紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

紋次郎の影を追う「大平宿」

紋次郎の影を追う「大平宿」

紋次郎の影を追う「大平宿」
「大平宿(おおだいらじゅく)は、長野県飯田市の大平高原にあります。あります……と書きましたが、正確にいうと「ありました」となるでしょう。
というのは、1970年(昭和45年)に、全住民が移住をし廃村になってしまったからです。

紋次郎の影を追う「大平宿」
*水滴がレンズに……。ここで経験したことが、まるで幻のようにも思えます。

中山道の妻籠宿と三州街道(伊那街道)を結ぶ大平街道は、江戸時代の中期に飯田藩によって作られ、木曽山脈を迂回せずに最短で飯田、妻籠間を抜けるルートです。
飯田峠と大平峠の間にある小さな盆地(標高1150M)に開かれた大平の宿場には、安政3年時には約28戸180人の住民が暮らしていたようです。

「大平街道」「大平宿」は原作では「狐火を六つ数えた」に出てきます。
この街道を紋次郎は、妻籠側から飯田に向かいますが、その道中赤子を抱えたお常とその追っ手たちと遭遇します。木曽峠から飯田領へ入り、下り道が一里ほど続く橋の手前とあります。

紋次郎の影を追う「大平宿」
*天保十三年と記されています。まさに紋次郎が街道にいた頃です。

お常は中津川の材木商の女房ですが、亭主が妾を家に引っ張り込もうとしたことから喧嘩になり、亭主を包丁で刺し殺してしまいました。お常は赤子を抱いて自分の生まれ故郷の飯田に向かいますが、妾に頼まれた中津川の音蔵の身内衆に追いつかれます。

そのお常に助けを求めらた紋次郎ですが、最初は断るものの、お常が赤子連れだったということがわかった途端助けに走ります。しかし、時既に遅し。お常も赤子も殺されてしまい、そのことに紋次郎は負い目を感じます。

紋次郎の影を追う「大平宿」

その大平街道と、途中にある大平宿を昨年の9月に訪れました。今回の訪問は、紋次郎の辿った逆……飯田からの行程でした。
というのも、大平宿に興味があったからです。廃村になった大平宿を見てみたい、ということがメインだったのです。

この大平宿は現在「NPO活動法人 大平宿をのこす会」が管理をされていて、「いろりの里大平宿」として、古民家で昔ながらの生活が体験できます。
民家に入るには鍵が必要なんですが、現地ではなく飯田市街地にある事務所(スポーツ店)で受付を済ませて鍵を受け取ります。時間があまりないので、少し中を見るだけだったんですが「せっかくだから、いろりにくべなさい。」と、店主の方から空の段ボール箱を渡されました。

紋次郎の影を追う「大平宿」

飯田市中心からは約20キロと聞いていざ出発!しかし雲行きが怪しい……。それもそのはずで、台風が接近中なのです。その行程は、いたって険しく細い道は羊腸のごとく曲がりくねっています。対向車はなくてよかったのですが、離合するのも難しいほどの山道です。

「街道そのものも、かなり高いところを走っている。谷間を縫って歩くのは最初のうちだけであった。
 谷間は樹海で埋まり、山の斜面は草に被われている。(中略)
 街道と言っても、山道なのである。険しい悪路の部分もあるし、雨でも降ろうものなら旅人は難儀をすることになる。(中略)
 俗に、大平街道と呼ばれている。土地の人々は、飯田街道と称していた。中山道の妻籠の先の妻籠追分から、東へ真直ぐに伸びている街道だった。妻籠追分から二里、約八キロで広瀬というところに出る。(中略)
 筑摩郡は尾州領、伊那郡は飯田領である。六つの橋を渡って、大平宿につく。広瀬から大平まで三里、約十二キロであった。そして、尾根伝いの道が続き、険しい峠として知られる大平峠を越えるのだ。
 大平から三里とちょっとで、南信州の飯田へ出る。これだけの街道であった。距離は八里、約三十二キロにすぎない。その悪路続きの短い街道を、大平街道または飯田街道と称しているのである。」(原作より抜粋)

車でもかなり難儀したたのに、当時の旅人の苦労を考えるととても真似ができません。

紋次郎の影を追う「大平宿」

しかしこの大平宿には、今から40年少し前まで人々の生活があったのですから驚きです。
視界が少し開け、大平の案内が見えたときは正直ホッとしました。

紋次郎はお常と赤ん坊の死骸にむしり取った彼岸花を置き、目礼を送って後にします。

紋次郎の影を追う「大平宿」

「三つの橋を渡り、大平村を抜ける。一応、宿場であり、旅籠屋も問屋場もあった。大平峠の難所と呼ばれる悪路を通り、一里ほどで一ノ関の関所にぶつかる。飯田藩が預かる関所で、上りも下りも女改めだけだった。」
(原作より抜粋)

外は風はあまり吹いてはいませんが、明らかに台風接近の雲行き。雨もパラパラ降ってきました。

紋次郎の影を追う「大平宿」

紋次郎の影を追う「大平宿」


鍵の名前の古民家を探し中にはいると、いろりがすぐに目に飛び込んできました。
中は薄暗く、弱い外光が窓からうっすら入ります。板の間に座って外の雨を眺めると、なんだか野宿する紋次郎の気分になってきました。

紋次郎の影を追う「大平宿」

ここは古くはありますが、立派な民家ですから雨露の心配はありません。
しかし人気のない山奥、陰鬱な雨、雲行き怪しい空となると、まさに紋次郎ワールド。

街の喧噪から隔絶されたこの地は、まるで時計が止まった異世界のような印象を受けました。

いろりに段ボールをちぎって火をつけましたが、寂しさは増すばかり。
天候が良く季節もいい時期であれば、もっと違った雰囲気だったでしょうが、私としては紋次郎を感じることができ、この寂寥感は逆によかったです。

紋次郎の影を追う「大平宿」

この雰囲気を生かし、映画「隠し剣 鬼の爪」(山田洋次監督)の決闘シーンはここで撮影されたそうです。この民家群でスタッフの方々は、寝泊まりしたんでしょうか。
映画は未見ですが、調べてみますとさすが美術は「西岡善信さん」が監修。
おおっ!ここで紋次郎作品とリンクしましたか。

紋次郎の影を追う「大平宿」

すばらしいことに、日本アカデミー賞で美術賞を受賞されていました。やりがいのある作品であり、ロケ地だったんでしょうね。
未舗装の道というのを探すのは難しい時代ですから、ここはうってつけでしょうが、たどり着くまでが大変ですね。

紋次郎の影を追う「大平宿」

しかし、この地が保存されていて本当に良かったです。
家屋というものは生き物です。全くの空き家にすると、あっという間に朽ちてしまいます。
こうして、生活体験を希望する人に利用してもらいながら保存していくということは、意義深いことだと思います。

紋次郎の影を追う「大平宿」

今頃は、雪に閉ざされているのではないでしょうか。
妻籠宿、馬籠宿、奈良井宿などとは全く違うスタイルの宿場。
機会があれば一度は泊まってみたい、野趣あふれる原風景を残す奇跡の宿場でした。

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/190-752e6ea1

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 紋次郎の影を追う「大平宿」

かなり行き難くても、原作に出てくる場所に足を向けられる。
お夕さんの行動力にはいつもながら脱帽です。

廃村、廃屋、廃校。
好きな響きです。
日帰りで行けるものはあちこち行きました。
残存具合もさまざまで、石垣しか残ってなかったり、70年代から時間がストップしてるものの荒れ始め、落書きやゴミだらけだったり。

こんな、江戸時代から時間が止まったような廃村があったとは知りませんでした。
保存させたいという人々の思いが、こんな奇跡の宿場町を平成の世に残しているんですね。
いつか行ってみたいです。

また、雨の中の独特の雰囲気を見事な文章で描かれ、空気が伝わってまいりました。
その家を出られる際、地蔵峠が浮かんでこられたとかでしょうか。

私も京都北山ツーリング途中で雷雨に襲われ、廃屋に逃げ込んだことがありました。
中は荒れていて陰隠滅滅とし、風呂や便所が生々しく残り、こちらは紋次郎というより水木しげるの世界でした。(笑)

  • 20120227
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 紋次郎の影を追う「大平宿」

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

落書きやゴミ散乱はいただけませんが、廃れていくもの、朽ちていくものには哀愁が感じられますね。
昔、人々の日々の営みがあったのに、時の流れに埋もれて忘れ去られた場所……そこには目に見えない「なにか」がきっとあると思います。
想像力を働かせるには、うってつけの場所で、魅力を感じます。

ということで、最近「都会」と呼ばれるところには、全く足が向きません。
大勢の人を見るだけで、ドッと疲れます。
元来「田舎者」なんでしょうねえ。

もうすぐ、ツーリングしやすくなる春。
またTOKIさんの、とっておきの場所を教えてくださいね。

  • 20120228
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 紋次郎の影を追う「大平宿」

お夕さん、こんばんわ。
凄い!飯田までいらっしゃったんですね。それもそんな山の中まで・・。

廃墟に昔の宿場が残ってるなんてぜんぜん知りませんでした。それは一見の価値がありますね。

でも飯田は遠いなあ。長野から車で4~5時間。
お夕さんとこほどじゃないけどね。(^^;;

風景きれいですね。さすがにお夕さん。写真の撮り方も上手だわ。( ^-^)

保存会の人々に脱帽ですね。

紋次郎さんが今にも顔を出しそう。( ^-^)

Re: 紋次郎の影を追う「大平宿」

九子さま、コメントをいただきありがとうございます。

長野県は何度もお邪魔しています。
ホントに魅力的なところにお住まいで、羨ましいです。
温泉も、たくさんありますしね。

この地は、時の流れを忘れたかのような不思議な空間でした。

この後、台風のため高速道路がとんでもないことになり、帰宅までに12時間も費やしてしまいました。
いわゆる夜旅……。
ヘロヘロで、2時間ほど仮眠をとって出勤となりました(汗)。

紋次郎サンに苦笑されそうです。

  • 20120307
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/