紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十
五郎蔵は母親のために鯉をさばいている。まな板の上の鯉に、出刃包丁を振りおろす。その姿には、空恐ろしいものを感じる。

子分の虎之助が、「親分は本当にお優しいんですねぇ。」と、五郎蔵の親孝行ぶりに感心する。
この虎之助役に「尾藤イサオさん」。虎之助は多分、五郎蔵一家の代貸であろう。
それにしても尾藤さん、いつ見てもお若い。ずっと前から芸能界におられるはずなのだが、いつ見ても印象が変わらない。1943年のお生まれなので、敦夫さんよりは3歳だけ年下なのだが、見た目は10歳ぐらい若く見える。

市川監督は、「股旅」という映画の資金調達のため、「木枯し紋次郎」の演出をした。その「股旅」の若い渡世人三人の内の一人が、この尾藤さんである。
尾藤さんを薦めたのは、市川氏の奥様、「和田夏十さん」だと言う。市川氏は、尾藤さんを当初ミュージシャンだとは知らなかったらしい。
市川映画に初めての出演。そして20年後の今回。その後は「四十七人の刺客」「どら平太」「かあちゃん」「犬神家の一族」と何回も出演されている。
ちなみに2006年の「犬神家の……」では、敦夫さんも出演されているので、久々の共演となった。

尾藤さん演じる虎之助は、いかにも冷酷な切れ者。五郎蔵に対しては、実に慇懃な言葉遣いで、親分として立てているが、隙があればその座を奪いかねない雰囲気である。笑っているようだが、目が笑っていない。いい味を出している。

さて、五郎蔵の子分の名前を列挙してみると、「虎之助」「丑松」「熊太郎」と動物シリーズ(笑)。五郎蔵はと言えば、お真知の育ての親「十兵衛」、その弟「八兵衛」と、こちらは数字シリーズ。登場人物の名前をつけるのは、結構面倒なのかもしれない(笑)。

虎之助が「連れて来やした。」と報告すると、五郎蔵はそばにいた丑松に、「ご苦労さんだったな。」と声をかける。丑松が、熊太郎と八州廻りの浅香が繋がっていることをチクッたようだ。
裏手で待っていたのは熊太郎だった。

五郎蔵は、
「随分と、頭数を集めてくれたんだってな。ほうびをやろうと思って呼んだんだ。」
と労いの言葉をかけ、鯉に振り落とした出刃包丁で、熊太郎を一突きにする。
五郎蔵にとっては、鯉をさばくのも人を殺すのも違いがない。多分、心拍数が上がることもなかっただろう。丑松が、「怖いお人なんだ。」と話していたのはこういうことなのだ。
平然と人を殺し、何事もなかったように振る舞う。冷徹な男なのだ。

一方、紋次郎とお真知は崖下で野宿をしていた。
月明かりと焚き火があるにしても、画面が明るすぎるのが気になる。まるで舞台照明のようである。その中で紋次郎は道中合羽のやぶれを繕っている。今日、五郎蔵一家の者に切られた箇所である。
紋次郎のソーイング・タイム(笑)。これも、今までのお約束を踏襲している。

「巧いもんじゃないか。女みたいだ。」
お真知が感心する。このセリフは確か、市川監督の「流れ舟は帰らず」で、お光が言っていたように記憶している。

今頃また思い出したのだが、この「流れ舟……」には今回と同名の「小平次」が出てくる。こちらの小平次は、またの名を「鬼の十兵衛」……あっ!こちらも十兵衛が出てくる!もう、ややこしくなるのでこの辺でやめます。

河原のことを怒ってるんだろう?とお真知に聞かれても、紋次郎は答えない。十兵衛を手にかけたのは、紋次郎とばかり思っていた……と言うお真知。今頃、やっと違うってことに気付いたんですね、お真知さん。
「あっしは世話になったお人を、斬ったりはしません。」
と返す紋次郎。どうもこの辺の言い回しが、およそ紋次郎らしくない。普段の、中村敦夫さんが喋っているとしか思えない。紋次郎にしては、声のトーンも高い。

「じゃ、一体誰が?!」

天眼通を使わなくても、わかりそうなものである。五郎蔵一家に命を狙われた、ということでやっと気付くとは……

「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

この「崖下劇場」(笑)での出演者は二人だけなのだが、意外な人物も出演する。五郎蔵の母親である。
お真知は傍らにある石仏に、五郎蔵の母親を幻視して、恐れおののく。多分今日、河原での天眼通で予知したことに関係するのだろう。
なぜ、五郎蔵の母親が見えたのか。生霊なのか、死霊なのか……。
顔を被い、怖がるお真知の肩を揺すって紋次郎が声をかける。

「しっかりしなせえ!なにもおりやしやせんよ。」

「怖い!どうしてあんなものが見えたんだろう。」

「気が立ってるんでござんしょう。」

「ねっ、そばにいてくれるんだろ?」

お真知は、ひざまずく紋次郎の道中合羽に縋る。至近距離での接触ではあるが、坂口さんだと嫌味がなく、決して「色仕掛け」にはならない。
あんなに紋次郎を憎み、仇と狙い続けたのに、変わり身の早さには驚くが、そこはやはり「か弱き女」ということか。
五郎蔵に命を狙われ、慣れない夜の野宿。その上、老婆を幻視したとなると、仇相手だったとはいえ、頼りにするのは自然なのかもしれない。

「夜中じゃ、小平次さんを探す訳にはいきやせんからね。」と言って、お真知から離れて立ち上がる紋次郎。
(お真知のために、そばにいるとは言わないところが、好ましい……笑)

「明日は?」

「十兵衛親分の墓参りをしてから、木崎に向かいやす。」

お真知も木崎に戻って、どうしても決着をつけないと……と思い詰めた様子。決着とは?

翌日、お真知は一足早く五郎蔵一家に帰っていた。五郎蔵一家に殺されそうになったのに、よく戻ったものだと思う。

紋次郎のことは知らせたのに、なぜ私の命を狙った?何か十兵衛殺しの件で隠していることがあるのではないか?とお真知は問い詰めるが、
「なにかの間違いだろう、自分がそんなことをするはずがない。」
と、五郎蔵はのらりくらりの返答。

5年前、たまたま上江田に立ち寄ったとき、十兵衛が紋次郎に金を託そうとしているところに立ち会った。
宿外れまで、紋次郎を十兵衛は送っていったのだが、一刻後には変わり果てた姿で発見され、懐にあったはずの十両が消えていた。おまけに楊枝が首筋に刺さっていた……という顛末が五郎蔵から語られる。
十両は、追分の武右衛門の亡くなったおかみさんへの香典だったと言う。だから紋次郎が、金欲しさに十兵衛を殺したと言うのだ。おまけに、意趣返しに来た弟の八兵衛まで返り討ちにしてしまった……。そのことは、お前の方がよく知っているはずだろう、と淡々と語る五郎蔵。動揺するお真知。

声量のある張りのある声ではないが、一徳さんの声はよく響く。室内の、磨き込んだ木の質感と、その声はよく調和している。
逆光の中、お真知を見る五郎蔵の顔は、無表情なだけにやはり怖い。

「お真知、お前は俺の女房になる運命なんだぜ。」

「おっかさんの言いつけでしょ?」
よっぽどお真知は、五郎蔵のマザコンぶりを嫌っているようである。

「いや……俺は……ずーっと……」
ずっと前からお前に惚れていたんだ……と言うはずだったのだが、また邪魔が入る。

五郎蔵の老母が死んだという知らせである。五郎蔵は急いで駆けつけ「おっかさん!」と脈をとるが、事切れていることを確認する。

「きついおっかさんだったけど、俺には大切なおっかさんだったよ。」
と涙声の五郎蔵。まるで子どものように泣きじゃくるその様は、とても冷徹なキャラには思えず、そのギャップが面白い。
お真知の天眼通は、当たっていたのだ。お真知も放心状態になる。

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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

うわ~、もう更新されてる。
たまには【紋Cafeでいっぷく】にしていただいたって、構いやせんぜ(笑)。

ここ、ラストと共によくわからなかった箇所です。
なぜ五郎蔵は、お真知まで殺そうとしたのか?
いずれは夫婦になる予定と言っても、それは母親の指示であって、五郎蔵自身はお真知を嫌っているということなのでしょうか。
あるいは紋次郎から「十兵衛親分を殺したのは、あっしじゃござんせんぜ」の言葉を聞いて、真実を知られる可能性があるからでしょうか。

ネーミングの動物シリーズは、私も気付いてましたが、数字シリーズは気付きませんでした。
さすがはお夕さんです。
でも「八兵衛」と聞くと、どうしても団子を頬ばるうっかり者が浮かんでくるよう刷り込まれてますから、七兵衛か六兵衛で手を打っていただきたかったです。(笑)

「崖下劇場」 で、二人の関係が「(一方的な)敵対」から「信頼」に変わるわけですが、怯えるお真知の肩に紋次郎が手を掛けるシーン。
「新」の頃は別にして、旧作や初期原作の紋次郎は、女性にこういう接し方してましたっけ?

それにしても、室内の映像の、逆光フレアの美しいこと。

  • 20130818
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

お真知をなぜ殺そうとしたのか?
これ、私もわかりません。
小平次から、お真知と紋次郎が出会ったことを聞いて、五郎蔵は推察したんでしょうね。
「お真知は、気づきかけている。」って……。
でも、よくわかりませんね。

「うっかり八兵衛」の高橋元太郎さんが、この前クイズ番組に出演されていて、「30年間も、『うっかり』していたなんて、ほどがある。」って言われていて、笑っちゃいました。
1970年から2000年までの30年間、良い味を出しておられたんですね。愛すべきキャラでした。

助さんの里見さんが、黄門役をされたんですから、今度は高橋さんが黄門役をされるってのは、どうでしょう(笑)。
喜劇になってしまうかな?

今回の紋次郎サンは、かなり情に厚い人柄として描かれているように思います。
これも5年間、堅気らしい生活を送ったからでしょうか。
目的があって行動する紋次郎からは、「虚無的な表情」が消えていますね。
クールな表情も、ステキなんですけどねぇ。

  • 20130819
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

お夕さんは足跡に登録されていないのでしょうか!
私の(足跡)にはリンクされていませんが。足跡のプロ昼には登録されています。(あし友申請)を致したのですが届いていないようですねー。如何でしょうか!

  • 20130821
  • 荒野鷹虎 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

(足跡)は私のブログの一番下にある芦野マークをクリックすればログインできますが、必ずしも、最高の方法とは言えません。重くなる事もあるのでね・・・お夕さんの足跡は分かりますからこれで良いと思います。参考までに一度(足あと)をクリックして見ればお夕さんのプロフイルが記載されていますよ。ではまた。気にしないでください。☆!

  • 20130821
  • 荒野鷹虎 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

鷹虎さま、ご心配をおかけしました。

これからもよろしくお願いしますね。

  • 20130821
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

お夕さん、こんばんわ。遅くなってすみません。
帰って来た木枯らし紋次郎、残念ながら自分では見た記憶が無いんです。一回完結じゃなくて、連続で10回やったの?

お夕さんが書いて下さるから、なんとなく想像できます。坂口良子とか、尾藤イサオとか、岸辺一徳とか・・。でも今よりも20歳も若かった訳ですね。

52歳で殺陣して走り回って・・!
中村敦夫恐るべし!

それにしても紋次郎が渡世人をやめて堅気の衆になってた時期があったなんてびっくり!
でもやっぱり渡世人に戻っていくんですね。

十兵衛さんが悪人じゃなくて良かった!!!(^^;;

Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

九子さま、コメントをいただきありがとうございます。

「帰って来た……」はテレビ放送はされず、劇場上映でしたので、ご存知ない方が多いと思います。
映画でしたから一回完結なんですが、「簡潔」にレビューが書けず(笑)ダラダラ引っぱっています。すみません。

坂口良子さんは急逝され、本当に残念でした。
20年の間には、いろいろなことがありますね。

紋次郎サンの堅気の姿は、座り心地が悪そうに見えてしまいます。(見慣れていないからでしょうけど……)

九子さんにとっては、やはり十兵衛さんは気になりますもんね(笑)!

  • 20130822
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

尾藤イサオさんって、あの歌

誰のせいでもありゃしない、みんなお前が悪いんだー。。。を歌った当時のロックシンガーでしたよねぇ〜、うぁ〜まだ口ずさむことができるよ〜悦、

  • 20130831
  • 淡青 ♦pDmV/urE
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「帰って来た木枯し紋次郎」(1993年)その十

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

尾藤さんのハスキーボイスは魅力的でしたね。
特に「あしたのジョー」の主題歌は有名です。
「ルルル~♪」の箇所は、尾藤さん、あろうことか歌詞を忘れ、思わず口ずさんだ産物だとか。
作詞の寺山修司さんは「こっちの方がいい。」と言われ、あの歌になったということをどこかで読みました。

尾藤さんの臨機応変さは、しなやかな体だけではないんですね(笑)。

  • 20130831
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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