紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

紋次郎の人気がうなぎ登りの頃、主演の中村敦夫氏が大怪我をした。第8話「一里塚に風を断つ」の殺陣のロケ中に、アキレス腱を断裂したのである。当人は、スタッフ陣の驚きをよそに、腹をくくったようである。彼としてはシリーズが終わるか、途中から主役の紋次郎が別人になるか……という選択肢だったようである。しかしファンは、そのどちらも許さなかった。
「中村紋次郎を続行しろ!」という、脅迫文めいたものまで届いたそうである。
そのくらい視聴者は、中村紋次郎が街道に帰ってくることを願ったのである。

そこでスタッフ陣は、撮影が再開されるまでの間、急場をしのぐことにする。
それが「笹沢左保股旅シリーズ」である。4週分、約1ヶ月の間、笹沢氏原作の活字作品から、4人の渡世人をブラウン管に登場させた。

その記念すべき第1作目が、「中山峠……」であり、原作は「見かえり峠の落日」に収録されている。この「見かえり峠……」は、紋次郎シリーズの前身ともいえる作品集であり、笹沢氏初の、時代小説である。

このテレビ版での4作品は、ある意味、奇跡の作品でもある。中村氏が大怪我をしなければ、日の目を見なかった作品なのである。「怪我の功名」とはよく言ったもので、いずれもクオリティーの高いものばかりだと私は思う。

主人公は「長次郎」という渡世人である。
外見は、「月代はのび放題、手甲脚絆はボロボロ、陰気な顔で目つきは鋭いものの、瞳に輝きがなく、眼差しが暗く沈んでいる。左腕には手首から肩まで、薄汚れた晒を巻いている。」と表現されている。
歳は、計算すると33歳。

この長次郎を演じたのは「高橋悦史」氏である。急遽の出演だったろうが、助っ人としては頼りになる俳優さんである。中村氏と同じく長身で面長。しかし大きく違うのは、目が切れ長ではなく、どちらかと言うとドングリ眼でインパクトがある。
スタッフ陣は、紋次郎の撮影に関わった人ばかりで、監督は「森一生」氏。作品全体に流れるトーンは、紋次郎作品と同じと言ってもいいだろう。

オープニングの音楽や映像……よく間に合わせたものである。4人の渡世人のオムニバス作品なので、顔は三度笠で隠してある。三度笠は、紋次郎バージョンではなく丸笠。道中合羽の丈は通常サイズで、紋次郎とは差別化を図っている。あの紋次郎のシルエットは、唯一無二とした。

葦原で6人の渡世人たちに囲まれ、「人違いだ。」と取り合おうとしない長次郎。そのやりとりの中で、賭場の上がり、三千両を奪って逃げた盗賊団の一味と間違われていることがわかる。この「天狗の勘八」が率いる盗賊たちは、痺れ薬を使って襲い、金を奪って半年になる。
長次郎を囲む6人は、その三千両を奪われた一家の者である。

一対六ではあるが、長次郎の敵ではなく、6人は全員その場で峰打ちで倒れる。出だしは原作と同じであるが、その長次郎に声をかける人物が違う。

原作では、織物問増井屋の手代「新蔵」という若い男であるが、テレビ版では旅籠の「十文字屋」の主、源兵衛である。源兵衛は、6人をあっという間に倒した長次郎の腕に惚れ惚れした、是非とも旅籠に泊まって欲しいと頼む。それが、自分の道楽だと言うのだが、かなり無理がある。

原作では、新蔵の姉で増井屋の若妻である「お美代」が、旅の途中、ならず者に付きまとわれ難儀をしている。その腕を見込んで、助けて欲しいと頼むのである。

結局、原作もテレビ版も、その頼みを断ることなく「十文字屋」に出向く長次郎である。関わりを持ちたがらない紋次郎に比べると、関わってしまう長次郎には人の良さが感じられる。
しかしテレビ版の源兵衛は、いかさま銭を使ってまで長次郎を誘い、いかにも胡散臭く、堅気の者とは思えない。

旅籠に着いて部屋に通された長次郎は、源兵衛から名前を尋ねられるが、本名は忘れてしまったと答える。この十二、三年間(原作では十五年間)郷里に足を向けたことも本名を呼ばれたこともない……と意味深長な言葉を添えるが、「長次郎とでも呼んでおくんなさい。」と名を告げる。

この後、左腕に巻かれた晒のことを聞かれ、「古傷がズキズキするので……」と答える。この晒の下には一体、どんな古傷があるというのか?
道中の目的を尋ねられ、「ひょっとするとめぐり会えるかもしれねぇ、アテのねぇ望みのようなものは一つ、持っておりやすがねぇ。」と答える長次郎。
このやり取りは、原作では新蔵となされる。この伏線は、すべてクライマックスで集結される。

笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

女の悲鳴が聞こえる。お美代が二人のやくざ者に引き倒されている。番頭が止めに入るが、何の役にも立たない。源兵衛が長次郎に何とかして欲しいと頼むが、長次郎は断る。しかし、お美代の姿をじっと見る。
源兵衛は見るに見かねて、丸太棒を手にしてヤクザ者たちに向かう。
「今でこそ足を洗って旅籠屋の亭主だが、十年前までは『駒形の源兵衛』と言ってちっとは売れた顔だ。真っ昼間から、素人衆を手籠めにしようとする下衆野郎は放っちゃおけねえ!」と勇ましい。やはり、ただの堅気ではなかったようである。

ヤクザ者で、兄貴と呼ばれる男は「鬼坊主の安五郎」と名乗り、右腕の「さ」の字の入れ墨を誇らし気に見せる。とたんに源兵衛の顔色が変わり、その場で土下座をする。安五郎は「ドサ帰り」(佐渡帰り)だったのである。

当時、佐渡から生きて帰って来た者はほとんどなく、渡世人や無宿者からは最高の畏敬の念を持たれる存在だったのである。生き地獄と言われた修羅場の中、長年生き抜き、佐渡を脱出することは不可能に近い。安五郎は、その世界では「神」にも近い存在なのである。

原作では安五郎は、「一癖も二癖もありそうな大男」とされているが、テレビ版ではそれほどでもない。長次郎よりも小柄で、凶暴な感じはしない。長次郎は安五郎の前でも動じず冷静で、「ドサ帰りのお兄さんには、初めてお目にかかるんでねぇ。」と言って腰を下ろす。

ここで、その場から逃げていたお美代が、真剣な面持ちで安五郎の前に跪く。
「佐渡の金山の様子を聞かせて欲しい。」と言うのだ。織物問屋の若妻がなぜ?と、一同が疑問に思う中、お美代は身の上話を始める。

お美代役には「弓恵子」さん。清楚な風情でありながら、艶っぽい雰囲気の女優さんである。
お美代は、夫が佐渡の金山に送られると話し出す。
長次郎は、すすり泣くお美代を前にして、目を伏せる。

お美代の亭主要助は、義母にそそのかされ、妾に三百両をつぎ込んで勘当され無宿人となった。江戸に出た要助は、運悪く無宿人狩りに遭い、佐渡送りにされると言うのだ。
後添えだった義母は、自分の実の息子に跡目を継がせるため、罠を仕掛けた。佐渡に送られる前に、一目夫に会いたいという一心で、ここまで旅をしてきた。そして、要助は無実だと訴える。

テレビ版では、商家の女が一人、供を随えず旅をすることのおかしさを考えなかったのだろうか。当時の風潮を無視した設定であると言っても過言ではないだろう。原作では、実の弟である手代の新蔵を連れて旅をしている。この点は、頷ける。

その話を、安五郎とその手下の亀吉は興味深く聞いている。さっきまでお美代を、追いかけ回し嬌態を晒していた二人が、である。お美代を襲おうとした者、それを止めようとした者、無関心だった者。それぞれがお美代の話に耳を傾けて、同情する。
妙な展開であり、違和感がある。しかし、その違和感の中、目籠破りをすることに決まる。提案したのは、長次郎。足を洗った源兵衛、番頭もさることながら、悪人である安五郎、亀吉までもが義憤に駆られ、行きずりの旅人の提案に乗るというのも、おかしな話である。

目籠破りは当然死罪となる大罪であり、成功率はゼロに等しい。無謀な計画であるが、話はどんどん進む。
番頭はそそくさと、絵図を持ってくる。広げた絵図を見ながら、長次郎は護送ルートを説明する。
「やけに、詳しいな。」と安五郎は感心する。これも、伏線である。
長次郎は、中山峠を目籠襲撃の場と決める。中山峠には茶屋があり、そこに隠れて目籠を襲うと言うのだ。

長五郎を先頭にして、6人は間道を進む。途中、激しい雨が降り出し、一行は無人の山寺で雨宿りをする。
お美代は、要助を助け出したら、ここを隠れ家にしようと提案する。
雨宿りをしながら、長次郎は安五郎に佐渡での様子をいろいろと尋ねる。安五郎は、坑内での苛酷な状況を誇らしげに聞かせる。十両ぽっちで、目籠破りを請け合うなんて、と言いながらも、やり甲斐のある仕事だと笑いながら話す。
「役人は大っ嫌いだ。」と言う安五郎に、「俺も役人は大っ嫌いだ。」と長次郎も同調する。

このセットは、実に良くできている。いかにも破れ寺といった感じのする古ぼけた襖や、畳がはがされた床など、手の込んだ様子が見て取れる。急場しのぎの、安直な作品と思われないように、クォリティーは落とさないというスタッフの心意気を感じる。

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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

お~~「中山峠」!
この笹沢左保股旅シリーズ、敦夫さんの不在中に視聴者を逃しては大変という気合がみなぎり、どれも名作ですね。
OPも音楽も、急ごしらえとは思えないほどよく出来てますし。

私が笹沢左保の名前を初めて知ったのは、1971年の少年マガジンに、この作品を上村一夫が漫画化したものが、上・下にわけて掲載された時です。
「よく出来たどんでん返しだ」とかなり驚いたのを覚えてます。
それと、「90センチ四方よりも小さな箱に数日間押し込めておくという拷問もあったようだ」が図入りで載ってたのを見て、トラウマになったものでした。
10数年前までそのマガジンは持っていたのですが、実家の建て替えで処分されてしまいました。

この作品、敦夫さんが怪我をしなかったら、無理矢理紋次郎に焼き直されてたんでしょうね。
なお、紋次郎ブームの最中、連合赤軍リンチ殺人事件が起き、群馬県倉淵村の地蔵峠から4~5人の死体が発見され、当時のサンケイ新聞の見出しは「地蔵峠に地獄を見た」でした。

  • 20131120
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

「少年マガジン」に、こんな重厚な作品が漫画として掲載されていたんですね。
ちょっと驚きです。
そして、TOKIさんの記憶力にも脱帽です。

この作品を紋次郎バージョンに翻案すると、どうなるんでしょうね。考えると結構面白いです。

あのタイトルのつけ方は斬新でしたね。それも時代小説で……。

当時、上條恒彦さんの歌で「珊瑚礁に何を見た」というタイトルがありましたっけ。作詞家 阿久悠さんも、影響を受けていらっしゃたんでしょうか。 

  • 20131120
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

ニュース!
過去に漫画化された紋次郎が、なんと昨日11月20日に、リイド社から復刻されて発売。
上村一夫「中山峠に地獄を見た」も収録されているそうです。
コンビニにも並ぶとか。
実にタイムリー!!
http://www.leed.co.jp/book/b2017.html

  • 20131121
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第一話 「中山峠に地獄を見た」(その1)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

キャーッ!
本当ですか?
嬉しい情報、ありがとうございます。
今なお、紋次郎を愛する人が、この企画をされたのに違いありません。

コンビニですか?早速探してみます。

  • 20131122
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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