紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

第32話「明鴉に死地を射た」(前編)
(原作 第24話) (放映 1973.2.17)
この回の印象は不条理劇を彷彿とさせる台詞と、白い霧がかかる映像美である。
テレビ版の展開と原作とはほぼ同じだが、受ける印象は大きく違う。脚本中に原作にはない台詞を、千鶴に与えているからである。

大きな柱としては、紋次郎とお熊婆との約束、義理。武家としての体面。肉親であることの哀しさ。もちろん最後のどんでん返しは、ちゃんと用意されている。

小川のほとりで、髪をすいている千鶴を目にする紋次郎からドラマは始まる。
千鶴役に「日色ともゑ」。清純派タイプの上品な女優さんである。着物の柄も淡い色合いに菊の花が品良くあしらわれている。
やくざ風の男たちが持ってきた、酒入りの瓢を手にする千鶴。およそ縁のなさそうな組み合わせである。兄が「先生」と呼ばれていて、和泉の貸元の用心棒であることが会話からわかる。

紋次郎は和泉の仙右衛門の子分たちにからまれそうになるが、取り合わず向きを変えて歩き出す。
ここで芥川氏のナレーションが入る。
「その日木枯し紋次郎が佐倉、成田道を北へ向かったのはさしたる理由があった訳ではなかった。」
今まで、街道や宿場の説明がほとんどだったナレーションなのに、今回は紋次郎の行動を説明している。さしたる理由はなく、このストーリーは始まったという前置きは珍しい。

新木戸の宗吉の子分を6人斬ったと言われているアル中の浪人、日下又兵衛役に「菅貫太郎」。この俳優さんは「大江戸の夜を走れ」で、善人面をしたワル役で出演している。
ちなみに「新・木枯し紋次郎」にも出演しているので計3回。前回の高橋長英氏と同じく、最多出演となる。
狂気の役や、一癖ある役作りには定評のあるベテラン俳優である。
中村氏と同じく俳優座出身で、「はんらん狂奏曲」を上演して退団している。いわゆる中村氏とは同志。惜しくも1994年、交通事故で59歳という若さでお亡くなりになっている。

「だれも又兵衛が斬っているのを見たことがない」と村人達は噂しているが、ここはポイントである。

そこへ仙右衛門の肩を持つお熊婆が出てきて、まくし立てる。
「仙右衛門親分のことを悪く言う奴は、おらが許さねえだ!」
威勢のいい婆さん役に「三戸部スエ」。
時代劇に出てくる元気な婆さんの名前に、よく「お熊」が出てくるのは気のせいか……。

又兵衛が、村人達に向かって刀を振り回し追いかける先に、紋次郎が突っ立っている。全く無表情だが、三度笠を少し傾け通り過ぎようとする。一応浪人に目礼をし礼儀正しい紋次郎である。
又兵衛が斬りかかるが合羽を翻し転がるようによける。刀と合羽の風切り音が交互に聞こえ、カッコイイ。
又兵衛は石に蹴躓き、無様に転び刀を取り落とす。その眼前に、いつ抜いたかわからない程素早い動きで長ドスを突き出す紋次郎。楊枝を銜えたままだが、戦闘モードの表情がこれまたカッコイイ。

お熊婆が飛び出してきて、「又兵衛に刃を向けてくれるな、和泉の親分には大恩がある、どうしてもと言うならおらを斬ってくれ。」と紋次郎に頼む。
紋次郎としては、お熊婆の頼みがなかろうと又兵衛を斬ることはしないだろう。
それに通りがかっただけの関係なのだから、さして重要な頼みではない(はずだった)。まさかこの後何度も又兵衛に遭遇するなど考えもしなかっただろう。

無言で立ちすくむ千鶴を一顧だにせず、紋次郎は足早に通り過ぎていく。霧が全体に薄くかかり、風情のある映像である。

第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

去っていく紋次郎に追いついて、一言礼を言いたいとお熊婆が話しかける。
ロケ地は京都郊外の川の土手だろうか。霧が出やすい所としたら亀岡辺りかもしれない。二人が歩く向こうに山並みが見え、中腹には帯状に雲がたなびいている。
一方的に喋るお熊婆のために、紋次郎は歩を緩める。
お熊婆に「仙右衛門に大恩がある、いい人だから草鞋を脱げばいいのに。」と紋次郎は勧められるが断る。
草鞋を脱ぐと「一宿一飯の恩義」が生じ、その貸元に無条件で加勢しなければいけないからだ。以前紋次郎は苦い経験をしている、という設定でもある。(「地蔵峠の雨に消える」の回想シーンから)

仙右衛門に恩義があるからと、義理を貫き人を信じる、純粋なお熊婆。一方恩義を交わすことを極端に嫌い、人を信じない紋次郎。相反するようではあるが、紋次郎はお熊婆のまっすぐな人柄にウマが合うと感じている。

物陰から出てきた宗吉の子分から「草鞋を脱いでくれ」と頼まれる紋次郎。また「草鞋を脱げ」である。
宗吉の子分である英次から、又兵衛の出自を聞かされるこのシーンは原作にはない。このシーンを入れることで又兵衛の説明がなされている。
又兵衛が竜虎と呼ばれるほどの剣の使い手であること、許嫁を誤って斬ってしまい、妹と関八州を5年も流れ歩いているとのこと。
視聴者はここで、「許嫁を自分の手で殺してしまった」という暗い過去を持つ又兵衛に少なからず同情する。

この後、出会った村人に「この先には行かない方がいい。役人たちが逗留している。」と教えられ、来た道を引き返す。
ここで再び、芥川氏のナレーションが入る。
「そこで紋次郎が、今来た道をとって返したのも、またさしたる理由があってのことではなかった。」
「さしたる理由はない」と強調することで、この後出遭うはずではなかった者たちと、また関わってしまう宿命的なものを感じさせる。

寒そうに合羽の前を合わせ、野宿する先を探す紋次郎の姿も珍しい。
一軒の百姓家が見え、灯りが漏れている。このシーンも美しく、まるで「日本昔話」の世界である。
母屋の離れの納屋に紋次郎は潜り込むのだが、この家の主に見つけられる。
「無断で入り込みやして申し訳ござんせん。」とわびるが「盗人だ!」と騒ぎ立てられ、納屋を出る。
納屋ぐらい一晩貸してやればいいものを……と思うのだが、堅気衆は流れ者には冷たい。

「やはり他人の家の軒下を借りようというのは、虫のよすぎる考えであった。そんなことをしなくても、無宿の渡世人は盗人の扱いを受けるのだった。甘ったれちゃあいけねえぜと、紋次郎は自分に言った。」(原作より抜粋)

冷たい仕打ちにも、紋次郎は決して他人を恨まないし傷つくことはない。身の程をわきまえているし、もうこんなことは何度も経験している。

仕方なく木の根本に腰を下ろす。
原作では高さ二十メートルの楠の大木とされているが、ロケ地にそれらしき大木がなかったのか、野宿するには頼りなさげな木である。
お熊婆がやって来る。
「紋次郎?!やっぱりおめぇだったか。」と呼び捨てにするお熊婆の人柄には、温かみがある。普通は無宿の渡世人には、あまり関わりたくないものであるが、お熊婆は紋次郎に親しみを抱いている。
今まで「紋次郎」と呼び捨てにした女と言えば「錦絵は……」のお紺と「飛んで火に入る……」のお浅ぐらいか……。
しかしこの二人は、薄情な紋次郎に業を煮やして「やい!紋次郎!」と叫んでいるので、本質的にはお熊婆のそれとは違う。
「頼みを聞いてくれたのに何もしてやれない。せめてこれでも食べろ。」とたまたま持ってきた煮物を差し出す。
テレビ版では椀の中身が何か見えないが、原作では「味噌で赤く煮詰めた大根の切干し」とある。(中編に続く)

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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

いいですね~。
一番最初にこのブログにお目にかかった時は、正直読みずらかったですよ(笑)

今では、連続テレビ小説、語り“お夕”という感じでどんどん引き付けられていきます。

日色ともゑもこの場面には似合いますね。

>「その日木枯し紋次郎が佐倉、成田道を北へ向かったのはさしたる理由があった訳ではなかった。」

この導入がいいですね。

無宿の渡世人の行動を読ませていただいていて、アメリカ西部劇の流れ者を思い出しました。
たぶん、西部劇には山のように出て来る「渡世人!」それも主人公での着眼点がこの紋次郎の面白さな気がします。

>「紋次郎?!やっぱりおめぇだったか。」と呼び捨てにするお熊婆

これに続くシーンは、きわめつけですね。
うんうん!!
「明鴉に死地を射た」(後編)が楽しみです。
有難うございました。

  • 20100324
  • 小父さん ♦-
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

おじゃまいたします。
中村敦夫さん、サントリーの緑茶のCМでいい味出されてますね。
紋次郎の行く末は存じませんが、
あのCМのように平穏な余生を送れたらどんなに幸せか…と、有り得ないことを想像してしまうのでした。

  • 20100324
  • マイタ ♦B2BsuZNw
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

>一番最初にこのブログにお目にかかった時は、正直読みずらかったですよ(笑)

仰るとおりだと思います。私も読み返すと、自分ながら読み辛いです(笑)
「こんな内容じゃ、誰も読む気せんわな」と思います。
それを押して読んでくださる方は、奇特な方だと思います。
ありがとうございます。

>アメリカ西部劇の流れ者を思い出しました。

こちらも仰るとおりです。
当時流行っていました、マカロニウエスタンを意識して作られているんです。

実は、使っていたノートパソコンが力尽きまして、保存していた記事が消え、へこんでいます。
今回のもそうでして、書き直しています。
危機管理の甘さが露呈しました。
次回の更新、今しばらくお待ちください。

  • 20100325
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

マイタさま、コメントをいただきありがとうございます。

CMを見たときは、家中に響く叫び声を上げておりました。
今回の出演は、本木さんが以前から希望されていたそうです。
奇しくも、映画で紋次郎を演じられた菅原文太さんも、ビールのCMに出演されていますね。
どちらの紋次郎さんも、貫禄と風格があってすてきです。

原作の紋次郎は、ある年齢で止まってしまいましたが、その後を考えるのも一興ですね。

  • 20100325
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

お夕さんこんばんは!、
またやってきました、どうもお夕さん節にはまってしまったようですぅ~・・・笑、
当時よりここでの紋次郎にだんだん惹きつけられています、なぜなんでしょうこの魅力・・・

  • 20100326
  • 淡青 ♦pDmV/urE
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎の魅力に、若い時は一目惚れ……歳を重ねた今は、生き様に深い想いを持ったり、映像美に酔いしれたり……。
少なくても一目惚れ状態の時より、惚れ込んでしまっている自分に、今更ながら驚いています。
今だからこそわかる紋次郎の魅力ってありますよね。
淡青さんも、この魅力がわかる方だとお見受けいたしやした。
今後ともよろしゅう、お引き回しのほどをお願い致しやす。

  • 20100326
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

今夜は有難うございました、「紋次郎」フアンですか・!私も大好きでよく見ました。ビデオがありますので、じっくり見直してみます。
時代劇が好きで、座頭市謎も良く見ますね~~^とりあえず、御挨拶まで。!☆

  • 20100327
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 第32話「明鴉に死地を射た」(前編)

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。

紋次郎を知っておられる方と交流できて、うれしく思います。
ビデオを観られるときの「おツマミ」に、このブログを入れていただければ幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。

  • 20100327
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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