紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

第1話 「川留めの水は濁った」

第1話 「川留めの水は濁った」


第1話 「川留めの水は濁った」
原作(1971.9月・第8話)  放映(1972.1.1)

放映では本来、第1話は「地蔵峠の雨に消える」であったことは有名。
市川監督自身は、この「川留めの…」を第3話として放送する予定だったとか。
原作は第8話になる。ちなみに、原作が活字化されたのが第1話放映の3ヶ月前(多分?)。そんな綱渡り状態でよく脚本ができたものである。
市川監督がこの話を選んだのは、紋次郎のアイデンティティを語る上で、どうしても必要であると考えたからであろう。

紋次郎が唯一、信じることができた人物というのは姉「お光」だけ。紋次郎がなぜ、無宿渡世に身を置くようになったのかという答えを垣間見ることが出来る作品である。
そのお光と瓜二つの壺振りお勝を「小川真由美」が演じている。原作とは随分イメージが違うキャスティングである。
市川監督は何を狙ったのだろうか?髪型、メイク、着物、全てに於いて当時の時代劇からは、かけ離れている。
監督はブリジット=バルドーのイメージを要求したらしい。時代劇に新風を吹き入れるというのは解るが、彼女からイメージするお光には、悲運や凛とした気高さは想像できない。本来の第1話「地蔵峠の雨に……」があまりにも残酷すぎる内容だったので、バランスをとったのかもしれないが、お光のイメージはこのシリーズでは重要な位置づけであるので疑問である。

ちなみに以後「青春の門」で、この二人は再び共演するのだが、紋次郎収録時は二人の知名度にはかなりの差があった。
にも関わらず中村氏には既にかなりの存在感が具わっていたことには驚きである。
いや、存在感というより「木枯し紋次郎」として実在していたという方が正しいのかもしれない。

実在した(と思わせる)紋次郎と、明らかに原作から離れたイメージのお勝との対比が面白い。またお勝と実の弟との掛け合いもコミカルで、同じテイストで考えるとしたら、テレビ版第18話の「流れ舟は帰らず」のお藤のキャラクター設定かと思われる。
原作では、お光の裏切り(佐太郎に見逃してもらうという交換条件で)行為がある。紋次郎に酒を勧めて酔わせ、命を狙う手はずであったが、紋次郎は酒を飲んだ振りをして手ぬぐいに染みこませてた。テレビ版ではお勝の策略はなかったが、酒を勧められても、紋次郎は断っている。とにかく酒は飲まないのだ。(大江戸…では飲んでしまうが)
心を許すことが出来るのは、今は亡き実の姉「お光」だけなのだ。いくらお光に瓜二つであろうが、人を信じない鉄則を守る紋次郎。

原作とテレビ版との違いはいくつかあるが、その一つに、佐太郎(定吉)が自分の義理の弟、紋次郎に気づくのはいつなのかということ。
原作では、はじめの賭場の場面で「木枯し紋次郎」と名乗られ、佐太郎は気づく。
大体、自分で「木枯し紋次郎」と名乗るのは珍しいのだが…この時点で佐太郎は、お光の件で紋次郎に恐怖を覚える。
テレビ版ではまだそのことには気づいておらず、それよりも手目博打で金を騙しとられたことに怒り、お勝と茂平衛を探し廻る。そのお勝を無事に佐太郎の許から逃がすために、紋次郎は手を貸してやるのだ。
佐太郎は紋次郎の前で、お光の死の真相を打ち明けるのだが、紋次郎にとっては本当に辛く、怒りに満ちた瞬間であったろう。もしかしたら、どこかで生きていていつか会えるかもしれない……という一抹の希望が、残酷にもお光を殺した本人によって踏みにじられたのである。

「紋次郎の怒りは、激しく爆発していた。これほど怒ったのは、生まれて初めてかもしれない。紋次郎は、自分が恐ろしくさえあった。
 目の前で、お光に瓜二つのお勝が息を引き取った。その上、お光を死に至らしめた定吉と対峙している。21年ぶりに、お光は死んでいるという実感が湧いた。もう二度と、お光がどこかで生きていると、想像することはできないのであった。」(原作より抜粋)

主題歌「だれかが風の中で」を作詞した和田夏十さんは、この原作を何度もお読みになったのではないかと推察する。あてなく希望もなく、心は死んだはずの紋次郎であるが、消え入りそうな灯火を(お光は生きているかもしれない)心の奥底で灯していたのだ。
紋次郎が背負う孤独の本質を、市川監督は第3回で表したかったのだが、結局、記念すべき第1話となった。この変更には監督はかなり抵抗したらしい。
監督は本来の第1話「地蔵峠の雨に……」で紋次郎をかっこよく登場させたかったに違いない。紋次郎の愚直とも言える根っからの渡世人ぶりで、視聴者に仁義を切らせたかったのだろうと推測する。

原作ではお勝は佐太郎に殺される。横たわるお勝に紋次郎は近づく。

「川風に着物の裾が煽られて、お勝の白い太股がチラチラ見えていた。紋次郎は楊枝を、唇の真中に 定めた。その一点に集めて、息を吐き出した。吹き矢のように飛んだ楊枝は、お勝の着物の裾を地面に縫いつけた。」(原作より抜粋)

このシーンは、テレビ版第3話の「峠に哭いた甲州路」のラストシーンとして使われている。笹沢氏が考えた楊枝の使い方は絶品である。
感情をほとんど表に出さない紋次郎の唯一の感情表現は、飛ばす楊枝の行方である。
市川監督は、お勝を生き延びさせる。明るく、強かに生きる道を指し示してエンドとなるが、一抹の希望が見えるエンディングは、このシリーズの中ではめずらしいと言えよう。

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/3-920d2f13

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

同じ街道、後追いさせていただきやす。

  • 20090422
  • wakey777 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

wakey777様、早速のご訪問ありがとうございやす。今後ともよろしくお願えいたしやす。

  • 20090422
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

お夕さん、この度は当方のコメントへの返信、ありがとうさんにござんす。記念すべき『木枯し紋次郎』第一話「川留めの水は濁った」、当初は第三話に放送予定だったんですねぇ…。冒頭の賭場荒しの場面のストップモーションが印象深いです。殴り合いの時の「ベチッ」という鈍い効果音も妙に生々しくリアルでした。本名の二瓶康一時代の火野正平さんも出てましたね。この回の印象深いゲスト出演者は小川真由美さんの弟役、植田峻さんでした。めし屋での紋次郎とのやりとりが可笑しかったです。そもそも、60~70年代テレビ時代劇フリークの自分にとって、この『木枯し紋次郎』が時代劇の「入り口」でした。時代劇に何の興味もなかった高校生の頃、時代劇好きの今は亡き祖母と一緒に何気なく昔の『大岡越前』等の再放送を観て、「古い時代劇も意外と面白いな」と思い始め、自分なりに古い作品を調べたり、ビデオ店で探してるうちに『紋次郎』のビデオを借りて初めて観た時、『紋次郎』の作品の奥深さにハマってしまったのがきっかけでした(このとき観たのは第三話「峠に哭いた甲州路」、ハッキリ憶えてます〉。以来、昔の様々な作品を見続けております。『水戸黄門』や『遠山の金さん』といった勧善懲悪モノより、この『紋次郎』や『子連れ狼』といったアウトロー感覚の作品を好みますね。中村敦夫さん関連でいえば、『おしどり右京捕物車』『必殺仕業人』が好きですね。おっと、『必殺』シリーズは『紋次郎』の敵番組でしたっけ…
長々と失礼致しました。

  • 20110308
  • 六地蔵 ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

六地蔵さま、コメントをいただきありがとうございます。

かけ出しの頃の火野正平さんのチンピラ役、貴重な映像でしたね。
この後も敦夫さんとは何度も共演されますが、お互い気が合うのかよく一緒に遊ばれていたようです。
今も、役者さんらしい役者さんですよね。
いい味を出されています。

植田さんのとぼけた役柄……しっかり者の姉役、小川さんとの掛け合いも面白かったですね。原作では朴訥とした弟でしたが、植田さんを起用したことで、大分違った感じとなりました。

初めてご覧になったのが「峠に哭いた……」だったんですね。
この作品のクォリティーはシリーズ中、屈指のものだと思います。ハマってしまいますよね、誰だって……。

勧善懲悪という予定調和でないところが、時代劇の新境地を開いたとも言えます。

あの頃はたくさん時代劇がありましたね。
名作も数多くありました。
みんなそれぞれ、ライバル意識を持って作られていたように思います。

でも私の中ではやはり、「木枯し紋次郎」が最高だったと今でも思っています。
また、おいでくださいね。

  • 20110308
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

お夕さん、ご無沙汰しておりやした。
本日、何度目かのDVD(DVDブック)鑑賞をしておりやす。
毎回、佐太郎の正体が知れた時の、小池朝雄氏の悪人相にはどうしても笑ってしまうのですが(笑)
それと同時に、「お光を殺す気は無かったんだ・・・な?」と手を合わせて謝る(フリをする)時、紋次郎が見せるやるせない表情が、何とも切ないですね。

Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

ケンシロウさま、コメントをいただきありがとうございます。
お元気でいらっしゃいますか?

小池さんの悪人相……メーキャップも変えてあるんですかね。
記念すべき初回の悪役でした。
刑事コロンボの吹き替えをした人とは、思えませんよね。

佐太郎を斬った時点で、また紋次郎の哀しみが増しました。姉のお光が本当に、この世にはもういないことを思い知らされてしまいました。

紋次郎の哀しみの原点であるお光の死……もしお光が死んでいなかったら、紋次郎は10歳で故郷を捨てなかったでしょう。その後、どんな人生を歩んだのでしょう。
いろいろ想像するのも一興ですね。

  • 20130304
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
始めまして

はじめまして。
新参者ですが、よろしくお願い申し上げます。夢中で、読ませていただいております。人生のバイブルになりそうです。あなた様のサイトに出会えた事に、感謝!

Re: 第1話 「川留めの水は濁った」

fu-takaさま、初めまして。
コメントをいただきありがとうございます。

まとまりのない駄文を連ねておりますのに、お読みいただきありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

  • 20141019
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/