く。
「何とかせにゃあな、与右衛門……」と住職。

壷振り女が斬殺される様子の映像。何人かの渡世人たちに追い詰められ、滅多斬りにされる様は残酷で見ていられない。執拗に斬りつける演出は必要だったのか、とあまりいい気持ちはしない。殺される女の斜め後ろには、あの「福本清二」さんの顔が三度笠の下から覗く。

「その紋次郎とやらもさっきの小娘も、往来切手をしたためるのはいいのだが、棺桶に入って帰って来ないように祈らんとな。」
と住職。
「万に一つもそんなことは……」
と与右衛門は答える。
どうも今回の賭場での趣向は、ただの気紛れではなくからくりがありそうで、雲行きが怪しい。

小娘……と言っても、まるで少年のような身なり。この娘役に「服部妙子」さん。前シリーズの最終回「上州新田郡三日月村」で健気なお市の役で出演して以来、2作目となる。
服部さんはあれから約5年経っているが、そのギャップは感じない。とは言え、原作では歳は十四、五とあるので、かなり無理があるように思う。できれば実年齢の子役を使ってほしかった。

宿場の高札場に向かう紋次郎。待っていたのは検分役の吉五郎。この吉五郎が「林与一」さん。
同じ三度笠姿ではあるが紋次郎とは大分違う。一言で言うと。小綺麗である(笑)。

さすが二枚目役者と呼ばれるだけあって、林さんの容貌は美しい。顔のドーランの色は、紋次郎より2トーンは白いであろう。
原作通りの吉五郎であれば、映像的にはガッカリだったので、林さんの起用はある意味、奥の手だったように感じる。
原作の吉五郎の容貌は、以下の通りである。

「紋次郎も長身だが、吉五郎は更に背が高くて大男という感じであった。顔が馬のように長かった。見るからに好人物、という吉五郎の人相であった。」
そして自らを「馬の吉五郎」と異名を明かしている。

林さんは中村紋次郎より10センチほど小柄、顔は面長だが紋次郎ほどではない(笑)。
道中合羽の丈は、当然だが紋次郎よりは短めで、三度笠も小さめ。元歌舞伎役者で時代劇スターらしく、身のこなしや台詞回しには品があり、往年の正統派旅鴉である。異端児、紋次郎とは対照的ではあるが、作法や言葉遣いなど渡世人としてのわきまえはキチンとしていて、年季の入った風情である。
吉五郎は、「何事も起こらなけりゃあいいんですがねぇ。」と言うが、起こらないはずがない。
(中編に続く)

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/167-a437474b

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

嗚呼、この回は録画したものの、とある理由で、見ないことに決めてるんです。
その理由とは、お夕さんはもうご存知でしょうが、ここでは「後編」の際に明かします。

冒頭の賭けも理不尽なものに変わってる上に、最初から「滅多斬り」ですか。
風景描写が美しかったら、途中までは見てみようかな、と思ったりしてもいたんですが…。

吉五郎、紋次郎より背が高くて顔が長いという原作どおりの人を芸能界で探したら、馬場さんくらいしか居ないのでは。(笑)

  • 20110918
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

この回は、「スタッフにお説教バージョン」だったと思いますが、コメントをいただきうれしいです。

風景描写については、「うーん、五分五分かなあ」と言ったところでしょうか。

国分寺の霧の朝は、なかなかよかったですし、お捨が望郷の念を込めて眺める夕焼けもそこそこ良かったです。(もっと空が赤く染まっていれば、よかったが)
しかし細かく見ると、「えーっ!?」と言うところもあります。

TOKIさんのご気分のよいときに、次回以降の拙ブログをお読みください(笑)。

馬場さんの三度笠姿も見たかったですね。
16文の草鞋は特注になるんでしょうか(笑)。


  • 20110919
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

物語プラス解説つきで今回もおもしろかったです。林与一さんのこともよくわかりました。ヽ(^。^)ノ

7・21の記事に今更ながらコメントをいれさせていただきました・・・。(^^ゞ

  • 20110922
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(前編)

ぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

私の方こそ、更新が遅くて申し訳ありません。
この場をお借りいたしまして、皆様にもお詫びいたします。

これに懲りませず、よろしければまたおいでくださいね。

  • 20110922
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/