紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」
紋次郎シリーズの醍醐味の一つに「どんでん返し」があるのは、ファンなら周知のことである。この「どんでん返し」の由来は歌舞伎用語で、舞台の場面を装置を使って次の場面に転換することである。サスペンスや推理小説ではおなじみの手法であるが、時代小説でミステリー手法を取り入れたということは注目すべき点である。
紋次郎の作品では、意外な人物が黒幕だったり下手人だったりという設定が多い中でも、「木枯しは三度吹く」の下手人は異質なものである。

紋次郎シリーズはこの前作「唄を数えた鳴神峠」で、一旦終わっている。紋次郎は信じた少女お秀に騙され、鳴神峠で瀕死の状態で斃れる。朦朧とした意識の下で、お秀が唄う数え唄に合わせて年月を数える紋次郎……。紋次郎がここで命を落としたということは書かれていないが、読者は「終わった……」という寂寞の念を持ってページを閉じたことであろう。

しかし紋次郎は蘇った。その第一作目が「木枯しは三度吹く」である。この作品では下手人の意外性だけではなく、興味深い設定が三つある。

まず一つ目は、あの木枯し紋次郎が財布を盗まれるという失態。その様子は書かれてはいないが、一体どんなシチュエーションで財布を掏られたのだろう。隙など見せたことがない紋次郎から、財布を丸ごと盗むとはなかなかのものである。

二つ目は、その盗んだ渡世人の名前も紋次郎。紋次郎と名乗っただけで「木枯し紋次郎」だと勘違いされ、村人たちから期待を寄せられる。変にライバル意識を持った盗人紋次郎は、男気を出し武右衛門一家に挑むも敢え無く惨殺される。
そこへ財布を盗んだ紋次郎を追って、紋次郎が村にやって来る。(なんだかややこしい)。財布を取り戻すだけのはずが武右衛門一家に疑われ、敵に回される羽目になる紋次郎。災難続きである。

江戸相撲の巡業がやって来るのだがその一行の中に昔、村から飛び出した藤吉という乱暴者がいた。藤吉は村にいる一人暮らしの後家、お町に懸想をし家に押しかけ狼藉を働き、勘当となって無宿人になったといういきさつがある。その力士崩れの藤吉が舞い戻り、再びお町を襲おうと家に押しかけるのだが……。

日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」
*写真は山古志村の「牛の角突き」

翌朝、藤吉の骸が村はずれで発見される。胸と腹を刺されて死んでいたのだ。他に傷はなくこの二か所だけが致命傷。村人の中に、そんな手練れた者はいない。一体だれが藤吉を殺害したのか。
巡業相撲の勧進元である板橋の武右衛門は怒り狂う。村人たちに下手人を差し出せ、さもないと六人の力士崩れの子分に村を襲わせるぞ、と脅す。

結局紋次郎は、六人の大男と戦う羽目になる。この力士との戦い方の面白さが三つ目。力士たちが振り回す丸太棒攻撃をかわすために、紋次郎は戦いの場を田圃に移す。時は二月……泥田となっている田圃に足を踏み入れた力士たちは、身動きがとれなくなるという間抜け加減が面白い。

さて大分話を引っ張ってしまったが、藤吉を刺し殺した下手人。それは、お町の家で飼っていた赤牛だったのだ。お町は藤吉に襲われたとき、咄嗟に火のついた薪を投げつけたのだ。仔細は記されていないが、その火に驚いた赤牛が牛小屋の柵から飛び出し、藤吉に突進したのだろう。胸と腹の刺し傷は赤牛の角だったのである。

紋次郎はその下手人(牛?)を推理して、牛小屋の板に楊枝を飛ばす。そして、それに呼応したかのように赤牛が「もおう」と鳴く。いくら力士のような巨体であっても、赤牛には敵わない。

再開された一作目というだけあって、なかなか読み応えのある作品だった。この時の決め台詞に「あっしには、言い訳なんぞござんせん」が初めて出てくる。

しかし前作「唄を数えた……」で壊滅させた一家は「海野の武右衛門」で、今回は「板鼻の武右衛門」。「武右衛門」続きとはどうしたことだろう。ブランクがあったとはいえ、笹沢氏は気づかなかったのだろうか。
まさに「あっしには言い訳なんぞござんせん」なのかもしれない。


宜しければランキングにご協力をお願いいたします

にほんブログ村 テレビブログ 大河ドラマ・時代劇へ
クリックで投票

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/366-3c690f00

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

お夕さん。
この「意外な犯人」、いいですね。最後に紋次郎の楊枝がそれを指し示す趣向で、救われます。それにしても、この作品が、再開シリーズの第一作とよくいわれているのですが、あっしには、どうも前作「唄を数えた鳴神峠」がこの再開シリーズの第一作のように思えてなりません。この「数えた」からそれに続く作品の表題作には、全て「数字」が織り込まれていくのではないかと思えるのです。考えすぎでござんしょうか(笑)

  • 20160722
  • いなさ ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。

当時は「唄を数えた……」で、紋次郎シリーズは終了(のはず)でした。

しかし、ファンの再開要望の声が大きかったのか、この「木枯しは……」で第二期がスタート。

「唄を数えた」で一旦終了したためなのか、いなささんがおっしゃる通り、第二期はタイトルに数詞が入るようになりました。
笹沢氏は第一期を終えるとき、そこまでは考慮していなかったとは思いますが……(普通、終わるときに再開することは考えないでしょうから)
「『数えた……』で終わったから、それに引っ掛けて数詞シリーズで行くか」
ぐらいだったんでしょうか。
しかしそれも、途中でやめになりました。

こだわりやしばりがあると、物事なんでも難しくなりますね。

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

お夕さん。

有難うございました。なるほど、そういう経緯があるのですね。

「唄を~」が小説現代1973年6月初出で「木枯し~」が同誌1975年の春のようですから約2年間のお休みがあって、この間に、数詞入りの表題作のアイデアが生まれたのでしょうね。

おっしゃるようにそんな縛りを自ら掲げると、より苦しい状況に追い込まれてしまったかもしれません。 おかげで、素晴らしい名作が生まれて楽しませてもらっていますが。

  • 20160723
  • いなさ ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。

もともと紋次郎シリーズにはいくつかのこだわりがありましたが、その上に数詞をタイトルに入れるとなれば、それも大変だったことでしょう。

タイトルは、作品の出来を左右するぐらい大事なものですから悩ましいものです。

そういえば「木枯し紋次郎」の「ら抜き」は絶品ですね。「ら」が入ると間延びして締まりが悪くなりますもの……。

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

虎のフアンです、!鷹トラの昔の同士でもあります。☆!すごい小説家なのですね=!

  • 20160728
  • dio ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

dio さま、初めまして。
コメントをいただきありがとうございます。

鷹虎さんのブログからおいでいただいたようで、虎ファンの方とお近づきになれてうれしいです。

今夜は青柳……。打線で援護して4連勝といきたいですね。

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

ご無沙汰をしております。

お変わりございませんか。
さて、紋次郎の「どんでん返し」ですが、元々、笹沢氏はミステリー作家なのでお手の物でしょうね。
股旅時代劇は旅情、愛情、義理人情、ですね。
そこに、意外性を絡めるのが笹沢氏のお家芸なのですね。
思えば、「赦免花は散った」に良く表れています。
数字がタイトルの時はスランプだったのかも知れません。
他の時代小説にも数字タイトルを使ったものが多々ありましたね。

「帰って来たが~」復帰、第一作の様な気がします・・・

ガンバって下さい!
では、又♪

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

ぶんぶんさま、コメントをいただきありがとうございます。

お返事が遅くなり、申し訳ございません。

シリーズも長く続けると、大変なことも多かったでしょうね。
第二期の数字タイトル編は、時々紋次郎らしからぬところが見えて、首をかしげることもありました。
まあ、あんまり細かいところにこだわらなくてもいいんですけど……。

東日本は、天気の急変が激しいようですね。
お気をつけください。

Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

こんにちは。
楽しく読ませていただきました。木枯らしは三度ふくは確かに読み応えのありそうな話ですね。犯人は牛だった、名探偵コナンのトリックに使われちゃいそう。

  • 20160825
  • カノッチ ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎 「意外な下手人~木枯しは三度吹く」

カノッチ さま、はじめまして。
コメントをいただきありがとうございます。

海外の推理小説だと「モルグ街の殺人」なんかが、犯人が動物だったというオチで有名ですね。

この赤牛は、なかなかの忠義者でした。
「牛の角突き」を見る限り、これは立派な凶器となりますね。

コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/