紋次郎気質

1972年、一世を風靡した中村敦夫演じる木枯し紋次郎。笹沢氏が生み出した紋次郎とを比較しながら、紋次郎の魅力に迫ります。

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第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)
(原作 第14話 1972.4月)(放映 1973.3.17)
「《秀坊は、おれがあれぐらいのときと、よく似ている》
紋次郎は、改めてそう感じた。十歳になってからの自分は、少しも大切にしたいと思わない。だが、もっと幼いときの自分は、別格であった。自分では、なかったような気がするのだった。自分でないことが、貴重であるみたいに思えるのである。」
(原作より抜粋)

秀坊は小用のために起き出し、外に出たとたん、「金の字」に斬り殺される。お鹿婆がその物音に気づき雪の上に倒れた秀坊に取りすがって泣きわめく姿を、紋次郎は目にする。
遅かった……。

幼子を手にかけておきながら、「もののはずみだ。」とうそぶく「金の字」だが、お鹿婆を「おっかさん」と呼ぶ。
正体は、お春の姉を弄ませて出奔した政吉だったのだ。

紋次郎は自分の推理を披露する。
政吉は盗人で、塩に盗んだ金を隠して運び、面識のあるお鹿婆のところに運び込むつもりだった。しかし紋次郎が邪魔なので、脅迫文を渡し、立ち退かせた。

紋次郎は猛烈に怒っている。そのためか、いつになく雄弁である。テレビ版の紋次郎は、声のトーンもいつもと違い、感情的である。咥えた楊枝越しに見える白い歯がよく目立つので、かなり語気を強めていることが映像的にもよくわかる。

テレビ版では政吉(ヤマカガシの赤助)から尋ねられる。

「おめえがここまでおれたちを追ってきたからには、それなりの訳があるはずだ。言い分を聞くぜ。」
「あっしが塩の中のものを目当てにしているとでの思ってるのかい?」
「じゃ、なぜ追ってきた?」
(テレビ版の台詞より)

最後の問いには紋次郎は答えない。その訳を言ったところでこの連中にはわかるはずがないし、言って聞かせるだけの値打ちがある輩ではないのだ。
その答えの代わりに紋次郎は周りを見渡し、空恐ろしい台詞を吐く。

「おめえたちも容赦はしねえから、そのつもりでいてくんな。」

「木枯し紋次郎は、無益な殺生はしねえって聞いたぜ。」

「それが今は、むやみな殺生がしたくなってんのさぁ。」

その後の殺陣は実に激しい。怒りにまかせた攻撃である。普段の紋次郎は向かってきた敵には長ドスを振るうが、今回は違う。
人足たちはドスを振り回しているが、どちらかというと堅気に近い。そんな素人に対して、手加減するどころか文字通り容赦なく殺していく。考えれば金で雇われ、小判を隠した塩俵を運んだだけの男たちである。

紋次郎は、この件に関わってしまった自分にも、相当腹を立てている。それらもひっくるめて、怒りの対象として男たちに長ドスを振るう。
BGMは一切なく、刃を交える金属音、合羽の風切り音、悲鳴、雪を踏みしめる音……紋次郎の悲愴感とやり場のない怒りが、リアリティーを持って演出されている。
小道具も使わないし、過度な演出もないだけに、余計に殺伐とした虚無感が漂う。

山谷さん演じる留造も斬られ、山本一郎さんも人足たちの中では最後に斬られ、雪の中、ズルズルと身を沈める。

第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

政吉は一人、塩俵を運んでいるところを紋次郎に見つけられ対峙する。

「おめえみたいな野郎でも、死ぬのがやっぱり怖いのかい。」……中略……

「秀坊が誰の子だか知ってるのかい。」

「ここの婆さまの上の娘さんと、おめえとの間に生まれた子どもだ!!」(テレビ版より)

徐々に台詞のトーンにクレシェンドがかかっている。
こんなに語気を強めた紋次郎は今までになかった。中村氏の地声は紋次郎のそれとは違うので、かなり意識して低い声を使っている。それが今にもひっくり返りそうな位、声を張り上げて演じている。
テレビ版の政吉はその事実を聞き、少したじろぐがすぐに言い放つ。

「おれの子ならなおのこと、生かそうと殺そうと構わねえだろう!」

「女郎蜘蛛が……」でのお甲の台詞とよく似ている。
紋次郎は「間引こうと盗人させようと、親なら構わねえと言いなさるんでぇ?」と身勝手なお甲に尋ね、
「ああ、決まってるよ。」との答えに、千代松の左腕を斬り落とす。

政吉の答えに「そうかい。おめえは死ななくちゃならねえ人間だぜ。」と、静かに紋次郎は口にした直後斬り捨てる。

原作は、我が子を手にかけてしまったことを政吉に知らせていない。

「紋次郎は自嘲的な気持になっていた。
《やっぱり、関わりのねえことに、目を向けちゃあならねえ》
紋次郎は自分に囁いていた。関わりのないことに目を向けたばっかりに、秀坊の死を知ってしまった。それだけではない。父親が実の子どもを殺すという何とも言えない場面にもでっくわさなければならなかったのだ。」
(原作より抜粋)

原作の紋次郎は、自分の長ドスを使う気にもならず、落ちていた長ドスで政吉を斬り捨てる。まさに、外道を見た気持ちだったのだろう。

秀坊が実の父親に殺された……という事実は、秀坊がかわいそうという単純なものではない。紋次郎にとっては、自分が幼かったときの「自分ではなかった貴重なもの」まで、秀坊と一緒に葬られた気持ちなのだ。

紋次郎は、秀坊が一人で作った雪灯籠の灯を楊枝で消す。
文字通り命の灯が消え、紋次郎がかろうじて秀坊に託していた「ささやかな希望」も消えた。

「もう二度と、関わりのないことには目を向けねぇ。」と暗澹たる気持ちで雪道を歩く目の前に、着物をはだけ髷も崩れたお春が現れる。

「家まで、連れてってください……」と訴えるが、紋次郎は「これ以上関わりを持ちたくねえんで、……御免なすって」と、お春を置いていく。
お春は雪の上に倒れ、じっと紋次郎の後ろ姿を見つめる。宇都宮さんの、まっすぐな目の表情が印象的である。
置いて行かれたお春だが、紋次郎の背中を見つめたままゆっくり立ち上がる。
私は立ち上がってくれて良かったと思う。
この後お春は、絶望的な事実を知らされるだろう。しかし最後のシーンが倒れたままでなく、立ち上がって紋次郎を見送ることで、お春も自分の足で立ち、自分の人生を生きてほしいと願わずにはいられない。

お春を置いて行く紋次郎は冷たいのかもしれないが、紋次郎の心はこの悲劇を目の当たりにして、冷え切ってしまったのだ。
まるで降りしきる雪のように寒々とした心をかかえ、紋次郎は雪の中を遠ざかって行く。
しかしこの悲劇も過去となり、降り積もる雪が隠すように、紋次郎の心から消えていくのかもしれない。

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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

いつもお世話になっております。

文章に関しては私なんぞがコメントするのもおこがましいので控えさせていただくとして、
いつもながらの美しい写真に脱帽です。

日本古来の美とでも言いましょうか。
参考にさせていただきますわ。

  • 20100609
  • マイタ ♦B2BsuZNw
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

後編はなんだか、紋次郎らしいストーリーな気がしています。

紋次郎が激高して声の響きまで違っているんですね。
この部分は見せ場でしょう。
斬り合いが終わって・・・・

>しかしこの悲劇も過去となり、降り積もる雪が隠すように

また、もとの渡世人に戻って紋次郎の新たな旅がはじまる。
紋次郎の葛藤がファンの目を惹き付けてしまうでしょう。

Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

マイタさま、コメントをいただきありがとうございます。

過分なお言葉をいただき、恐縮です。
このブログを始めてから私の目に、「紋次郎フィルター」(笑)が、かかっているような感じです。

もしもここに紋次郎がいたら、この景色をどう見るんだろう?などと想像してしまうんですね。

もっとも当の紋次郎は、どんな景色を見ても心を動かすことはないと思いますが……

私も、マイタさんの写真を楽しみにしています。
これからもよろしくお願いします。

  • 20100609
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

小父貴さま、コメントをいただきありがとうございます。

この回の結末の虚しさ、哀しさは格別のものがあります。
紋次郎は、間引かれ損ねたトラウマをずっとひきずっています。
秀坊は、実の父親に間引かれたのと変わらない最期です。
それだけに、紋次郎は許せなかったんでしょう。

しかし、いちいち哀しんで落ち込んではいられません。
哀しい過去は、背負いきれないほど経験していますから、一つ一つ置いていかないと次の旅には向かえないんですね。

  • 20100609
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

なんだか、お春さんがかわいそうで、仕方ありません。>降り積もる雪が隠すように、紋次郎の心から消えていくのかもしれない。<

渡世人の、定めとしての、非情さなんでしょうかね~!映画の、姿が浮ぶ思いです。!悲しい物語です。!

  • 20100612
  • 荒野鷹虎 ♦-
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

鷹虎さま、コメントをいただきありがとうございます。

お春さん、この後の事実を知りどんなに嘆き悲しむか……想像するといたたまれない気持ちになります。

村の中でレッテルを貼られることの理不尽さも、この作品は訴えています。
今の世の中でも、それに近いことはあるように思いますが、改めないといけませんね。

お春さんはこの後、どんな人生を送ったのでしょう。

  • 20100613
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

お夕さんの解説は、いつも本当に紋次郎の心に寄り添うような内容で、今回は特に胸を打たれました。
笹沢左保先生がお読みになったら、きっと感激なさると思います・・・!
関係ないけれど、紋次郎の晩年は、サントリーのお茶のコマーシャルのように、幸せなものであってほしい・・・と勝手に思っています。
紋次郎気質は心のオアシスです!

  • 20100613
  • 百合子 ♦-
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

百合子さま、コメントをいただきありがとうございます。

百合子さんのようなファンがいらっしゃる限り、紋次郎はこれから先も旅を続けることができるんだと思います。
ありがとうございます!とてもうれしいです。

この回については私もかなり心に響くものがあり、当時実際に雪燈籠を作って、灯をともした経験があります。
本当に、哀愁漂う美しさがあったと記憶しています。
最近、暖冬のせいか雪燈籠が作れるほどなかなか雪が降らないんですが、機会があれば絶対作りたいと、今なお思っております。

紋次郎の晩年ですか……?
平穏なものであってほしいですね。
原作中でも何回かチャンスがあったように思いますが、なかなか世間が許さないというか、難しかったようですね。

いくら拭い捨てても、渡世人であり無宿人である限り、行く末は明るいものではないでしょうがひとときでもいいので、あんな穏やかな日々が過ごせれば……と思いますね。

百合子さま、またお時間があればおいでください。お待ちしています。

  • 20100613
  • お夕 ♦wikz35BA
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

この回が、自分の中では一番好きです。
お春が妖艶。付き合ってみたかった・・・

  • 20151218
  • もんたろう ♦-
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Re: 第36話「雪燈籠に血が燃えた」(後編)

もんたろうさま、コメントをいただきありがとうございます。

雪の季節が来るたびに、思い出す作品です。
宇都宮さんの美しさは、「地蔵峠……」のお千代さん以上だと思います。

またよければ、おいでくださいね。

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