紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

第35話「雪に花散る奥州路」(後編)
(原作 1971年 1月)(放映 1973.3.10)
勘助は、自分と紋次郎が入れ替わって旅をするという提案をする。
紋次郎は左頬に刀傷。原作の武吉には左腕に二本の入れ墨とそれを断ち切るような刀傷。少し違うが、本人になりきるために、刀で我が身を傷つけるところは同じ。
三度笠と合羽を入れ替えて二人は敵地を通り抜けて、野州の越堀まで道中を急ぐ。

遠目で見ると、さすがに代役を務めただけあり、大林さんは紋次郎に見える。というか、やはりあの大きな三度笠と長い合羽のシルエットが、紋次郎を決定づけている。
一方勘助の出で立ちは「饅頭笠」に通常の丈の合羽。ファンであっても、遠目からは見分けはつかないだろう。

楊枝をくわえ、「しゃべりにくいもんでござんすねぇ」とはご愛嬌である。代役を務めても、楊枝をくわえて台詞を言うことはなかっただろうから、初めての経験だろう。
紋次郎になりきった勘助は実にうれしそう。軽い三下という雰囲気をよく出している。たった2歳しか紋次郎と歳が違わないのだが、貫禄には大きな差がある。

道ばたでヤクザに絡まれている男を、紋次郎だとひけらかして助けてしまう勘助。自分に酔った義侠心を振りかざす勘助に、紋次郎は釘を刺すがあまり効いていない様子。
その後の二人の会話の中で「命の洗濯」という言葉が出てきて、紋次郎が「飯盛女ですかい?」と口にする。紋次郎の口からこの手の言葉を聞くと、ドキッとしてしまう。

「女を抱いちゃあ、ドスを抱いて寝ることはできやせん」
「女は信用できやせん」
名言である。
勘助の声は明るくはつらつとしているが、紋次郎の声は低くくぐもっているのが対照的である。

野木宿に宿をとる二人。布団を敷きに来た出居女と勘助は一夜の約束を取り決めたようであるが、紋次郎は自分の夜具を隣の部屋に引っ張り込んで一言。
「人は人、手めぇは手めぇと思っておりやすんで……」
良かった……こうでなくてはいけない。正しい紋次郎の生き方である。

実際、野木宿のような小さい宿場でも、話をつければ一夜妻に不自由はなかったようである。
原作では「女は信用できねぇ」の言葉通り、勘助の相手をした女は敵方に通じており、紋次郎たちの動向は筒抜けだった。

先を急ぐ二人に追っ手が前後に付き、いつの間にか周囲は雪景色となる。
追っ手が紋次郎たちを取り囲み威嚇する。勘助の腕はからっきしだと聞いている紋次郎は、勘助に長ドスを抜かせたくない一心で芝居を打つ。屈辱的な仕打ちを受けながらも
紋次郎は自分が勘助だと言い張り、勘助をかばおうとする。
テレビ版だと時間の制約があるのでこのシーンだけで終わるが、原作はもっとひどいモノがある。
一度目は熱い甘酒を手の甲にかけられ、八方から蹴られる。二度目は顔に唾を吐かれ、草鞋で踏みにじられる。挙げ句の果てに十人もの男の股をくぐれと強要する。
武吉はひたすら我慢する。これも勘助のため、いや仁五郎のためである。命を助けてもらった恩義に報いるため、痛みに歯を食いしばり屈辱に耐える。

隙を見て二人は雪の中を逃げる。
テレビ版での勘助は、三下時代の屈辱的な扱いを思い出し口にする。10歳の時父親が行き倒れ、勘助は仁五郎一家の三下となる。奇しくも紋次郎も10歳の時、故郷を捨てている。
勘助はとにかく、一人前の渡世人になりたいのだ。腕と度胸のある渡世人になって、仁五郎やお絹に認められたいのだ。この設定は原作とは随分違う。

原作の勘助の実の名前は「橋場の時次郎」。仁五郎の縄張りを狙う竹蔵一家の軍師である。
竹蔵は仁五郎に武吉がいる限り、なかなか手出しができない。
そこで時次郎はお絹を口説き落とし、婿に入って縄張りを奪おうと策を弄する。原作ではその経緯が明るみに出て、どんでん返しとなる。またお絹は時次郎とのことを父の仁五郎にばれて、家に閉じこめられ会えないことを苦にして首をくくって死んでしまう。

第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

雪景色が美しく、遠景は墨絵のような風情である。一面白い雪の中、渡世人たちの姿がシルエットとなる。
佐久山の竹蔵役に「戸浦六宏」氏。「木枯しの音に消えた」以来の登場である。
竹蔵は「仁五郎が喘息で死んだ。お絹も世を儚んで首をくくった。」と口にする。
勘助の驚いた顔……一方紋次郎は表情を変えず対照的である。怒り狂った勘助は竹蔵一家に斬りかかっていく。竹槍が四方八方から繰り出されるが、なかなかのドスさばき。
「腕は、からっきしダメ」と言っていたが、敵と戦う姿は違う。

紋次郎はその様子をじっと見据えていたが、一人で大勢の敵に向かって行った勘助の心意気に触れ、左手で長ドスを抜き竹蔵と対峙する。
戸浦氏の今回の出番は少なく、雪原に赤い血をまき散らし敢えなく命を落とす。

今回の紋次郎の殺陣は、利き腕でない左の逆手でドスを振り回す。
遠目で見るとまるで「座頭市」の殺陣のようだ。
雪がかなり深く、足さばきも重いはずであるが、紋次郎の動きは止まることがない。

何人かは雪の上に倒れ、残りの3人は這々の体で逃げていく。
そこへ、殺されたかと思った勘助が無事に現れる。自分は「橋場の時次郎」という流れ者で、世話になった仁五郎に恩返しをするために舞い戻ったが、未だに三下扱いである。紋次郎を倒さないと自分はいつまで経っても三下のままだと言う。
勘助はお絹とのことで仁五郎から破門され、修羅場をくぐる5年間の流れ旅で、腕を上げたのである。勘助から時次郎に、名を変えて旅をしていたということになる。
どう考えても、勘助より時次郎の方が「強い名前」ではある。勘助という名前には貫禄は感じない。(世の勘助さんには申し訳ありませんが)

仁五郎もお絹も死んだ今となっては、あてというものもない。紋次郎を斬ってそのまま成り代わるというのも面白い……と時次郎は紋次郎に挑む。

この5年間は、仁五郎に腕と度胸のある渡世人になったと認めてもらい、晴れてお絹と所帯を持ち、越堀一家を盛り立てようという一念で修行を積んだのだろう。
しかし水の泡である。明らかに自暴自棄に陥っている。

「三下に木枯らし紋次郎を名乗らせる訳にはいかねぇ」紋次郎のかっこいい台詞である。
「あっしが猪の牙で傷を負ったことは医者にも口止めしたはずだ。それをなぜか佐久山の竹蔵は知ってたぜ。このからくりに気づかねぇおめぇは、やっぱり三下だ。」

この「三下」という言葉に勘助は怒り心頭である。
「バック・トゥー・ザ・フューチャー」で「チキン!」と呼ばれる度に頭に血が上るマーフィーと同じ。

原作では時次郎は三下とは呼ばれていないし、武吉と名乗りたいとも思っていないので、テレビ版だけの思いつきである。
斬り合っている最中、遠くに女の人影。死んだはずのお絹の姿である。
「勘助ー!」と叫ぶ声が耳に届いたか……、その時、勘助は紋次郎のドスに倒れる。
お絹は生きていたのである。口から出任せの竹蔵の言葉を真に受け、勘助は命を落としてしまう。

紋次郎の傷の事を吹聴したのはお絹。負傷した紋次郎に竹蔵を向かわせ、紋次郎に斬り捨ててもらい、勘助の手柄にさせようとした。そうでもしないと父親は、勘助を認めないだろうとお絹は言う。
傷を負っていても、紋次郎には竹蔵一家を倒す力があると踏んでいたのか。そうなると一緒にいる勘助にも危険が及ぶのだが……。この展開は釈然としない。

原作でのお絹は一切言葉を発していないし、存在感は薄い。裏切り行為もない。
しかしテレビ版では女優が必要であり、何らかの形で裏切るというストーリーにしないといけないので、お絹にスポットを当て展開や結末を変えている。

勘助に紋次郎の影をちらちら見せて、焼き餅を焼かせ奮起させようとしたお絹は、なかなかの策士だった。原作では時次郎が策士だったので、逆の立場であるというのも面白い。
結局、「策士、策に溺れる」ということになった。
見方によっては、「ロミオとジュリエット」の悲恋にも近いが、お絹はジュリエットのように、命を絶つことはしないだろう。紋次郎の楊枝をへし折るぐらいの気の強さである。

「勘助さんは、まるで獣みてぇに奴らに斬りかかっていきやしたよ。おめぇさんが首をくくっって死んだと聞かされたからでござんしょう。」
紋次郎は、勘助の気持ちを痛いほどわかっていたのだ。冷たい、薄情者、といつも思われがちな紋次郎だが、人の哀しみをすくい取る心を本当は持っている。愛する者をなくすことの辛さは、紋次郎も姉のお光をなくし経験している。

「明日になったら血で雪を真っ赤に染めるのは、あっしの番かも知れやせんよ」
風で飛ばされかけた勘助の笠を紋次郎は楊枝で留める。紋次郎は、お絹の視線を背中に感じながら去っていく。

原作では何十人もの渡世人を相手にした武吉だが、時次郎から頼まれたお絹の墓参りの折に、中年のしがない渡世人に命を狙われ差し違えて命を落とす。
「鮮血が点々と雪の上に散り、それが深紅の花弁のように見えた。」
表題に繋がる記述であり、あまりにあっけない主人公の最期であるが、そこが笹沢氏らしい死生観であろう。

テレビ版の紋次郎の姿は、降りしきる雪の向こうに消えていく。
この雪は実に自然に見えるが、人工雪なのだろうか。紋次郎が進む先は、まるで水墨画のような林と山。
実に寂しげではあるが、人を拒むような美しさでもある。

寒々とした冬空と色彩のない地上の境目を、独り去る紋次郎のシルエットは、雪景色の一部となる。

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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

お夕さん、お久しぶりでございます。
最初の灰色の空にはえる杜若がいいですねぇ~・・・、

さぁっと斜め読みで感想を述べるのは失礼なんですが、
紋次郎と勘助は師弟のような雰囲気がありますねっ、
かっこいい紋次郎になりたい勘助、どこまでも勘助を庇う紋次郎・・・、

なぜか勘助の本名で沓掛時次郎を思い出してしまいました。市川雷蔵のはまり役でした。

  • 20100522
  • 淡青 ♦yt/0L7Ms
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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

淡青さま、コメントをいただきありがとうございます。

杜若の青は、キリッとしていて気持ちがいいものです。
こんな女性になれればいいなあと、思いますが現実はほど遠く……(笑)。

勘助はずっと紋次郎と旅をしているうちに、「やっぱり、紋次郎には太刀打ちできねぇ。」
と思います。
紋次郎が痛めつけられているときも、紋次郎の気持ちを思い、歯を食いしばって我慢します。

本来なら、紋次郎の手にかかるはずはなかったのに……と思いますね。
「早まった」と「遅すぎた」が交錯して、また紋次郎は女からなじられ、恨まれます。
本当にいつも報われませんね。

紋次郎に言わせると
「報われてぇとは思っちゃおりやせん。なるようにしかならねぇんで……。」
というところでしょうか。

  • 20100522
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

お夕さん、おはようございます。

もうご存知かもしれませんが、CS放送TBSchで1979年版「不毛地帯」放送されています。
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/lineup/d1688.html

私は未見ですが、見てみようと思います。

取り急ぎお知らせまで。

  • 20100524
  • おみつ ♦aiP0wTO2
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  • 編集 ]
Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

おみつさま、ご無沙汰しております。
コメントをいただきありがとうございます。

情報をいただきありがとうございます。
私も未見ですので、チェックします。

それにしても、豪華なキャスティングですねえ。今ではちょっと考えられません。

また情報がありましたら、お知らせくださいね。

  • 20100524
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
Re: 第35話「雪に花散る奥州路」(後編)

(続き)
敦夫さんですが、今度NHKのドラマに出演されますね。
ご存知かと思いますが、念のため……。

http://news.walkerplus.com/2010/0511/22/photo00.html

お元気で活躍されていて、うれしいですね。

思えば「江口紋次郎」から、早1年以上経ってしまいました。
ドラマ制作については、噂も聞けず寂しい限りです。
あんなにすばらしい原作が数え切れないほどあるのに、もったいない話です。

  • 20100524
  • お夕 ♦wikz35BA
  • URL
  • 編集 ]
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