紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

伊三郎は、五郎七の客人としてしばらく安中に逗留することになる。

朝、井戸端で顔を洗う伊三郎に「べにや」の酌女、「お品」が声をかける。でんは物陰から様子を見ている。でんにとっては、伊三郎が持っている鈴が一番気に掛かるのだ。
艶っぽい酌女のお品役は「真山知子」さん。失礼ながら、あまり知らない女優さんだったので、ネットで調べてみてビックリ!あの蜷川幸夫氏の奥方だった。原作ではお品は23歳だが、テレビ版のお品は真山さんの実年齢なので、かなり大人の色気を感じるキャスティングである。薄い眉毛にしっかりしたアイメイク、ベージュ系のルージュと、70年代のメイキャップ全開である。

伊三郎はお品と初めて出会い会話するのだが、思いの外雄弁なので少し驚く。問われるままに鈴の謂われを話し、姉「お里」にまつわる身の上話を聞かせる。
お品は「辛いことを思い出させてごめんなさい。」と謝るが、「昔の事は棄てた体でござんす。」と伊三郎はポツンと言い、その場を離れる。
昔の事は棄てた……と言いながらも、鈴を手放さないのは、やはり心の片隅にはいつも姉のお里のことがあるのだ。

べにやの板前と将棋を指す伊三郎。板前は、お品は商家の若後家で身持ちも堅く、浮いた話もない。お品目当てに客が来るのだが、その中の一人に小平太がいて、ぞっこんだと言う。
安中の宿場中、伊三郎のことは知れ渡っているので、いずれ文吉や小平太の耳にも入るだろう。何か策はあるのか?と尋ねられるが、伊三郎には策はない。伊三郎は毎日、小平太にどんな攻撃をすれば通用するかを考えているのだが、名案が思いつかないでいる。

ここで芥川さんのナレーションが入る。喧嘩剣法は、相手を突き刺す剣法であり、それに適するように長脇差のほとんどは無反りの刀である。長脇差より武士が持つ太刀の方がはるかに長いので、突き刺そうと懐に飛び込んでも届かず、その時はもうすでに小平太に斬られている。まともに戦っても、勝てるはずはないのだ。

伊三郎は河原で長脇差を抜いて、シミュレーションをしてみるが術がない。そこへお品が、真剣な面持ちでやって来て、小平太と戦うのはやめて欲しいと懇願する。あの小平太は人の命を虫けらぐらいにしか思わない恐ろしい人間だ、伊三郎が殺されるかもしれないのに黙って見てるわけにはいかない、とすがるような表情で訴える。

「お品さんには、関わり合いのないことでござんしょう?」
その伊三郎の言葉に、お品は悲しそうな表情を浮かべる。「関わり合いのないこと」……紋次郎の渡世の生きざまを表現する台詞である。
「伊三郎さんが殺されるなんて……私……。」と憂い顔。
「あっしのような男には、生きるも死ぬも歩む道はただの一筋しかねえんでござんすよ。堅気のお品さんには、通じねえことでござんしょうがね。」

堅気の者とは住む世界が違うし、価値観も違う。全く、とりつく島もない。伊三郎はお品を残して土手を上っていく。土手の上には小さな影。でんだった。でんはずっと、伊三郎の周辺をまとわりついている。

「お品さん、おじちゃんのこと好きだと言った?」
ホントに、大人の事情に首を突っ込んでくる子どもである。この子役の女の子は、どこかの劇団の子だろうか。今の子役に比べると素朴で、一生懸命演技をしているという感じ。
チリチリと鳴る鈴に吸い寄せられるように、でんは伊三郎の後を追う。
それにしても、この鈴の音色が気になる。こんなにチリチリ鳴ると少々耳障りである。

「そんな渡世人におよそ相応しくないのは、コロコロと鳴る鈴の音であった。それは渡世人の左手首に、ヒモで結びつけてある木製の鈴だった。球形で一方に切り口があり、中に丸が入れてある。そうした普通の鈴と変わりないが、ただその表面が阿多福の顔の浮き彫りになっていた。少女の腰飾りに、使いそうな鈴だった。
ずいぶんと古いもので、ヒモは新しいが鈴は黒光りしていた。金属の鈴と違って、澄んだ音はしない。しかし木製の鈴らしく、静かで風流な音を立てた。渡世人の歩調に合わせて、その鈴はコロコロとなった。それがまた寂しげにも聞こえた。その鈴だけが、渡世人の長年の道連れという感じなのだ。」(原作より抜粋)

テレビ版の鈴は、木製のようには見えないし音色も甲高い。コロコロというより、やはりチリチリと聞こえる。木製の音色では、音が聞こえにくいからだろうか。原作の鈴とは趣が違う。

「おじちゃんのこと、伊三さんって呼んでんだよ。板前の勘吉さんに冷やかされてお品さん、顔を赤くしてたわ。」
あどけない幼子がませたことを言う。お品が伊三郎に思いを寄せているのは、でんに言われなくても視聴者はよくわかる。あんなに必死になって、小平太との斬り合いを止めようとしているのが、その証である。しかし、伊三郎の表情は変わらず、全く心が動いていないようである。

笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

でんは伊三郎に、小平太が夕刻、「べにや」にやって来ることを教える。
「どうしてわかるんですかい?」
伊三郎はこんな幼子にも、丁寧な口調で敬意を払う。好感が持てる。
店で小平太が、今度市が立つ日に来ると口にしたことを、しっかり聞いて覚えていたと言うのだ。利発な子である。

今夕小平太が店に来ると聞いて、伊三郎は足早に帰路につく。「おじちゃん!」と後をついて駆け寄るでんに振り返って伊三郎は言う。

「おでんちゃん、この鈴はあっしが死んだらもらってやってくだせえ。」

ローアングルで、でんの目線を意識してのカメラワークである。この台詞は原作にはなく、松橋伊三郎の甘いマスクと優しさが印象的である。
その意味がわかっているのか、でんは伊三郎に背を向ける。すすきや葦が広がる冬枯れの河原は、色彩がなくもの寂しい。その中で一際、でんの赤い着物が目を引く。遠くから見送るお品の孤影は、周囲にとけ込んでいる。余韻が残るいい雰囲気である。

小平太は文吉とは別行動でべにやに来た。市が立つ日に友蔵一家で賭場が開かれるので、文吉はそこで夜通し過ごすつもりだろう。今から松井田に行っても手出しはできないから、今夜は小平太の隙を狙ってみる、と伊三郎は五郎七に告げる。

小料理屋べにやの裏手。伊三郎が足音をしのばせて歩く……が、鈴がチリチリ鳴る。こういうときは、この鈴は邪魔になる(笑)。べにやの様子を窺おうとする伊三郎は、物置小屋に人の気配を感じる。それは、お品と小平太であった。
画面には、絡み合う男と女の足先が映る。小平太がお品を、手籠めにしようとしているようであるが……お品は抵抗しようとしているものの、必死さがあまり感じられない。原作ではかなり扇情的な表現で書かれているが、テレビ版はあっさりと流しているので個人的には良かったと思っている。

原作の伊三郎は、小平太の背中に打撃を与えるチャンスだと考えるが、テレビ版ではその意志はあまり感じられない。
すると伊三郎より早く、板前の勘吉が行動に移す。勘吉は、お品が手籠めにされそうになっているのを助けようと、薪を持って後ろから襲いかかるが、一瞬で峰打ちにされ地面に転がる。小平太には全く隙がないのだ。伊三郎は、そっとその場から離れる。
お品の顔のアップ。眉間にしわを寄せた切なそうな表情には、小平太を拒絶しているようには見て取れない。

翌日、手鞠で遊ぶでん。手が逸れて転がる手鞠を、拾って手渡してやる伊三郎。いつもよく喋るのに、礼の一言もなく手鞠を抱えて走っていくでん。そこへお品が水を汲みにやって来る。前夜のことなど、おくびにも出さないお品は、でんのことを話し始める。でんは朝早くから、「おじちゃんは死んだりしないよね。」と何度も尋ねるという。経緯をいろいろと聞いて知っているようなのだ。
伊三郎はそんな話には耳を貸さず、「勘吉さん、怪我したそうでござんすね。」とちょっといじわるな質問をする。お品は少し動揺するが、転んで脇腹を打ったようで……と答え、チラリと伊三郎の顔を見る。しかし伊三郎は、お品の方を見ない。お品は、水を汲み終えるとそそくさと店に入っていく。伊三郎は井戸端の釣瓶を払い落とす。伊三郎の心境を表しているのか。
お品の変わり身の早さに落胆したのだろうか。しかしもとより、伊三郎は堅気の女には興味がないはずである。

でんは同じ年頃の男の子二人と、取っ組み合いの喧嘩をしている。なかなか気の強い子であるが、本当は寂しい子なのだろう。

河原の枯れ草の上で寝ころび、思案する伊三郎。隙のない小平太を見せつけられ、益々攻撃法が思い浮かばないようだ。やって来た板前の勘吉から、お品は今では自分の方から小平太の所に逢い引きに出かけている……と話を聞かされる。あんなに毛嫌いしていた男に……女ってわからない、女心と秋の空だと聞かされる。伊三郎といい仲になると思っていたのに……お品の気持ちもわかっていたはずなのに……と言う勘吉に、
「あっしのような者にゃ、堅気のお人を好きになってみても、どうなるもんでもござんせん。」
あくまでもストイックな姿に勘吉は、
「おめえさん、根っからの渡世人なんだねぇ。」と感心する。

「根っからの渡世人」とよく似た台詞は「地蔵峠の雨に消える」にある。こちらは「骨の髄から渡世人だからでしょう。」という台詞を紋次郎は口にしている。渡世人とは……という掟を自らに課して、今まで自分を厳しく律してきた伊三郎である。誰に対して筋を通すというのではなく、己に対しての戒めである。どうしてそこまで厳しく……と思うところはあるが、生きざまにおける自身の哲学なのであろう。

お品という女性の変貌については、同性としては複雑な心境である。早くに夫に先立たれ、若後家となり酌女として働く。美貌の持ち主のため、客受けも良く……いわば引く手あまただというのに、よりにもよってこんな男に……。一度体を許したら、ズルズルと関係を深めてしまう。そういうものなのだろうか。あんなに伊三郎の身を案じて、思いを寄せていただろうに……。指一本も触れることはないであろう根っからの渡世人より、半ば手籠め同然であっても肉体を満たしてくれる人斬り浪人の方に惹かれるものなのだろうか。

「お品は最初のうちは、桜井小平太を拒み通すつもりでいた。しかし、男の実際行動に、お品の身体のほうが言うことを聞かなくなったのだ。
一度そうなると、男と女の立場は逆になる。いまのお品はもう、桜井小平太を忘れられない女になっている。それが女の業というものなのだろうが、いずれにせよ伊三郎の知ったことではなかった。」(原作より抜粋)

少なくとも原作の伊三郎は、お品に対して特別な感情は持っていない。従って、お品を非難する感情もない。そして極めて冷静にお品を分析している。
お品は桜井小平太側に立っている女だから、伊三郎が小平太を斬ろうとしていることを喋っているだろう。そうなるとプライドの高さから、小平太のほうから挑戦状を送って来るだろう……と考える。そして予想通り、伊三郎のところに果たし状が送られてくる。


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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

ほんまにご無沙汰しておりまして、
コメントするのもなにやら気が引けます。

お夕さんのこの千鳥柄のれんをヒョイとあげて
入ってまいりやした。

真山知子さんは唇に色気がある女優さんで当時俳優も
していた今のスター演出家はいいお嫁さんを選んだものだと
週刊誌を読んで思ったものでした。。。遠い目

写真館を初めて見させていただきました、
お夕さんの素敵なアングルにうっとりですよ〜


  • 20140608
  • ヘルブラウ ♦vMjpPURI
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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

あらっ、こめんとが本亭のヘルブラウになっていました。
お夕さんのとこへはやはり淡青でおつきあいしたいので訂正をお願いしますねっ、

どちらも同じ意味なのでいいんだけどぉ〜、笑

  • 20140608
  • 淡青 ♦vMjpPURI
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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

真山さんをご存知なんですね。
ホントに艶っぽい方で、存在感のある女優さんですねぇ。
こんな若後家さんがいたら、どんな男性もイチコロでしょうが、さすが伊三郎さんは冷静でした。

写真館にもおいでくださって、ありがとうございます。

またお気軽に、コメントをお寄せくださいね。

  • 20140609
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

「木枯しの音に消えた」の左とん平さんなど、テレビ版では、味のあるバイプレーヤーを付け加えてる例がありますね。
今回は板前の勘吉さんです。
原作では、一徹な五十男というくらいですが、ここではユーモラスな演技がドラマを盛り立て、時には原作のナレーション部分を語る役目もしたり。

この将棋の場面、何度も見るといろんなことがわかってきます。
原作では、桜井小平太への奇策を思いつくのは、もっと後のおでんの行動からですが、ここの勘吉の「いっそ飛び道具でズバ~~っと」の後、伊三郎が眼球を動かすカットが入り、ここで既にヒントを掴んでいたという風にしているようです。
また、伊三郎の将棋も、いきなり飛車で攻め込んで、次にはもう角を取られたりと素人丸出しで、「やり方は知ってるが心得は無い」と、渡世人であるがゆえの描写になってるなど、芸が細かいです。

  • 20140610
  • TOKI ♦nhNJg39g
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  • 編集 ]
Re: 笹沢左保 股旅シリーズ 第四話 「鬼首峠に棄てた鈴」(その2)

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

この板前の勘吉さん、手を繋いでおでんちゃんを連れている姿もあり、ほのぼのとした好人物といった印象です。

原作を脚本化するとき、セリフはほとんど原作通りでいいと思いますが、説明部分や心情面をどう表すかは難しいと思います。
芥川さんのナレーションばかりに頼るわけにはいかないし……。
その役割を、周辺人物の会話が果たしているんですね。

「飛び道具……」なるほど、そうですね。伏線があったというわけですね。

私は将棋の知識がありませんので、伊三郎の指し手がどういうものなのかがわかりませんが、単純な指し手なんですね。流れ渡世人が、娯楽である将棋の腕が立つということもあり得ませんものね。腕が立つのは、ドスさばきだけでよろしいようで……。

  • 20140611
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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