紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)

笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)

笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)
しかし銀次は、忠次が処刑される大戸に足を向けてしまうのである。堅気の者に、首を盗んで欲しいとまで慕われた忠次……。その存在の大きさに興味を持った銀次は、忠次の処刑を見たくなった、と芥川さんのナレーションが入る。
原作では「何か他人事のような気がしない。誰かが代わりに忠次の首を盗むのではないか、とそんな好奇心もあった。」と書かれている。
好奇心という言葉が出てくることも、驚きである。言い替えれば「野次馬根性」で、銀次は先を急ぐのである。小三郎を失って、また一人旅になったのであるから、どこへ行こうと勝手気ままではあるが、いつも虚無的で好奇心など無縁であるような渡世人が数多に出てくる笹沢作品の中では珍しい。

銀次は大戸に向かう途中で、百姓家に仮の宿を頼む。この、テレビ版での百姓家がリアルである。萱葺きに破れ障子……当時のロケ地にこんな家屋があったのだろうか。夕闇に包まれた、その侘びしい佇まいに魅力を感じる。朽ちるモノ、侘びしいモノ、寂しいモノに心を奪われる。

銀次は納屋に泊まることになる。ここからは、多分セットであろう。囲炉裏の火が燃え、ムシロの上で銀次は長脇差を抱き寝して横になっている。人の気配を感じて長脇差に手をかける銀次は、農夫の声を聞く。眠っていても気配を察知するあたり、渡世人としての心構えは身についている。

農夫は、もう一人相部屋を頼むと言う。若い女だという言葉に、銀次は少し驚く。若い女の夜旅というのは、何か事情があってのことだろう。銀次は承諾し、女がおずおずと入ってくる。銀次は起き上がってはいるが、女の方を見ようともしない。若い女ということで、少し緊張しているのか、ジロジロ見るという不躾な態度はとらない銀次である。

「ご無理をお願いいたしまして、申し訳ございません。信州小諸から参りました静と申す者でございます。」
礼儀正しく正座して挨拶をするお静の方を見ようともせず、「あっしは銀次という流れもんで……。」と名乗り、しばらくして銀次はチラリと女に目を向ける。

お静役に「梶芽衣子」さん。「野良猫ロックシリーズ」で、人気を博した女優さんで、任侠映画にも数多く主演されている。
記憶に新しいのは「鬼平犯科帳」での「おまさ」役。このおまさ役は、なんと24年間も演じ続けていらっしゃるという、息の長い女優さんである。キリッとした目元に意志の強さが見られるも、翳りのある美貌の持ち主。

荷物をほどきながら、お静は「大変な人出ですね。」とポツリと言う。
「娘さんも忠次のお仕置きを見物に来なすったんですかい?」
銀次の問いには答えず、顔色を変えるお静の様子から、忠次に関わりがあることがわかる。

眠りについた銀次を起こさないように、ろうそくを灯してそっと取り出した絵図を広げるお静。その後、短くなったろうそくが映し出され、時間の経過が表現されている。
短くなるろうそく、と言えば「湯煙に……」で、負傷した紋次郎の脚をお久が湯もみするシーンが思い出される。

銀次はそっと起き上がり、板塀によりかかって眠っているお静に自分の合羽を掛けてやる。なんて優しい男なのだろう。フェミニストである。
その後、傍に広げてある絵図を手にしてろうそく灯りで見入っている銀次……これはちょっといただけない。他人様の持ち物をこっそり見るのはいけません(笑)。
お静はそれに気付いて、銀次からをひったくる。

銀次はお静に、若い女が忠次のお仕置きを見に来るなんて、酔狂な話だ……と口にする。酔狂と言えば、忠次の首を盗んで欲しいという男が現れたが……断った、という話に、動揺するお静。その様子に、お静もまた同じ目的があるのかと、推測する銀次。その推測は当たっていた。

お静は父親の遺言で、どうしても忠次の首が欲しいと言うのである。忠次の囲い者であったお徳も、腕一本でもいいから欲しがっている……しかし首だけは誰にも渡さない、と思い詰めた表情で決意を話す。
実際にはお徳が刑場から首と手足を持ち帰り、その首を埋葬した墓が、国定村の養寿寺にあるとされている。他にもいくつか墓があるようだ。

お静の家は材木屋だったが、あくどい高利貸しに引っかかって路頭に迷いそうになったとき、忠次に助けられた。お静の父は、もし忠次がお仕置きになるようなことがあったら、首を持ち帰って立派な墓を作るように、と遺言を残した。

銀次は話を聞き終わって、無言で立ち上がると、お静に再び合羽を羽織らせ、静かに背を向けて横になる。口には出さないが、お静の一途さに共感している様である。
原作でははっきり「そんな静に強く惹かれていた。」と書かれている。同じ願いであるのに相手が違うと、こんなに心が動かされてしまうのか(笑)。

二人は刑場にいた。見物人の中には手を合わす者もいる。
「さすが忠次よ、すげぇ人だ。俺たちが悪事をはたらいて磔になっても、堅気の人間はだれも仕置き場に来ないだろう。」
「器の違いだ。どこで野垂れ死んでもせいぜい道ばたの肥やしだ。」

見物に来ていた渡世人たちの話を聞く銀次は、小三郎が埋められた土饅頭と黄色い合羽を想う。小三郎は野末の土の中……誰も手を合わす者はいないだろう。そしてそれは、銀次も同じである。
テレビ版ではショットでの映像だけだったが、原作での銀次は、自分と忠次の違いをまざまざと思い知らされる。他人と自分とを比較する心情を持つ銀次に、今までにない人間らしさを持つ渡世人だと感じる。

お静は、忠次の勢いが強くなってきたことを目の敵にして、見せしめに磔にするのだと憤慨する。忠次が、二足の草鞋を履かなかったことも、気に障ることだった。土地のヤクザでもお上に取り入って、十手取り縄を預かる身であれば、刑は免れるのだ。関所破りで磔になるなんてことは、あり得ないと怒る。

笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)

忠次の刑が執行され、どよめきが起こる。お静はそれを耳にしたとたん、気を失って銀次の胸に倒れ込む。ハッと気がついて、慌てて離れたお静に、銀次は願いを引き受けると伝える。
一旦、大戸を離れ権田宿で一晩すごしお静は先に小諸へ向かう。銀次は明日、首を盗んで峠越えをして落ち合うというのはどうか、と提案する。

三十両を積まれても断った自分が、頼まれもしないのに引き受けようとするとは皮肉な話だ、と銀次は笑う。三十両で頼んだ男は、供養だとか言ったが、汚れた仕事は渡世人に任せようとした。しかし、素人のお静は危ない仕事に体を張っている。それに自分は、忠次の貫禄に頭が下がる思いでいる。同じ渡世人である自分が、お静に力を貸してもおかしくはないだろう。

縁もゆかりもないのに……報われない危ない仕事なのになぜ?命を落とすかもしれないのに……と尋ねるお静に、銀次は答える。

お静のような人のために何かやりたい、忠次のような渡世人を手厚く葬りたい。吹けば飛ぶような名もない旅鴉の気まぐれだ。悪い癖かもしれないが、お静は気にすることはない、と言って、自嘲的に笑う。
しかしその表情には、清々しささえ感じる。

さて、忠次の貫禄に感服する銀次という設定であるが、天知さんの貫禄は忠次以上であろう。
刑場で、忠次とおぼしき人物がチラリと画面に見えるが、どう見ても天知さん以上に貫禄があるとは思えない。
原作では、もっと詳しく忠次の剛胆ぶりが記されているが、テレビ版ではあまり強調されていないので、天知さんが忠次を演じられた方が良かったのでは(笑)、と思わせるほどの重厚な存在である。

権田宿の旅籠で二人は絵図を見て、手はずを整える。絵図は信州に抜けるための間道が描かれており、目印に「忠」と記された岩がいくつかあるという。
上州と信州の境に「暮坂峠」がある。ここを越えれば、追っ手も来ない。大戸からは十五里、ここで落ち合うということに決まる。

「恥ずかしながらあっしは、竜が舞うほど足が速いと言われ、竜舞の銀次と名の付いた男だ。人目を避けて明日一晩のうちに突っ走って行きやす。」

テレビ版では地名より、足の速さを名前の由来としている。十五里……約60㎞という長距離である。それも平坦な道ではなく、山道……追っ手の目をかいくぐって首を持って走るというのは、自分で課したとはいえ苛酷な厳命である。

明け方、人の気配に長脇差に手を伸ばした銀次の手を制する白い指……銀次の寝床に、お静はおずおずと体を横たえる。
「銀次さん……。」
赤い襦袢が扇情的だが、お静の目は真剣そのものである。

お静の白い指が、銀次の肩に伸びてくる。

「こんなことをしちゃあいけねえや。どういうつもりか知らねえが、堅気の娘さんとじゃ、そんな気にはならねえんだ。」

「何も礼ができません。これで勘弁してやってください。」

銀次は思わずお静を抱き寄せるが、ハッとして体を離し、布団から抜け出す。障子を開けると、しらじらと夜が明けていた。

「お静さん、その気持ちだけはもらっておきやす。」

哀しそうな表情でお静は布団に顔を埋める。

「あっしだって生身の男だ。正直言って苦しかった。」
「だったら……。」
「少しは、無理をしているのかもしれねえ。だがな、おめえさん、なんにも報われねえのに、忠次の首を信州小諸まで運ぼうとしている。その手助けをしようとしているあっしが、お静さんから礼を貰うのは、筋が通らねえ話だろう。」

「でも……すみません……。」とすすり泣くお静。

「あっしらの世界では、三つの掟がある。死んだ人間のことを思い出すな、自分がいつまでも生きるな、そして堅気の女に惚れるな……。あっしが忠次ほどの男だったら、ちっとは楽な気で、お静さんに触れることができたかもしれねえ。今のまんまの竜舞の銀次じゃ、死ぬまで、嫁入り前の堅気さんの娘さんには、縁のねえ男さ。」

苦笑しながら、お静に背中で聞かせる銀次。忠次の貫禄と、自分とを比べる銀次。他人と自分を比較して、女を抱くか抱かないかを迷い、それを口にするのはいかがなものか、と思うのだが……。

この場面のカメラアングルは、よくできている。開けた障子、お静に背を向けて佇む銀次、その奥に泣き伏せる襦袢姿のお静。斜め前から俯瞰したアングルでの愁嘆場である。

原作と台詞は、ほとんど同じである。お静への想い、忠次への畏敬、自分の今までの生きざま……。そのすべてを総決算した大仕事に臨もうとする日が始まった。

「今日のこの陽が昇って沈んだときに、最初で最後かも知れねえ、大仕事が待っている。」

天知銀次の引き締まった顔に、強い気持ちのみなぎりを感じる。


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Re: 笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)

おっしゃるとおり、この銀次は初期股旅小説では異色の存在ですね。
自分から関わりを持ち、余計なことまでも自分から喋る。
また、百姓家に宿を頼みに行くというのも、紋次郎や新三郎ならば考えられないことです。

前回のコメントと重なりますが、こういうやや軽さのある主人公でもって、ああいう結末の話を、痩せて薄汚れた男に演じさせたら、ただのピエロのようになりかねないので、重厚な天知さんにしたのは正解だと思います。
また、忠治の処刑を二人で見送るくだりから、後の「大江戸」を創作したのかとも思いました。

今回のロケ地はどこなのか、まったくわかりません。
石コロだらけのザラ地が山肌にあり、短い笹が生い茂る。
周辺の山肌にはEXILEアツシの髪型みたいな溝が幾つもある。
京都にはこんな場所はありません。
スキー場の跡のようにも思えるんですが、撮影時期から考えたら、積雪が無いとおかしいし…。

  • 20140220
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 笹沢左保股旅シリーズ第三話「暮坂峠への疾走」(その2)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

銀次さん、名前からちょっと軽さがありますね。渡世人歴10年というのも、短い方かもしれません。
「人を信じやすい性質」
よくこれで、ここまで生き延びてきたものです。頼まれると断れない……紋次郎とは真逆の渡世人です。騙され裏切られてきたのに、また引き受けてしまう。そして、今回もまた……。
堅気の者は、善良な者ばかりではないというコンセプトが、今回も見られました。

EXILEアツシの髪型みたいな溝……なるほど、そういう例えもありますね(笑)。
ホント、ロケ地はどこだったんでしょうねぇ。とても、峠のようには見えません。

  • 20140221
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
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