紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」
9月9日は「スーパームーン」でした。その前日は「中秋の名月」で十五夜。天気は上々でしたので、二晩とも明るい月が見られました。
月が明るいと、夜でありながら辺りもうっすら見えます。本の活字も読めるぐらいです。
夜旅をする紋次郎を想像しながら、たんぼ道を歩いてみました。街灯の光が届かない所でもしっかり歩けます。夜目にも白く伸びる道は、昼間見る道とは全く別次元の幽玄美。
さて、紋次郎シリーズにも月が関係した作品がいくつかあります。

「湯煙に月は砕けた」では、冒頭部分から月が出てきます。
「天城の山の端に、月がかかっている。満月までには七日ほどある上弦の月であったが、山の中だとその光がひどく明るいように感じられた。山々の稜線の一部、近くの樹海の表面が銀色に輝いていた。どこからともなく立ちのぼる湯煙が、月の光の中を青白くゆっくりと流れている。虫が鳴くと、おやっと思うほどの静けさであった。」(原作より抜粋)

月光に照らされた紋次郎の姿はロマンチックというより、孤独で虚無的。月を眺める、端正な横顔を想像します。

紋次郎は、お市が愛した弥七を露天風呂で斬り捨てます。喉を抉られ、脳天を割られて弥七は湯壺に転落します。

「湯煙が大きく揺らいで、湯に映る月を紋次郎は見た。湯に波紋が広がり、映っている月が砕けた。湯煙がすぐ、その砕けた月を隠した。」(原作より抜粋)

お市は紋次郎を、泣きながら罵ります。

「紋次郎は三度笠を前に傾けると、お市に背を向けた。紋次郎は、佐の倉峠への道を歩き出した。くっきりと濃い影が落ちていた。紋次郎は無表情だった。だが、紋次郎の胸のうちでも、明るい月が砕けていたのだった。月の光と自分の影、それに峠への道があるだけだった。」(原作より抜粋)

くっきりと濃い影……という表現から、月がかなり明るいことがわかります。紋次郎は白く続く道を、足を引きずるようにして歩いていきます。湯宿を襲った無頼の徒を、たった一人で全滅させたのに、罵られ追われるように去っていく紋次郎の孤影を思い浮かべます。

日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

テレビで放映された「月夜に吼えた遠州路」は、小仏の新三郎が主人公の原作を翻案されました。
発作を起こしたとき、介抱してくれたお染を探すことを生き甲斐としていた新三郎。その道中で、天竜一家の貸元殺しの濡れ衣を着せられます。最後は真犯人がわかり、天竜一家と別れ、天竜川の河口から袖浦に向かって砂浜を歩きます。

月に照らされた美しい光景が、原作では表現されていますので、いくつか抜粋します。

「白い砂浜が、月光に輝いて銀粉を撒き散らしたように見えた。」
「鏡のような海が広がり、打ち寄せる波の白さが目にしみた。すべてが月の演出によって、幻想的な美しさを見せていた。」
「『お染さん!生きていておくんなさいよ!小仏の新三郎も、まだ生きておりやすぜ!』
新三郎は月に向かって、吼えるように叫んだ。三度笠に道中合羽のシルエットと、白い砂の上のその影は、月の光の中をよろめきながら少しずつ移動して行った。やがて、それが砂丘の陰に消えたあと、月光のほかにはなにもなかった。」

発作を起こしよろめきながら歩く新三郎。苛酷な境遇に反しての月夜の美しさに、凄みさえ感じます。

「錦絵は十五夜に泣いた」は、まさに中秋の名月です。山城屋の女あるじ、お紺と別れるときの会話がジンと来ます。

「急ぐ旅でもねえのに、妙な癖がついちまっているんで……」
「お前さんはきっと、死に急いでいるんだよ」
「そうかもしれやせん」
「でも、いいねえ。月と一緒の、二人旅か……」

月と一緒の二人旅……いい言葉ですねえ。紋次郎の孤独な旅を表しています。
そのとき、背中に匕首が刺さったままのお糸が、紋次郎に危険が迫っていることを知らせに走ってきます。紋次郎は、背中の匕首を抜いてお糸を抱き起こします。

「いいんです、どうなったって……。わたしには、この……この泣きボクロがあるんで……どうせ、楽しい思いはできないんだから……」
お糸の目の中に、満月があった。
「でも、これでやっと、遠いところへ……遠いところへ行けます……」
お糸は、眠るように目を閉じた。そこにあった十五夜の月も、消えた。(原作より抜粋)

月を使った愁嘆場では、この作品が一番なのではないでしょうか。目の中に満月が光る……実際そんなことが起こるのかは置いといて、ここは本当に泣けるシーンです。テレビ版でも再現してほしかったですが、当時の技術では難しかったのでしょうか。
この回も、月光の中を紋次郎は去っていきます。お糸もお紺も、やはり道連れにはなれず、紋次郎は十五夜の月と共に街道を行きます。切ないですね。

すぐ思い浮かんだ、月のシーンが印象的な作品の数々でした。続きはまた。


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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

初めまして
BSで放送された紋次郎さんに嵌ってしまいました
放送が終了してしまって寂しいですね 
録画した作品を観る時にお夕様の解説を読んで
より解り易く素晴らしい作品だと思いました
今は何処に行っても舗装されてる道や失われた日本の田舎の風景を作品の中で観る事が出来て貴重な映像の数々今観ても全然古くなく斬新です
お夕様の紋次郎愛 素晴らしいです!
すっかり嵌ってしまいましたので原作の小説を購入して楽しんでいます
お夕様の知識の深さ素晴らしいです
参考になります ありがとうございました
写真も素敵です
紋次郎気質 応援しています!


  • 20140918
  • ひろりん ♦-
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

お~~~!!
私が愛してやまない新三郎シリーズの、「月夜に吼えた遠州路」。
あの作品は、本当に月光の美しさを新三郎の心情と絡ませて、見事に表現しきった名作です。

生きている目的は達成できるし、明日でもう命は用済みになると勘違いして、1対30の果し合いを受け入れ、夜道を歩くシーン。
「新三郎はひとり『花清』を出た。中天にかかった月が輝き、地上は白昼の様に明るかった。新三郎はひとり孤影とともに、野宿する場所を求めて歩いた。この世の最後の夜だった。その最後の夜が、かくも美しい月の光に彩られているのも何かの因縁だろうと、新三郎は思った。」

そして、お夕さんの書いておられる、九死に一生を得てひとり歩き、再び心臓発作で苦しみ、苦悶しながら月に吼えるように叫ぶ、ラストの月光に照らされる夜の海の描写。
これらは、現在の映像技術でも、私の長年描いたイメージ通りの物を作ってくれるのかどうかと思っております。
新三郎シリーズは、変に紋次郎に翻案しないで、そのままやって欲しかったです。

あと紋次郎で「月」といえば、「女人講」のラストの楊枝。
それに後年書かれた「名月の別れ道」ですね。

  • 20140918
  • TOKI ♦nhNJg39g
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

ひろりんさま、初めまして。
コメントをいただきありがとうございます。

再放送で、紋次郎の魅力に嵌っていただけ、自称広報部長(笑)としては嬉しい限りです。
ファンとしては、紋次郎の生きざまだけでなく、映像における情緒ある風景も魅力のひとつです。失われつつある日本の原風景を、味わえる作品に出逢えたことに幸せを感じますね。

私も中村紋次郎に魅了されてから、原作を読み広めたタイプです。秋の夜長、お楽しみくださいね。
身に余るお言葉をいただきまして、恐縮です。

また、おいでください。

  • 20140918
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

TOKIさま、コメントをいただきありがとうございます。

最近は、夜でも街灯やネオンなどが明るく、月や星の冴えた美しさに出逢うことは少ないですね。TOKIさんの故郷はいかがですか?

若い頃、琵琶湖のほとりでキャンプをしたとき、湖面に輝く月に見惚れたことがありました。
何時間も砂浜に腰をおろして、眺めていたことを思い出します。
まさに新三郎が吼えた、月夜の光景でした。

美しい風景や自然美を目にしたとき、いつも紋次郎ワールドとリンクさせてしまうのは癖なんでしょうね。

例年より、秋の訪れを早く感じます。紋次郎ファンにとっては、これからが一番いい季節なので、嬉しいです。
朝夕肌寒くなりましたので、ご自愛くださいね。

  • 20140918
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

私のような新参者に暖かいお言葉を下さって
ありがとうございました
BS放送で紋次郎さんに出会って衝撃を受けました
魅力的な紋次郎さん 寂しさと優しさが同居していて
本当に実在しているようなリアルな作品 
すっかり紋次郎ワールドに浸っています 
それからお夕様のページに出会ってとっても嬉しかったのでおもわずあのようなコメントを書いてしまいました 失礼を致しました
紋次郎気質は私の教科書になりました
紋次郎さんのいろいろなエピソードを知る事が出来て
書かれたお夕様を本当に尊敬しています
ありがとうございました

  • 20140919
  • ひろりん ♦-
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

ひろりんさま、コメントをいただきありがとうございます。

本当に、再放送をしていただけ、良かったと思います。そして、40年以上経っても、質の高い作品は不滅なんだと再認識しました。この作品を鑑賞し、心の琴線に触れる方々が一人でも増えてくれれば、といつも思っています。

検定が通らない教科書かと思いますが、これからも宜しくお願いします

  • 20140920
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

先日はコメント有難うございました。
体調不良で暫くPCを休んでいましたが、また本道には台風の影響が来そうで怖い事です。お体大切に。!

  • 20140922
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

お夕様

どうしても( 帰ってきた。。)の映像を観たくなって
ネットでVHSの作品を購入しました
でもそれを再生出来るデッキを持ってないので
家電に行って購入しました!
あるかどうか心配でしたが売ってて良かったです
紋次郎さん中毒から紋次郎さん貧乏?になりそうです
もうすぐ届くVHSを観れるのが楽しみです

  • 20140922
  • ひろりん ♦-
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。
お身体のお加減は、いかがですか?季節の変わり目は、体調も崩しやすくなりますね。ご自愛くださいね。

タイガースもやはり、季節の変わり目の9月病に今年も罹患……。予防策もあったろうに、なんで毎年?と思います。

アジア大会でも見て、憂さを晴らします(笑)。

  • 20140923
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

ひろりんさま、コメントをいただきありがとうございます。

すごい!
デッキまで購入されたんですか!これは大分、紋次郎熱が上がってきていますね(笑)。
懐具合は寒くなるかもしれませんが、心の中は紋次郎サンの魅力で、熱くなると思います。ドキドキしながら、ご鑑賞くださいね。
また、感想もお寄せくださると嬉しいです。

  • 20140923
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

恐れ入りました。流石、お夕さん、何でも御見通しですね。

  • 20140923
  • くれぞう ♦-
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Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

くれぞうさま、コメントをいただきありがとうございます。

私、お真知さんのように「天眼通」を操れませんので(笑)、何もかもお見通しというわけには参りません。

またよければ、お越しくださいね。

  • 20140923
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
月夜に紋次郎を想う

お夕様初めまして
BSで放送してた紋次郎を見て紋次郎狂いになった1人です。無印の紋次郎は小学生の頃見ていた覚えはあるのですがなんせ40年くらい前の上子供だったので内容など覚えているはずもなく初めて見たも同然でした。残念な事に再放送に気づいて見出したのが木枯らしの音に消えた、からでしたのでそれより前の話は見逃してしまいました。無縁仏に明日を見たで紋次郎を刺した子供が渡世人達に追われて河原を逃げて来て紋次郎と出会った時の紋次郎の子供を見る顔つきが何故か大好きです。笑 ドラマも終了して寂しくなってしまいましたが今はオークションで光文社の紋次郎15巻セット買い求め帰っきたシリーズ他ドラマ終了後の原作、股旅物は図書館で借りて読みあさってます。連休を利用して紋次郎の記念館にも行って見たいですね。お友さんのブログは原作とドラマの対比、ロケ地の探訪等本当頭が下がるほどの労作だと思います。これからもちょくちょく拝見させて頂きたいと思います。お身体に気をつけて頑張ってください。

Re: 日々紋次郎「月夜に紋次郎を想う」

ボバチャンさま、初めまして。
コメントをいただきありがとうございます。

再放送は普通、番宣をしませんものね。でもまたいつか、再放送があると思いますよ。信じています。

ファンにとっては、大好きな場面というのが必ずあるものですね。私も数えると、きりがないくらいです。
原作の魅力も味わっておられるようで、嬉しいです。
読書の秋です。またお気に入りの作品など、お教えくださいね。

再放送が終了しましたが、これからもよければおいでください。
ありがとうございました。

  • 20140928
  • お夕 ♦wikz35BA
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