紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)
(原作 第36話「狐火を六つ数えた」)(放映 1978.1.25)
DVDのブックレットによると、原作は「狐火を六つ数えた」と言うことだが、首をひねる。どこに原作のかけらがあるかと、かなり探さないと見つからない。
なんとか、かけらを拾い集めてみた。

○ 舞台が原作と同じく飯田宿、大平街道などの地名が出てくる。
○ 登場人物の名前が原作と同じ……お夏、お常、中津川の音蔵、松尾の茂兵衛、与吉など
○ 水車小屋が出てくる。
○ 追っ手に追われ、助けを求める子(赤子)連れの女を見殺しにする。
○ お夏は三つ子を産む。

上記の点は、ストーリー展開にはほとんど関係がなく、今回はオリジナル作品といってもいいのではないだろうか。

しかし他の作品で、本展開のいくつかの材料は見られる。

目籠破りをする……「朝霧に消えた女」
子どもからなじられる……「無縁仏に明日をみた」
女が子どもを宿している……「赦免花は散った」
掠われた女が、情を移す……「冥土の花嫁を討て」
仇討ちをしようとする……「雷神が二度吼えた」「冥土の花嫁を討て」
手の甲に本人という証拠がある……「明日も無宿の次男坊」

ではどうして原作の「狐火……」を映像化しなかったのか……。これについては想像するしかない。
1.知的に遅れがある女をレイプ
2.母と赤子を斬殺
3.妊婦をリンチ
4.老婆を斬殺

かなり残酷な内容であるのは確かである。しかし、1.については「土煙に絵馬が舞う」で映像化している。
2と3はやはりハードである。それに紋次郎が、老婆に長ドスを振るうというのはあまり考えられない。もっとも、この老婆はかなりの「ワル」なので、紋次郎の掟からは外れているともいえる。
とにかく、脚色は無理と考えたのだろうか。全く話は別物となった。

ブックレットには「死神が六つ数えた」というサブタイトルが用意されていたとあるが、結局本タイトルに落ち着いたようである。

今回は原作と呼ばれるものから、かなり展開が離れているので、台本と比較しながら進めていきたいと思う。
台本のタイトルは「狐火を六つ数えた」のままであるので、いつ本タイトルに変更されたのだろうか。台本の最後には注釈がある。

☆ サヴ・タイトルが、
 「女が二度泣く水車小屋」
 「死神が六つ数えた」
 に変更されるかも知れません。
(台本より抜粋)

そして鉛筆書きで、「女が二度……」の方が丸で囲まれているから、最終こちらに決定したのであろう。タイトルというのは、結構ギリギリまで変更がきくようである。

脚本は津田幸於氏で、津田氏の脚本は今回だけである。津田氏はテレビドラマの「水戸黄門」や「大岡越前」を、最初に手がけた高名な脚本家さん。恥ずかしながら、今回調べて初めて知った。現代劇も書かれておられ「七人の刑事」「部長刑事」も、津田氏が書かれていたということである。

オープニングは土砂降りの雨。その中を旅姿の渡世人が走ってくる。その男は伊佐吉と呼ばれていて、鳥居をくぐり小屋に駆け込む。
この雨のシーンは白く煙っていてなかなか美しい。

中には二人の渡世人、銀次と武七。どうもこの二人の親分である音蔵の目籠破りを企てているようである。伊佐吉はその助っ人で音蔵の兄弟分、松尾の茂兵衛の身内の者である。
あまりはっきり顔が分からないのだが、この武七役は「阿藤海(快)」さんで、中村氏がよく世話をしていた役者さんである。

伊佐吉役は「平泉征」さん。最近ではNHKの「サラリーマンNEO」で新たな個性を発揮され、楽しませてもらった俳優さんである。ブックレットにはなぜか「九吉」と書かれているが台本には「伊佐吉」とあり、ドラマ内でもそう呼ばれているので、ブックレットは間違いである。

ちなみに同じくブックレットには、「正太」とあるが台本では「庄太」、「倉之助」は正しくは「倉之介」である。ブックレットの解説を書いておられる人は、何を資料にされたのだろうか。

たった三人で、佐渡送りの目籠破りができるのかと銀次も心配しているが、私も無茶な話だと思う。正式な剣法の修行を積んでいないヤクザが、仮にも武士が付きそう目籠を簡単に破れるものだろうか。

台本では、この密談を紋次郎が小屋の奥で聞いている。銀次が「生かしちゃおけねえ!」といきり立つが、「あっしには関わりござんせんよ。」と紋次郎は取り合わない。今までにもよくあるパターンだったが、今回は台本にはあるがテレビ版では割愛されている。

第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)
*上記は北嵯峨の竹林

目籠を襲撃するシーンは、「流れ橋」である。この後もこの橋は何度か出てくる。
台本では「目つぶしの粉」を使うように書かれているが、実際には使われていなかった。
たった3人ではあるが長脇差を振り回し、護送役人たちを叩っ斬り音蔵奪回を果たす。
台本ではこの時にも紋次郎が姿を見せている。もちろん何も関わらずに去っていくだけではあるが、ドラマでは割愛されている。
密談も目籠破りも、その都度紋次郎が姿を見せるというのは、偶然とはいえ不自然ではあるので頷ける。

4人は走り続けて竹林に入る。台本のメモには「北嵯峨」と書かれているので、ロケ地であろう。竹林の映像が一瞬、縦長モードになり映画の一コマの雰囲気。この竹林はさすがに美しく、清廉さを感じる。
目籠破りを成功させて一息ついたその時、「母ちゃーん、待ってー。」と子どもの声。旅姿の母子(お常・庄太)の姿を、4人は認める。
とたんに音蔵の目の色が変わる。
「女を連れてこい!」

ああ、また例のパターンである。どうしてこうも、男は女を見ると襲いかかりたくなるのか。それも生きるか死ぬかの瀬戸際を、かいくぐってきた直後にである。子分たち3人も視聴者も呆れるほど、音蔵の愚かな所業である。
幼い男の子は両手を縛られ、猿ぐつわで地面に転がされている。
女は小屋に連れ込まれているが、台本では水車小屋と明記されている。しかし鉛筆で水車という文字が消され、ただの小屋となっているので変更されたようである。
小屋の中は藁が積まれていて、女は必死で抵抗するが、音蔵は野獣の如く襲いかかる。

その後映像は小屋の表に切り替わり、女の悲鳴と共に板戸が倒れフラフラと出てきたのは、なんと音蔵。首筋を真っ赤に染めてどうっと倒れる。小屋の中からは着物を乱し、手に道中差しを握ったお常が呆然として出てくる。まさしく「窮鼠猫を噛む」である。

子分たち3人は倒れた音蔵のもとに駆け寄るが、為す術もない。
「庄太~!」
お常は我が子の名前を呼び、脇差を振り回しながら逃げるが、子分たちに捕まる。お常の叫び声と着物の乱れ方はかなりのもので、臨場感があり、見ている側もドキドキする。

竹林の小径を紋次郎がやって来る。ここで初めて登場。目の前にお常は飛び出して、紋次郎に助けを乞う。
「助けてください!お願いです、助けてください!」
引きずられながらも、何度も紋次郎に縋りつこうと必死のお常だが、紋次郎は佇むだけである。

女の叫び声に男の怒号が重なり、修羅場シーンのはずだが、竹林にはうっすらと陽が差し込み、空気まで緑に染まるかのような美しい映像である。
お常は拉致されて引きずられていくのだが、紋次郎は何事も無かったかのように歩を進める。

もがく庄太は、猿ぐつわがやっとはずれて、大声で叫ぶ。
「母ちゃ~ん!」

ここでやっと紋次郎は顔を上げ、反応らしき表情を見せるが、行動には移さない。
お常は悲鳴と共に斬られ、駆け寄った庄太は縛られたままの姿で蹴り飛ばされる。地面に転がった庄太の背にあった玩具の兜が、踏みつけられる。
この玩具の兜は台本上はなかったので、後で付け加えられたもの。紋次郎の優しさを表すグッズとして、後で重要な役目を果たす。

しかしこの時の紋次郎は、無慈悲にもその脇を無言ですり抜けていく。

「えーっ?!なぜ、助けないの?子どもだよ!子どもが大変な目に遭っているのに、そのまま行っちゃうの?」

ちょっと、ガッカリである。

原作では、浮気をした夫を思いあまって殺してしまったお常。追っ手に掴まれ、お常は助けを求めるのだが、紋次郎は断る。
その時草むらから赤ん坊の泣き声が聞こえ、紋次郎は振り返り猛然と駆け戻るのである。
お常ひとりだけなら関わらなかった紋次郎だが、赤ん坊がいたとわかるや否や、助けに行くのである。しかし間に合わず、お常も赤ん坊も殺されてしまう。

「最初から赤ン坊がいるとわかっていたら、紋次郎も何とかしたはずだった。他人の面倒を見ないというのが、紋次郎の生きていくための手段ではあっても、相手が赤ン坊であれば話は別なのである。」
(原作より抜粋)

赤ん坊なら助けるが、子どもはだめ?いや、そんなはずはないだろう、と台本を見るとテレビ版の展開とはやはり違っていた。

「母ちゃん!」と叫んだ庄太を認めると、紋次郎はすぐさま駆け戻る。泣き叫ぶ庄太を斬ろうとする武七に楊枝を飛ばし、腕に突き刺さる。その後、武七と銀次は紋次郎に斬られて倒される。
(台本上の展開)

市川監督版の紋次郎は、決して人に向かっては楊枝を飛ばさない。「新……」では、人に向かって楊枝を飛ばす紋次郎はあったが、今回はなかった。
他にも、斬られたお常が今際の際で印籠を紋次郎に手渡すとか、命を救った庄太から「人殺し」呼ばわりするとかは割愛されている。

実際のテレビ版は、お常殺しを目撃されたという口封じのために、子分たち3人は紋次郎に長脇差を抜く。
竹林の殺陣を見るのも久しぶりだが、やはり美しくて私は好きである。
結局テレビ版での紋次郎は、自分から怒りの長脇差は抜かず、降りかかった火の粉を払ったという形で終わっている。
音蔵一家の子分である銀次と武七を斬り、伊佐吉を残して紋次郎はその場を逃げるように去る。縛られて倒れた庄太をそのままにである。
やはり納得いかない。
(中編に続く)

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Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

原作の「狐火を六つ数えた」は、ちょっと気になっていた話です。
というのも、狐憑きとして暴行したり煙で燻したりして人を殺してしまう話は、昭和40年代に秋田で実際にあった事件で、中岡俊哉「日本ミステリーゾーン」で取り上げられ、矢口高雄も漫画でこの話を、新聞のコピー入りで描いてました。
笹沢さんも同じ事件に取材したのなら、相当ショッキングな出来事だったんだなあ、と。

で、テレビ版【水車小屋】が、どう【狐火】なのか、「私が映像を観るのは、お夕さんの書かれたところまで」という自戒を破り、最後まで見てしまいました。
…地雷は有りませんでしたが、お夕さんの書いておられるとおり、人名以外はほとんど共通性がありませんねえ。

どっちみち陰惨な話だし、「狐火」を少し変えた程度でも良かったのに、どうしてここまで改変したのか、疑問に思いました。
また、目籠から救出されてすぐに「女」というのは、私は「中山峠」を連想しました。

竹林の美しさ、私も前作紋次郎のOPで目覚めました。
そしてブームの頃、敦夫さんが「スター千一夜」に出演され、背後のスクリーンにこれまでの名場面が映し出され、その中に竹林での殺陣シーンがあり、「この美しい竹林は、一体どの話だったんだろう」と、ビデオも無かった時代なので、長い年月疑問に思ってました。
かなり経ってからの再放送で「大江戸の夜を走れ」だったと知った時は、喉にずっと刺さっていた魚の骨が取れたような気分でした。

今回の竹林の写真も美しいですね。
竹林って、見るぶんには綺麗でも、カメラに収めようとすると、ただの模様みたいな文脈の無いものになりやすく、私はよく失敗したのですが、しっかり主役級を配して文脈を作っておられるのは、さすが、お夕さんです。

 追伸
昨夜の探偵ナイトスクープは「海鳴りの音を聞いてみたい」でしたね。
モンジラー(仮称)なら、胸をときめかせて鑑賞していたことでしょう。(笑)

  • 20120107
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

昭和40年代に、そんな話がまだあったんですね。なんだか、横溝さんのにおいもします。
この「狐火……」というタイトルも、「狐憑き」が絡むので名付けられたわけですから、どう考えてもタイトルを改変しないと無理ですよね。
原作で紋次郎が、お腹の赤ン坊の父親だと名乗るあたりは、紋次郎なりの侠気を感じて好きなんですけど……。

まったく違う話にする場合、脚本家の方がプロットを考えるんでしょうか。
ちょっと、お涙頂戴風に仕上がっていますよね。紋次郎が、主人公でなくてもよかったような印象を受けます。

竹林を撮るなら、やはり京都が一番だと思います。
「大江戸の……」では、嵯峨野の鳥居本八幡宮がロケ地でしたが、ここも竹林があります。殺陣の竹林は、ここだったのかもしれません。
竹林は、人が手入れしないと無惨な有様になります。竹林を護り、丹精込めて手入れをする方がいてこそ、あの美しさがあるんですね。感謝します。

モンジラー(仮称)は竹林に、強い憧れと思い入れがあると思います。あの短いOPの竹林と紋次郎の姿が、いかにかっこよかったか……あらためて、OP映像のすばらしさを感じます。

〔追伸〕
本日の京都新聞に、敦夫さんの記事がありテンションが上がりました(笑)。
「時代劇を守る」と題したもので、テレビ時代劇の衰退を憂える内容でした。
「映像京都」も解散し、寂しい限りですね。

  • 20120108
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

お夕さん、明けましておめでとうございます。

年末からインフルエンザで咳をするたびに頭が割れるように痛み10日ほど寝込んでおりました。10日で2kgほど体重が減って、普段はいくらダイエットしても殆ど減らないのに、「年取ったなあ」と実感しました。近所のお年寄りに「ある程度の年になれば予防注射が必要!」と言われたりして(笑)

今日が私の元旦のような気持ちで、今年一年も多くの紋次郎ファンと意見交換できる幸せを感じたいと思います。

カミヤッカーさんもおっしゃってましたが、放映から40周年。何か動きがあればいいなと思いますが、年末の時代劇が「忠臣蔵」だったようで、なぜ今更「忠臣蔵?」と不思議に思ったものです。

世界的に格差の不満が広がっている今こそ底辺に生きる人々の苦悩や嘆き、たくましさを表現するには「木枯し紋次郎」はいい題材と思うのですがね。

今年一年も、宜しくお願いします。

  • 20120110
  • おみつ ♦suWcSb.M
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

おみつさま

新年明けましておめでとうございます。

おかげんが、よろしくなかったんですね。
大変でしたね。
私はワクチンを接種しましたが、油断禁物。
何とか元気に、冬を越したいと思っております。

40周年のこの年に、連続ドラマ枠から時代劇が消えてしまいましたね。
寂しいです。
面白そうな時代小説が、たくさん発表されているのですけど……。

そういえばこの12日に、光文社文庫で「木枯し紋次郎(上): 生国は上州新田郡三日月村 」が発売されるようです。
どの話が収録されているのか、興味があります。
ドラマの紋次郎を知らない若い世代の人にも、是非読んでいただきたいものです。
またブームが起こらないかと、少し期待をしたりもしています。

今年も宜しくおつき合いくださいね。

  • 20120110
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

こんばんは♪

あの、「逃亡者おりん」が、5年ぶりに帰って来ます。
テレビ東京系で1月17日より連ドラです。
毎週火曜日深夜1:30からの放映です。
テレビ大阪は
1月21日(土)
毎週土曜 深夜2時25分~ スタートです。

この番組、前作は青山倫子さんが初めての時代劇で初々しく楽しんで観ましたが、女性に聞くと「何でレオタード姿になるの」男性にサービスし過ぎしと、不評でした(笑)

なにはともあれ、テレビ時代劇の復活は嬉しいです。
深夜枠が少し辛いのですが、ビデオに録画となりそうです。

「仕事人2012スペシャル」も2月に放送されます。
今回は高橋英樹が悪役に挑戦とか、こちらも楽しみです。

では、又♪

Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(前編)

ぶんぶんさま、コメントをいただきありがとうございます。

情報をいただきありがとうございます。

テレビ東京、やってくれますね。
前作は未見なんですが、(私も何となくレオタードが?だったんで…笑)録画して観てみようかな、と思っています。

テレビ東京といえば、「新 木枯し紋次郎」を放映したテレビ局ですね。
頑張って欲しいものです。

「必殺仕事人」もあるんですね。嬉しいです!
仕事人は復活しても、紋次郎はないんですね……。
フジテレビさん、何とかなりませんでしょうか?

  • 20120111
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
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