紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

(原作 「さすらい街道」第2話)(放映 1978.2.15)
天狗のために未亡人となったお美代、という設定は同じだが、テレビ版ではお美代の実母(峠で伜を捜していた)が絡んだり、一軒家ではなく湯宿であったりと、少しふくらみを持たせ変えてある。
紋次郎はお美代に「手代の松吉が死んだと、呉服屋のご隠居に伝えてくれ」と言って出て行こうとするが、お美代が押しとどめる。手傷を負っているのにも気づき、手当をするので上がってくれと頼む。
いろりの間で傷の手当てを受けているとき、地元の貸元、久蔵が訪ねてくる。

お美代の死んだ亭主は、以前久蔵に世話になっていたので、時々様子を見に訪ねているという。久蔵と一緒にいた子分が、紋次郎に因縁をつけかかるのを久蔵が制する。
久蔵はお美代に「おっかさんは?」と尋ねるが、いつものように峠に出かけている……と答えるお美代。

久蔵が帰ってから現れたのは、さっき峠で出逢った老婆だった。老婆は紋次郎に、行方不明の伜の姿を重ねたようで、是非泊まってくれと頼み紋次郎の荷物をさっさと持っていく。
前作のお熊婆さんもそうだったが、紋次郎に親近感を持つ優しげな老婆である。

川釣りをしていたご隠居が帰ってきて、手代の松吉が天狗に殺されたことを聞かされるが、天狗の仕業なら仕方がないと諦める。お上も手の下しようがないらしい。この時代はまだ、迷信や噂を信じる風潮だったようだ。
しかし紋次郎だけは「天狗の仕業にしては、金を持っている者ばかり襲うのは奇妙だ」と疑いを口にする。複雑な表情で給仕をしているお美代の姿に、紋次郎は何かを感じ取っている。

呉服屋のご隠居は、松吉からの仕送りの五十両が途絶えたので、鶴瀬宿の甲州屋に用立ててもらいに行くと言い出す。お美代から夕刻までには帰れる距離だと聞かされ、お供の手代、茂平衛を連れて出かける。
二人を見送ったお美代は、その後こっそりと誰かと密会している。その姿をたまたま紋次郎が目にする。お美代、怪しさ全開である。

甲州屋で五十両を用立ててもらい、軒灯が灯る頃二人は帰路につく。しかし、湯宿の笹屋には無事に帰れなかった。
二人は天狗に襲われる。紋次郎は笹屋の一室で長脇差を抱き寝しているが、戸外の異変に本能的に気づく。起き上がって雨戸を開けると、遠くからご隠居の悲鳴が聞こえた。紋次郎は声がした方へ急ぐ。
辺りは明るく、まだ夕刻かと思われるので、紋次郎、いくら何でも早寝しすぎだろう(笑)。

果たして紋次郎は倒れている手代の茂平衛を見つけるが、そこには頬かぶりをした若い男が小判を手にしてしゃがんでいた。紋次郎は男の顔をはっきり見る。男はその場から走って逃げ、久蔵一家に駆け戻る。久蔵が陰で糸を引いているのだ。久蔵はドジを踏んだ子分をしかりとばし、もうひとっ走りするよう命じる。さてどこへひとっ走りするのか。

一方紋次郎は瀕死のご隠居を見つける。切り立った大きな岩が見える河原は、保津峡であろう。血だらけのご隠居は声をふり絞り「笹子の天狗に……」とだけ伝えて事切れる。
倒れている河原の石ころの下から、古い布の切れ端が見つかり、紋次郎は「とも吉」と書かれているのを確認する。

後でわかるのだが、「とも吉」というのは、行方不明のお美代の弟の名前である。笹子の天狗、金を盗む久蔵の子分、不審な動きのお美代、そして行方不明のお美代の弟、とも吉。(原作ではお美代の兄になっている)
それぞれはどういう糸で結ばれているのか。

原作ではご隠居は出てこないのだが、大工の留吉が酒を飲んでの帰宅中に天狗に襲われる。逃げてくる留吉に丹次郎は偶然出合い、追いかけてきた天狗にも遭遇する。
原作に書かれている天狗はまさに怪物である。

「とたんに丹次郎の背筋を、悪寒が走った。いや、全身が総毛立った。今日まで、これほど醜怪な生き物を見たことはなかった。狼のように鋭く光る両眼、裂けた口、皮膚の色は鉛色だった。牙のような尖った歯を、剥き出している。血走った目は、野獣のように凄まじい光を放っていた。クモの巣みたいな髪の毛がのび放題で、肩まで垂れている。その間から、顔が覗いているのだった。」(原作より抜粋)

丹次郎は長脇差で何度か突きを入れ、微かな手応えを感じる。怪物の悲鳴がしたので、どこかに傷を負わせたようである。
原作では、天狗に襲われながらも生き延びた目撃者留吉が、その後自宅で何者かに殺される。
原作はかなりサスペンス性が強い。新聞に連載された小説であるので、次々と謎が用意されている訳である。
探偵(笑)丹次郎は捜査の結果、留吉を殺害したのは久蔵の子分であることを突き止める。

テレビ版に戻る。
紋次郎が笹屋に戻って部屋に入ると、お美代が襦袢姿で布団の上に座っていた。
白地に麻の葉文様が美しく、桃色の三尺も艶っぽい。大谷さんのいつもの役どころとは違うので、そのギャップが印象的である。
思い詰めたような表情で、ご隠居たちが天狗に殺されたことを告げられても、全く驚かないお美代。

第20話「 甲州路の黒い影」(中編)
*上の写真は甲州の山中で見つけた神社。深く黒い森に囲まれて、鎮座している。

紋次郎は、「笹子の天狗を操っている誰かに……」と言い直しているので、天狗の所業に疑いを持っていることがわかる。
「おめえさん、何か知っているんでござんしょう。それを話そうとここで待ってたんじゃねえんですかい。」
このときの紋次郎の台詞回しや振る舞いは実に優しく、ジェントルマンである。

しかしお美代は、その紋次郎の言葉を遮るように急に「抱いてください。」と紋次郎にしがみつき、身体を預ける。
「紋次郎さんが好きです。」
紋次郎は、そのお美代の白い手をふりほどこうとする。
「嘘はいけやせん。」
「嘘じゃありません。」

このシーン、なかなかドキドキする。と言うのも、これほど紋次郎と接近して誘惑する女は、いないからである。
今までだと「大江戸の夜……」のお小夜、「見かえり峠……」のお初、「笛の流れは……」のお千代が結構大胆に紋次郎を誘惑しているが、こんな清楚な感じの女は初めてではないだろうか。

お美代の身体が下になり、紋次郎は覆い被さるような姿勢……ますますドキドキする。
「紋次郎、誘惑に負けちゃダメ!これには絶対罠がある!」
と心の中で呟く視聴者(私)だが、お美代の白い手が紋次郎の長脇差に伸びるシーンで、「やっぱり……」となる。

「無理な芝居はよしなせえ。」
と冷静な声と共にお美代の手を制する紋次郎。さすがその手には乗らない(笑)紋次郎である。

それにしても、この時の中村紋次郎の演技は固い。紋次郎が堅気の女と間違いを起こすなど、絶対あり得ないから……とはいえ、こういうシーンはどうも敦夫さんは苦手なようである。自分が監督なので、「カット!もう一度やり直し!」ということは、なかったのかもしれないが、あまり自身には比重をかけていないように思う。

原作でのお美代も、色仕掛けで丹次郎の口封じをしようするが失敗する。原作では、伝兵衛が天狗の正体を知ってしまったので、口封じのために4日間、お美代は身を投げ出している。そこまでして、何を隠そうとしているのか。

紋次郎は部屋の外で人の気配を察知する。頬被りをした久蔵一家の男たちが襲ってくる。紋次郎は着流し姿に裸足で外に飛び出す。相手は匕首、紋次郎は長ドスは抜かず鞘で応戦する。屋内セットから屋外の林に切り替わっての殺陣。確か紋次郎は裸足だったのだが、よく見ると雪駄を履いている。いつの間に履いたのでしょう(笑)。

さて、その身内衆の中に、恐ろしく身の軽い男が一人いる。クルクルと空中で一回転するのだ。この身のこなしの軽さは、「賽を二度振る……」に出てくる猿回しの弥助以来か(笑)。紋次郎はその男の顔を、頬被りの下からではあるが確認する。

ここが、原作との違いの伏線である。久蔵一家が逃げ去った後、一人気を失って倒れている男に水をぶっかけて、紋次郎は問い詰める。笹子の天狗のカラクリを白状しろ、と言うのだ。
知らないと答える子分に、「しらばっくれると、その首刎ねるぞ!」と締め上げる。

こんな紋次郎は珍しい……というか、あり得ない。笹子の天狗のカラクリなんて、紋次郎にとってはどうでもいいことである。頼まれた伝言の件は終わったし、殺されたご隠居には何の義理もない。なのに、なぜこんなに熱くなる?
敢えて言うなら、伜をずっと捜している老母の存在か。原作が、伝蔵を追う丹次郎なので仕方がないが、それこそ人が変わったような(笑)、紋次郎である。

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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

原作小説、読みました。
丹次郎 、渡世人としてのストイックさは持ち合わせているようですが、幼くして心が死んだ紋次郎、病気のために人としての煩悩を自ら鉄の鎖で縛る小仏の新三郎とは違い、女も斬れば抱きもし、酒も飲むし、タニシの味噌煮が気に入るという、一般人との垣根のそう高くない主人公で、ミステリー色の強い作品のようですね。
それでもやはり初期時代小説。
「今日を生きる意味」を根底に置き、「・・・・・と△△郎は思った」という死生観・人生観描写が有るのが嬉しかったです。

ただまずいことに、前のコメントの関係で桂米朝師匠の「天狗さし」を観た直後だったので、「トリモチ竿でこう刺すっちゅうわけには?」「かなり大きいで、あれは。」「ほな こうちょっとトンボ捕まえるようなわけにはいかんわなぁ、雀っちゅうわけにはいかんわなぁ。やっぱりこの、かなり太い竹持って行かななりまへんなぁ。」「何なと持って行かんかい!」「天狗は何が好き?」「知らんっちゅうに! 忙しいんやさかい、もう帰ってくれ!」が、原作を読んでいる時にちらついて困りました。(笑)
(追記 you tubeにありました。これの5分あたりから↓)
http://www.youtube.com/watch?v=-yp6R8fKbyk

テレビ版では最後に大きなどんでん返しがあるので、お美代が怪しいことは最初から明かしてるんですね。
それにしてもこのご隠居、手代が殺されたのに死骸を引取りに行かないとは不人情な…。

この回の撮影地、保津峡落合やトンネル裏、清滝近辺のようです。
以前お夕さんが書いておられた、敦夫さんが3日で撮影された作品というのはこれではないでしょうか。
敦夫さんいわく「伏見の近くで…」ということですが、前に書いたとおり伏見近辺には、時代劇の撮影に使えるような日本の原風景は殆ど無く、氏の記憶違いではないかと考えます。

そうそう。
「峠に哭いた甲州路」のラストの右左口峠の撮影地。
京都の雲心寺林道ではないかと見当を付け、実際に行ってそっくりな場所を発見し、以前にメールで送りましたよね。
ここで間違いないか、友人の地理研究家に検証をお願いしたら、彼は先日実際に行ってくれました。
彼によると、地形やチラっと見える鉄塔の具合から、正しいと思われる撮影場所は私の思った地点から少し離れた場所で、現在は杉の植林帯になっており、展望はきかないとのことでした。
それでも近い雰囲気は味わえますし、お夕さんの巡礼地がまた一つ増えましたね。

  • 20120515
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

「さすらい街道」を、もうお読みになったんですね。
丹次郎は紋次郎に比べると、削ぎ落とされた部分は少ないように思いますね。(顔の左側は削がれてはいますが……笑)
コアの部分はよく似ていますが、荒削りな感じはします。
でも、男っぽくて魅力的な渡世人です。

米朝さんの「天狗さし」、面白くて全部聞いちゃいました。
「天狗」も地に落ちたもんだ、と軽妙な語り口に笑わせてもらいました。

私も天狗を見たくて、地元の山に登って「天狗さん」に会いに行きました。
その時の写真が前回の2枚目のものです。
次回も、その時の写真をUPする予定です。

ロケ地の件、情報をいただきありがとうございます。
大分、当時より変貌しているようですね。
40年も経っているんですから、仕方ありません。
でも、その片鱗は残っているはずですから、やはり訪れたい場所です。
いつも情報、ありがとうございます。

  • 20120516
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

お夕さん、こちらで申し訳ないです。明日ゆうパック20時~21時着予定です。

急いだ訳ではないのですが、花風鈴さんの時よりPCが新しい分サクサク作業がはかどりまして・・・。

読まれたら、こちらに書いた以前の連絡分も削除して下さい。

  • 20120517
  • おみつ ♦suWcSb.M
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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

掲載の湯流れのショット素敵ですね。湯音が聞こえてきそうです。〆「お夕さん、昔、湯煙に月は砕けたことがありやしたねぇ・・・。お陰様でふと、扇ひろこさんを思い出すことができやしたよ。」

  • 20120517
  • いなさ ♦-
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  • 編集 ]
Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

おみつさま

お手間をおかけしまして、すみませんでした。
楽しみにして、待っています。

  • 20120517
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。

「湯煙に……」での、扇ひろ子さんの湯女姿……風情がありましたね。
湯煙が揺れる中、紋次郎との心の交流がしっとりしていて私は大好きです。
あの雰囲気に心を奪われてから、私の秘湯めぐりが始まりました。
この写真の温泉は、信州の鉱泉で「信玄の隠し湯」と言われたところです。{隠し湯は、いっぱいあるらしいですけど)

  • 20120517
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

お夕さん、Guten Abend !
今日は敦夫さんのかの地のレポート抜粋
どうもありがとうございました。

やはりお夕さんも指摘されてるように
中村紋次郎さんは女性との絡みは
役者でも、監督でも苦手なようですねぇ~微笑

でも社会の歪に目を向ける姿勢は見事で
お歳を感じさせない力強さがありますねっ。

このお夕さんのブログ「紋次郎気質」も
お見事ですよ~・・・


  • 20120519
  • 淡青 ♦pDmV/urE
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Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

敦夫さんは著書「俳優人生」にもありましたが、女性とのラブシーンはやはり苦手だったそうです。
あまりお上手だと……女性ファンとしてはどうなのでしょう?!

政界を退かれても、日本(地球かも)の未来を憂えて、精力的に活動をされているお姿……。
頼もしくて素敵です。
いつまでも、信念を持ち続けている人って魅力的ですね。
このブログもそうありたいものですが……これが、なかなか難しい(笑)。

  • 20120519
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

話がそれて恐縮至極ですが、今日の甲子園は良かったですね^^。マートンが打ち、安藤が完全復活を思わせ、引き分けでも、負けないだけ勝に等しいと思います。巨人も、10連勝で止まりましたし、愈々、虎の暴れる日が来たようです。先ずはともに乾杯しましょう。紋次郎さんもきっと笑ってくれるでしょう、!!☆!

  • 20120526
  • 荒野鷹虎 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第20話「 甲州路の黒い影」(中編)

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。

安藤選手の、完全復活が嬉しいですね。
兄貴の足、心配しましたがさすが鉄人!
鍛え方が違う。

今回は鷹と虎の戦い。
まさに鷹虎さんでした(笑)。
明日は虎と獅子……。獣王の戦いです!
応援がんばってきます!

  • 20120527
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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