紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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日々紋次郎 「紋次郎兄貴の道中範囲」

日々紋次郎 「紋次郎兄貴の道中範囲」

日々紋次郎 「紋次郎兄貴の道中範囲」

テレビ版での第30話「九頭竜に折鶴は散った」で、紋次郎兄貴は越前(福井県)まで足を伸ばしやす。これは希有なことで、まず考えられねえこって。この回は原作にはござんせんで、脚本家、服部佳子女史のオリジナル、笹沢氏が監修した作品でござんす。
なぜかといいやすと、ここは三十二万石の松平家がござんすし、そこへ行き着くまでには多くの大名領を通らねばならねえからでござんす。
あっしらの歩く道は自由気ままなあてのない道中、風のふくまま気の向くまま、とはならねえんで……。

まず第一の条件は、警察力が行き届かねえ所じゃねえといけやせん。
無宿人、渡世人と見るだけで、罪人扱いされるような渡世でござんすからねえ。その点大名領はいけやせん。強固な警察力でもって支配しておりやすから、あっしらはおいそれとは通過できやせん。それにおマンマの食い上げにもなりやす。あっしらは賭場がねえと金を懐にできやせん。大名領には貸元や親分は生きていけねえわけですから、当然賭場も開かれやせん。路銀に困り、どこかの親分さんに一宿一飯を頼むこともできねえんでござんす。
となるとどこか、ということになるわけでござんすが、警察力が交錯しているところということになりやす。小大名領、天領、旗本領、寺社領などが混在しているところが、あっしらの生きる場所なんで……。
この条件でいきやすと、関東地方、東海地方、信州、甲州あたりでござんしょうか。
中でも上州は養蚕業が栄えておりやすんで、よく金が動きやす。それに上州を抜ける街道も多くござんした。

ここで第二の条件、金や人の動きがあること。
金が動き人の往来が多いことが、賭場の栄える条件でござんすから渡世人も多かったんでござんす。
それで上州の渡世人のことを上州長脇差(じょうしゅうながどす)と呼び、一目置かれていたんでござんすねえ。しきたりや作法には滅法厳しかったんでござんすよ。

原作のシリーズの中で珍しく長編になった「奥州路・七日の疾走」。銚子に向かうはずの千石船が難破して、紋次郎兄貴は八戸まで流されやす。そして、
「野垂れ死なねえうちに奥州を駆け抜けて、関八州の地を踏まなけりゃならねえんで……」
と強行軍が始まるんでござんす。
奥州の堅気の衆は、流れ旅の渡世人など殆どお目にかかったことがござんせんから、珍しがったり、好奇の目を向けたり、警戒したりという様が記載されておりやす。同じ日本でも、えれぇ違いがござんすねえ。まるで異国の人のような感覚でござんしょうか。

それと紋次郎兄貴は江戸には足を向けやせん。原作の始まりは「赦免花は散った」でござんすが、この回で紋次郎兄貴は唯一の兄弟分だった日野の左文治に裏切られ、小伝馬町の牢に送られた後三宅島に送られやす。思い出したくもねえ江戸での出来事でござんす。
「大江戸の夜を走れ」では気が進まない中、罪人為吉の最期を見とりに江戸に足を向けやす。ここでもやはり、欲に目がくらんだ奸計が待ち構えておりやした。江戸にはろくな事がねえんでござんすよ。
やはり紋次郎兄貴には、江戸のような華やかな場所は合わねえと思いやすよ。

紋次郎兄貴も「黄門さま」の様に、全国津々浦々を歩くことができたら、どんな話が展開したんでござんしょうねえ。

それでは、ご免なすって。

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Re: 日々紋次郎 「紋次郎兄貴の道中範囲」

詳しい御説明ありがとうございます。
犬猫は歩けても、渡世人は日のあたる道は通れなかったんですな、なるほどねぇ。侠客と同類だったってことでしょうか…。
良い時代小説を書く作家さんは、膨大な資料を用意してその頃の世相や常識、環境、人の価値観等などを徹底的に調べ、これでもかというくらいに検証した上で ようやく出版に至ると聞いたことがあります。
それでこそ小説の中の人物が、人間くさく感じられるんですよね。

  • 20090528
  • マイタ ♦B2BsuZNw
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Re: 日々紋次郎 「紋次郎兄貴の道中範囲」

マイタさん、コメントをいただきありがとうございます。
笹沢氏の時代考証には説得力があります。紋次郎はフィクションではありますが、実在したかと思われるほど存在感があります。
天保時代の史実を元に、限られた設定の中、想像や推理も組み込みながらストーリーを作っていく作業は大変だったようです。
もう二度と笹沢氏が描く紋次郎には会えませんが、作品中の紋次郎は永遠に街道を独り歩き続けます。

  • 20090528
  • お夕 ♦wikz35BA
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