紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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日々紋次郎「桜と紋次郎」

日々紋次郎「桜と紋次郎」

日々紋次郎「桜と紋次郎」
日本では花と言えば「桜」を指す。やれ桜が咲いた、散ったと世間はこの時期騒がしくなる。奈良時代は「梅」が鑑賞の対象だったが、平安になると「桜」が台頭した。庶民が花見に興じたのは、江戸時代からと言われているが、日本人の桜好きは、古来から綿々と受け継がれたDNAの為せる業なのだろう。

紋次郎作品には、いくつか桜がタイトル内に使われている。
「桜が隠す嘘二つ」「夜桜に背を向けた」「桜の花を好んだ男」など……。

日々紋次郎「桜と紋次郎」

「桜が隠す嘘二つ」では、紋次郎の鮮やかな推理が光る。
八幡社の神殿前に、若い娘の死骸が発見される。背後から何者かに刺されたようで、その血のシミ部分に桜の花びらが三枚貼りついている。死骸が発見された八幡社には、桜が一本もない……ということは、殺害現場は他にある……この桜の花びらが物的証拠となり、犯人を割り出すという、安楽椅子探偵に近い趣がある作品である。

「お百が店と住まいの境の障子を、しめ忘れたせいである。表から裏へ、風が吹き抜けるのだ。二間の部屋の向こうに。桜の花びらの乱舞が見られた。裏に大きな桜の木があって、強い風に散らされての花吹雪が、家の中まで舞い込んで来るのであった。」(原作より抜粋)

紋次郎が呼び止められたこのお百の店が、殺害現場であった。時刻は午後四時……斜光の中、春風に散る桜の花びらが舞う様子を思い浮かべる。薄暗い店の中から見える花吹雪は、この後起こる悲劇を知らない。

最後に、濡れ衣を晴らし去っていく紋次郎。

「その日の夕刻、紋次郎は長い影を連れて武井駅の南の街道を、結城へ向かっていた。桜の花びらが、しきりに舞っている。歩きながら、紋次郎は口の楊枝を飛ばした。楊枝は宙を舞っている花びらと、路上を滑っている花びらを同時に地面に縫いつけた。」(原作より抜粋)
一度も長脇差を抜かなかった紋次郎作品の一つである。

日々紋次郎「桜と紋次郎」

「夜桜に背を向けた」では偽紋次郎が出てくる。
大店に押し入り一家八人の命と金を奪った賊三人。その内の一人が、自分は木枯し紋次郎だと言い放って、逃げていったという。
雨に降られて入り込んだ樵小屋で、紋次郎は江戸からの欠落者である男女二人に遭遇する。深川女郎お新と大店の手代梅之助……梅之助は深手を負っており、賊の一人、偽紋次郎に刺されたという。
紋次郎は梅之助のために薬を求め、雨が降る夜の笹子峠を往復し、手当をする。人が良いにも程があるのだが、やはり最後には裏切られる。、折角苦労して助けた梅之助が賊の一人「偽紋次郎」だった、というオチである。
苦労して看病し、助けた男が実はワルだったという件は、「命は一度捨てるもの」と同じプロットである。他にもよく似た要素があり、少しマンネリ化を感じる作品だった。

深川女郎を騙ったお新は「夜桜お新」と呼ばれ、大店に押し入った賊の一人だった。異名に「夜桜」が使われている。また、梅之助と江戸での花見を懐かしむ会話をしている。
樵小屋のまわりには桜が咲いている。梅之助の傷が快方に向かうのを見届けて、紋次郎は小屋を出る。

「三度笠をかぶる紋次郎の目に、あたり一面の桜の木が映じた。暮色が濃くなる中で、今日の桜の花は、微笑しているようであった。昨日、今日と晴天であり、桜の花も化粧をし直したのであろう。」(原作より抜粋)

桜の花が微笑……紋次郎も一仕事が終わり、ホッとした心持ちだったのか、紋次郎らしからぬことをする。微笑した桜の木の下を歩き、樵小屋を一周するのだ。そしてその後、土中からとんでもないものを発見してしまい、お新と梅之助の正体が露見する。
土中に埋められていたのは、長脇差三振り、三度笠三つ、血染めの道中支度一式と道中合羽二枚、そして最後に男の死骸が一体。
穏やかな桜の景色が一変する。まさに「桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている」であり、梶井基次郎の世界である。

「裏に埋めてあったものは、残らず夜桜を眺めておりやすぜ」
これは紋次郎が口にしたセリフ……ちょっとキザ(笑)。三人組の賊が、仲間割れをした果てである。

今回の飛んだ楊枝の先は、梅之助が死ぬ間際まで持っていた小判であった。最後の件は「江戸で最も有名だった夜桜は吉原で、陰暦三月一日から見物人が押しかけ、「吉原の夜桜」と称される江戸の年中行事にさえなったという。」で締めくくられている。

日々紋次郎「桜と紋次郎」

「桜の花を好んだ男」は、人情話である。紋次郎は道中、親分宅に草鞋を脱ぐことはほとんどない。まれに立ち寄る、数少ない親分に「桜の市右衛門」がいる。この温厚な市右衛門が部類の桜好きで、現代であれば「キティラー」も一目置くといったところだろうか(笑)。身につけるものや調度品、そしてお決まりではあるが、背中の刺青も桜紋様……。

市右衛門の口癖は
「桜の花が散っても、悲しくはならねえだろう。わしも桜みてえに、悲しみ抜きの散り方をしてえものさ」
である。悲しみ抜きの散り方に、自分の最期をなぞらえている。桜の花が咲く美しさより、その散り方の美しさや趣に心を奪われている市右衛門。

この作品のキーワードは「親子」である。家族を持ってしまった渡世人の悲哀や育ての親と子の情愛など、江戸人情話のような展開である。

悪党に成り下がった実の息子「甲助」を、三年前に手にかけた市右衛門は、今度は次男の「音七」に殺されそうになる。何という因果な話か。危機一髪のところを紋次郎に救われたが、市右衛門は桜の花のように悲しみ抜きの散り方ができなかったと泣く。

紋次郎の楊枝の行方は桜の花……五輪ほどの花は散って、桜の花を愛する市右衛門と、その伜である音七の死骸に舞い落ちる。

「桜の花みてえに悲しみ抜きの散り方をしてえ……」
紋次郎は、市右衛門の言葉を噛みしめて街道を去っていく。「死ぬときが来たら、黙って死ぬだけだ」と悟っている紋次郎にとっては、心にしみる言葉なのだ。いやこれは、作者である笹沢氏の死生観なのかもしれない。

日々紋次郎「桜と紋次郎」

桜の花は寿命があって、その寿命が来る前であれば、どんな風雨でも耐えられると聞いたことがある。そして寿命が来ると、そよ風のひと吹きで舞い散り、何事もなかったように消えていく。
「散りぬべき 時知りてこそ世の中の 花も花なれ 人も人なれ」
細川ガラシャの辞世の句を思い起こす。

タイトルにはなかったが、桜の花びらが散る場面が印象的なのは、「水神祭に死を呼んだ」。楊枝で射落とされた山桜の花は、人斬り伝蔵の死に顔にハラハラと舞い落ちる。ドラマでは、田崎潤さんが熱演されていた。

今年の桜は、どのように咲き、どのように散るのだろうか。桜を眺めながら、紋次郎作品を味わうのもなかなか乙なものである。


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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

お夕さん。ご無沙汰しております。心が和むお写真の数々ですね。わたくしとしては、あの数字連作の一作「桜が隠す嘘二つ」が一番気に入っております。

  • 20150407
  • いなさ ♦-
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎といえば、やはり木枯らしの吹く季節を連想しますが、桜の季節の作品も結構あるんですね。

「桜が隠す……」での紋次郎は冷静沈着で、肝の据わった様は格好良かったです。並み居る大親分たちも感じ入りましたが、その様子も胸のすく思いがしました。

またよければ、おいでくださいね。

  • 20150407
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

お夕さん。先便で書けばよかったのですが、忘れましたので、大急ぎで追加です。ご存知かもしれませんが。NHK朝の連続ドラマ「まれ」で中村敦夫さんを久しぶりに拝見しました。 輪島塗の製作・販売を行う塗師屋の役でなかなかの貫録でした。その敦夫さん 4月13日 (月)午後1時頃からのNHK「スタジオパーク」にもご出演とのことです。録画して見ようと思います。楽しみです。

  • 20150408
  • いなさ ♦-
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。

「まれ」でのご出演、嬉しいです。
ダンディでしゃれっ気があって、でも一本筋が通っている役柄はピッタリだと思います。
「スタジオパーク」の情報、ありがとうございます。録画予約バッチリで臨みます。楽しみが増えました。

  • 20150408
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

ストーリーと桜をつなげてのお話、お互いが引き立て合っていいな~と思いました。
最後の写真、普通の道のさくらのじゅうたんならよくありますが、飛び石のところに桜がおちているとまた違った美しさですね。

  • 20150410
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

けさのYTVの「S]という番組で、Mアナがツイッターの方のタイガース応援コメントを読まれるところで「お夕」さんと言われてましたが、お夕さんですか?なんかテンションあがったんですが・・・。^^

  • 20150410
  • てのりぱんだ ♦C/Rcg83E
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Re: 日々紋次郎「桜と紋次郎」

ぱんださま、コメントをいただきありがとうございます。

花冷えのおかげで、桜はまだ散り果てず頑張っています。花吹雪とはよく言ったもので、先日花吹雪の下を車で通ったときは、ワイパーをかけたほどでした。

さて、お尋ねの件ですが、残念ながらお人違いのようでござんす。その頃私は、車中のラジオでD上さんのぼやきを聞いておりました(笑)。

  • 20150410
  • お夕 ♦wikz35BA
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