紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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日々紋次郎「名調子 芥川隆行」

日々紋次郎「名調子 芥川隆行」

日々紋次郎「名調子 芥川隆行」
紋次郎シリーズのナレーションと言えば、言わずと知れた「芥川隆行」さん。
ドラマの中でのナレーションはもとより、エンディングの「木枯し紋次郎……上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれたと言う……。」の一節は、胸が締めつけられるような哀愁がこもっていた。また、次回の予告編での語りも大好きで、詠うような名調子に聞き惚れ、次回作への期待に胸をふくらませたものだ。

紋次郎だけでなく、当時の時代劇のほとんどは、芥川さんのナレーションだったのではないだろうか。
1990年71歳でお亡くなりになっているが、芥川さんの独特な語り口を、記憶されている人はたくさんいると思う。
味のある、どこか懐かしさを覚える温かみのある声質で、ゆっくり流れる大河を連想するテンポ。言葉を大切にして、かみしめるような間合いが絶妙だった。

「名調子 芥川隆行が語る木枯し紋次郎」のCD、「一里塚に風を断つ」を初めて聴いてみた。

オープニングは「だれかが風の中で」のメロディー。電子音的な軽いノリの演奏をBGMにして、エンディングに使われた「木枯し紋次郎……上州新田郡三日月村の……」のナレーションで始まる。しかし、残念なのはドラマで語られていたものとは少し違うところだ。
「十歳のとき故郷(くに)を捨て、その後一家は離散したと伝えられ……」ではなく「十歳のとき、一家は離散したと伝えられるが……」に代わっている。これではまるで、十歳のときに家族が「全員解散~!」となったような印象を受けてしまう(笑)。まあ、細かなところはスルーしようと思ったが、もっと気になる箇所を発見してしまった。

「その後紋次郎が、なぜ、無職?渡世の世界に入ったかは定かでない。」
えっ!?今なんて言った?無職渡世?そりゃ渡世人はいわば無職ではあるが、ここはやはり「無宿渡世」でしょ。私の聞き間違いかと思い、何度も聞き直したが、やはり「無職渡世」となっている。なぜ、このようになったのか、定かでない(笑)。

シナリオは原作通りではなく、端折ってあったり前後したりして構成されている。
気になったのは、洗馬宿を「あらいまじゅく」と読んでいるところである。私は「せばじゅく」だと思うのだが……?原作にも「せば」とルビが打たれており、一般では「せば」だろう。しかし、昔は「あらいま」と呼んでいたのかもしれない……。
それと、中山道を「ちゅうざんどう」と音読みしている。江戸時代は、そのように呼んでいたのだろうか。どなたか詳しい方からの情報をお願いしたい。

朗読の合間に効果音が入る。紋次郎が良庵に助けられ、旅籠で横たわっているときに聞こえる蜩(ひぐらし)の声。夏の夕暮れを耳で感じとる。静かな夕暮れ、斜光が部屋に入り、ほんのりと夕焼け色に染まっているような映像を想像する。音からだけの想像だが、脳にはいい刺激である。

男性の登場人物は、芥川さんが演じている。紋次郎の声はいつもより低く、少しかすれたような声色である。脳内では、中村紋次郎の声がインプットされているので、やはり違和感はあるが、そこは仕方がない。

一方、医者の良庵は三十五、六の気品ある美男。爽やかで若々しさがある声色で、演じ分けられている。

日々紋次郎「名調子 芥川隆行」

翌朝、早立ちをするときの風の音。吹き荒れる風は、季節は違うが「木枯らし」を連想する。八月末となっているが、もしかしたら台風なのかもしれない。鳥居峠の頂上付近で出会った馬子が唄う追分節が、浪々と流れる。木曽の山々が目に浮かぶようである。

男性の声は芥川さんだが、女性の声はいくら何でも無理……ということで、平 榮子さんが演じている。この平さんは女優さんなのだが、芥川さんのお弟子さん。2009年の江口紋次郎のとき、ナレーションをされていた。きっと芥川さんつながりで、起用されたのだろう。

鳥居峠を下った茶屋の老婆は、平さんの声。その後登場する若い娘「加代」の役も平さん。老婆から若い娘まで、演じる年齢層は幅広い。また加代は二十歳前の可憐な感じ、直光の女房「千登勢」役では加代とは違い、落ち着いた上品な感じと、声色で登場人物の人格まで表現している。
芥川さんも、何人もの登場人物を演じ分けている。紋次郎は低く沈み込んだ声、清五郎一家の者は濁声である。

紋次郎が吹き鳴らす楊枝の音は、木枯らしの音というより笛の音のようである。テレビ版で聞き慣れた音とはかなり違い、澄んだ音色である。強いて言えば、「木枯しの音に消えた」の志乃が吹き鳴らした音色に近い。

殺陣の時は、BGM的な使い方で、金属音や人物の叫び声が流れる。長脇差が肉を斬り裂く音や、斬られたときのうめき声などは使われていない。

刀鍛冶をを求めて、神戸村に行き着くまでの紋次郎の胸中は省略されている。それは加代に対する思いである。兄のところへ行くという加代の事を思い出し、もしも自分が堅気で加代のような妹がいたら、得意がって連れ歩くだろうと想像するのだ。しかし柄にもねえことだと自嘲的に苦笑する。男が何としても守ってやりたいと思えるほどの、可憐な加代なのである。紋次郎がそんなことを想像することは珍しいことなので、このあたりは省略してほしくはなかったのだが……。

刀鍛冶である直光から、千登勢が嫌疑をかけられた事件の話を聞く紋次郎。そのBGMが、遠くから聞こえる祭り唄「木曽節」。原作では、木曽川の水音が聞こえるはずだった。千登勢にまつわる殺人事件……という深刻な話なのに、祭り囃子?ここは原作通り、木曽川の流れの方が良かったのではないだろうか。

清五郎との戦いの後、最後のドンデン返し。そして良庵に、怒りの長脇差を振るう紋次郎。この時、芥川さんは長脇差を「長ドス」と読んでいる。紋次郎の怒りの様子を表現するには、「長ドス」とした方が良かったのだろう。加代と千登勢、そして良庵の死に様は、BGMや効果音もなく、どちらかというと淡々と進めている。あまりリアルに表現すると、奇をてらってしまうのでこれでいい。

原作では、加代から渡された手拭いを湧き清水に流し、楊枝を飛ばす。朗読バージョンでも楊枝を飛ばすのだが、ただ飛ばすだけで終わってしまっている。飛ばした先に何があるのかが、紋次郎作品の肝であるのに、原作通りでなかったのは残念である。ここは、はずしてほしくなかった。

濃密な58分間……芥川さんの名調子、演技派、平さんの艶のある声を堪能した。
注文をつけるなら、テーマソングの演奏は、アコースティックなものにしてほしかった。そして、紋次郎が吹き鳴らす楊枝の音色は、もっと寂しいものにしてほしかった。

しかし、耳から作品を味わうのも、いいものだと思った。「一里塚~」だけ、というのも惜しいものである。芥川さんが演じるということはもう叶わないが、他の作品も味わいたいものである。
そうなると……中村敦夫さんご本人に、ご出演願うしかないだろうか……。


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Re: 日々紋次郎「名調子 芥川隆行」

私もこれ、レンタル店で見つけて聴きました。
お夕さんの気に止めておられる箇所、私と全く同じです。
「無職渡世」「ちゅうざんどう」「あらいま宿」…。
中山道を昔はこう呼んだのかと検索しても、出てきませんでした。
あと、夏の話で蜩の声が聞こえるのに、突如ゴ~~という風の音が聞こえるので、季節感が少しチグハグな感じがしました。

TVドラマなら、突然場面が変化することもありますが、この朗読は常に紋次郎の傍にカメラがある感じの視点で描かれてるのが特徴ですね。

この企画は大変面白いと思います。
ただ、この話だけだったら紋次郎がいかにカッコイイかがあまり伝わらず、むしろ紋次郎とは恩を仇で返すような男なのか、という印象を持たれかねません。
別の話でも作って欲しかったところです。

  • 20140326
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「名調子 芥川隆行」

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

芥川さんともあろう方が、なぜ「無宿」ではなく「無職」と読んだのか、わかりません。
初めから、原稿がそうなっていたのか、ご本人が読み間違えたのか(そうとしてもチェックが入るはずですしね)、実際は「無宿」と読んだけど滑舌が悪く、「無職」に聞こえるような読み方になってしまったのか?謎です。

ホント、日本語って難しいですね。いろいろな読み方がありますから……。
中山道は「山」を「せん」と読めない人が多いので、「仙」という字をあてて「中仙道」としたが、その後「中山道」に統一した……と、どこかで読んだ記憶があります。
「なかせんどう」という読み方は「湯桶読み」ですので、「ちゅうざんどう」の方が普通なのかもしれませんが……どうなんでしょうねぇ。

まあ、そんな細かなことにこだわらず、作品全体を味わう姿勢でないといけませんね。

仰るとおり、紋次郎作品の中から選りすぐったものを5~6作は朗読していただきたかったです。では、どの作品を?となると、選ぶのは正直難しいです。
今であれば、「あなたが選ぶ!紋次郎ベスト5」なんて企画があっても不思議ではないでしょうね。

  • 20140329
  • お夕 ♦wikz35BA
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  • 編集 ]
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