紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三
古びた三度笠に横顔のシルエット、効果音の木枯しの音を追いかけ、ウッド系のパーカッションとベースの重低音。懐かしい響きである。

丸いワイプから、木枯しが吹く村はずれの街道の風景が広がる。アバンタイトルから始まるという手法も、20年前と同じ……泣けてくる。
白い霧がうっすらかかり、街道脇の木々は葉を落とし、黒い枝だけが陰鬱な空に伸びている。やはり、紋次郎の世界は、こうでなくてはいけない。荒涼とした雰囲気で始まるのはいい。
掛け茶屋が映り、小屋の脇に粗末な墓らしきものが見える。いかにも素人の手で書かれた墓標には、『上州無宿 紋次郎之墓』とあり、線香代わりに小枝や割り箸が土に刺さっている。
紋次郎のトレードマークの楊枝のつもりであろう。

「紋次郎が死んだ……」いやいや、それではこの映画は始まらない。

掛け茶屋の親爺が客に紋次郎のことを話している。この茶屋の親爺役に「日下武史氏」。ちなみに、今回のナレーションは日下氏。本来なら芥川隆行氏であろうが、残念ながら1990年にお亡くなりになっている。
芥川氏の声を聞きたかった。

5年前、この先の山中で紋次郎は賊に襲われ、崖から木曽川に転落……濁流に飲み込まれた。大雨で増水した木曽川に崖から落ちたのだから、きっと命を落としたに違いない。それで、紋次郎を偲んで自分が墓を作った。紋次郎は街道筋では名の知れた渡世人で、今でも何人かの渡世人が手を合わせていると言うのだ。
客の男達はいわゆる堅気……「なんだ、渡世人か。」と全く興味を示さない。5年の歳月は、一介の渡世人の存在をかき消すには充分な年月なのである。

この掛け茶屋が、実に良く出来ている。外観の板塀はいかにも風雪に晒されたような朽ちた感じが出ており、屋根は板葺きで、置き石が載せられている。内部は細々とした小物にまで気を配られていて、美術さんのこだわりの仕事ぶりがうかがえる。美術の西岡善信氏の職人技である。

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

さて、この紋次郎が5年前に賊二人に襲われたときのシーン。降りしきる雨の中の立ち回り。
市川監督の映像には必ずといっていいほど、雨のシーンが出てくる。道中合羽が濡れて重みが増すのだが、紋次郎の動きのキレが良い。
崖っぷちの殺陣はヒヤヒヤするが、果敢に演じている。もみ合っているところへ、もう一人の賊が刀を振りかざして体当たりする。紋次郎はもみ合った敵もろとも、崖落ち。
今まで、何回崖落ちをしただろう(笑)。その後、堅気に助けられて……という展開で思い出すのは、「旅立ちは三日後に」。あのときの紋次郎は、助けられたお澄の元で、堅気にならないかと誘われたのだったが……。

茶屋の親爺が、「5年の年月はそんなに長いもんかねぇ……」と溜め息をつき腰をおろすと同時に、テーマソングとタイトル。
「だれかが風の中で」が流れる。この曲以外は考えられない。嬉しさに、ドキドキする。
劇場では声が飛び、拍手が起こるところだろう。

タイトルロールは、ほとんど当時のものが使われていて、差し替えられた新しいシーンは4カ所。まず冒頭の部分、それから中間のロングショット、葦原を歩くシーン、そして最後のシーン。冒頭部分の道中合羽が風に煽られるシーンと、はがれた白壁の前に立つシーンはいずれも印象的なインサート・ショットだったが、割愛されていた。
葦原を歩くシーンは旧作とほとんど同じ。違うのは、旧作は蒲(がま)の穂だったのが、葦になっているところ。
どれを差し替えて、どれを残すか……多分、市川監督の采配だろうが、その思いをいろいろ想像してみるのも一興である。

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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

おお~~~
やっぱり、どこが嬉しくなったか、かなり共通してます。

OPのどこを新作に差し替えたか、は、元々紋次郎のアップで無かった場所ばかりですね。
ですから「今日は 旅を ひとり~♪」で「木枯し紋次郎 中村敦夫」のテロップが出る時の顔が昔の物なので、20年の歳月を感じにくくなりました。

この茶屋のある場所、旧作の何だったかで見たような記憶があるのです。
(「木枯しの音に消えた」だったかな?)

少年の頃から「紋次郎は何歳の時に何をした」を書いていた私は、墓標に「天保十二年 丑 九月六日」とあり、少し考えました。
「上江田一家の恨みを買ったのが、紅葉の季節だろ。『五年前』と言ってるから年を跨いでないはずだけど、九月だったら変だよな?」と。
ここが疑問だったんですが、旧暦の日付を新暦に置き換えるサイトを見つけたら、この日は10月20日ということなので、問題は無かったんですね。
ただ「奥州路 七日の疾走」との整合性を考えて、天保十四年以降にして欲しかったところです。(笑)

紋次郎の墓に割り箸や楊枝が供えられているというのは、とても殊勝な人が多いというわけですね。
私だったら、紋次郎にあやかろうと墓標を削り取り、それで楊枝を作って咥えます。(笑)

ところでこの写真、本当にさっきまで紋次郎が食事してたような雰囲気なんですが、どこなんでしょう?

  • 20130702
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

オープニングは、本当によくできていますね。
違和感なく、感動しました。

初めのシーン……紋次郎が長ドスを抱えて横になっている舞殿は今もありますが(藪田神社)、屋根は萱葺きではなく鉄製のものに葺き替えられています。
あの当時と、全く同じ撮影というのは、難しいようですね。http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/blog-entry-45.html#more

さてお尋ねの件ですが、この写真は「庄内映画村」で撮影したものです。(ちょっとずるいですね……笑)

小屋の板塀など、本当に古い感じがよく出ているのですが、驚いたことに古材を使っている訳ではないのです。
新しい板をこすったり着色したりして、風雪に耐えた様を作り上げているんですね。
板の裏を見ると、新品だったのでわかりました。
美術さんの仕事ぶりには、目を見張りました。

こんな居酒屋や煮売り屋が実際にあったら、入りびたるでしょうね。

「ねえさん、ここに置いとくぜ。」
憧れます(笑)。

  • 20130703
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

こんにちは

記事を読みながら、YouTubeをもう一枚開いてコマ送りで確認しながらの作業をしてしまいました(笑)

全く気にかけなかった、白壁の前に佇むワンショットは、サブリミナル効果を狙って入れたのかと思いました
よくわかりましたね、スゴイ洞察力です

何度聞いても、この歌とアレンジ、それにロングショットから紋次郎一人を抜くアップのシーン
それに、ドラムのバック
どれをとっても心がワクワク、高揚感が漂います


  

  • 20130704
  • Makkun4 ♦-
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

ありゃ、映画村でしたか。

関係ないですが、昨日の夕方はバケツをひっくり返したような土砂降りで、家の近くの道路が冠水しました。
徒歩で帰宅途中だった私は、足首まで水に浸かってそこを渡りながら、「け~~れども~~ ど~~こかで~~♪」と脳内で歌っておりました。(笑)

  • 20130704
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

Makkun4 さま、コメントをいただきありがとうございます。

確認作業、お疲れ様です(笑)。

チラリと見えるものって、気になりますよね。
当時はずっと、謎のままでした。
市川監督の、映像技法の妙を感じます。

紋次郎にまた出逢えたことに、ワクワク感がありますね。
ポツンとした孤影が、紋次郎の宿命を物語っていました。
何の変哲のない道でも、紋次郎の姿があるだけで、一挙に天保年間にタイムスリップしますね。
歴とした時代劇なのに、フォーク調のテーマソングが合うなんて、目から鱗でした。

  • 20130704
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年) その三

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

すごい大雨だったんですね。
もう水は引きましたか?

川の浅瀬を、水しぶきをあげてバシャバシャ歩く。
紋次郎の、お約束シーンですよね。
暑いときはいいですけど、撮影時期が肌寒いときは、冷たかっただろうなあ、と思います。
こちらも今、大雨が降っています。
お互い、被害がないといいですね。

  • 20130704
  • お夕 ♦wikz35BA
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