紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)
伊兵衛一家の者たちが、二人の様子をうかがいに来ている。決戦のときが近づいている。
このロケ地、山間に棚田が見え山道が続いている。
吉兵衛は、街道に友蔵一行の姿を認めると、道中合羽をはね上げ身構える。
まず伊兵衛一家の者たちが、襲ってくる。吉兵衛は長脇差を抜き、丈八は鞘に見える木刀で攻撃をかわすが、やはり吉兵衛は足元がふらつき跪く。
「とっつぁん!」と駆け寄る丈八。

「よう、抜かずの丈八、鉄砲の吉兵衛。ひさしぶりだなあ。」
声をかけたのは、なんと牢内で一緒に居た忠次だった。

「こんなところで会おうとはなあ。」
「てめぇは、忠次!」

驚く吉兵衛とは対照的に表情を変えない丈八。

「友蔵ってのは、おめぇのことかい?」
忠次は、お仕置きを済ませた自分は名前を隠す必要はない、友蔵ってのは、こちらの親分さんだと明かす。

懐手で胡桃を回している男……友蔵は仙太郎だった!

目を見張る吉兵衛。牢内に居たときとは違い、月代を剃ってこざっぱりとした姿だが、紛れもなく仙太郎だった。

「幽霊じゃねぇよ、種明かしをしてやろう。」

仙太郎は忠次の手引きで、牢内から死体として運び出されたのである。小伝馬町の牢役人や牢医たちに脅しと金をつかませ、仕組んだのだ。牢内の囚人たちにもつる金を渡して、一芝居を打った。作造りと見せかけて、気絶している仙太郎を、先に出牢していた忠次が迎えに来ていたというカラクリ。
これがこの作品の、ドンデン返しである。本当に地獄の沙汰も金次第だった。

「おめぇたちとも不思議に縁があるもんだ。」と仙太郎は言うが、本当に出来すぎているとは思う。しかし、これもフィクション。
「お京はおれの娘だ!」と明かす吉兵衛に、冗談だろうと取り合わない仙太郎だが、吉兵衛の気迫に笑いが消える。そばでうっそりと立つ丈八は、無表情のままである。

「堅気の女房に、なんてことをしやがったんだ!」
「とっつぁん、このおれを斬ろうってのかい。」
「お京の仇だ!」

吉兵衛は、仙太郎と忠次に向かっていく。丈八も助っ人し、伊兵衛一家に木刀を叩きつける。さすがにアクションスターの川津さん。動きは素早く、キレがいい。
吉兵衛は、老体ながらも懸命に長脇差を振り回すが、二対一では到底かなわない。二人に斬られ、バッタリと仰向けに倒れてしまう。

「とっつぁん!とっつぁん!」

駆け寄って、声をかける丈八。振り向いた視線の先には仙太郎の足元が見え、それが徐々に上がっていく。カメラワークの演出の妙であるのだが、これは原作と同じ。

「丈八は、ゆっくりと吉兵衛のところへ近づいた。吉兵衛の顔に落ちた丈八の視線は、地面を這ってそこにある男の足の爪先で止まった。それから、その足を膝へ、腰から胸へ、そして仙太郎の顔に丈八の視点は定められた。仙太郎が一瞬、たじろいだ。丈八の鮮烈な眼光に、威圧されたのだった。」(原作より抜粋)

笹沢氏の演出なのである。ゆっくり視線を上げていくに従って、丈八の怒りも沸点に近づく。

「丈八の目は、青白く光っていた。」と書かれている通り、川津さんの目の演技がいい。このドラマでのベストショット、斜め45度のかっこいい表情。中村紋次郎には悪いが、惚れてしまうやろ~(笑)。

丈八は、吉兵衛の手から抜き身を取ろうとするが、吉兵衛が虫の息で「いけねぇよ……。」と声にする。

「どんなことがあっても抜き身は持たないという誓いはどうするんだい。」
「あっしが右腕一本斬り落とせば済むことでござんす。」
「馬鹿なことを言っちゃあいけねえ。」
「御免なすって。」

丈八は吉兵衛の手をふりほどいて、抜き身を手にする。

「丈八さん!」
「あっしの血が熱くなったのは、これが最初で最後なんでござんす。」

原作とほぼ同じ台詞であるが、これが今回の決め台詞と言ってもいいだろう。振り返った丈八の顔も引き締まっていていい感じである。
吉兵衛は、その言葉を聞いて事切れる。

「抜かずの丈八が、抜きやがったな。」

笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

片手で光る抜き身を背後の敵に向けながら、丈八は口上を述べる。

「牧野のお身内に申し上げやす。このもめ事に限り、抜かずの丈八の呼び名を返上致しやして、ご覧の通り、抜き身の長脇差でお相手致しやす。お命を粗末になさらねえよう、無用な助っ人はどうか手控ておくんなせぇまし。」

腕に自信がないと、なかなか言えない台詞である。
「待ってました!丈八さん!」
と視聴者は声をかけたくなる。

もともと牧野の伊兵衛一家には、何の遺恨もないのである。渡世の義理という制約で、仙太郎に助っ人をしているだけの男たちを、丈八は敵に回したくないのだ。
むやみに人を斬りたくない。だから、抜き身を封印した身なのだ。

「おめぇには、随分痛ぇ目にあわせられたっけな、四番役。」
忠次の横っ面を殴りつける丈八。

一団は、棚田に続く枯れ草生い茂る小径を飛び降りていく。足場が悪い中であるが、殺陣が始まる。
棚田と言えば、紋次郎シリーズでは「峠に哭いた甲州路」である。
今回は、棚田を走り回る殺陣ではなく、高低差を生かした演出である。
まず忠次が斬られ、斃される。

次は仙太郎と対峙する丈八。

「一番役。佐助って男を忘れちゃあいねぇだろうな。この丈八と同じ、信州無宿というだけで狂い死にさせた佐助だよ。その佐助ととっつぁんの仇を討たせてもらうぜ。」

丈八は長脇差を横に構えながら、ジリジリと上って来る。今は、抜かずの丈八ではなく、抜き身の丈八。その気迫に押されて、仙太郎は逃げ腰状態である。

棚田を駆け抜け一人斬り斃し、丈八は仙太郎を追って急勾配の坂を上がる。追い詰められた仙太郎は尻餅をついた格好で、丈八の足元を長脇差で薙ぐ。
その瞬間、丈八は跳躍して近くの竹に飛び移り、しなる竹と共に仙太郎に襲いかかる。地上に降り立った丈八は、袈裟がけで長脇差を振り下ろし、最後は胸にとどめを刺す。

原作では「佐助の分だ。」として、仙太郎の左の耳を削ぎ落とし、「とっつぁんの分だ。」と左手首を斬り落とす。そして最後に胸板を長脇差で貫く。かなり暴力的であるので、テレビ版では押さえてある。お茶の間で見るには、やはり規制も必要であろう。

沸点まで達した丈八の血は、ここで元に戻り、冷静になる。
倒れている吉兵衛のもとに跪き、その両眼をそっと閉じさせる。そして短く瞑目して、自分の木刀を腰に落とす。

子守唄が河原に流れる。
丈八は吉兵衛から託された守り袋を、お京に手渡す。お京はそれが何かもわからずに受け取る。無邪気な顔で丈八に笑いかけるお京につられて、丈八の口許もかすかに緩む。
お京に背を向けて立ち去ろうとする丈八を呼び止めたのは、清吉だった。

清吉は丈八に礼を述べる。吉兵衛が父親だったことも、人から聞いたと言う。一体誰から聞いたのだろう。あの場に居た者と言えば、牧野の伊兵衛一家。ちょっと腑に落ちない。

清吉は吉兵衛を弔い、手を尽くしてお京を元の体にする、と涙ながらに丈八に約束する。
この設定はテレビ版だけである。原作でも最後に清吉と出会うが、他人行儀な様子に、丈八は「この男は冷たい」と思う。お京は間もなく、離縁されるに違いない、とも書かれている。
テレビ版は、わずかでもお京の行く末に希望を与えている。
清吉さん、いい人だったんだ。疑ってごめんなさい(笑)。

「これからどちらへ?」
「塩尻から松本道を、岡田宿まで参りやす。この右腕を斬り落とさなけりゃならねえんで……。」

川沿いの道を歩く丈八の孤影が遠くに見える。
芥川さんのエンディングナレーションが入る。

「天保十年の晩秋。まだ年若い渡世人が、一人の百姓女のために、信州岡田宿のはずれの農家の庭先で、自ら右腕を斬り落とした話は、長く里人の間に語り伝えられ……だがその人物のその後の消息については、誰も知らない。」

原作では、腕を斬り落としに行く丈八の姿は記されている。右腕を失えば、本当の抜かずの丈八になる。それはこの渡世では「野垂れ死」を意味するだろうが、それもまたよかろうと、苦笑している。

自分の行く末を知りながらも街道を往く丈八の姿は、「地蔵峠の雨に消える」の三筋の仙太郎と重なる部分がある。
どんな苛酷なことがこの先待ち受けていても、自分が決めた掟を貫く姿は、言い訳に終始しがちな世俗とはかけ離れていて、孤高であり崇高である。
「男の美学」を極めた作品と言っても過言ではないだろう。

この「股旅シリーズ」の中で、私は川津丈八さんが一番かっこいいと思っている。男っぽさの中に、優しさと知的な面が見られ、好感度が高い。いや、多分に面食いだけなのかもしれないが……(笑)。


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Re: 笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

ようやく作品を見終わり、原作も読み返しました。

私は笹沢左保股旅小説の熱狂的なファンですが、主人公自身が痛めつけられたり、煮え湯を飲まされるような仕打ちに遭う話は、内容は評価しても、あまり読むのは好きでないのです。
紋次郎シリーズなら「水車」「無縁仏」「女郎蜘蛛」。
新三郎シリーズでも「房州」は、ページをめくる気があまりしないのです。
そしてこの「信州路」。
上記の作品群は、主人公をひどい目に合わせる連中は堅気や子供なので、最後に仕返しをしたりしない話ですが、これは倍返しするというのに…。
作品としては、自身の誓いや信念に殉ずる崇高な無宿人の話で、かなり評価を高くしてるのですが(おい「紋日」の紋次郎、聞いてるか!)、凄惨なリンチシーンは、やはりページをめくる手が重くなります。

で、このテレビ版ですが、凄惨シーンをギリギリまで削り、ラストは原作にない丈八の最後をナレーションのみで付け加えるという演出で、かなりの名作だと私も思います。
また、原作では冷たい男だった清吉を、暖かい男に変えてるのも良いですねえ。

撮影地ですが、冒頭の竹薮は長岡京の奥海印寺周辺、紋次郎の「虚空」の撮影地の近くだと思います。
「虚空」の撮影地確認に去年行ったら、縦貫道建設ですっかり地形が変わっておりました。
洗馬宿に差し掛かる手前の、岩の出た道とラストシーン、それに木刀を作る場所は保津峡ですね。
ラストは「水神祭」と同じく、嵐山高雄ドライブウェイの展望台からでしょう。
お京に出会う川原は、「木枯しの音に消えた」で紋次郎が稲荷山兄弟と対決した場所のやや上流。
立ち回りシーンは、「甲州路」と同じく嵯峨樒原じゃないかと思われます。

「刀のように見えるが実は木刀で、抜くことが出来ない」
これは古典落語「道具屋」のワンシーンで、長谷川町子「新やじきた道中記」でもオチに使われてたことがありましたが、それをこんな悲哀感あふれる話に仕立てられるとは。

川津祐介さん、「ザ・ガードマン」では滅多に出てこない最後の一人で、出てくるたびに大怪我をする役だったくらいの印象でしたが、これで見たらかなりかっこいいんですね。
眉を濃くして無精ヒゲを伸ばした丈八姿の川津さんが、「復活の日」の草刈正雄そっくりに見え、睫毛の長さを覗いた目鼻立ちは意外に似てるんだなと初めて気付きました。
関係ないけど、アテネ五輪の水泳メダリストのイアン・ソープ選手も、川津祐介さんに似てませんか?(笑)

(三回分で書きたかったことを一回に詰め込みましたので、取りとめがなくなってすみません 笑)

  • 20140124
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

私もTOKIさんと同じく、リンチシーンは避けたい方です。原作と比較して、改めてわかるのですが、やはりお茶の間ドラマとしての制約が働いていますね。
これが映画だったり、劇画だったりすると、もっと原作よりになるかもしれませんが……。
目を覆いたくなるようなシーンは、遠慮したいです。
(首チョンパは、違う意味で目を覆いたくなりましたが……笑)

ロケ地の情報、ありがとうございます。
中でも、「嵯峨樒原」は訪れたいです。ちょっと手前までは、行ったことがあるのですが……。
紋次郎に出会えそうな場所が、まだ残されていそうですもんね。

最近私事で、「紋次郎追っかけ」ができていないので、余計に感じます。
そう言えば、写真もあんまり撮れていないので、面白くありません。
この冬は「じっと我慢の子」(古っ!)です。

  • 20140125
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 笹沢左保股旅シリーズ 第二話「狂女が唄う信州路」(その3)

もう一度、撮影地を検証しました。
すみません、東方向の展望が開けてますし、嵯峨樒原じゃないようです。
途中に見える山から考えて、愛宕山の東かなとも思ったのでが、あそこにこんな棚田が有ったのかどうか…。
また、京都の地理研究家の友人に意見を聞きたいと思います。

なお、「甲州路」の撮影地は嵯峨樒原で間違いないことを、この友人が現地調査し、撮影を目撃した地元の老人数名から証言を得て立証してくれました。
時間が出来ましたら、ぜひ一度!

  • 20140125
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
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