紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第17話「 女が二度泣く水車小屋」(中編)

第17話「 女が二度泣く水車小屋」(中編)

第17話「 女が二度泣く水車小屋」(中編)
(原作 第36話「狐火を六つ数えた」)(放映 1978.1.25)
一方伊佐吉は、松尾の茂兵衛一家のもとに戻り、事の仔細を報告する。茂兵衛は音蔵の縄張りを乗っ取り、岡場所をつくろうと画策していたのだ。目籠破りで音蔵に恩を着せるつもりだったが、音蔵が死んでもっけの幸いである。
用心棒の浪人が「濡れ手に粟だな。」と言葉を発したとたん、咳き込む。どうも病持ちのようである。茂兵衛が「旦那、身体大事にしておくんなはいよ、でないとお夏さんが可哀相ですぜ。」と声をかける。ここで、「お夏」の名前が出てくる。要チェックである。
「俺に、命なんてものがあったのかねえ……」と自嘲気味に呟き、浪人は席を立つ。

茂兵衛役に「井上昭文」さん。いわゆる悪役の俳優さんである。前シリーズでは「湯煙に……」で「奈良井の権三」役、「木っ端が……」では「鬼勘」役で好演された方である。安心して悪役を堪能できる俳優さんである。
旦那と呼ばれた浪人は、「倉田源之介」という役名で「清水紘治」さん。長身で痩せ形、頬がこけている。鋭いが虚無的な目をされていて、何となく原作に記述されている紋次郎に似通った印象を受ける。この咳の様子では多分、「労咳」……当時だと不治の病とされている。

伊佐吉はその後も、報告を続ける。
「助けた音蔵親分を、妙な渡世人に見られた。」と言うのだ。う~ん、紋次郎は音蔵をしっかり見たのだろうか。紋次郎があの現場を通り過ぎたときは、もうすでに音蔵は殺されて倒れていたはずだが……。灰色の獄衣を身につけていたから、気づかないこともないだろうが……。そんなことより、お常の殺害を見られたほうが気になるのでは……。
しかし茂兵衛はあくまでも、自分が目籠破りに関わったことが知られるほうがやっかいなことになる、と考えている。

紋次郎の後を追う庄太の姿と共に、芥川氏のナレーションが入る。その中で、「大平街道」を「おおひら街道」と呼んでいるが、原作には「おおだいら」とルビが振ってある。調べてみると原作通り、「おおだいら」と読むようであるが、台本は「おおひら」とルビが振ってある。なぜだろう?

庄太は紋次郎の背中に、「人殺し!」という言葉を浴びせる。紋次郎は一瞬立ち止まり逡巡するが、また無言で歩き始める。庄太の背中には、壊れた玩具の兜が揺れ、チリチリと鈴が鳴る。
紋次郎は石仏や墓石が並んだ道ばたに腰を下ろし、刀で楊枝を削っている。このシーンの台本には鉛筆書きで「観空寺、水子地蔵」とロケ地が書かれている。しかし、映像では水子地蔵には見えず、無縁仏や墓石が無造作に集められているような感じである。庄太は紋次郎をにらんだ後、後ろ姿を見せて走り去る。チリチリと鳴る鈴に紋次郎は顔を上げ、物憂い目で見送る。

一膳飯屋に紋次郎の姿がある。無心に飯を掻き込む紋次郎だが、いつもの紋次郎食いではないようだ。飯の上に魚をのせ味噌汁をぶっかけて……ではなく、飯だけを食べているようで、後れて店の親爺が味噌汁らしきものを持ってくる。
「お連れさんで?」と尋ねる親爺の声に外を見ると、のれんの陰からじっと突っ立った庄太の姿。

「こっちで一緒に喰わねえか。」
初めて紋次郎が声をかけるが、庄太の鋭い声が返ってくる。

「人殺し!なんで母ちゃんを助けてくれなかったんだ!人殺し!」

直接手にかけた訳ではないが、子どもにこれだけなじられるのは「無縁仏に……」の一太郎以来だろう。

伊佐吉たち6人は旅姿で紋次郎を追う。この映像がなかなかいい。堤道を堤下からローアングルで、スピード感を持って撮影している。急ぎ足で歩く人物のシルエットに、緊張感が高まる。

紋次郎は庄太のために、店の親爺に頼んで自分の飯を握り飯にする。流れ橋の下、紋次郎は焚き火をして暖を取る。庄太の気配を察して、握り飯をそっと置く紋次郎は心憎い。
眠るふりをする紋次郎の背後からサッと握り飯を取り、かぶりつく庄太に声をかける紋次郎。
「坊主、ゆっくり噛んで食いねえ。」

その後焚き火の近くに庄太を座らせ、足を温めてやる。庄太は握り飯を食べながらポツポツと話し出す。
名前は庄太、飯田まで行って父親の仇を討つつもりだ。1年前に押し込み強盗に父親は殺された、と言う。

ここで回想シーン。夏、蚊帳、雷……台本のメモ通りの設定。庄太の父の手には賊の物とされる印籠が握りしめられ、庄太は小判をかき集める男の手の甲に傷痕を認める。刀で切られたような痕である。回想シーンが終わり、庄太の話が続く。薬売りが来て、手に傷がある侍を飯田で見たと言うので、母と確かめに旅に出たがこの災難に遭ってしまった。
庄太は紋次郎に印籠を見せ、こんな時お夏姉ちゃんがいてくれたらと話す。お夏は庄太の母の妹、押し込みの賊に掠われて行方不明と言う。

「お夏?!」(視聴者の陰の声)
鋭い視聴者なら、もう大体の筋は読めているのではないだろうか。もちろんこの時の庄太と紋次郎には、知る由もない。
庄太は紋次郎に、仇を討ってくれないか?と口にするがすぐに取り消し、「でも、おいら、きっと仇を討つんだ!」と健気な表情で言い切る。
紋次郎はそんな庄太に言い聞かせるように静かに言う。

「坊主、たとえ親のためであろうと、死んだ人間のために命を張るなんてくだらねえこった。仇討ちなんか忘れるんだ。」
印象的な紋次郎の台詞であるが、実は台本にはない。
脚本家の津田氏は、紋次郎の仇討ちに関する諸々はご存知なかったのかもしれない。
仇討ちの話は今までに何作かあり、紋次郎はその都度止めようとしている。

「水車は夕映えに……」では、許嫁を殺された仇を討つと言うお縫に「もう忘れてやりなせえ。」と諭し、
「冥土の花嫁を……」では父の仇討ちをするという征之進に「過ぎた日の恨みを、生きる支えにしていなさるんですかい。」と批判する。

紋次郎は仇討ちは無意味なものだと思っている。死んだ者のために、生きている者が命を懸けるなんて愚かなことだとしている。また恨みを生き甲斐にすることの哀しさや、恨みを晴らしたところで、何も生まれないことも、達観している。仏の教えと通じるところがあるのだ。

今までの紋次郎の姿勢を知っている、昔からのスタッフが、この台詞を入れた方がいいと進言したのかもしれない。いやもしかしたら、中村氏本人がアドリブで入れたのかもしれない。台本には鉛筆の書き込みも見当たらない。

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「何言ってるんだい!おじちゃん、本当は怖いんだろう?!」と庄太が言い返すと同時に、敵が襲ってくる。伊佐吉たち、茂兵衛一家の6人である。紋次郎は素早く庄太をかばい、応戦する。川砂が広がり葦が生える河原での殺陣。紋次郎の腕にはかなわないと見たか、身内を一人殺され、茂兵衛一家の5人は逃げていく。庄太も逃げたのか、紋次郎は探すが姿はない。

茂兵衛の元には紋次郎に手傷を負わされた子分たち。「歯がたたねえ!」と訴える中、「俺が斬ろう。」と源之介が刀に手を掛ける。その甲には刀傷。庄太が探し求める仇討ちの相手である。茂兵衛は飯田宿の外れに岡場所をつくるため、奉行所にも許可を取り付けている中、騒ぎを起こすとやっかいなことになるのでしばらく様子を見る……と制する。

紋次郎は独り街道を往く。堤道で空が広い。ふと庄太のことが頭をよぎり、躊躇する紋次郎。結局クルリと踵を返し、飯田宿へ向かう。関わらないはずの紋次郎が、関わるパターンであるが、そんなことならもっと早く関わるべきだった……という反省も込めてか。

飯田宿に向かう途中で村人がうわさ話をしているのを耳にする。庄太は高熱で倒れ、森田屋に世話になっているらしい。

森田屋は馬継ぎ宿で、主人は弥兵衛という老人。茂兵衛一家の者に立ち退きを迫られ、脅されている。
そこに紋次郎がうっそりと佇む。連中は歯が立たない紋次郎と騒ぎを起こすことを避け、去っていく。
紋次郎は庄太と再会する。紋次郎は、庄太が手にする玩具の兜が壊れているのを見て、悔恨の表情を浮かべる。庄太とその母お常が襲われたとき、壊れたものだ。
紋次郎は古道具屋に出向き兜の値を訊く。「一分二朱」と聞いて「失礼しやした。」と頭を下げて店を離れる。前作の帯に比べるとかなりの高額である(笑)。
実は、台本には兜の件は書かれていない。

内職のお面が長屋の部屋に並べられていて、お夏が憂い顔で待つ。源之介が咳き込みながら帰ってくる。源之介に……と薬湯を用意するが、源之介は刀の鞘で払い落とし、お夏の手から茶碗が飛ぶ。
源之介は「酒をくれ!」と、止めるお夏を振り払う。倒れてうずくまるお夏は、口を押さえて吐き気を催す。源之介はその様子をじっと見て、ハッと気づく。
「お前、まさか、子どもが……」
無言のお夏に残酷な一言。
「子ども、始末しろよ。」
「いやっ!」
「それじゃあ、おめえ、地獄じゃねえかよ。」
「どんな地獄だっていい、あたしあんたの子供が欲しい。どんなに苦しくたって、どんなに辛くたって、子供だけは……」

源之介は押し込みに入って、お夏の姉、お常の亭主を殺した。お常に仇と狙われる身……もしお常が現れたら、黙って討たれてもいいと、源之介は心の内を明かす。
どうせ死神にとっつかれた身だ……と哀しくあきらめた口調で言う。
お夏は必死になって「あんたが死ぬんだったら、あたしも死ぬ。どこかへ逃げよう!お常姉さんに頼んで堪忍してもらう!」と源之介にすがりつく。

どう考えてもこの二人は、幸せになれそうではないし、源之介にはハッキリと死亡フラグが立っている(笑)。

押し込みに入った人殺しに掠われたのに、その憎むべき男に惚れてしまった女の性。「冥土の花嫁を討て」のお縫と同じではあるが、お夏の方がずっと健気ではある。

茂兵衛のところに奉行所の役人が来て、目籠破りの一件を疑う。切羽詰まってきた茂兵衛だが、「紋次郎の居場所がわかった!」と子分が走り込んでくる。

紋次郎は野天のムシロがけの賭場にいた。どうも地元のチンピラが勝手に賭場を張っていたようである。
台本では、茂兵衛の賭場となっていたが、それはいくら何でもおかしいので、「ロケ」と鉛筆で書き換えられている。紋次郎が茂兵衛の賭場に顔を出しては、「飛んで火に入る……」であろう。
チンピラたちは蹴散らされたが、紋次郎は「自分が勝った分だから」と断ってから、賭場の金を懐に入れる。えらく金に執着しているなあ、と思ったが、庄太に兜を買ってやるためということが後でわかる。

茂兵衛がニヤニヤとやって来て、紋次郎に口止め料として、小判を何枚か握らせようとする。おまけに新しい縄張りを仕切ってくれてもいいのだが……とまで言うが、紋次郎は取り合わない。しつこい茂兵衛に業を煮やしたか、紋次郎は小判を地面に叩きつけて「あっしには関わりがござんせんよ!」と道中合羽を翻して走り去る。

その先で、紋次郎は源之介と出合う。源之介は紋次郎をじっと見つめ、鍔にかけた手の甲には刀傷が見える。ここで二人は初めて相手を認識した訳である。このロケ地、葦が生えていて浅瀬の様子。台本では「広沢」とメモ書きされているので広沢池であろう。鯉揚げのために、水が抜かれた状態である。
二人は意識しながらも、そのまま別れる。(後編に続く)


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Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(中編)

今回、「この人物こそが実は○○」という、いつもの紋次郎のどんでん返しを最初から公開してますが、「この事実を知ったら、どんなリアクションするんだろう」と楽しめました。

井上昭文さん、私はレインボーマンの師匠・ダイバダッタとして、よく覚えておりました。
http://oyako.gotohp.com/rainbow3.jpg
仏典の提婆達多と違い、主人公に技を授けたり、ピンチを救ったりの良い役でしたが、紋次郎でこんなにしょっちゅう悪役で出ていたとは気付きませんでした。
再放送で「木っ端が燃えた」を見た時は、鬼勘 やってるのは汐路章さんかなと思いました。

ゴホゴホ咳き込む痩せ浪人の用心棒。
これは、ステレオタイプとして色んなバラエティ番組などに出てきますが、普通の時代劇でじっくり見たのは初めてでした。
けどこんなのに襲われても、100メートルも走って逃げればヘバってしまいそうですね。

前回・今回の水車の写真、素敵ですね。
これ、観光用じゃなく現役のものでしょうか。
小学館「日本列島現役水車の旅」という本があり、写真がとても情感に満ちているので愛読してるのですが、田んぼの溝に裸で置かれているものが多く、レトロな小屋も一緒になっているもので現存してるのは少ないようですね。

紋次郎の放映の頃、近くの山里まで自転車で行ったら、つい最近まで現役だったような、紋次郎に出てきそうな水車小屋がありました。
が、それもすぐに無くなってしまいました。

  • 20120114
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第17話「 女が二度泣く水車小屋」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎に出演される悪役の方々は、どの方も定番の方。
今はそうでもありませんが、当時は配役を見ただけで、だれが犯人かわかりましたね。
女優さんの場合は「えっ、こんな可憐な感じの人が?!」という意外性がありました。
キャスティングというのは、大きな比重を占めると思います。

今回は人情物ドラマといった感じで、サスペンスやミステリーもありませんでしたね。

水車の件ですが、前回はある旅館の庭にあったものです。
今回は、黒澤映画「夢」の撮影ロケ用に作られた水車です。長野の安曇野にある「大王わさび農園」。
とても水が綺麗なところでした。
大勢の観光客が水車の近くにいるので、シャッターチャンスが難しかったですね。

実は、私の職場に水車があるんです。(どんな職場やねん!)
地下水をポンプアップして上から落とすというものなんですが、なんの仕事もしてませんね(笑)。
本物の水車小屋、見たいですねー。

  • 20120115
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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