紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)

第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)

第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)
(放映 1973.2.3)
紋次郎はまた、舟に乗る。実写と合成を駆使して急流を下っていく。やはりこのあたりは保津川に見える。
「急流で舟を操れるのは俺だけだ。」と清吉は豪語していたが、あっさり素人の紋次郎は舟を操ってしまう。スーパーマンである。

下流になり流れが穏やかになる。芥川氏のナレーションで永平寺、越前松島、東尋坊などの観光名所が紹介される。その観光基地として芦原温泉の名称が出て、宣伝効果を狙っている。
因みに私の住まいする所は、「あし」とは言わず「よし」と呼んでいる。「悪し」ではなく「良し」の読みの方が縁起がいいということである。

紋次郎は清吉を小屋に残し、お春を請け出しに三国湊へ向かう。
三国湊は、北前船交易で繁栄した豪商を数多く輩出した処である。当然花街もあり、その格式の高さは五本の指に入るほどだったという。
折鶴がつり下げ飾られた部屋で、紋次郎はお春を待つ。
手前には合わせ鏡、色とりどりの折鶴が揺れ、紋次郎が片膝を立てて動かない。
当時、かなりの種類の折り紙は考案されていたらしいが、紙そのものが貴重品なので庶民にはあまり普及しなかったらしい。
分限者の娘だったので、幼い頃から折り紙には親しんでいたのであろうが、遊女の身になった今でも、高級な紙を入手できていたのだろうか。それともその位の格式がある遊女屋だったのか。

ドラマのワン・シーンであるが、構図としてのバランスや色彩が絶妙で、額装して鑑賞したいぐらいすばらしい映像である。
襖が開いてお春が入ってくる。分限者の娘ということなので、遊女といってもどことなく品がある風情である。しかし何とも無表情なのが気になるし、淡々とした演技に見える。
自分の身の上を話し姉のことに触れると、紋次郎の表情がかすかに動く。姉お秀のことを紋次郎は明かさない。
「美濃の分限者の娘も堕ちたもんだ」と、自嘲的に笑うお秀のことを思い出したのだろう。清吉と暮らすはずであろうお春に、姉の変わり果てた姿を知らすこともないということだろう。

「どんな暮らしでも、無事でいてくれるといいんですけど……」意味深な言葉が続くが、紋次郎は折鶴に目を向ける。
「辛いとき哀しいとき、鶴を折ってると気が休まるんです」紋次郎は愁いのある目で遠くを見やるような表情。
二人の転落した哀しい人生を思ってのことか。本当にいい表情で、胸に迫るものがある。

遊女屋の主人が挨拶に来る。回想シーンで、馬に乗ってお秀をさらっていった盗賊と同一人物。俳優は「新田昌玄」氏。「月夜に吼えた遠州路」で、清吉役を演じていたソフトな感じの二枚目俳優さんである。
姉妹を不幸に落とした盗賊の頭と遊女屋の主人が同一人物というのは、ドンデン返しの一つのはずだが、この時点で分かってしまい惜しい。
馬でさらうシーンは顔を伏せておけばよかったのでは。
遊女の身あらい祝言の言葉が主人の口から出る。
「お志だけをいただいておきやす」この紋次郎のセリフも以前の作品で使っていた。

紋次郎とお春が越前海岸の砂浜を歩く。日本海の荒波である。陰鬱な寒々とした暗い海に白波が立ち、二人のシルエットが遠くに見える。
波打ち際には白く水煙が立ち上がり、霧のようにあたりが霞んでいる。
この回の印象的なシーンである。このシーンはやはり越前海岸でしか撮れず、琵琶湖ではこんなに波は立たない。
私はこのシーンが好きで、場所を特定したかったのだが、わからなかった。
しかし、よく似た場所にこの冬行ってきたので、次回映像を掲載したいと思っている。
お春にとっては、遊女が夢見た目出たい身請け話なのに、この暗さ……やはりこの後の展開を暗示しているかのようである。

清吉が待つ葦原の小屋にたどり着いたが、すでに清吉は何者かに殺されていた。
二度と瞬きをしない清吉の両眼を紋次郎はそっと閉じさせてやる。
「海鳴りに……」で冒頭、死んだ「お袖」のシーン以来二度目。仏に対して紋次郎はいつも優しく丁重に扱う。
「小春さんのことは忘れなせえ。」遊女屋でこの隠れ家を教えたお春の姿が消えた今、紋次郎は確信した。

第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)
*上記の写真は地元の葦原

葦原での立ち回り。ドラマでは九頭竜川下流に広がる葦原となっているが、ロケは琵琶湖沿岸の葦原。遠景の山並み、葦原の向こうは、多分琵琶湖が広がっているのだろう。

空は重苦しく鉛色の雲が低く覆っている。木枯らしの寒々とした効果音をBGMにしての殺陣。
カメラアングルは三度笠越しに敵を見回す紋次郎の目線と重なる。
葦に見え隠れしながらドスが冷たく鋭く光る。色彩がないだけにその光が強調される。

所々に立木が見え、その木の陰からお春が様子を窺っている。
この場面、私がよく訪れる地元の水郷にそっくりである。もしかしたらこの地に紋次郎が?と考えただけでドキドキしてしまう。葦原の間を舟で進むシーンもあったが、それも水郷に間違いない。
今でこそロケ地はタイトルロールで協力という形で示されるが、当時はロケ地の紹介はなかったので、推理するしかない。

お春を呼び出し「十兵衛の一味だったとは、道々気がついておりやしたよ。」と口にする。
海岸で後をつけられていると気づいた時点で分かったのだろうか。
「女を斬るドスは持ち合わせていやせん。」と、お秀に言ったセリフと同じ言葉を発する。
お春からことの顛末を聞き、恨みを晴らすために命がけで惚れぬいた男を道具に使ったのかと問い詰めるが、お春は所詮女はそういうものだとうそぶく。
やはり女は恐ろしい。そして清吉は哀れである。

「今なら十兵衛は油断しているに決まっている、お前さん、引き返して」
と叫んだとたん、お春は銃弾に倒れる。
油断している十兵衛を殺すなら今がチャンスだから、引き返して欲しいと懇願した直後である。
十兵衛は油断どころか、すぐ近くまで来ていたのである。
十兵衛は銃口を向けるが、手裏剣が手元に突き刺さり、紋次郎はすかさずドスで斬り捨てる。
十兵衛役の新田さん、今回の出演時間は驚くほど短かく、悪役の中では最短記録かもしれない。しかし、黒幕ということで姿を見せなかったのだから仕方ないか。

手裏剣を飛ばしたのはお秀。山でのもんぺ姿ではなく、粋な着物姿である。手裏剣の血を拭って髷に差そうとするが、思い直してやめる。
十兵衛との過去からの決別である。
変わり果てた妹との再会に、愁いのある眼差し向け佇む紋次郎。三度笠の縁と目線を揃えるという、一番かっこいい角度である。
画面の手前に合羽と足もとの一部がずっと映し出されていて、身じろぎせず冥福を祈るかのような紋次郎の姿を想像する。

父親違いであっても、周囲の扱いが違っていても、お秀の妹はお春しかなく唯一残る肉親だったのだ。こうしてお秀も文字通り天涯孤独な身になった。
形見になってしまったと、取り出した折鶴に紋次郎は楊枝を飛ばす。
「昨日のことは戻っちゃきやせんよ」
その後の紋次郎の台詞。
「あっしは独り旅と決めておりやすんで」
「命と明日の天気のことは、誰にもわかりゃしやせんよ」

いかにも紋次郎が口にしそうな台詞、オンパレードである。
前述したがオリジナル作品であるので、何となく今までの作品を踏襲しているといった感が否めない。無難な台詞といったところか。
葦原での会話のバックはやはり木枯らしの音。寒々とした雰囲気であるのはいいのだが、できれば葦も木枯らしに吹かれて揺れてほしかった。

せめて名前だけでもとお秀に乞われ「紋次郎と申しやす、御免なすって」と背を向ける。このあたりも型にはまりすぎている。
手前に枯れた葦、左奧にお秀の立ち姿……構図がよく美しい映像、まるで岩田専太郎氏の挿絵のような風情である。
葦原を横切り去っていく紋次郎の姿。
その遠景には山脈が見え、中腹には雲が帯の様にたなびいている。よく見ると葦原の向こうには水面が……やはり琵琶湖?
地元のファンとしては、そう信じたい。

いつもと違う街道を歩く紋次郎、捕らわれの身、脱出劇、山中と色街の対比、銃と手裏剣、大時化の海と広がる葦原、折鶴に託されたそれぞれの想い……設定としてはバラエティーに富み、広がりが見られたところはエンターティメントとして面白かった。
反面、台詞が形式的になぞりがちだったことと、行方知れずの姉妹が、お互い十兵衛という仇敵と繋がっていたという偶然の重なりは、少し残念な気がする。

しかしそれに余りあるのは、日本海の荒波の映像美であり、紋次郎が見せる成熟した表情のかっこよさである。

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Re: 第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)

読んでいるうちに白黒の映像を観ているような錯覚を覚えました。

ちょっと暗いイメージですが、どんどん引きつけられていき、
ダンデイ(?)な紋次郎の世界に入っていくことができました。

本当に面白い世界ですね。有難うございました。

  • 20100225
  • 小父さん ♦-
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Re: 第30話「九頭竜に折鶴は散った」(後編)

小父貴さま、こちらこそコメントをいただき、ありがとうございます。
この回はストーリーより、映像が印象に残っています。仰るとおり、モノクロにしても世界観が表現できそうですね。
最近、ハイビジョン化で色彩鮮やかな映像が多いですが、逆にモノクロの映像に魅力を感じたりします。
一方に大きく振れると、逆の方向にまた振れることってありますよね。

  • 20100225
  • お夕 ♦wikz35BA
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