紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)
股旅シリーズの最終話となる作品である。主人公は「鳴神の伊三郎」という一匹狼の渡世人。オープニングは、その伊三郎の仁義から始まる。原作通り、上がり框に両手を重ね合わせて仁義を切る。この仁義の切り方は「楽旅」であり、凶状持ちではないという意味であるが、忠実に演出されていて興味深い。
重ねた両手、左手首に付けられたお多福が描かれた鈴、そして仁義を切る真剣な面持ちの伊三郎。斜め45度でアップになる俳優は「松橋登」さん。ちょっと驚きである。笹沢作品の渡世人役としては、あまりにも美形過ぎるし若い。当時28歳である。今の28歳に比べると、ずっと大人の落ち着きはあるものの、違和感なく演じられるのだろうか、と思ってしまった。

原作の伊三郎は、長い間の野宿暮らしのため、かなり酷い風貌になっている。
「月代も髭ものび放題で、憔悴しきったようにトゲトゲしい顔になっていた。濃い眉毛の下の冷やかに光る目にも、疲労の色が見られた。道中合羽の裾を、胴金のついた錆朱色の長脇差の鞘が持ち上げていた。」(原作より抜粋)

松橋氏の顔には、全く長旅の疲れは見えないし、髭どころかスベスベで美しいお肌(笑)である。上背のあるガッチリした姿でもなく、どちらかと言えば華奢な体つきで、繊細な青年役の方がお似合いといった感じである。しかし、話が進むにつれて違和感はなくなる。

まず、その声のよさである。低く響く声は大変魅力的で、渡世人言葉の台詞回しもうまい。松橋氏は声優さんでもあり、外国映画の吹き替えも数多くされていて、私の好きだったジュリアーノ=ジェンマの吹き替えもされていた。声に落ち着きがあると、貫禄も増す。
そして、伊三郎のストイックさを、澄んだ目で表現できたという点も大きい。やはり「目は口ほどに物を言う」である。

伊三郎の旅の目的は、長坂の文吉という元貸元を斬るということである。3年前に流行病にかかった伊三郎は、矢板の正蔵に手厚く看病された。その正蔵は文吉の密告によって、関東取締出役に捕らえられ一家は解散。卑怯な手を使ったあと、逐電した文吉を伊三郎は追っているのである。
看病されただけの義理で、身内でもないのに意趣返しをしようとする伊三郎。「近頃、見上げた心掛けだ」と、立ち寄った先の貸元に評されるほど、義理堅い渡世人である。

文吉の消息を尋ねるために立ち寄った貸元の家は、重厚な萱葺きの家屋。手入れが行き届いた趣のある様子なので、空き家ではなく、実際に生活されている家屋だと推察する。
原作の伊三郎は、文吉を追い求めて糸井の卯兵衛を訪ね、その口添えで万年寺の富太郎、そしてその添え状を持って安中の五郎七の許へ……と点々としている。テレビ版では糸井の卯兵衛は省略されている。

いずれの貸元も、伊三郎が文吉を斬ることを止めている。それは、文吉には桜井小平太という、恐ろしく腕の立つ浪人が用心棒として雇われているからである。この小平太は辻無外流という流派の使い手で、人を斬ることを何とも思っていないような尋常ではない人物だ。文吉にはいつも影のように付いているので、文吉を斬る前に必ず小平太と戦わないといけない。到底、小平太には太刀打ちできるはずがなく、伊三郎には「死」あるのみ。悪いことは言わないから、文吉への意趣返しは諦めろ、と伊三郎を諭す。しかし伊三郎の意志は固い。

その話の中で、左手首でコロコロ鳴る鈴の謂われが明かされる。伊三郎には十五年前に別れた二つ違いの姉「お里」がいる。親は知らない我が身だが、その姉に育てられ、鈴は姉のもの。姉の生死はわからないが、鈴は形見だと思って持ち歩いているのだと言う。

姉に育てられ、姉だけを肉親と思い、心の底で慕っている……この設定は、紋次郎と重なる部分が大きい。紋次郎も親の手で間引かれそうになったところを姉に助けられている。ただ紋次郎の姉は、この世にはもういないが、お里はどこかの空の下で生きているのかもしれないのだ。

「お里さんか。おめえさん、生きてその姉さんに会いたかねえかい」
「会いたくねえと申したら、嘘になりましょう」
「だったら、文吉やあの浪人者のあとを追うことはやめにしなせえ」

原作の富太郎は厳しい口調で伊三郎に忠告している。
「男は、命を無駄にしねえものだ。勝てるはずのねえ喧嘩をするのは、本当の男がやることじゃねえ。……後略」(原作より抜粋)

伊三郎は、富太郎の添状を持って安中へ向かう。緩やかなカーブを描いた街道を、足早に歩く伊三郎の姿がロングショットで映し出される。いい感じのロケ地である。この後、オープニングクレジットとなり、シリーズの曲が流れる。

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

安中の五郎七の屋敷前で、伊三郎は足を止める。軒先の物陰から幼い女の子が顔を見せ、ニッと笑いかける。赤い着物に赤い髪飾り……年の頃は5~6歳。笑った口許から、小さな白い歯がこぼれる。伊三郎は、そんな可愛い女の子の笑みには無関心で、無表情で見下ろすだけである。
戸口に足を踏み出そうとしたとき、一家の若い男が後ろから駆け込んでくる。
男は「桜井小平太が河原で斬り合いをするぞ!」と、中の者たちに知らせ走っていく。それを耳にしたとたん、伊三郎は男に付いて走る。

河原では三人の旅姿の渡世人相手に、懐手で悠然と構えている小平太がいた。河原には何人かの見物人がいて、その中にはさっきの女の子もいる。伊三郎は小平太の動きをじっと見ている。小平太は急に身を翻し、渡世人達の方へ回り込む。太陽を背にするために向きを変えたのである。ここで芥川氏のナレーションが入る。兵法の鉄則で、相手の目に眩しい日の光を当てることで、こちらが優位となるのだ。伊三郎はそのことに気づき、太陽を振り仰ぐ。抜刀した小平太は、ニヤリと笑う。

この桜井小平太役は、「高森玄」氏。あまり私は知らなかったのだが、「待っていた用心棒」というテレビドラマシリーズで準レギュラーをされていたようだ。その時の役名が「狂犬」……まさにこの小平太にリンクしている。なかなか恰幅のある俳優さんで、原作に比べると顔立ちにほんのりと優しさが見える。
原作の小平太は「長身で腕も脚も、骨だけみたいに痩せ細っている。」
「凄みのある美男子で、病人のような青白い顔をしている。いかにも冷酷そうな顔をしていて、その雰囲気に陰惨なものが感じられた。」と書かれているので、高森さん演じる小平太とは違う。もっとギスギスした、病的な感じの俳優さんの方が良かったのかもしれない。高森さんは人の良さが出て、狂気があまり感じられない。

小平太は、三人の渡世人達をあっという間に斬り捨てる。見ていた男達は、小平太の凄腕に舌を巻く。噂以上に腕が立つ小平太を、伊三郎は自分の目で確かめる。
この小平太の実戦場を直接、伊三郎が目にするという件は、テレビ版だけである。原作では、小平太の腕が立つ様子は伝聞でしかない。テレビ版では、まさに「百聞は一見にしかず」である。また、日に背を向ける兵法を実戦に使う小平太……というエンディングの伏線が張られているのは、効果的な脚色である。

三人の渡世人がバッタリと葦原に斃れ、見物人達の輪がほどける中、残ったのは小平太の後ろ姿を見つめる伊三郎と、あの小さな女の子だけである。こんな修羅場に動じない女の子も大したものなのだが、人懐っこく伊三郎に話かける。あの浪人は桜井小平太と言って、うちの店に時々やって来る。店は「べにや」と言って私は娘の「でん」だと言う。なかなか滑舌の良い子役である。伊三郎は無言で、でんの横をすり抜けて行こうとする。チリチリと鈴の音がする。でんは「それ何の音?」と尋ねるが、返事は帰ってこない。

貸元の五郎七一家に、草鞋を脱いだ伊三郎の三度笠と道中合羽、長脇差が映し出されるが、ここで初めて原作とは違い黒鞘であることに気付く。原作では紋次郎と同じく錆朱色の鞘のはずだが、ここは紋次郎を畏怖してか(笑)、塗りのはげた黒鞘にしてある。

五郎七から話を聞く伊三郎。この五郎七役は「織本順吉」さん。織本さんは、この後紋次郎シリーズに2回出演されている。第二シーズンの「駈入寺に道は果てた」、「新木枯し紋次郎」では「砕けた波に影一つ」。どちらも温厚な感じの役柄だったが、今度も温厚な貸元役である。
長坂の文吉は用心棒として百両も払って雇っている桜井小平太と共に、松井田の友助のところで長逗留をしている。安中と松井田とは二里十六丁しか離れていないのだが、五郎七にはあいさつもなく、それどころか何人もの人間を小平太は斬り捨てていて、その勝手な振る舞いを五郎七は苦々しく思っている。しかし、所詮喧嘩剣法しか知らない一家の者を総動員しても、小平太には敵うはずがないので、手出しできないのだ。

小平太は、五郎七一家の隣にある「べにや」の酌女「お品」目当てに通ってくる。でんが言っていたことは本当だった。お品は亭主に死なれた若後家だと言う。

五郎七も伊三郎に、小平太と戦うのはやめた方がいいと忠告する。
「進んで命を捨てることはねぇと思うんだがなあ。」
と諭す五郎七に
「あっしには、生きていて他にすることはありやせんから……」
と答える伊三郎。伊三郎もまた、今までの笹沢作品の渡世人のような無常観や死生観を持っている。伊三郎の生き甲斐は、長坂の文吉を斬ることなのだ。だがそれは、用心棒の小平太と対峙するということであり、そのまま「死」に直結している。言い替えれば、「死に向かう生き甲斐」である。

伊三郎は看病してもらった恩を「渡世の義理」と考え、意趣返しを敢えてやろうとしている。誰が考えても、身内でもない流れ渡世人が、命を賭してまでやるようなことではない。これは、伊三郎が義理堅いというだけではなく、生き甲斐を求めているからだと言えよう。
その辺りの心情は、「地蔵峠の雨に消える」の「三筋の仙太郎」とよく似ている。渡世の義理で頼まれたことは、「自分を殺せ」という書状を敵に届けること。「死」が待つであろう地蔵峠に、敢えて向かう仙太郎を彷彿とさせる。多分「鬼首峠……」の方が先に発表されていると思うので、本作がベースになったのではないだろうか。


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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

この回は、リアルタイムで見た時には、「奇策を用いて敵を倒すことがメインでしょ。ちょっと、テーマ性が弱いかなあ」と感じました。
が、すぐに原作本を買って読んだら、やっぱりいつもの笹沢左保股旅ワールドだと感じました。
そして、大学を卒業して、フリーランスで既存の勢力に食い込んでいく時に、盛んに読み返したものです。

今回主演の松橋登さん。
(以前にも書いたと思いますが)原作とは違って、線が細くて少女マンガの王子様的なキャラですが、このキャスティングはグッドだと思います。
原作通りの、髭が伸び放題で眉の濃い役者だったら、「こんなイカツイ主人公なら、ほっといても勝つだろ」という目で見てしまいますから。

また、桜井小平太は、原作ではステレオタイプ的な痩せ細った素浪人ですが、今までの時代劇で、こういったタイプの用心棒は、「先生!やっておくんなせえ!」の後は3分も生きていた例はまずありません。(笑)

こうやって股旅シリーズ4作の主演男優を見ると、全部違ったタイプを選んでいることがわかります。
紋次郎に近く、紋次郎以上に薄汚れた高橋悦史さんの長次郎。
中肉中背の、川津祐介さんの丈八。
無宿人というよりは、大親分か代貸といった、貫禄十分の天知茂さんの銀次。
甘いマスクで線の細い松橋登さんの伊三郎。

敦夫さんの怪我の間、視聴者をただ繋ぎとめておくだけでなく、この4作で笹沢左保股旅ワールドの深さ・広さを感じたファンも多く居るものと思います。

  • 20140521
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。
今回のテーマは、義理を果たすため、窮地の中その一瞬に命を懸けるストイックな姿ですね。絶対に勝てそうにない相手であろうと、逃げずに立ち向かう伊三郎に、侠気を感じずにはいられません。

日々の生活の中、様々なストレスやプレッシャーがあっても、伊三郎のように命を奪われかねないという程のものはありません。
それを思うと、少々のことで音を上げる我が身のなんと甘っちょろいことか……。

オムニバスドラマ形式で、毎回違う俳優さんが演じる時代劇が作られないものか、と切に思います。

「必殺」は、毎年作られるのに紋次郎はありませんねぇ。今回のBS-TBSでの再放送が火種になってくれないか、と秘かに期待しています。

  • 20140522
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

お夕さん、お邪魔します。

最近はTV朝日の刑事ドラマ「BORDER」を面白く見てるんですが、主演の小栗旬君が頭に銃撃を受けた事で殺された死者を見たり話をする能力を得て事件を解決する物語で、このドラマの小栗君の感情を抑えたクールな表情、悪を憎み死者を悼む暗い雰囲気がなかなかいいんですよ。
http://www.tv-asahi.co.jp/border/

長身(184cm)、大河ドラマで時代劇を経験、何しろ顔が長い!そう紋次郎さんにいいんじゃないかって「今」感じたんですけど(笑)年齢も31歳で丁度敦夫さんが紋次郎を演じた年齢ですよね。

惜しむらくはこれからフジTV10月放送開始「信長協奏曲」の主演で信長を演じドラマ・映画、アニメのナレション担当でスケジュールが一杯。評判がいいんで「BORDER」の続編もきっと制作されるでしょう。

「信長のシェフ2」も7月から「時代劇の伝統枠」TV朝日の木曜7時58分から始まります。民放地上波ゴールデンタイムで時代劇が連続ドラマで復活するのは時代劇ファンにとっても素直に嬉しい事ですしね。
http://www.tv-asahi.co.jp/nobunaga/news/0012/index.html

  • 20140531
  • おみつ ♦suWcSb.M
  • URL
  • 編集 ]
Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その1)

おみつさま、コメントをいただきありがとうございます。

小栗旬さんですか。
今、本当に旬の方ですよね(笑)。パパになるとお聞きしましたが……おめでたいことです。
意外と長身なんですね。まだ若いという印象でしたが、もう31歳……でも、中村紋次郎に比べると、かなり若く見えます。
確かに忙しいスケジュールですから難しいでしょうねえ。でも実現したら、かなり話題性はあると思います。

信長を演じるところも、敦夫さんと重なります。(確か以前、信長をドラマで演じられたように思います)

時代劇が少しずつ戻ってきたようで嬉しいですね。できれば、ロケが多い方がいいですが……。

信長ブームで、我が故郷も活気が出るかもしれません(笑)。

  • 20140531
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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