紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第13話 「見かえり峠の落日」

第13話 「見かえり峠の落日」

第13話 「見かえり峠の落日」
(原作 1970.4月) (放映 1972.4.22)
この作品は、作家笹沢氏の時代小説第1作目であり、第1回小説現代ゴールデン読者賞の受賞作品である。この作品の成功が、後の「木枯し紋次郎」を生み出す事になる。いわば紋次郎の兄貴分というところか。故に主人公の人物像には、紋次郎の原型となった部分が大きい。
後の笹沢氏の膨大な時代小説の先駆けとなっただけに、記念すべき傑作である。

原作の主人公は「北風の伊之助」。彼の風貌を原作から見てみる。
「二十八、九だろうか。日焼けが肌に染みついてしまったように、浅黒い顔色だった。目つきだけは精悍そうに鋭いが、表情はないも同然だった。顎のあたりに無精髭が目立ち、のびた月代が太い眉毛のすぐ上まで垂れている」
紋次郎とよく似ているが、私はどちらかというと「御子神の丈吉」に近い感じを持つ。

テレビ版では、年老いた北風の伊之助が死の間際で紋次郎に頼み事をする。「労咳にかかった息子の忠七に、金を届けて欲しい」と言って伊之助は、二足草鞋の清蔵の手下に刺される。「仏に頼まれりゃ、嫌とは言えねえ」と、紋次郎は下仁田へ急ぐ。
関わりになることを一切断る紋次郎だが、頼まれる相手が死の間際であれば見捨てることはしない。「地蔵峠の……」「大江戸の……」「龍胆は……」に続いての頼まれごとである。この後も何回か、よく似た設定が出てくる。
テレビ版では、北風の伊之助から20両預かった時点で、原作の伊之助が紋次郎となる。展開の大筋は原作に近いが、テレビ版では大分枝葉が増える。

清蔵が関八州に訴えたため、紋次郎には手配書が回される。
原作では伊之助の育ての親が忠七だが、テレビ版では伊之助の息子が忠七。
原作の忠七は既に亡くなっていたが、テレビ版では金丸屋で奉公中、金を持ち出して雲隠れ、八重のことが好きだった若者という設定である。
原作には登場しない、八重の姉で出戻りのお初。
勿論エンディングも違う。

人から頼まれアテのある旅となると、紋次郎は俄然がんばる。途中、お八重が手籠めにされかけていても、そのまま見過ごしてしまうほど先を急ぐのだが、手配が回っているからでもある。
テレビでの手配書の人相書は結構似ていたが、トレードマークの楊枝が描き忘れてあり、紋次郎は楊枝を人相書の口許に飛ばす。そんな事をしたら余計に足がつくじゃないか、とつっこみを入れたくなる。

金丸屋の久太郎は渡世人を毛嫌いしているが、20両と聞くやいなや、態度を変える。この時の中村氏の顔のアップを見ると、いくらか顔がふっくらしていて、のびた月代が額にかかる具合も丁度よく、いい感じの男っぷりである。
お初が初めて紋次郎を見たとき、品定めをするかのように一瞬のうちに目を走らせる。さすが「市原悦子」である。その一瞬で、お初の性格づけがなされる。久太郎も「馬鹿正直な渡世人だ」と嘲笑する。
お八重を助け再び金丸屋にもどった紋次郎に、お初はかくまってやる代わりにと口止めをする。その後のセリフ。

「変わってるわね、紋次郎さんって。父からいくらでも、ゆすれたのに……。そういうこと平気でやるんでしょ、渡世人って」

実に嫌な親子であるが、それだけにお八重の純粋さが際だつ。
原作では本当のこと言い出せない伊之助の苦悩と、心を寄せるお八重の健気さが作品の重要な部分を占めている。
自分が関わらなかったばっかりに、お八重の人生を狂わせてしまった後ろめたさから、金丸屋に長く逗留することになった伊之助。そんな伊之助にお八重が心を寄せ、「私を連れて行ってほしい」とまで言われる。このあたりは純愛小説のような趣である。

しかしテレビ版ではお八重に惚れられるのではなく、お初に誘惑される紋次郎。「姉は菅笠、妹は日傘」と自嘲的に自分を評するお初の境遇も可哀想ではあるが、どちらかというとやはり嫌なタイプの女である。旦那に浮気をされても仕方ないか……と思ったりもする。
嫌なタイプと言えばこの金丸屋親子だけでなく、忠七のふがいなさにも腹が立つ。そんな卑怯な忠七なのにお八重は、「忠七にお金を届けてくださってありがとう」と紋次郎に礼を言う。

第13話 「見かえり峠の落日」


さて、ここで疑問なのだが、紋次郎はお八重に「拾った髪飾り、お返しいたしやす。すまねえことしやした。お達者で……」と言って金丸屋を後にするのだが、お八重は紋次郎があの時、助けずに通り過ぎたことを知っていたのか、ということだ。
お初は知っているのだが、そのことをお八重に教えたのか。
「ろくでなし」と憎々しく言い放つお初なのに、お八重は障子をそっと開け静かに頭を下げる。その痛々しく健気なお八重を見て取った時点で紋次郎は、お八重を手籠めにした新六たちの片をつけようと決める。

原作での伊之助は、新六たちを皆殺しにして見かえり峠に向かう。それを追ってお八重も後をついて行こうとするのだが、八州の捕吏に刺され命を落とす。伊之助は拾ったお八重の根掛のことを思い出し、寺に預けるため峠を引き返す。
そのときの伊之助の心の中。

「余計なことや他人のことには関わり合いになりたくないという渡世人気質が、八重をあんな目に遭わせたのだ。そんなことは、二度と繰り返したくない。どこの馬の骨だかと言われながら利用されていると承知の上で5人も斬った馬鹿な男が、ついでにもう一つ無駄なことをしてやってもいいではないか」(原作より抜粋)

しかし夕暮れの中、銃声が鳴り響き伊之助は倒れる。お八重が死に、後を追うように伊之助も、霞む目で見かえり峠の彼方に沈む落日を見ながら事切れる。
原作はドンデン返しやサスペンス仕立てはなく、(弥吉が実は伊之助であったぐらいか)疎外された者同士が精神的に結ばれていく様を切なく書き上げている。

テレビ版では、渡世人や流れ者に対する侮蔑、体面や金に執着し人をうまく利用しようとする利己的な姿など、堅気と言われる者の醜さが浮かび上がる。そして、権力をかさに掛け弱い者いじめをする狡猾な二足草鞋の清蔵。好いた娘を輪姦することに手を貸した忠七。
性根の腐ったヤツばかりの中、お八重は泥水に咲く蓮の花のように美しい。そして馬鹿正直と言われながらも、自分の信念に従って行動する紋次郎。これらの対比を狙った脚本作りで、こちらも目立ったドンデン返しは見られない。

今回は紋次郎シリーズの中、珍しく飛び道具が出てくる。先にお八重が河原で撃たれるのだが、なぜ撃たれたのかは説明なし。紋次郎と間違われたのか……にしてはあまりにも見通しのよいところである。
林の中の殺陣は、木立に見え隠れしながら進行する。危険なシーンや激しいシーンは、まだ代役が演じているように見えるが、銃を構えた敵めがけ、蔓にぶら下がって蹴り倒すシーンは中村氏本人か。
殺陣を考えたスタッフもどうかと思うが、それを引き受ける中村氏も度胸があるというか、意地があるというか。今の撮影現場では考えられないのではないだろうか。全くもってヒヤヒヤする。

やはり「見かえり峠の落日」は傑作である。
テレビ版では、紋次郎というキャラクター設定なので、この話が変えられ展開していくのは仕方がない。しかし原作の、胸を締め付けられそうな切なさや無常観、ラストの悲哀などを味わおうとすると、やはり紋次郎ではなく「北風の伊之助」として映像化してほしいところだ。
派手な特撮やアクション中心の時代物ではなく、底辺で生きていた無宿渡世人の苦悩する生き様と八重の純愛を、情感込めて誰か撮ってくれないものだろうか。
そう考えると、キャスティングでまた妄想が始まってしまうのだが、それがまたファンの楽しみでもあるのだ。


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Re: 第13話 「見かえり峠の落日」

失礼いたします。
原作の映像化ぜひやってもらいたいもんです。
山崎努あたりを想像して読んでおりました。
今、若手の俳優陣に山崎や原田芳雄のような
変な(失礼)カッコイイ役者がまるっきりいないのが残念であります。

Re: 第13話 「見かえり峠の落日」

コメントをいただきありがとうございます。
「見かえり峠の落日」は本当に名作です。それだけに、原作通りに映像化してほしいものです。
今の時代では、誰か俳優を想定して小説を読むことはできませんねえ。陰のあるニヒルな雰囲気を持つ若手俳優を探すことは、至難の業でもあります。
また誰か見つけられましたら教えてくださいね。

  • 20090610
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第13話 「見かえり峠の落日」

中村敦夫さんと同じ「俳優座」出身の市原悦子さんの演技も見応えありました。

30代男性の俳優さんで時代劇の会う役者さんねぇ・・・

歌舞伎役者の中村七之助さんではどうでしょう。

岸部一徳さんにも出演して頂きたいですね。

Re: 第13話 「見かえり峠の落日」

あぁぁ・・やっぱり駄目だわ。同じ中村でもイメージしてみると全く違う〝紋次郎”になってしまいました。

Re: 第13話 「見かえり峠の落日」

Nicoさま、コメントをいただきありがとうございます。

七之助さん……品のある美しい役者さんですね。少し線が細いのと、もう少し身長があれば……といったところでしょうか。

当時のように、まだ有名でない俳優さんの中に、実は適任者が隠れているように思いますね。そうなると、もう私たち素人には窺い知れないところです。

でも「きっと~♪お前は~♪風の中で~♪待っている~♪」なんでしょう(笑)。

  • 20140527
  • お夕 ♦wikz35BA
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