紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)
(原作1972年 第18話) (放映 1972.12.2)
さて「木枯し紋次郎」のタイトルロールで舞殿で長ドスを抱いて横になる紋次郎の姿は皆さんご存知の通りであるが、私はずっとこの場所が気になっていた。一時は京都嵯峨野の「鳥居本八幡宮」かと思い足を運んだのだが、帰宅して映像と写真を比べて違うことに気づいた。
しかしその後ケガの功名というか「大江戸の夜を走れ」で舞殿に壁板をめぐらして使われていることがわかったのだが……。
ポイントは萱葺きの屋根である。ほとんどが瓦葺きであるので萱葺きは滅多にない。
さて、本作品の紋次郎が休んでいた祠がまさしく萱葺き屋根である。しかし舞殿ではなく板壁がある祠である。……とここでハタと気がついた。これは美術さんの仕事だ……と。
映像で見るとなるほど古い質感で壁が作られているが、これは実際の姿ではなく作られたものだろう。ということで私は「水車は……」の祠とタイトルロールの舞殿とは同一の場所とにらみ、映像を見比べてみた。
決定的な証拠はないがすぐ右側に石垣があり、右手奥には灯籠らしきモノも見える。右手は同じように竹林である。
ではこの場所はどこなのか。立ち回りをしている景色を見ていると、周囲は広い田園……となるとやはり京都の郊外か?
AGUAさまのサイト「時代劇の風景」(http://agua.jpn.org/film/top.html)で探してみると「藪田神社」が目に留まった。記事内の説明によると以前は萱葺きの屋根だったようで、今は鉄製の屋根に葺き替えられているとのこと……これだ!と思った。
まだ訪れたことはないのだが、いずれ実際にこの目で確かめたいと思っている。
「時代劇の風景」には、紋次郎のロケ地である「鳥居本八幡宮」や「丹波国分寺」等も紹介していただき、大変お世話になっている。紋次郎のロケ地はなかなか特定するのが難しい中、豊富な資料や写真を掲載していただき、本当に嬉しく思っている。お蔭で、紋次郎を求める旅が実現できている。
この場をお借りしてお礼を申し上げたい。

本題に戻る。
祠の周りに八五郎と仙造、子分達が迫ってくる気配を感じ取って紋次郎はお鶴たちに奧で隠れるように顎で合図する。無言であるが紋次郎はこの二人を助けようという意志を示す。
祠から出てきた紋次郎の物に動じない貫禄ある態度は格好いい。
流れモンには関わりないだろうという仙造に
「関わりねえとは言わせねえぜ。大谷のお身内衆が堅気相手の外道のお陰で、難儀な旅をしやしたぜ」
の台詞が胸を好く。

お鶴とその夫は逃げようとするのだが、追っ手に襲われ夫は斬られる。お鶴は泣き叫び倒れた夫に取り縋るのだが、紋次郎はそれを引きはがし抱えるようにして逃がす。お鶴の狂乱ぶりに夫婦愛が見て取れる。原作にないこの部分を入れたことで、お鶴の悲哀とこの後の残酷な仕打ちが作品に深みを出している。

第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)
*写真は中山道、妻籠宿の水車

水車に逃げ込むお鶴は再び外に出てきたが、その場で倒れる。水車から続いて出てきたのはお鶴の実の妹お縫。ニコリともしない冷酷な大原麗子の美しい顔。手には長ドスを提げている。
ここで大きな意外性が出てくる。憎まれ口をたたいていた勝ち気そうな姉を健気にとりなしていた可憐な妹が、実はこの残酷な一連の糸を引いていたのである。やはり女は怖い。
姉のお鶴も妹のお縫も、形は違えど惚れた男に心底尽くすタイプの姉妹だったのだろう。まさしく『情の濃い姉妹』である。
原作にはないこの二人の違いに焦点を当てたのは脚本家、天晴れである。

原作ではお縫はお鶴の喉を刺して止めをさすが、やはりテレビでは残酷すぎると見え、刺す場所は変えてある。
原作ではお縫はそのまま水車のほうへ戻りかけたところ、紋次郎が長ドスを弾き飛ばす。長ドスは右のほうへ水平に飛び、お縫の左胸に刺さる。シミュレーションしたが、位置関係に疑問が残る。
その点テレビ版は、一旦水車に戻りかけたが踵を返し、刀で襲いかかろうとするお縫にドスを飛ばして胸に命中させている。紋次郎は後ろ向きであるので気配だけを感じ、長ドスを飛ばしたことになる。もうここまで来ると神業であろう。また、襲いかかる女を刺すという設定は「大江戸の……」と同じく正当防衛のにおいも漂わせている。紋次郎には丸腰の女を殺すことはあり得ないし、鉄則からは外れる。
ということで、テレビ版のお縫は紋次郎の背後を襲わせる脚本に変更されており、お小夜以来、二人目になる。

刺されてよろけたお縫は水車にぶつかる。水車が出てくるシーンは今までに何回かある。水車に巻き上げられて落ちる敵や、杵に手を潰される敵もいた。今回は、帯が水車の軸に巻き取られるという設定である。「大原麗子」の出番としてはあまり多くなかったので、ラストシーンにはかなり時間がかけられている。
倒れたお縫の髷から珊瑚の簪が落ちる。半七にもらった簪だと呟きながら、手を伸ばすお縫。その簪に楊枝を飛ばしお縫の指先に触れさせる紋次郎の優しさ。意趣返しのために阿修羅となったお縫だが、最期に半七からもらった簪を手にし、一途に恋する健気な女に戻りこと切れる。

「長脇差は確かに使わなかったけど、女を殺したことには間違いないんだよ。木枯し紋次郎が、そのことをすぐ忘れられればいいんだけどねえ」(原作より抜粋)
「……紋次郎さん、わたしを殺したからって、気にするんじゃないよ。わたしのほうで、殺してもらおうとしたんだからね。お蔭で楽になれる。……」(原作「大江戸の夜を走れ」より抜粋)
女たちは紋次郎を恨むことはなく、この世を去る。初めから死を予感している、というか死をもって初めて救われるといった雰囲気が漂う。

水車と独り佇む紋次郎のシルエット、山の向こうには夕日が沈む。もの悲しく無常観が漂う中、影絵のように美しく脳裏に焼き付く映像であり、私のお気に入りのエンディングシーンである。この美しい夕景を撮るため、どのくらいの時間を費やしたのだろう。
紋次郎の映像美の集大成にエンディングシーンがある。作品の締めくくり方をどうするかは、監督の腕とこだわりにかかっていると言ってもいいだろう。
本作品は夕景シーンで終わらず、荒涼としたひび割れた大地、その彼方を独り歩く紋次郎のシルエットに芥川氏のナレーションが入る。
水争いに端を発した惨劇であったのでこの映像を入れたのだろうが、ちょっと唐突な感じがする。私としては、夕景と水車と紋次郎のシルエットで終わらせた方が余韻が残ったと思うのだが……。

私がこの記事を書いている最中に、大原麗子さんがお亡くなりになった。偶然とはいえビックリしてしまった。難病に冒されながらも、女優業に徹した生き様は、筋が通っていて格好よかった。本当に男前の女優さんだったと思う。
心からご冥福をお祈りいたします。
合掌。

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Re: 第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

お夕さん、こんばんわ。お久しぶりで失礼致しました。

大原麗子さんに哀悼を捧げるいい記事になりましたね。一世を風靡した「少し愛して長く愛して」のCMは市川監督作品だったとか。話題になったウイスキーの子犬のCMも市川監督作品のようですね。

前編で触れられていた半七の謎に答えるべく記事を書いています。ご高覧下さいませ。

いろいろ大変なことが多く胃が痛い日々が続いていたのですが、お夕さんの問いかけで久しぶりに紋次郎のDVDを見て楽しい時間をもてました。有難うございました。




  • 20090911
  • おみつ ♦aiP0wTO2
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Re: 第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

おみつさま、コメントをいただきありがとうございます。
貴ブログの記事を拝見いたしまして、感激しております。ありがとうございます。
市川監督は巨匠でありながら、たくさんCMを撮っておられますね。「スタイル・オブ・アート+CM+アニメーション」というDVDが角川映画から発売されているようです。(私は持っていませんが)
短い尺の中に、世界を凝縮して表現できるという才能は、さすがだと今更ながら感じます。
これからもお忙しくされるかと思いますが、お身体ご自愛くださいね。
ありがとうございました。

  • 20090911
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

お夕様。こんばんは。私も早速「時代劇の風景」を見せて頂きました。素晴らしいの一言ですね。(*^_^*)こんなHPを作成されている方がいらっしゃるなんて、凄い!!鳥居本八幡宮を見て、あっ!ここ!ここ!親分とお小夜が上から見下ろしている中を、紋次郎が走って来る所だ!と感激してしまいました。以前にも書きましたが、私は全く関八州にはご縁がなく、いつもお夕様の写真やプログで憧れているのですが、やはり今でも古き良き風景は残っているのですか?この水車小屋なんてとても風情がありますね。(*^_^*)原作者の笹沢氏は一度も街道は旅したことが無く、却ってイメージが壊れるので想像で書いているとコメントしていましたが、想像であれだけの描写が出来るとは本当に天才です!それから死体である半七の件は私も目を凝らして見たのですが、結局分からず・・でも、おみつさんの解説で判明。スッキリしましたね。
あの役者さんて結局、一度もセリフなしだったのですか?(笑)

  • 20090912
  • sinnosuke ♦GZgNVSBU
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Re: 第21話「水車は夕映えに軋んだ」(後編)

sinnosukeさま、コメントをいただきありがとうございます。
紋次郎のロケ現場や、原作に出てくる土地や街道、宿場を訪れることが最近のマイブームになっております。
しかしながら、なかなか当時の風情がそのまま残っているというわけではなく、残念な結果の処もございます。まだ、上州にまでは足を伸ばせておりませんが、憧れの地ですね。
まとまったら、ブログの記事にしたいと思っております。

「胸毛の人」(笑)ですが、「木っ端が燃えた……」のときは、確か台詞があったと思います。

  • 20090913
  • お夕 ♦wikz35BA
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