紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)
(原作 第26話)(放映1973.2.10)
翌朝お六がやって来る。紋次郎は眠っているようだが、さっと長脇差を引き寄せる。しかし危険な人物ではないと気配でわかり、緊張を解く。
これから先の太地喜和子の演技はすばらしい。「やっぱり化け物はいるんだよ!」と騒ぎ、村人たちを煽る。
お冬と画策した通りに芝居をするわけだが、垣間見せる後ろめたさを感じる演技が上手い。源吉はまんまと乗せられて、化け物を確かめに行くと言いだす。
お冬が袂で涙をふくシーンでは、お六が「よくやるよ」と言わんばかりの様子である。自分の保身のために、血を分けた弟を殺そうと怨念坂に行かせる……なんと酷い姉かと思いながらも、お六も自分が惚れた男のために芝居を打つ。

原作ではお六とお冬の繋がりは、はっきりわからない。「2~3日前に酔ったお六が口走った」とだけ告白している。
テレビ版では怨念坂にさしかかり、紋次郎は源吉にすべてを言い当てる。
お冬が源吉の実の姉であること、困らせてやろうとわざと差配内で暴れたこと、本当は抱きしめて欲しかったこと……

紋次郎はいつも無関心な態度だが、人の話を聞いている。頷いたり、相づちを打つことがなくても聞いているのだ。そして言う。
「何かを探して誰かを待っている。そんな人の目は、あっしにはよくわかるんでござんす。」
原作にはない台詞だが、明らかに主題歌の歌詞のテーマだ。あっしにはよくわかる……自分と同じ境遇であると暗に明かしているわけである。

「おめえさん、長脇差は使えるんでござんすかい。」
かっこいい台詞である。普通なら「とうとう正体を現しやがったな。」ぐらいしか思いつかないが、笹沢氏は本当に紋次郎には最高の台詞を用意する。
紋次郎は無口である。それ故、口にする言葉には細心の注意が払われている。余分なものを削り取って、研ぎ澄まされた台詞をいつも与えている。

浪人者が5人、紋次郎たちの前後を塞ぐ。片眼が刀傷でつぶれた浪人がお六の情夫であったこと、怨念坂の化け物の仕業とみせかけていたことなどをばらす。
紋次郎はどこまで気づいていたのだろう。お六のことを聞いたとき、咥えていた楊枝がかすかに動くので、少なからず驚いたと見える。

眼下は崖、険しく細い山道での殺陣は見ている方もドキドキする。足を滑らせたら転げ落ちそうであるが、果敢に攻める。
この回の監督は大洲斉氏。
中村氏がアキレス腱を断裂した、「一里塚に風を断つ」のときの監督である。状況はよく似ているが、度胸のいる思い切った演出である。
活動屋の根性というか、このシーンを攻めきって撮ることで意趣返しをしたような感じである。多分スタントマンは起用していないだろう。

第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

原作と大きく違うところは、源吉が姉の裏切りを知らずに死ぬこと、お六が鉄砲で殺されることである。
源吉は「帰らなくちゃ、いけねえんだ。」と、最期まで姉のために力を尽くしたつもりで事切れるが、原作の仕打ちはもっと酷い。

原作では死期が迫った源吉の傷をのぞき込んだお冬がうっかり、「浪人者に斬られたのですか」と尋ね、紋次郎にどうして浪人者だとわかるのかと詰問される。そして源吉は、お冬の裏切りを知ることとなる。

「紋次郎さん、おめえさんの勝ちだなあ。他人さまのことは信じねぇ。確かに、その通りだったぜ。それにしても、紋次郎さんって人はまるで蛍みてえだ。燃えてるように光っていても、蛍ってのは芯から冷えていらあな」(原作より抜粋)

蛍と、紋次郎の人間不信の心とを掛け合わせている。この回のタイトルの「蛍が越えた」の蛍は源吉ではなく、紋次郎そのものだったのかもしれない。燃えているが、芯は冷えている……名言である。

源吉についてはテレビ版のほうが少しは救われるが、お六についてはテレビ版の方が酷い。お六はお冬が放った者に、鉄砲で撃たれる。
鉄砲で撃たれたお六を、片眼の浪人の許に寄せてやる紋次郎。死期が迫る者に対して、紋次郎は限りなく優しい。

お六は息も絶え絶えの中、生き残った方が鉄砲で殺されることになっていたと明かす。
そして、自分のちっぽけな幸せのために、人の命をおもちゃにした報いだから助かっちゃいけない身だと言う。あげくの果てに源吉をこんな目に遭わせてと、お冬の企みを紋次郎に語り始める。(映像はここまでなので、多分語ったのだと思う)

テレビ版の紋次郎は源吉の亡骸を担ぎ、大総代の屋敷の前まで運び、お六から聞いた事の真相を明かす。
紋次郎にしては異例の長台詞であるが、これは絶対に言わねばならない。
一度は恨んで困らせてやろうとした源吉だったが、心の底では姉の愛情が欲しかったのだ。その姉のために命を賭けて怨念坂に向かったのにこの仕打ち……。口封じのため、お六の命も奪ったお冬を許せない一念で、紋次郎は雄弁になる。

「何かを探して誰かを待っている」と源吉を称した紋次郎は、源吉の姿に自分を重ねていたのだ。もしかしたら、あとでこっそりと涙の対面が……などと思っていたのかもしれない。(実際はあり得ない話だが)

下からのライトアップで映し出されたお冬の呆然とした顔。騒ぎ出す村人たち。
紋次郎が飛ばした楊枝はお冬が持っていた提灯の家紋を射抜き、提灯は落ちて燃え上がる。大総代である木村家の滅亡であり、その炎は蛍の灯のようにも思える。

「ご新造さん、せめて一言蛍の源吉と呼んでやんなせえ。」
凍りついたように、表情を変えないお冬に声をかけ紋次郎は背を向ける。
テレビ版の紋次郎は、原作よりずっと温かい心の持ち主である。

血縁も地縁も縁というものを一切信じない紋次郎だが、同じような境遇や哀しみを背負った者には心を寄せる。
しかし、やはり報われない。
「燃えているが芯は冷えている」と評されるように、そうならざるを得なかった今日も過去となった。
儚く光る蛍は、寂しく独り去っていく。

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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

>「おめえさん、長脇差は使えるんでござんすかい。」
>お六のことを聞いたとき、咥えていた楊枝がかすかに動くので、
少なからず驚いたと見える。
>燃えているが、芯は冷えている
>紋次郎が飛ばした楊枝はお冬が持っていた提灯の家紋を射抜き、
提灯は落ちて燃え上がる。
>儚く光る蛍は、寂しく独り去っていく。

かっこよすぎです。
詩であり美学が流れているようにも感じます。

ブログにかってにリンクさせて頂き有難うございました。
段々観たくなってきました。

  • 20100311
  • 小父さん ♦-
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。
また、紹介していただき光栄に思っています。
重ねてお礼申し上げます。

仰る通り「男の美学」を感じます。
これほどかっこよさを追求した作品は、ないでしょうね。

是非観ていただきたいし、読んでいただきたいと思います。
絶対、はまりますよ。

  • 20100312
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

お邪魔いたしやす。
紋次郎さんが長台詞を言わなければ全て丸く?おさまって、ご新造さんの立場も安泰だったろうに。でもここは関わりねえとはいかず、姉の行いが許せなかったんでござんすねえ。

Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

桐風庵の兄ぃ、コメントをいただきありがとうござんす。

仰るとおり、紋次郎兄貴が源吉の亡骸を渡してそのまま去れば、化け物は退治されたし邪魔な弟はこの世からいなくなるし……で、ご新造さんは万々歳でござんした。
しかし、それではお天道さんは許さねぇでござんしょう。
言い換えれば紋次郎兄貴は、お天道さんの代弁をなすったということで……。
この後木村家は、大総代を辞退すると原作にはありやした。
まさに「人を呪わば穴二つ」でござんした。

  • 20100314
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

これは紋次郎シリーズの中でもかなり好きな作品です。怨念坂に化け物がいるのかいないのかと問われた紋次郎が、どちらも信じていないと答える。この冷たい台詞は決まっていましたね。誰も信じないというのはそいうことだという言葉は、紋次郎の抱えた虚無をよく表現していたと思います。

怨念坂にいるのはほんとうは何なのか、という一点にストーリーが絞り込まれていく感じで、このあたりの力技は凄かったと思います。うまい! と思わず声をかけたくなりました(笑)。年季がちがうというところでしょうか。事件を通して人間を多面的に描くというミステリならではの手法が、ほんとうにうまく機能していた印象のある作品です。

テレビ版では峠での侍相手の紋次郎の殺陣がよかった。確か原作では渡世人と侍の戦い方の違いなどが描かれていて、興味深く読んだのを覚えています。映像はそういった、いってみれば説明はありませんでしたが、スピード感のある映像はよかったと思います。

  • 20100326
  • le_gitan ♦-
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

le_gitanさま、コメントをいただきありがとうございます。

私の中でも、上位にランキングされる作品です。
紋次郎の世界観を、すべて兼ね備えた作品だと思います。
ゲスト出演の存在感も大きかったです。
それぞれの人格の内面性が良く出ていて、しっかり人間も描けていたと思いました。

殺陣はホントにヒヤヒヤしましたね。
敦夫さん、良く引き受けたなと……。
(でも、『うらごろし』の先生役では、裸足で崖を駆け下りる人だからやっちゃうんですね)

  • 20100327
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

はじめまして。この「怨念坂を蛍が越えた」、『木枯し紋次郎』全38話中最も好きな回です。印象深いラストシーン、夕闇の中、呆然と立ち竦むお冬の持つ提灯に楊枝を吹き放つ紋次郎、「ご新造さん、せめて一言、蛍の源吉と呼んでやんなせぇ…」そう言って立去る紋次郎。バックに流れる「だれかが風の中で」のアレンジBGM共々、ジーンと来る場面ですね。

  • 20110306
  • 六地蔵 ♦-
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Re: 第31話「怨念坂を蛍が越えた」(後編)

六地蔵さま、ようこそおいでいただきました。

「怨念坂を……」は、わたしも傑作だと思います。お六といい源吉といい、ホントにいい味を出していますし、脚本も演出もすばらしいと思います。
このときの紋次郎の言動もかっこいいし、心根も温かみがあります。
エンディングの余韻もよかったですね。

六地蔵さま、これからもよろしくお願いします。

  • 20110306
  • お夕 ♦wikz35BA
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