紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

Articles

日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」
幼馴染みには一種のノスタルジーが存在する。知り合いやただの友達とは違い、幼馴染みには特別感がある。それは良くも悪しくも、同じ時を過ごした仲という一種の宿命でもある。

誰にでも幼馴染みは存在するだろうが、紋次郎の幼馴染みはかなり厄介な者ばかりであった。

まずシリーズの始まり「赦免花は散った」からして、幼馴染みの裏切りである。「日野の左文治」は、年老いた母が危篤であるが故、自分の身代わりとして紋次郎に罪を着るように頼む。老母が亡くなったら、すぐに自首をするからと言っておきながらなしのつぶて。結局紋次郎は無実でありながら、三宅島に島流しにされる。その上左文治は三宅島に刺客を送り込むという念の入れよう……。紋次郎に、強烈な人間不信感を植え付けた張本人は、幼馴染みだったのである。

「夜泣石は霧に濡れた」では、湯原の勘八と名乗る貸元が幼馴染みの「弁蔵」である。この弁蔵は紋次郎と同郷で、実弟は間引かれてこの世から葬られている。そんな哀しい過去がありながら、弁蔵は陰で村人から間引きを頼まれて赤子の命を奪っている。結局、紋次郎に斬られるのだが、「幼馴染みが、やがては果し合いかい」が最期の言葉となる。同じような境遇だった二人が、全く対極となり命のやり取りをする。本当にやり切れない結末であった。

日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

「命は一度捨てるもの」では、厄介な二人の幼馴染みが登場する。長兵衛とお鶴である。この二人も紋次郎と同じ三日月村出身であり、幼少の頃を貧村で過ごしている。長兵衛は紋次郎より少し年上で、いつも飢えていた紋次郎に食べ物を恵んでいたという。お鶴は紋次郎と同い年で幼い頃は紋次郎に淡い好意を持っていたようである。長兵衛は奈良井宿の旅籠で働いており、お鶴は奈良井宿の問屋を務める大徳屋に嫁いでいる。二人は紋次郎に会えて懐かしそうに話を始めるのだが、紋次郎は全く無視。この後紋次郎は、重病の長兵衛の命を救うために峠越えをして医者を連れてくるのだが、またしても幼馴染みの二人に騙されてしまうのだ。

「白刃が消した涙文字」に登場するのは、「お絹」。お絹は音吉の妹で三日月村生まれ。この兄妹は共に、幼い頃紋次郎に焼き餅を半分ずつ恵んでいる。

「紋次郎は音吉とお絹から、半分ずつの焼き餅を受け取り、一度に口の中へ押し込んだ。焼き餅の味を噛みしめながら、なぜか紋次郎は涙を流していた。……紋次郎は今日まで、そのとき以上においしい焼き餅を食べたことがない。」(原作より抜粋)

横恋慕してからむ鬼虎からお絹を救ったことが、期せずして21年目の再会になったのである。紋次郎としては幼馴染みだから救ったというのではなく、「焼き餅の半分」の借りを返したまでなのである。
「幼馴染みってだけなら、平気で裏切るやつだっておりやすよ。ですが、心の借りってものがある限り、いつかそいつを返さずにはいられないんでさあ」とお絹に言う紋次郎。
そう、今まで何度も幼馴染みに裏切られているから、そんな言葉も出るのだろう。しかし、このお絹もまた……なのである。

紋次郎は幼馴染みに裏切られ続ける。しかし紋次郎は、幼馴染みに対して何の感慨も抱かないので、裏切られたとしても特別に傷つかない。

日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

「幼馴染みの存在は、過去のことだった。紋次郎には、明日もない代わりに、昨日もないのである。過去を捨てきった男に、幼馴染みも何もあったものではない。過去の記憶はあっても、それに心が向くということはないのだった。」
「過去はすべて縁が切れたものと紋次郎は思っているのである。過去を振り返っても、思い出に縋っても、今日一日を生きることには何の役にも立たないのであった。」
(「命は一度捨てるもの」原作より抜粋)

幼馴染みであろうがなかろうが関係なく、借りを返すべき人間か否かでしかないのである。心の借りはいつまでも覚えている紋次郎の律義さと、自分のために利用しようとする幼馴染みの狡猾さ。この対比が作品の胆なのである。

しかし本当に、紋次郎の幼馴染みはクセ者率が高い(笑)。


宜しければランキングにご協力をお願いいたします

にほんブログ村 テレビブログ 大河ドラマ・時代劇へ
クリックで投票

トラックバックURL

http://kogarashi1940.blog10.fc2.com/tb.php/406-175f705c

この記事へのトラックバック

この記事へのコメント

Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

お夕さん
ご無沙汰しております。いなさです。
本年もとても楽しみにしております。
今年の最初の切り口も「幼馴染み」とは素晴らしいですね。確かに紋次郎は厳しい淋しさの中にいるのですよね。それにしても、生きるなかで、紋次郎の「救い」とは何だったんでしょうか。「手向け草」のひと時だけだったのでしょうかね・・・。

  • 20180104
  • いなさ ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

お夕さん
ご無沙汰しております。いなさです。
本年もとても楽しみにしております。
今年の最初の切り口も「幼馴染み」とはすばらしいですね。確かに、紋次郎は厳しい淋しさの中にいるのですよね。 それにしても、紋次郎にとって「救い」とは何なのでしょう。「手向け草」のひと時なのでしょうか・・・。

  • 20180104
  • いなさ ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

いなささま、コメントをいただきありがとうございます。
新年の記事にしてはちょっと暗めですが、それも紋次郎らしいかもしれません(笑)。
本年も宜しくお願いします。

紋次郎にとっての「救い」は、生きている間は訪れなかったでしょうね。もっとも、紋次郎は「救い」を求めるような考えはなかったでしょうが……。

  • 20180105
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

明けましておめでとうございます.

紋次郎に縁のある旅先でのお写真を,出不精の当方はいつも楽しみに拝見させていただいております.

「命は一度捨てるもの」での,原作者の漢方についての記述の深さは印象的でした.リアリティはあそこまで描かなければ生まれないものですね.


今年もどうぞよろしくお願いいたします.

  • 20180107
  • 寅さんのおにいちゃん ♦-
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

お夕さん、明けましておめでとうございます。
紋次郎・幼馴染といったら、あと、これがあります。
http://www.momoya.co.jp/gallery/norihei/cm/detail/349/

ちょうど紋次郎のスポンサーで、番組の合間によく流れてましたね。

  • 20180107
  • TOKI ♦nhNJg39g
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

寅さんのおにいちゃん、コメントをいただきありがとうございます。
こちらこそ、宜しくお願い致します。

笹沢氏のリアリズムを追求した作品づくりは、随所に見られますね。莫大な史料を読み込んで、参考にされていたと思います。それらの裏打ちがあってこそ、作品が生きてくるんですね。

今の世の中だと、すぐにネットで調べてしまいますが……。

  • 20180107
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

TOKIさま、明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。

幼馴染み編のご紹介、ありがとうございます。懐かしいです、ほんとに……。

さて、先ほど「必殺仕事人」を見ておりまして合間に「黄桜」の懐かしいCMが流れていました。確か紋次郎の時も流れていたと思います。
「主水さん」もリマスターされて登場されていました。
いろんな意味で懐かしく、ほっこりしています。それだけ、齢を重ねたんですね。(しみじみ)

  • 20180107
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

お夕さん、明けましておめでとうございます。
新しい年の幕開けは「幼馴染み」ですか。
いろいろな幼馴染みが登場しますが、過去に縁無き身には、それも流れていく一つの情景なんでしょうね。
ドラマに組み込む記号として「幼馴染み」という物を置いたのだと思います。
「思い出す事も無い代わりに、忘れもしない」と言った心境でしょうか。
本年もよろしくお願い致します。

Re: 日々紋次郎「虚空に消えた幼馴染み」

ぶんぶんさま、明けましておめでとうございます。

「過去の記憶はあっても、それに心が向くということはないのだった。」
記憶に感慨は結びつかない……今だけを生きる紋次郎には、過去も未来も存在しないんですね。
幼馴染みといっても、その後どんな生き方をしたかで、人間は全く変わってしまいます。
この世はすべて無常。
孤高な紋次郎の姿が際立ちます。

本年も宜しくお願いいたします。

  • 20180113
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
コメント投稿フォーム

管理者にだけ表示を許可する

Paging Navigation

Navigations, etc.

About This Website

/