紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

第35話「雪に花散る奥州路」(前編)
(原作 1971年 1月)(放映 1973.3.10)
表題作の他、「狂女が唄う信州路」「木っ端が燃えた上州路」「峠に哭いた甲州路」が収録されている。三作品は既に放映されており、最後に残ったのがこの作品である。

笹沢作品には、何人か紋次郎とよく似た渡世人が出てくる。今回、原作に出てくる渡世人は「二本桐の武吉」。二本桐というのは武吉の生まれた土地の名である。
しかし、左腕にある二本の入墨に刀傷があるので、「にほんぎり」とも噂されるような、貫禄ある凄腕の渡世人である。
今回はこの武吉が紋次郎に翻案されている。
「雪に……」と表題にあるぐらいなので、撮影や放映時期には限界がある。今回と次回作「雪燈籠に……」は、やっと日の目を見たという感じだ。

話の展開はほとんど同じだが、出だしと結末が違う。
アバンタイトルは、雪に覆われた崖を滑り落ちる紋次郎の姿から始まる。かなり長い間、滑り落ちるシーンがロングショットで撮られている。危険なシーンであるが、多分スタントマンではなく中村氏本人だと思われる。
白い雪に朱い血がにじみ、紋次郎が負傷しているのがわかる。

気がつくと布団の中。「越堀の仁五郎」の家に担ぎ込まれ、その娘のお絹に介抱されている。猪に襲われ、右腕を牙で突かれ崖から落ちたのを助けられたとのこと。
体を起こし長ドスを抜こうとするが、痛みに顔をゆがめる紋次郎。紋次郎、ピンチ!から始まる。

原作での武吉は、二十前の若い渡世人に背後から命を狙われての負傷である。高名な「二本桐の武吉」を殺し、名を上げたいと狙う渡世人が大勢いるということであった。
猪の牙と長ドスの違いはあれど、右腕が使えないという設定は同じである。

原作の出だしは、湯治場に滞在する武吉に客人が訪ねるところから始まる。傷を癒すために長逗留する武吉の元にやって来るのは「橋場の勘助」であり、テレビ版と同じ。
ただ勘助の位置づけが微妙に違う。
原作では勘助は時次郎という軍師で、仁五郎の縄張りを狙う「佐久山の竹蔵」の片腕。時次郎は、仁五郎の娘お絹を口説き夫婦になり、ゆくゆくは仁五郎の縄張りを奪う計画である。

仁五郎とは懇意の中で、お絹と所帯を持てと勧められたことがある武吉であるが、紋次郎は違う。仁五郎やお絹に借りをつくらないとこの先の展開はないので、命を助けられる設定が必要だったわけである。
実際、当時はよく山道で獣に襲われる旅人は、数多くいたようである。

お絹役に「新橋耐子」さん。
色っぽい身のこなしと思ったら、東京の花柳界で育ち小さい頃から三味線を習得とのこと。意外だったのは、中村氏と同じく俳優座の養成所におられたということである。

仁五郎役に「松村達雄」氏。柔和な風貌で、とてもヤクザの親分には見えない。持病のぜんそくを患っていて、身内も少なく落ち目の親分である。
なぜか仁五郎は、紋次郎に大変なご執心。自分の跡取りとして、縄張りを譲ってもいいとまで申し出る。
風評を聞いたり、何度か賭場で見かけたというだけで、身内でもないし草鞋を脱いだこともない旅の一渡世人にシマを譲ろうとするのだろうか……ちょっと疑問である。

仁五郎が、紋次郎にこの地に留まってほしいと頼むシーン。
「火の気があるねぐらやあったけぇ飯、お絹の女心がまんざらでもなかったら、草鞋を雪駄に履き替えてはくれめえか……」
グッとくる言葉である。すべて紋次郎にとっては、一度も味わったことがない世界である。辛い旅に疲れ果てた者であれば、誰もが望む生活であるが、紋次郎はあっさり断る。

第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

「あっしの旅は、終わりはねぇものと思っておりやす」
「てめぇの寿命を、てめぇで判じられねぇ渡世でござんす」
「今日まで生きてきたからって、明日命があるとは限りやせん」
「明日も生きてぇと思うようになりゃ、今日を無様に生き延びることを考えるようになりやすよ」

紋次郎の死生観、オン・パレードである。この台詞はほとんど、原作に書かれている武吉の考えと同じである。

原作では、武吉は仁五郎宅にはちょいちょい草鞋を脱いでおり、ウマが合うと感じている。
「仁五郎が娘の婿にと考えようと、当のお絹が思いを寄せようと、関係ない」
と書かれているが、紋次郎より関係が深いのは確かである。

二晩、仁五郎のもとで養生をした紋次郎は、お絹に見送られて甲州の湯治場に向かうが、その途中に佐久山の竹蔵一家に襲われる。てっきり仁五郎の助っ人だと思われたようだ。
紋次郎は右手が使えないので、長ドスを抜くことにも手間取ってしまう。

一方お絹の許には、5年前の恋人であった勘助が戻ってきた。
この勘助に「大林丈史」さん。紋次郎ファンにとっては、ある意味有名な俳優さんである。「一里塚に風を断つ」の撮影中にアキレス腱を断裂した中村氏の代役を務めた人である。
中村氏より2歳年下、同じく東京外国語大学出身、俳優座……ということで、まるで中村氏の後を追うかの来歴である。
代役を務めていたときは、残念ながらキャストとして名前はテロップには出なかった。しかし今回は準主役であり、奇しくも紋次郎と入れ替わる役。心憎いキャスティングである。
中村氏よりは若干身長は低く、全体的に一回り小さい紋次郎さんである。

仁五郎は全く勘助を認めないし、「敷居は跨がせない!」と激昂している。三下の頃にお絹を手籠めにしたと怒っているのだが、実際はお絹とは相思相愛の仲だったのだ。
お絹は年が明けると24歳になるという。当時であれば、適齢期も過ぎ年増……。結婚に対する焦りもある……そんな折りに紋次郎と勘助がやってきてお絹の心は揺れ動く。
とはいえ、お絹と紋次郎はなんの交流もなく「手、一つ握らなかったよ」と言ったとおり。

父親の目をかすめ、勘助とお絹は出会う。
このときのお絹の言動が複雑である。勘助のことは好きなんだろうが、心の底では頼り切れていない。まだ三下という気持ちが残っているので、紋次郎の実力や貫禄と比べて口にする。
勘助でなくても紋次郎と比べられたら、どんな男でもかすんでしまう。貸元のお嬢さんだけあって、どことなく上から目線。

勘助は紋次郎を連れ戻しに行く……そうしたら仁五郎も自分を見直すだろう。……う~ん、そうかなぁ。私はそうは思わない。なんで、いわゆる恋敵の紋次郎を連れ戻そうとする?
「決着をつけてやる」なんの決着?どちらがお絹にふさわしいか?端から紋次郎にはそんな気はないので決着の意味がわからない。
「3日で20人を集める」と豪語する勘助に、「紋次郎なら一人で20人分の働きをするよ」と、思わせぶりなお絹。勘助をうまく手玉に取っている。
「紋次郎は生かしちゃおけねぇ」
紋次郎にとっては本当に迷惑な話である。自分にあずかり知らないところで勝手に事が進んでいる。

甲州、下部の温泉で湯治をする紋次郎の許に勘助がやってきて、「仁五郎が竹蔵一家にやられてしまう、力を貸してほしい」と頼む。
原作ではこのシーンから始まっているのだ。
紋次郎は百姓家の物置に寝泊まりし、草鞋を作り湯に入らせてもらっているという。どこまでも質素であるし、リアリティーを感じる。
調べてみたら当時の草鞋は一足12文(220~230円)ぐらい。すぐに履きつぶすわりには結構高額である。(後編に続く)

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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

雪の奥州路はさぞ険しい旅なんでしょうね

>猪に襲われ、右腕を牙で突かれ崖から落ちた

ちょっとどじを踏んだと思われますが、そんな大きな猪がいるんですね。

>紋次郎は右手が使えないので、長ドスを抜くことにも手間取ってしまう。

この時よく戦えたものですね。このシーンは見てみたいです。

仁五郎が紋次郎にご執心だったり、仁五郎が勘助を認めないなどは、ちょっと違った展開ですね。
そもそも渡世人に大きな信頼をおくということがちょっと信じ難いです。

>「仁五郎が竹蔵一家にやられてしまう、力を貸してほしい」と頼む。

このような動きには紋次郎はすぐ反応するんでしょうね。

草鞋を作り湯に入るって渡世人の知恵なんでしょう。

Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

小父貴さま、いつもコメントをいただきありがとうございます。

親分の息子が跡目を継いだ例はほとんどないそうで、身内の中の最適者が相続したということです。

「人物」「度胸」「腕」などによって決まるんですが、紋次郎はどれをとっても超一流ですよね。

しかしながら、決定的に無理なのは身内じゃないってことですね。

草鞋を編む紋次郎の姿も素敵です。

  • 20100517
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

紋次郎の「死生観」が気に入りました、矢張り本との、「渡世人」だったのですね~
島を譲るとか、恋にも目をくれず、ひたすら
楊枝を銜えて歩く、紋次郎さんは素敵ですね~^^!!☆

  • 20100518
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(前編)

鷹虎さま、いつもコメントをいただきありがとうございます。

紋次郎は不器用な、根っからの渡世人です。
駆け引きをしたり、うまく立ち回ったりはしません。
時々ふっと、人並みの感情を持つこともありますが、「甘い考えだ。」と自嘲します。
紋次郎にとって、生きている間は安住の地はどこにもなく、死ぬ直前だけホッとするのかもしれません。
果てることのないあてのない旅……過酷な日々を思うと、本当に切なくなりますね。

  • 20100518
  • お夕 ♦wikz35BA
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