紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)

第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)

第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)
(原作 第37話)(放映 1978.2.1)
なかなか原作との比較には入れない。原作では乗合船の中、周囲は海という絶望的な閉塞感。その中で起こる様々な人間ドラマが、緊迫感があり面白かったのだが、今回は遮断された漁師村である。どちらかというと、村人たちのエゴが見え隠れするといった展開である。

村に入る手前で、紋次郎は村人たちに囲まれ、村に入ることを拒まれる。村人たちは家族を人質に取られている。よそ者に入られたり、村が乗っ取られていることを知られたくない様子。紋次郎はお甲の所在を訊くと、お甲も村で人質に取られていると教えられる。紋次郎は村人に長脇差を渡し、村に連行される。
このシーンは屋外ロケで青空が見える。台本には鵜川とメモ書きされているので、高島市の鵜川であろう。近江舞子を北東に進んだ琵琶湖沿いである。
村では浪人風の男三人が狼藉を働き、村人をいたぶっている。人質を逃がしたということで、村の男が手を刀で貫かれたり、死体が吊されたりと、陰湿で残酷なシーン。

もっとも原作もかなり残酷で、絶望的な雰囲気ではある。船を乗っ取った三人はいずれも浪人者で、小綺麗な袴をはき月代は伸ばしているものの、髭は生やしていない。
はじめに江戸っ子の職人三人が抵抗したため斬殺され、海に投げ込まれる。そして、乗客の武器になりそうなものも全部海に捨てられる。高槻藩士二人の大小の刀は捨てられるが、紋次郎の長脇差は「捨てるのは惜しい」と言われ、浪人の腰に落とされる。

この時期の紋次郎の長脇差は、直光作の名刀だったのではないだろうか。浪人の目利きが良かったせいで紋次郎の長脇差は海の藻屑になることは避けられた。
この乗っ取られた船に、たまたまお甲も一緒に乗っていたという訳である。
したがって、テレビ版のように自分から窮地に赴くことはない。

村に着いた紋次郎は、浪人の前に突き出される。
先ほどの屋外ロケの続きが、屋内セットでの撮影になるのだが、画面の質感の違いに違和感を覚える。
ただ三度笠姿の紋次郎のかっこよさは健在である。かっこよく見せる撮り方は心得ている。

部屋の奥に村の女たちが集められていて、お甲の顔が見える。お甲は紋次郎の姿に驚く。

「無宿者が何のようだ?」
と問われ、村人が代わりに、そこにいる旅の女、お甲の知り合いだと答える。
「貴様その女とはどういう間柄だ。」
「一度命を助けられておりやす。」

浪人は、紋次郎の三度笠を刀の鞘で持ち上げる。三度笠の下から覗く紋次郎の顔を見て浪人は驚く。
「勝五郎?!」
「似ておる、この頬の疵さえなければ……」

ここで完全に、この浪人たちは勝五郎一味だとわかる。
他の二人も、紋次郎が勝五郎に似ていることに驚く。ちなみに最初に出てきた男は兵馬、坊主頭の男は貞之介、一番奥に控えるのは源之丞という名。
兵馬は村人から、紋次郎の長脇差を受け取り白刃を抜く。
「無宿者の腰には似合わぬ代物だ。」と、原作と同じく紋次郎の刀の値打ちに気づく。テレビ版では「志津三郎兼氏作」であろう。
その刃で、紋次郎の三度笠の結び紐を切ると、斬りつけようとするが、源之丞に止められる。
「今夜は勝五郎の通夜だ。」
貞之介も「斬っては寝覚めが悪いぞ。」と同調する。
ここで気になるのは、源之丞がチラチラとお甲の顔を見ることである。視聴者は何かある?と感じるところである。

先ほどの展開でいくと、この一味のリーダー格の勝五郎はもうこの世を去っていることになる。というと、オープニングの墓穴に埋められた男が勝五郎……墓穴を掘っていたお甲は勝五郎の女?と賢明な視聴者なら気づくところである。

ここで一つ疑問点がある。勝五郎の通夜ということは、勝五郎が既に死んでいることをこの手下たちは知っている……しかし墓穴を掘ったのはお甲である……ということは、首領である勝五郎の屍を放っておいたことになる。テレビ版の主従関係は原作よりかなり薄いような印象を受ける。

「上がれ!」と言われて紋次郎は草鞋を脱ぎかけるが、兵馬に左腕の怪我を見つけられる。
「これは?」
「これがどうかしなすったんですかい。」
兵馬は腕の傷より、血が滲んだ布を気にしているようである。
兵馬は紋次郎の傷口を鷲掴みにして引っ張り上げ、屋敷の奥に連れて行く。

残った2人の前に網元がおずおずと前に進み出る。網元役に「織本順吉さん」。前シリーズ「駈入寺に……」では、山形屋で出演されていた、温和な雰囲気の俳優さんである。
毎日漁に出て、魚を市にかけるのに今日は一艘も舟を出していない。この後もそれが続くと役人が不審がるのでは、と言うのである。

源之丞は「いつもと同じように漁に出ればいい。余計なことを喋って役人が来たら、ここにいる人質が死ぬだけだ。」と、しばらく居座るつもりである。兵馬は、「ここは居心地がいい。」と言って人質の村娘を抱き寄せる。網元は苦渋の表情である。
お甲が紋次郎の許ににじり寄って、なぜここに来たのか、と訊く。紋次郎は「借りは返すと約束しやした。」と答える。お甲は「あれだけのことに、命をかけて?」と、紋次郎の義理堅さに驚き、紋次郎の顔をジッと見つめる。

第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)

村人の一人がわめきながら飛び出して行く。村人たちがバラバラと追いかける、
「おら、もうこんなとこさいたかねえ!」
この状況に、居たたまれなくなったと見える。
「あいつら、このまま居座るつもりなんだぞ!おめえらそれでもいいのか!」
走る男に、村人たちが止めに走る。

このあたりは鵜川のロケ地に切り替わり、背後に青い琵琶湖が光る。湖沿いに、堂々とした茅葺きの屋根が見えるが、これはさすがにセットではないだろう。
「おら、お役人、呼んでくる!」と叫ぶ男を村人たちは一斉に押さえかかる。
「おらのカカァが殺されるだ! 五平の妹だって!」
村から助けを呼びに出ることは、家族が殺されることになるのである。結局、助けを呼びに行こうとした男は、村人の手によって連れ戻される。村人自らが、密室を作ってしまっている。

乗っ取られ閉鎖された村……となると前シリーズ「湯煙に……」とよく似ている。山奥の湯治場に押し入った悪党、足の怪我で身動き取れない上に、長脇差を取り上げられた紋次郎。類似点は多い。

村人たちが浜辺で騒いでいるのを物陰から覗いていた太兵衛は、兵馬に見つかり連行される。そして座敷の隅に座る紋次郎の姿を見つけ、やっと勝五郎ではないことに気づく。
「さっぱり当て外れだぜ。」とせせら笑い、いきなり兵馬の脇差を奪い取ろうとする。しかし、瞬時に貞之介が刀を振り降ろし、太兵衛の手首が板の間に飛ぶ。首コロンならぬ、手首コロン(笑)である。
作り物の手が、血だらけでゴロリと転がるシーンは、見ていてもあまりいい気持ちのものではない。悲鳴を上げて転げ回る太兵衛に、トドメを刺す様も残酷である。
今回の小松方正さんは、小悪党で終わってちょっとお気の毒だった。

しかし残酷度のレベルでいくと、原作の方がはるかに上である。
原作では、太兵衛も同じ舟に乗船していた。乗っ取られた最初は、お高祖頭巾の一味だとは知らずに、訊かれるままに答えている。
頭目である勝五郎の顔を知っているというのだ。
五十日ほど前、熱病にかかった浪人が町医者に来た。たまたまその町医者を覗いたら、十手を見たその浪人が慌てて逃げた。怪しいので町医者に訊くと、五十両も出して、いちばんの良薬と手当を頼んだという。その浪人の名は小出勝五郎と名乗った……ということは、お高祖頭巾の勝五郎に違いないと睨んだと、ペラペラと喋ってしまった。これが太兵衛の運の尽きである。

実は勝五郎は五十日ばかり前に、悪性の熱病で死んでしまった。
医者に手当てと薬を得ようと一人で出かけたが、目明かしに邪魔をされその三日後に病死した。その憎い十手持ちが太兵衛だったのだ。

その事実を聞かされても太平衛は逃げることができない。周囲は海なのである。そして乗客は、全員武器になるようなものを取り上げられている。
太兵衛は哀れ、源之丞と兵馬からリンチを受ける。
連中にとっては、頭目を殺された仇討ちという気持ちもあるだろうが、見せしめという意味もある。

太兵衛は帆柱を抱いたまま、一本ずつ体に脇差を刺される。トドメは、背中から心の臓に突き刺された五本目であった。この残酷さに比べたらテレビ版の方がよっぽどましかもしれない。
想像しただけで、自分の身が冷たい刃で貫かれていくようでゾッとする。

 帆柱のほうを見ている者はひとりもいなかった。両手で顔を被うか、上体を折って頭をかかえるかしていた。紋次郎は海へ、視線を投げていた、いまのところは、どうしようという考えもなかった。 
 この先、どうなるかわからない。助かるなら、それで問題はない。どうしても逃げられずに殺されることになるのなら、それもまた仕方がないのである。いつかは、必ず死ぬ。その死ぬときが、訪れただけにすぎないのであった。
(原作より抜粋)

紋次郎の肝が据わっているというか、常に死を覚悟している冷静な精神状態には、いつもながら驚いてしまう。
しかし凡人はそういうわけにはいかない。太兵衛の惨殺によって、乗客たちは動揺し始める。いわゆるパニック状態になる。商家の主人と奉公人、それに誘われて行商人が海に飛び込む。しかし、たちまち波にもまれて海に没してしまう。
陸地まではたっぷり一里半、おまけに潮の流れが入り組み、泳ぎが達者な者でも流されてしまうと船頭は言う。
陸地に泳ぎ着くことは不可能だとわかっていても、また男がひとり海に飛び込む。
「冥土の花嫁を……」の原作でも、増水する濁流の恐怖に、正常な判断を失う者が続出した。死を怖れる者が、一番死に近づくという皮肉な結果になるのである。

テレビ版では、お高祖頭巾の連中に立ち退いてもらうため、村人たちは網元にそれぞれ金を持ってくる。その金を渡して、何とか穏便に済まそうというのだ。
村人たちは一見、団結しているようでありながら、お互いが疑心暗鬼な様子。
網元は、安全に逃げられるよう道案内もするからと、集めた金を差し出すが、源之丞は聞き入れない。なんと、その上に二百両出せというのである。連中は、ここに居座っても立ち去っても、どちらでもいいことだと言う。「酒と女には不自由しないからな。」という、ステレオタイプな台詞が続く。

テレビ版では、この二百両という大金が要求されてから、話がややこしくなってくる。これから先の展開は、ドラマだけのオリジナルとなる。
網元はお甲の近くににじり寄って「あの金を出してくれ!」と頼む。親の供養塔を建てるための大金を、お甲は持っていると言うのだ。
「親御の供養は、村人たちが永代、粗末にはせんから、頼む……。」と頭を下げるのである。
お甲は懐からふくさに包まれた小判を出すも、それは二十五両ほどでとても二百両には届かない。

網元は、お甲が死んだ親の供養塔を建てるんだと言って、二百両見せてくれた、もっと持っているはずだと叫ぶ。
女のひとり旅だけでも怪しいのに、そんな大金を持っていたとは尋常ではない。しかしお甲は、「何かの見間違いでしょう。」と言って取り合わない。
「嘘だ!」となおも網元が食い下がる。
源之丞は酒をあおり干し魚をかじりながら、お甲に向かって「女、脱げ!脱ぐのだ。」と命じる。視聴者としては、「やっぱりそう来たか!」といった感じである。

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/188-47176a8a

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)

お夕さんの書かれた所まで鑑賞しました。
ここで事前に地雷箇所を教えて頂いてるので、そこは早送りしよう…と考えてたのですが、予想以上に手首コロンが早く出てきて、しっかり見てしまいました…。

そして、お約束ヌード。
「脱げ!」までしか見てないんですが、この後やっぱり脱いでるんですかねぇ?
そういうものを見るのは、そういう心積もりなら嬉しいでしょうが、「紋次郎ワールド堪能モード」のスイッチをONにして鑑賞中だと、異物質としてギアに噛み込んでしまい、そこで引っかかってしまうんですよね。

日本髪の女の人の全裸って、インパクトが強くて網膜に焼きつき、見終わったらまずそれが脳内に残って、どんな話だったか忘れちゃうんです…。
あれや首コロンは、言ってみれば、懐石料理に一品だけ激辛キムチがあって、全体の組み立てがわからなくなるようなものです。
それにしてもこのシリーズでの女の人、江頭2:50並みにすぐ脱ぐなあ…。

紋次郎、大切な長脇差を手放して乗り込んで行ってましたね。
原作を読んでるので、懐中に何があるのか知ってるんですが、あまりに無防備すぎる気がします。
自分が勝五郎とそっくりだから殺されない、というのまで予測してたんでしょうか。

鵜川っていったら、ツーリングでよく通るんですが、水中に鳥居が立ってる所でしょ。
そう言われたら、あの茅葺民家の風景なども、ここから棚田で有名な畑集落へ抜ける林道の入り口付近の風景に似てる気がします。
今は茅葺は無かったと思いますが、この頃には存在してたんですね。

  • 20120212
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第18話「 砕けた波に影一つ」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

遅い更新ですみません。
太兵衛さん、捕まってすぐでしたね。

「新……」を観ていて、いつも居心地が悪くなるのは女性のヌードです。同性だからかなあ、と思っていたのですがそうではなかったようで……失礼いたしやした。


1970年代は、結構テレビでもヌードシーンが多かったように思います。
欽ちゃんの「野球拳」まで、あったくらいですから……。
CMでも、「今なら問題だろう」と思われるシーンガたくさんありました。
そういう風潮だったからかもしれませんが、私もあまり好みません。
「混ぜるな 危険!」という言葉が、頭に浮かびました(笑)。

TOKIさんのご指摘通り、紋次郎サンあまりに策が無さすぎです。
「皆殺しにされる!」という言葉だけですから、連中がお高祖頭巾たちとは、紋次郎は知らないはず……。
そのまま従順に、敵陣に入るなんてどうなんでしょう?
もう少し、リサーチすべきです(笑)。

鵜川は、そうです!
「白髭神社」がある所です。
春になったら、棚田を見にいこうと思っています。

  • 20120212
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/