紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

(原作 第46話)(放映 1978.1.4)
二人は並んで歩く。同じように道中合羽を引き回しているが、吉五郎は合羽を背中に跳ね上げている。こちらの方がオーソドックス。一方紋次郎は、いつものように合羽の前を閉じている。明るく人の良さそうな吉五郎、暗く沈みきった様子の紋次郎……内面の違いを視覚的に表しているようにも見える。

途中、半端な流れ者3人組に「抜かずの紋次郎か!」と嘲弄されるが無視。五日間、長脇差を抜かないという噂は、あっという間に街道筋には伝わっているようである。
紋次郎に恨みを持つ者にとっては、大きなチャンスである……と吉五郎も心配する。
「与右衛門さんはあっしに、何か下心があったのでは?」と、吉五郎に尋ねる紋次郎。紋次郎、今頃気づくとは……。

その問いに吉五郎は、事情を話す。
評判のいい「仏の与右衛門」をやっかむ連中がいる。それが「安原の鉄蔵一家」で、与右衛門のところに草鞋を脱いだ渡世人を、次々に叩っ斬っている。そのため、この半年賭場に立ち寄る者はいても、草鞋を脱ぐ旅人はいないと言うのだ。卑怯なやり方で、渡世から与右衛門一家を抹殺しようとしているのだ。

この無法ぶりを鉄蔵の親分筋にあたる、美濃にいる「駒場の留造」に文で知らせようと何度も使者を送っているが、いずれも途中で殺されている。先日も、頼んだ女壷振りが殺された。それで尾張に戻る吉五郎の身の上を案じて、与右衛門は紋次郎に吉五郎をつけたのだろう、と仔細を話す。

原作は「安原の鉄蔵」ではなく「太郎兵衛」。「太郎兵衛」ではいかにも弱そうな名前なので、鉄蔵としたのか。
テレビ版では、温厚だが非力な与右衛門一家の縄張りを狙って、騒ぎを起こしては挑発行為を繰り返す太郎兵衛一家。無条件降伏を狙う太郎兵衛一家に話し合いなど望めそうにないし、事を荒げることも与右衛門はやりたくない。そこで、太郎兵衛が頭が上がらないとされている駒場の留造に窮状を訴え、手を下してもらおうと文を送ることになったが、いずれも失敗に終わっている。

やはり渡世の世界なので、縄張り争いの件をテレビ版も説明して欲しかった。

焚き火であぶった餅を二人は食べて、先を急ぐ。餅は当時の携帯食の一つである。

二日目、二人は騒ぎを起こしたくないので、安原を避けて通るがその姿を鉄蔵一家は捉える。鉄蔵は子分の三之助たちを刺客として放つ。
三之助役に「草野大悟」さん。前シリーズ「背を陽に向けた……」では紋次郎にからみ、あっさり斬られる乞食渡世人役だったが、今回はちゃんと名前もある。

「紋次郎と吉五郎を、駒場の留造親分の所に絶対に走らせるな。何とかして紋次郎に長脇差を抜かせて、叩っ斬れ」とハッパを掛ける鉄蔵。

二人は一膳飯屋で昼飯を食べている。いつもの「紋次郎喰い」ではあるが、吉五郎という連れがいるので、少しはスピードダウンしている。吉五郎は行儀良く三度笠を外し、普通に食べている。
店の奥には例の汚い小娘が、紋次郎顔負けの食べ方で飯を掻き込んでいる。与右衛門が食うだけ食わせ、三日ほど世話をして百文の金まで恵んだと吉五郎が話す。

紋次郎がさっさと食べ終わって小銭を置いたとたん、この小娘はそれをつかみ取って外に飛び出す。が、その瞬間吉五郎に足を懸けられ、転倒する。
吉五郎に咎められるが、「盗まれる方がマヌケだ!」と憎まれ口を叩く。年端もいかない浮浪者が生きていくには盗みぐらい何とも思っていない様子である。
「今日のところは許してやるよ」と寛大な吉五郎。紋次郎は無言で店を出る。

鳥居峠に向かう二人の後をつける三之助たち。
今度はあの小娘は茶屋の豆餅をザルごとかっぱらって、店の者に追いかけられている。紋次郎の背後に隠れた小娘を吉五郎は、「今度は許せねえ!」と襟首をつかんで店主に引き渡そうとする。娘が「放せ!放せ!」と大声でわめいているところへ、紋次郎がスッと割って入り店主に代金を渡す。

「勘弁してやっておくんなはい」原作によると一分金。これはかなりの大金であるので店主は大喜び。吉五郎はそんな紋次郎の行動に驚いた様子である。
原作の紋次郎は、賭場で勝った大金が懐にあるので、かなり太っ腹なところを見せるなあ、と思った。紋次郎は吉五郎の飯代も払っているのだ。
テレビ版では儲けはなかったはずだが、金には執着しない紋次郎なので、大金があろうがなかろうが同じ事をしただろう。
今回の紋次郎はこの小娘に、明らかに感情移入している。紋次郎は、故郷を捨て街道をねぐらとしていた、少年期の我が身を重ねている。

物陰からその様子を見ている三之助。子分からあの小娘が与右衛門の所で世話になっていたと聞き、小娘が使者かもしれないと目を付ける。紋次郎と吉五郎はお捨の用心棒かもしれない、とまで考えている。

娘は豆餅が入ったザルを抱えながら紋次郎たちの後ろを歩く。その内、自然と吉五郎と会話が始まる。娘の名前は「お捨」。その名の通り捨て子だったがうだつの上がらない流れ渡世人に拾われ一緒に旅をしていた。しかしその育ての親も2年前に死んだ。今際の際に、お捨は美濃の巻金という所で捨てられていたと聞かされ、生まれ故郷が見たくなり一人旅をしていると言う。

悲惨な境遇ではあるが、お捨は実にあっけらかんとしていてたくましい。
紋次郎は、二人の会話を無言で背中で聞いている。
お捨は二人の後先になりながら、一緒に道中するが、途中で三之助たち一行が後をつけていることに気づく。

第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

三日目は大雨。飛び込んだ店で紋次郎は、お捨に簑笠を買ってやる。お捨は嬉しそう……こんな親切な紋次郎も珍しい。吉五郎はそんな紋次郎の意外な一面を見て、表情を和らげる。
土砂降りの中、紋次郎たち三人と三之助たち一行が街道を往く。お捨は雨の中でもはしゃいでいる。
峠で焚き火をし濡れた合羽を乾かしながら、紋次郎は初めてお捨に口をきく。
「おめえさん、どうして美濃へ行きなさるんで……?」
「ひょっとしたらそこに、おっかあがいるかもしれねえから……」

その夜、三人は旅籠に泊まる。テレビ版は、木賃宿ではなく平旅籠。
繕い物をする紋次郎にお捨は訊く。
「紋次郎さんは故郷(くに)に帰りたいと思わないか?」
無言で針を動かす紋次郎にお捨は執拗に「どうしてさ?」と、顔をのぞき込むようにして尋ねる。
吉五郎はお捨をたしなめる。
「そんなこと訊くもんじゃねえ、人間誰だって話したくねえことがあるもんだ、」
吉五郎はよく紋次郎のことがわかっている。そして自分にも、話したくないことがあると答える。
紋次郎は、人に話したくないこと……と言うより、話したいことなど何一つないだろう。
「あたいはよく故郷の夢を見るんだ!」
お捨は純粋に故郷を見たいと思っている。見たところで、自分の境遇が一変することはないだろう。しかし自分のルーツを、この目で確かめたいと願っている。

部屋に三之助がやって来て、お捨は与右衛門の使いの者だからこっちへ引き渡せと要求する。使いの者だという証拠は?と吉五郎の問いにどこの馬の骨かわからない者にわざわざ往来切手を用意する馬鹿がいるか、と答える。

「この娘(こ)のために往来切手の面倒を見てやったのは与右衛門親分の慈悲の心でござんすよ。この娘は生まれ故郷を見たさに美濃まで道中する。ただそれだけでござんすよ。」
「じゃあどうしてもこの娘は引き渡してくれねえってんですかい」
「この娘を引き渡すのは、不承知でござんす」

無口な紋次郎にしては珍しく雄弁で、決意を述べる。

「このままではすまねぇものと、覚悟しておくんなさい。」
三之助は荒々しく襖を開け放ったまま部屋を出て行く。

四日目の朝、紋次郎たちは旅籠を後にする。
三之助たちは追ってきて抜刀し、紋次郎に長脇差を抜け!と威嚇する。吉五郎が長脇差を構えかけるが、紋次郎は首を振って制する。
三之助はどうしても長脇差を抜かないのなら、お捨をこっちへ渡せと怒鳴る。

「あっしはこの娘の楯になりやす。あっしが生きてる限り、お捨はそっちの手に渡りやせん。」

なんという頼もしい言葉だろう。紋次郎が楯になるなんて最強である。
「殺されても構わねえのか!」と迫る三之助を目の前にしても、紋次郎は顔色一つ変えない。
そして理詰めで三之助を追い込む。

渡世の作法に従って、長脇差を封印した者を叩っ斬ったらどうなるか。抜けないことをいいことに手にかけたとなると、親分の顔を潰すことにもなる。それでもいいのか。
紋次郎の冷静な言葉に、三之助はたじろぐ。

渡世人が臆病者という烙印を押されたらどうなるか、それは死を意味する……とナレーションが入る。

三之助は口惜しそうに捨て台詞を吐くと立ち去る。

このシーン、紋次郎の貫禄ある台詞回しにうっとり聞き惚れる。三度笠の縁が目の上すれすれという、一番格好良く見えるアングルもバッチリなのだが、残念なことに足元が悪い。どう見ても舗装されているようだし、おまけに白い溝蓋らしいものが画面に走っている。このあたりがチープに感じてしまう要因なのである。

その日の夕刻、お捨は峠から夕焼けを眺め「わあ、綺麗だ!」と感嘆の声を上げる。山々のシルエットが紺色に見え、空はうっすらと赤みを帯びている。お捨は嬉しそうに唄を口ずさむ。故郷が近づき嬉しいのだ。野宿のための焚き火と夕日に照らされ、紋次郎と吉五郎の姿も赤みがかかっている。
「紋次郎さん、明日はいよいよ正念場ですよ。」
吉五郎の言葉に、紋次郎は物憂い目を上げる。

(後編に続く)

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Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

理由有って「見ない作品」と決めていたものの、自然描写が気になって、あっし自身の封印を破って見てしまいやした。
光の演出も綺麗だし、廃屋の構図なども見事だし、良いですね。
お捨の行動にも、買ってもらった豆餅を紋次郎や吉五郎に差し出したりのヒューマン路線があるし。
私が問題にしてたシーンも、全体で見ればそれほど気にならなくなりました。

今回の監督の風景描写はかなり評価できますが、なんでここだけ舗装路…。
が、この後出てくる撮影地はどこかわかりましたから、そこに近くてこの当時から舗装されてた林道となると、かなり絞れてきてます。

鉄蔵 、「水車」の代貸し八五郎や、赤影の「ファイア~!」と叫んで火を放つ忍者を演じていた小田部通麿さんですね。

  • 20110925
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。
今回は街道を往くという設定でしたから、風景の映像もたくさんあってよかったですね。

舗装された道も、足元さえ映さなければ何とかなったとは思うんですけど……。

さすがTOKIさん、ロケ地がどこか、もうお解りなんですね。保津峡の方なんでしょうか。

  • 20110926
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

お夕さん、こんにちわ。

暑さとなでしこフィバーに沸いた夏も終わり、朝晩は秋めいてきて、少し元気が出てきました。

ぶんぶんさんが岩田専太郎さんの挿絵についての記事を再び書かれています。その前から読んでいたのですが、、大貫さんという装丁家さんのブログに「木枯し紋次郎」の挿絵の記事が出ています。↓ 

http://d.hatena.ne.jp/shinju-oonuki/searchdiary?word=%CC%DA%B8%CF%A4%B7%CC%E6%BC%A1%CF%BA

堂昌一さんは最近亡くなられたそうで、この方の描かれた「木枯し紋次郎」も雰囲気いいですね。

  • 20110928
  • おみつ ♦suWcSb.M
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

おみつさま、コメントをいただきありがとうございます。

いつもお世話になっています。
早速、両ブログに飛んでいきました。
至福の時を過ごさせていただきました。

書籍の良さは、やはり挿絵にあると思います。
当時の私は、岩田先生の挿絵に親しんでましたが、堂先生のもステキです。
かっこいいです、ホント。

紋次郎の、研ぎ澄まされたシルエットのラインは美しく、構図も素晴らしいです。
描かれる女性は艶っぽくて扇情的。憧れましたねえ。

お教えいただき、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

  • 20110928
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

お夕さん お邪魔いたします。

「この子をお引き渡しするのは、不承知でござんすっ」
数ある紋次郎語録の中でも、印象的な台詞の一つです。
強い決意と覚悟を宿す眼には、虚無性を全く感じられません。
紋次郎さんには、お捨さんを関わりのないこととする理由が全く見当たらなかったようですね。
こういう時の彼は、本当に恐ろしくカッコいい。

吉五郎役が林与一さんで、とても良かったと思います。
(お捨さんを思いやる)紋次郎さんを見つめる眼差しが優しいですよね^^
お二人の対比によって作品に厚みが増し、何より、
中村紋次郎さんの魅力がより一層際立つように感じます。

Re: 第14話「 白刃を縛る五日の掟」(中編)

白さま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎が何の恩義もなく、頼まれもしていないのにお捨を護ろうとする。
内なるものからわき上がる、意志のように思います。

林与一さんの渡世人姿は、紋次郎が出現する以前の正統派スタイルですね。
これはこれで、格好いい。
視覚的に「二度おいしい」状態で、その点は満足でした。
(もちろん、中村紋次郎さんの方がより魅力的ですが)

  • 20111001
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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